転生引きこもり王女と転生鬼畜勇者のダンジョン攻略
ミュゼリット王国の転生者シリーズ
私は此処ミュゼリット王国の王女、レミエーヌ・エレナル・ミュゼリー。
優しい父と母、ヘタレ、ポンコツ、腹黒の兄三人に囲まれて幸せに暮らしています。
引きこもって、ね!
公務?あり得ない!社交?反吐が出る!勉強にダンス?必要無いでしょう!
幼い頃から頭が痛い、お腹が痛い、吐き気がするって仮病使っていたらすっかり病弱なお姫様が出来上がりましたわ。オーホッホッホ!引きニート万歳!
実は私、気が付いたんです!
幼い頃、大きな鏡台の前で髪を整えて貰っている時に…ん?この顔…可愛い!って違う!いやいや可愛いけどそうじゃ無い!
何処かで見たぞ、と。
すると、ドバーーっと前世の記憶が押し寄せて来たのよ~もうビックリ!
その後倒れて三日間高熱にうなされたんだけど…まあ、この事もあって未だに病弱設定が通っているんだけどね。
熱がひいて頭の整理をしたら気が付いたのよ…此処が前世で昼夜プレイしていたRPG『カタストロフィ・レクイエム』の世界だって事を!お察しの通り前世でも引きこもりでしたけど…何か?
『カタストロフィ・レクイエム』は、千年に一度発生する瘴気により世界は闇に覆われる。瘴気は人や動物を魔物に変え、その魔物は人を襲い混乱と恐怖が支配する世界となる。その混沌たる世界を払拭する為立ち上がるのが勇者と聖女エアリ。仲間を増やしたり聖剣を見付けたり瘴気を浄化したり討伐をしたりして旅を続け、突如現れる魔王を退治して世界は光を取り戻すって言うゲームなの。
ゲームの中盤で登場するのがこの私、王女レミエーヌ!王女は密かに勇者を好きになっていて陣中見舞いと言う体で勇者に会いに行くのよ。そこで仲睦ましい勇者と聖女を見て激しく嫉妬し、瘴気にのまれてしまうわけ。瘴気って負の感情を察知して取り込むらしいわよ?気負付けてね。でもって有り余る魔力を持つ王女は魔人を通り越して魔王となるのです。はて?女だから魔女王かしら?何だか魔女っぽい?一気に小者感が出るわね…ナシで!あらあら脱線したわ。コホン。
ね?お分かり頂けたでしょう?私がウロチョロすると魔王になってしまうのですよ。君子危うきに近寄らずって言いますもの。くわばら、くわばら!
だからシナリオ回避の為に仕方無く引きこもっているのよ!仕方無くよ!
コンコン。誰か来たわ!ベッドに入りましょう。
「どうぞ。お入りになって」
「失礼します、王女殿下」
「コホコホ。どうしました?ドレオン様」
「お休みの所申し訳ありません。実は勇者様が謁見を申し込まれていまして」
「勇者様が…?」
何の用よ?魔王降臨のフラグが立つじゃない!
「ご無理なら、またの機会に致しましょうか?」
「申し訳御座いません。お会いできる状態では無いとお伝えください」
帰れ!帰れ!帰れ!
「畏まりました。そのようにお伝え致します」
「ええ、お願いします」
はあああ!いくら私が可愛いからっていきなり会いに来る~?気持ちは分かるけれども、ね。
さてと、最近ゴロゴロし過ぎて太ってきたからベリーダンスでもしようかしら?太り過ぎると病弱に見えないものね。
「お元気そうだな?王女殿下」
「はあああ?」
そこには満面の笑みを浮かべる勇者が立っていた。
どうやって入った!!!
「どうやって入ったって顔だな。隠密魔法を使って此処まで来たんだ」
「無礼な!人を呼びますよ?」
「防音魔法が展開してあるから聞こえないよ」
「何だと…?」
ヤバいですわ!乙女の危機ですわ!父上ー!兄上ー!ロンダー!
「会って貰えないからさ~強行突破した」
「そこまでして可愛い私に会いたかったと言うのですか?」
「可愛いとも会いたいとも思って無いけど…頼み事は有る」
「ほ~う?」
「ちょっと俺と一緒に森まで来てくれないか?」
「何故?」
「実は君にはこの世界にとって重大な役割が有るんだよ」
ピンときたわ。コイツ転生者ね。私を魔王にして狩る気なんだわ⁉
「コホコホ。私には無理です。病弱で外には出られない」
「大丈夫、大丈夫!森に行くだけだし」
それは、帰る必要が無いって事ですか?鬼畜勇者!
