1-1 アルティア史解体新書
今は昔、神々が創造した大陸の片隅で、邪悪な種が息吹をあげた。
神々の目すら逃れて地表に滲み出たそれは、大陸に住まう生き物たちに隠棲し、ある日、緑豊かに彩られた平穏を、荒廃と争乱へと黒く塗り潰した。
人間を我が子のように慈しんでいた神々は、悪しきものどもが跋扈する大陸を見下ろして憐憫し、大陸に境界線を引き、互いが混じることのないよう、遥か彼方へと散り散りに切り分けた。
ただひとつ残された島に集められた人々に、神々はこう告げた。
『悪の因子が絶えるとき、島々はふたたびひとつになるでしょう。それまでの間、しばし力を合わせて生きていくのですよ』
人々は、神々の言葉が代々語り継がれるよう、寵愛を受けたその大地に、神の名を借りてアルティアと名付けた。
だが、それはかつての広大な大陸を取り戻す希望のためではなかった。神々への感謝の言葉を口にしながら、人々の胸の内に秘められていたのは、明確な恐怖心であった。
──人間同士で相争ったとき、島はふたたび形を変えられてしまうのではないか?
みずからの箱庭で飼い慣らす愛玩物に対する、間接的な警告にすぎないのではないだろうか?
さまざまな真意を抱き、神々への畏敬の念を心と歴史に刻みながら、慎ましい島に文化の異なる四つの国々を据えて、人々はかつての繁栄を取り戻していった……。
――『現代版 アルティア史解体新書』より、一部抜粋――