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旦那たちの愛を見届けろ/9

 暖炉の火だけの薄暗い部屋。全て落とされている照明。他にも椅子はあるというのに、三人がけのソファーに足を組むことが許されないほど、密着して座っている。


 蓮は思う――


 自分の右膝だけに座っている、マゼンダ色の長い髪を持つ男、月命のことを。


 丁寧で貴族的な物腰。教師の鑑のような小学校教諭。プロとして仕事を妥協などせずこなしてゆく。愛とかそういうことではなく、人として尊敬できるところがある男。


 感性はあっても感情のない自分は、ただ人を好きになることはない。そこに誰にでも通用する信念がなければ、相手にする価値などない。だが、この男は自分の内へと招き入れてもいい存在だ。


 失敗すること、負けることばかりをする。それを、他の人間がどう思うかは知らない。しかし、自分にとっては笑いでしかない。滅多に笑うことはないが、吹き出すほどおかしいのだ。


 だから、プロポーズしたのだ。だが、いつどうやって、好きになったのかはわからない――


 ピンヒールの足は不意に持ち上げられ、ミニスカートにも関わらず、それを組んだ。


 月命は思う――


 自分の左足を預けている銀の髪を持つ男、蓮のことを。


 愛想という嘘偽りは持っていない。彼の中のハードルを越えるまでは、どこまでもゴーイングマイウェイで、人をものとして扱う一面がある。だが、それはわざとしているのではなく、九年しか生きておらず、子供であると同時に一点集中で、相手がどう思うとか感じるかは視野に入っていないだけなのだ。


 しかし、ひとたび人を自身の中に招き入れると、面倒見のよさがある。複数婚の中で、自身がどう動けば、まわりがどうなるかきちんと考えて生活をしている。


 結婚してからの、この男の自分への態度は、まるで女を扱うように丁寧で優しい。こんな風に自身と接する男がいるとは思ってみなかった。自分は幸せの中で生きている――


 月命の足は組み替えられ、重心がかかる太ももが左から右へ移った。


 貴増参は思う―― 


 自分の左膝にだけ乗っている、マゼンダ色の長い髪を持つ男、月命ことを。


 白馬に乗って、美しいるなす姫のすぐ横へ走り寄り、片手をつかんで軽々と自分の膝に乗せ、連れ去ってしまいたくなる。そんな甘く魅惑的な衝動をくれる人。


 だが、よく見ると男。しかし、王子と王子のラブロマンスも素敵だ。


 二人で手を取り、キラキラと輝くシャンデリアの下で、宮廷楽団が奏でるワルツで踊り、恋に落ち、愛を語り合い、敵国の王子同士だった自分たちが結婚して、世界は平和になりました。


 そんなハッピーエンドの魔法をかけてくるような男。ニコニコと微笑みながら、自分と同じように落ち着きがあり、静かに人を愛する男。


 似た者同士というのだろう。だからこそ、愛おしさは増すのだ――


 彼らは隠れんぼの話を始めた、談話室に再び戻ってきていた。パチパチと暖炉のまきぜる音だけが響く。


 三人は横並びでソファーに座ったまま、その様子を黙って眺めている。誰も話すことはなく、それぞれの唇は動くこともなく、もう一回り。


 蓮は思う――


 自分にぴったりとくっつき、膝を並べて座っている、カーキ色のくせ毛を持つ男、貴増参のことを。


 この男がいかつい感じで、悪と昔戦っていた。それをいくら想像しようとしてもできない。にっこり微笑み、天然ボケをかまして、まわりを爆笑の渦に巻き込む男。


 だが、自分はどこが面白いのかわからない。理解しようと努力は重ねているが、さっぱりなのだ。


 夫夫になったというのに、丁寧に頭を下げてきたり、遠慮気味に声をかけてきたり。どんな考えがあって、そんな態度を取るのかもわからない。未知数の男。


 なぜ、結婚したのかもわからない。だが、愛はそこにある。いつ何がどうなって、好きになったのかはわからないが――


 マゼンダ色の頭の上に乗せている、銀のティアラは落ちてこないように直される。その影が長く、壁に伸びていた。


 月命は思う――


 自分の右足を預けている、カーキ色のくせ毛を持つ男、貴増参のことを。


 この男のそばへ行くと、いつの間にか自分はお姫さまになっていて、片腕で軽々と持ち上げられている。


 シャボン玉がふわふわと舞い、キラキラと光り輝く二人きりの世界で、一生に一度の恋に落ちたように見つめ合い、甘い口づけをして、甘い言葉をささやかれる。


 女に生まれてきてよかったと思える。いや違う。自分は男で、相手も男だ。だが、なぜか女だと思わせられてしまう男。


 自分もどちらかというと王子さまタイプだが、人の関係はシーソーみたいなもので、主導権は向こうへ移り、自分は姫になる運命をたどるしかないのだ――


 ヴァイオレットの邪悪な瞳は、左に銀の髪、右にカーキ色の髪を従えて、女王さまのように堂々たる態度で座っている。


 貴増参は思う――


 自分にぴったりくっつき、膝を並べて座っている、銀の髪を持つ男、蓮のことを。


 情勢が微妙な国のパーティーへ招かれ、他国の王子として行った。そこには、女性の憧れの視線を、超不機嫌俺さまで、はね飛ばすひねくれ王子がいた。


 この国の技術の高さは世界一だ。PCのハッカー技術に優れているという王子。この男を味方に引き込めたら、サイバー犯罪が増えてしまった、我が国も法整備が行き届き、さらに発展するだろう。


 すらっとした不機嫌王子に近づいて、王子の自分は片膝で跪き、こうべを垂れて、ダンスを申し込んだ。


 しかし、返事がないどころか、動きもしなかった。これで、わが国とこの国の国交には亀裂が入り……。


 違った。奇跡は起きたのだ。不機嫌な足音が近づいてきて、あごクイをされ、いきなりのキス。めでたく、両国は目覚しい発展を遂げました――


 いつもよりも淡い色を妖しげに乱反射しているシャンデリアの下で、男三人は密着したまま座っている。


 動きたいが動けない体勢。どこまでも沈黙が続いていきそうだったが、蓮の形のいい眉はさっきから怒りでピクついた。


「なぜお前、俺たちの膝の上に半分ずつ座っている?」

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