「来てくれるだけで世界は平和になるんだ」
そうでしょう、そうでしょう。魔王倒さなきゃエンドロール見れないものね?
気持ちは分かるわ…だが断る!
「お断りします、ごきげんよう!」
「なっ…」
移動魔法で森まで飛ばしてあげました。詠唱?私には必要無いわ。有り余る魔力が有るって言ったでしょう?指パッチンで事足りるわ。
でもあの鬼畜勇者…絶対諦めないわよね?面倒くさい!対勇者用の罠でも仕掛けようかしら?うん。そうしましょう、そうしましょう!
宮殿の半径一キロ地点に近付いたら発射するミサイル風魔法。門から一歩でも踏み入ると爆発する地雷風魔法。私の部屋の周りには触れると体の一部が石化するメドゥーサ風魔法。全て勇者に限り発動する仕様になっております。
はあああ~疲れた。
■
「貴様…よくもやってくれたな!」
貴様って初めて呼ばれたわ。新鮮。
あれから二か月が過ぎ、今私の目の前にはボロッボロの勇者が立っています。
右足石化してますけど大丈夫?
毎日、毎日、やって来ては撃沈して帰ってたけど…とうとう辿り着けたのね。
「まあ、大変!誰か勇者様の手当てをして差し上げて」
「白々しい!全部貴様の仕業だろう!」
「さあ?何の事だか見当もつきません」
私は無実です!だって病弱なお姫様なのだから。オーホッホッホ!
「俺は確信した…王女レミエーヌ、貴様は魔王だ!」
おっと、急に何言ってんだコイツ。まだ人間。魔王になる気も無いけれどね。
「魔王?それは…お伽噺に出てくるアノ魔王の事ですか?」
「そうだ!極悪非道、諸悪の根源!貴様の正体は魔王で間違い無い!」
「酷い…何故そのように思われたのですか?」
「俺を見たら分かるだろうが!勇者を亡き者にしようと企むのは魔王しかいない!」
チッ!やり過ぎました。
「こんな可愛くてか弱い私が醜い魔王などと…何処にその根拠が有るのですか?」
「詠唱無しで俺を飛ばしたじゃねーか」
わちゃー根拠あったわ~。面倒だからもう一回飛ばすか。それパッチン!
「おっと、同じ手に引っ掛かる訳ねーだろ」
指を掴まれてしまいました。
「乙女の柔肌に触れるとは勇者が聞いて呆れますわね?」
「乙女?それこそ聞いて呆れる。貴様は魔王だ!」
「ごきげんよう!」
「うわ…」
バカめ!指パッチンで行使してる訳じゃ無いのよ?魔法はイメージ。心で念じれば発動するわよ。オーホッホッホ!
さてさて、勇者撃退魔法の強化をしなきゃならないわね?
■
半年が過ぎました。どうやら対勇者ダンジョン、攻略出来たらしいです。
「貴様を倒さないとこの世界に光は戻らない!」
「良い天気ですけど?あっ眩しい」
「瘴気が世界を覆うんだ!」
「勇者様が討伐サボって此処に来ているからじゃないですか?」
「違う!この世界はゲームの世界で王女が魔王なんだよ!その魔王を倒さない限りこのゲームは終わらない!瘴気も消えないんだ!」
あ~らら。言っちゃった。どうしてくれようか?
「ゲームの世界?何を言っているのか分かりません」
全否定で叩きのめす!
「実は俺は一度死んで生前の記憶を持って生まれ変わった転生者だ。そして気付いたんだ…この世界は生前遊んでいたゲームの世界だったんだ、てな!」
「で?それが何か?」
「俺は神によってゲームの世界に送り込まれたんだ!」
「で?それが何か?」
「二次元の世界を三次元でプレイしてるって事だよ!」
「全く分かりません」
おやおや、怒っていますね。全身プルプルしていますよ?
「もういい!勇者に選ばれた使命を果たす。覚悟しろ魔王!」
ちょっと、いきなり切り掛かるって酷くないですか?防御壁展開!
「くそ…卑怯な奴め!」
「いきなり丸腰の可愛いくてか弱い姫に切り掛かる貴方は卑怯では無いのですか?」
「貴様は魔王だから良いんだ!」
まーーーあ!頭の悪いお子様です事!私の姿の何処に魔王素材があると言うのかしら?
「私は人間です!貴方が今しようとしている事は人殺しです」
「今は人間でも森に行けば魔王になるんだよ!」
はい。アウト!
「森に行かなければ魔王にならないと言う事ですよね?」
「はぁ?」
貴方ちゃんとプレイしたの?王女が何故魔王になったかって言う過程を知らないんじゃないの?物語読まずにスキップする系?
