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視線を追う

作者: 笠置 有

短編とびこえるの別視点です。

鬱文章です。ハッピーエンドではありません。ご注意ください。

ありきたりな考えかもしれないけれど、最近よく考える。



あの時、こう言えば。こうすれば。


今とは違う未来、なんてものが目の前にあったかもしれないのに、なんて。
















ぐらり、と視界が揺らいだ様な気がした。


でもそれはすぐに気のせいだという思いに変わる。


あぁだって自分はここにいる。世界が揺らいだのは、あいつのほうだ。







騒ぎっていうものは、あっという間に広がるもんだ。


人が一人「いなくなる」なんてことならばなおさら、人は騒ぎ立てる。


ありもしない想像なんてたやすく人の間を行き交うし、事実あったのかもしれない虚言も容易に耳に入ってくる。


それでもその言葉一つ一つが本当なのか嘘なのか、判断がつくほどあいつを知らなかった自分は口を噤むしかない。


「口数が少ないことは美徳だ」なんて茶化すよう言ったあいつの言葉に安心したのはつい最近のことなのに、今はそんな自分の性質が妙に腹立たしかった。



クラスになじんでいなかったから?友達も少なかった?休みがちだった?

そんなことどうだっていいだろう。



精神的に弱い子だったしね。環境が合わなかったんじゃ・・。親も片親だったとか。


だからなんだっていうんだよ。


うるさい うるさい うるさい






硬質な椅子を後ろ足で蹴りあげて、立ち上がる。クラスのざわめきは止んで、視線が集まるのを感じる。



くだらなすぎんだよ。全部。


「あほくさいんだ。全部が」



なぁ本当に良かったのかよ。お前が捨てたもんに、そんなに価値があったのかよ。



後ろ手に閉めた鉄製のドアをはさんでざわめきがまた始まる。そんなもんに構う必要なんてないけれど、不快さだけが体にまとわりつく気がした。




4階の、非常口脇に狭くて短い階段がある。その先のこれまた重たい扉を開ければ、「屋上」に出られる。空がいちばん近くて、地面がいちばん遠い場所。



扉を開いた途端に顔面に吹き付ける風とか、そのままローストにされてしまいそうな日差しとか、グラウンドから舞い上がる土のにおいだとか いつもと全然変わらない。



そんで、あいつはそこによく座ってた。柵から10歩分離れた給水塔の影。


佇むみたいに、静かに体を丸めていた。でも視線だけはまっすぐで、何を見てるのか気になった。だから聞いたんだ。



「なぁ、何がみえるんだよ」



返る声はない。そんなことはとっくに知っている。









(不思議そうに俺を見上げて「なんにも?」て言って笑ったんだったっけ)

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