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八、曖昧な記憶

『お前は、ちゃんと憶えていて大丈夫だよ。栞との思い出を一つ一つを頭に入れて、栞の声を聴いて、栞の存在を憶えていい。』

「…私、いつか忘れてしまうかも。」

『あぁ。』

「あの扉、あの消えた部屋も、私が知ってる子の部屋だったよね?それなら、私、あの子の存在を忘れてしまったから、あの子の部屋も消えてしまっただろう。」


あぁ、こういうことだ…思わず苦笑した。

記憶の中に跡がつかないと、存在も知らないうちに消えてしまう。


人間の脳の記憶容量、一体どのぐらいあるだろう。

流石に、世の中にあるパソコンよりも多いでしょう。しかし、人間は自分を覚えるより、パソコンやスマホに頼むことが多い。


「もしあたな達は、私と出会うじゃなく、どこかの記憶力選手権の選手と出会う方が良いかも。きっとみんなのことも覚えられる。」

『いや、俺は記憶力選手権の選手といたくないわぁ…そんな人と喧嘩するたびにすぐ昔の話を掘り返しそう。』


思わずクスッと笑った。


『笑えるなら、機嫌直ったよね。』

「別に怒ってないし…」

『なら良い。』

「…私が忘れた子は誰なの?名前を聞いたら、思い出せると思う。」

『別に思い出せなくとも良い。』

「え?」

『あの子は、へミアや栞みたいに違って、お前といる時間そんなに長くないから、影響がないはず。』

「…蒼、冷血だね。」

『まぁ、必要ではないものを拒否して、必要のものだけ覚えていい。そもそも人間の脳は勝手に選別する。選別して、役立つことだけ頭の中に残る。』

「それなのに、人は辛い記憶も悲しい記憶も覚える。選別できるなら、そんな記憶を消えて欲しい。」

『辛い記憶も悲しい記憶も大事なことでしょう。色々な経験を重ねて、今のお前がいるから、そんなこと否定しないでよ。』

「否定してない。ただ、選別の権利がほしい。」

『そこまでできるなら、人生は想い通りになると面白くないじゃない?』

「私、20年以上生きてるのに、人生面白いなんて一回も思ったことない。」


どこかの専門書で見たかなぁ。

子供は二歳ぐらいになると鏡に自分が映ってるとわかる。

それで、鏡に映った人は自分であると認識できる。

幼少期の自分の顔は、もちろん、成長した顔と違う。

例え、眉毛太くなったり、髪が変わったりするでしょう?

それでも疑わずに、鏡を見るとそこに映った人は自分だと確信できる。


逆に、これが不思議だと思う。


なんで人間は自分の顔を見えないのに、

鏡を見てこの人は自分だって信じられるの。


子供の頃に自己認識できて、その以降毎日鏡の前に立って、

これは私だと確認してるでしょうか。


しかし、これは鏡が正しいという前提が必要だよ。

鏡がなくても、カメラもこんな効果があるだろう。


残りは、私たち自身の記憶だ。

覚えてるから、これだろうという根拠のない言い方もよく聞こえる。

記憶は、私の考えや気持ちの根拠だと思う。

しかも、【私】はどういう人かの証明だ。


もしもの話。


とある日、あなたは目を覚めて、見知らぬ天井を見えた。

ベッドシーツも、好きなキャラクターではなく、無地なシーツになった。

いつもベッドに置いてるぬいぐるみはなくなって、

その代わりに最新のスマホがある。


あなたが時計を探してみたけど、いつもの場所には置いてなかった。

スマホを見ると、もう10時以降だった。

あなたの記憶に、我が家のルールとして、9時になると全員も起きないといけない。しかし、今日は9時まで寝ても親に起こされなかった。


あなたは、自分の左手の手首を強く握ってみた。

痛みを感じたから、ここは夢じゃなく、現実だったとわかった。

昨日寝る前の光景を思い出し、目の前にある見知らぬ景色を比べてみた。

全然違うんだ。


こんな時、あなたは、

昨日の自分と今日の自分は、同じだと信じるでしょうか。

それでも、自分の記憶を疑うことがなく信じているの?


私はね…

ヘミアと出会ったばかりの頃は、いろんな意味でひどかった。

そんな体験は初めてだし、楽しかった。


夢中になった。


【あっちの世界】(パラコズム)【こっちの世界】(現実)も、時間線は一緒だった。

どっちが面白いそうことがあれば、そこに行けば良い。


いつの間に、私は【こっちの世界】(現実)より【あっちの世界】(パラコズム)が好きになった。


ただ、好きになる程、変な感覚も出てきた。


いつの間に、自分の手を見つめて、自分の手ではないと感じてしまう。

【こっちの世界】(現実)も、【あっちの世界】(パラコズム)の一つだったか?と感じてしまった。


毎晩ベッドに横になって、天井を見ながら色んな考え方を浮かんでた。


明日目を覚めたら、見知らぬ天井見たらどうする。

明日目を覚めたら、違いベッドに寝たらどうする。

明日目を覚めたら、私は私ではなくなたらどうする。


私たちは、記憶に頼って生きてる。


試験に良い結果を出すためにテキストの内容を暗記する。

仕事うまくできるように、仕事の内容や手続きを覚えなければならない。

恋人と仲良くなるために、相手の好みや相手との約束を覚える。


でも、人間の記憶は曖昧なものだ。


実際起きてないのに、起きたように思い出してしまう時もある。

そして、他人の話によって、簡単に変わる。

頭の中に鮮明に刻んでる記憶でも、間違えることがある。


何故なら人間の脳は、ものをまるごと覚えない。


ちょこちょこ記憶を選別して、大事なももや必要なものだけ保存しておく。

毎日の生活から考えてみよう。もしも、全部記憶に残ると、どれほどの容量になるでしょうか。だから、【重要ではない】と決まったら覚える必要もない。


しかし、それを決まるのは、私たちの脳だ。


脳から、これは重要ではないと判定され、段々その記憶は薄くなり、忘れてしまう。

だから、嫌な記憶があって忘れたくても、もし脳から【重要】だと認定されたら、どうしても忘れられない。


一生残る。


私、自分が起こったことは時間が経っても、鮮明に頭に残る。

普通忘れるはずの記憶も、鮮明のままに残される。

例え、何もない日常にも、何か引っかかってフラッシュバックのように、勝手に思い出される。そして、当時の感情も一緒に襲われてくる。

そのせいで、一時期夜になると気分が沈んだり過度に緊張したりした。


人間の脳は、無意識に記憶を書き直したりする。

それは当人が嫌でも、記憶を思い出す度に、少しずつ修正してる。

そして記憶を書き換える。

誰にも止められない。


たとえ、所有主の私たちでもできないんだ。

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