「行けば『魔王になる』って事は、行かなければ『魔王にならない』って事じゃないのですか?」
「行くだけでなると思うぞ?」
スキップ野郎確定!
「良いでしょう…森へ行きます」
「本当か!嘘ついたら只じゃ置かないからな!」
只じゃ置かないのは、こっちのセリフよ!
「ええ。よろしいですわよ?ただし…私がソノ魔王とやらにならなかった場合、それ相応の償いをして頂きますから」
「貴様が魔王になるのは決まってる事なんだよ!覚悟しとけ!」
この世界がゲームの世界と言うのは知っているわ。私も幼い頃はシナリオから逃げて引きこもっていたもの。でもね…貴方が言ったように此処は二次元じゃ無いのよ!私は考える意思を持っているの。シナリオ通りに動くわけ無いじゃないの!オーホッホッホ!
小僧と小娘がイチャイチャしようと歯牙にもかけないわよ。逆に真横で囃し立てて差し上げるわ!瘴気?怖くも何とも無いわよ。私だって浄化の魔法ぐらい使えるもの。伊達に何年も引きこもっていませんわ。
さあ、名前も知らない勇者様…覚悟は出来ていて?
■
「すみませんでした!!!」
「勇者さま~どうされたのですか~?土下座などして」
アンタ誰?エアリじゃ無いわね?
お分かりのように勇者様は今、私に土下座中です。森に入ってパパっと瘴気を浄化して魔物を殲滅して今に至る。
もっと這いつくばって許しを請え!脆弱な人間め!あら、魔王っぽいわね。
「これで私の疑いは晴れましたよね?」
「はい!俺の知ってる世界では無かったみたいです」
いや、貴方の知ってる世界よ?
「勇者さまの知ってる世界って何の事ですの~?」
「いや、何でもない」
「わたくしには内緒ですの?淋しいです~」
「そろそろ戻りましょうか?とても疲れましたわ」
「ああ、話は城で…」
「ところで勇者さま~この方どなたですの?」
アンタ自国の王女知らないの?これが引きこもりの弊害ってやつかしら?
「勇者様も隅には置けませんね。こんな美しい方とお知り合いとは」
騎士にすら認識されなかったわ。もう少し表に出ようかしら…でも何か負けた気がする。
■
「俺はどんな事をして償えば良いんだ?」
「そうね…私の下僕として一生仕えなさい」
「えっ?」
フフフ。驚いてる、驚いてる。冗談に決まっているでしょう?あの土下座で許してあげるわよ、魔王じゃ無いんだから。キャッ、上手い事言った。
「そんなことで良いのか?」
「はっ?」
おっと、素で返してしまったわ。
「不敬罪で処刑されるのかと思ってた」
「この国に死刑は無いわ」
「じゃあ一生下僕で許してくれるのか?逆にご褒美みたいだ」
「ご褒美?」
「可愛い王女殿下の世話が出来るんだろう?」
何て事でしょう。私のこの溢れんばかりの可愛さが、一人の無垢な青少年を虜にしたみたいです。何て罪作りなのかしら…矢張り引きこもらなければいけないわ。仕方なく!ええ、仕方なく引きこもりますわ!
「冗談です。もうとっくに許しています」
「そんな…嘘だろう?」
「話は終わりです。お帰りになって」
「じゃあ、討伐が済んだら結婚してくれ」
「はっ?」
またしても素が出ました。何言ってんだコイツ!
「王女殿下の強さに惚れたんだ」
「可愛さじゃなくて?」
「王様が何でも良いから褒美を考えとけって言ってたからな」
「私は物じゃ無い!」
「だったら王女殿下の下僕で良いよ」
「ごきげんよう」
「おわっ…」
由々しき事態だわ!何とかしないと。あの名前も知らない勇者様に私の安寧の地が侵されてしまう。
■
「今回は楽勝だったぜ」
「一ヶ月も掛かりましたわよ?」
私は相変わらず引きこもって勇者撃退の魔法の開発に精を出していますの。
「絶対、十日で攻略してやる!」
「オホホホホ!楽しみにしていますわ」
もし、十日で攻略出来たらプロポーズを受ける事になりました。引きこもり生活にスリルがあって心躍ります。勿論、手を抜くなんて事は有りません。全力で撃退致しますわ。その全力に打ち勝つ情熱が有ったのなら…喜んで貴方のモノになりましょう。
「ところで勇者様。名前はなんて言いますの?」
「えっ?ユーシャ」
「……あっそう…」
私は今日も引きこもる。攻略してくるユーシャを待ちながら。
読んで頂きありがとうございます。