表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/22

一、物語の始まり

ふいに目が覚めた。


視野に入るものは全部ぼやけて見えるけど、

3秒後にしっかり見えるようになった。

真っ白の天井だ。

自分の部屋の天井はシミがあるから、ここは私の部屋ではない。


『あっ起きた?』

急に、目に懐かしい顔が映った。

「あ、お…」

(あお)がニコッと笑ってる。


『おはよう。』


今日は、何曜日だっけ…

昨日早く寝たのに、また眠いと感じる。

夢か、現実か…


『二度寝しようか?今日、仕事ないでしょうね。』

「…ううん、起きる。」

蒼は、まじか…ボソッと口に出た。

「起こしたのは君だろう。」

『俺はベッドに座ってるだけのに…』

「蒼、コーヒー淹れて。」

『はい、はい。』


彼はぶつぶつ言いながら部屋を出た。

私も布団から出て、部屋着に着替える。


トイレで顔を洗って、歯を磨いた。

鏡に映る自分、なぜか自分ではないと感じてしまう。

歯ブラシを持つ手も自分の手ではないように感じる。


私、もしかしてまた夢の中なの?


リビングに行くと、コーヒーの香りがする。

蒼はオープンキッチンでコーヒーを淹れてる。

飲むのも好きだけど、このふわっとした香りも好きだ。

朝ごはん食べようと言っても食材がないので、基本コーヒーだけにする。


ここにないのは、食材だけではない。


目を逸らして、リビングに何もない。

ソファもなく、机もテレビも置いていない。

最初の頃には違和感を感じたけど、慣れたら妙に落ち着く。


蒼はいつもこの何もない家でどうやって過ごしてるの?と知りたくなる。


そういえば、昔も聞いたことある気がする。

『うん?普通に生活できるよ?』とあっさり答えた。

あまりわからないけど、生活できるそうよね。


蒼と初めて会ったのは8年前だった。

とある日、いきなり声かけられた。

初対面なのに、昔から仲の良かった親友であるかのように仲良くなれた。

それから、私は大学に入って、卒業して、社会人になった。

色んなことがあったけど、それでも一緒にいる。


見た目から見ると、蒼は今時の大学生と同じだと思う。

実際の年齢は教えてくれないけどね、そこまで年上と見えない。

それとも童顔という事でしょうか。

ハーフでもないのに、髪は外国人っぽく、くるくるようなになってる。

あと、無地の服しか持っていない。

ほとんど、Tシャツ一枚とパーカーだけする。

流行りものは全くない。

そもそもここテレビやパソコンがないから、それは知らないでしょう。


『はい、どうぞ。』


蒼は私の前にコーヒーカップを置いた。


「…蒼は、いつまで私の側にいるの?」

自分がなんでこんな質問聞いたか、未だにわからない。

『うーん。お前が俺のこと忘れた日までかなぁ…』

蒼はニコッと笑った。

『人間はさ、意外にすぐ忘れる。たとえ、重要な事でもね。』


蒼はずっとこの家にいる。

誰もいなくて、ただ一人でいる。


「蒼は寂しいと思ったことあるの?」

『寂しいかなぁ…考えたことないかも。』

『俺、いつからこの家にいるすら覚えてないし。』


確か、私もいつこの家にきたか覚えてない。


『まぁ、この家には何もないけど、生きられないわけでもない。』


退屈じゃないの?


『そうだったけど、お前が来るでしょう。』


頭に、昔の思い出が次々と浮かんできた。


私、昔ほぼ毎日もここに遊びに来た。

しかし、5年前に、私は一年間ぐらい海外に暮らすことになった。

いつものようにこの家に来られなかった。

人生初の一人暮らしだったし、海外だったので、ゼロから考えないといけなかった。仕事と生活でいっぱいになった。

あの時、本当に蒼と遊ぶ余裕もなかった。

新しい所で様々な人と出会って、いろんな体験があった。

もちろん、悩みも多かったね。

その後、なんとか無事に一年間海外生活終わって、

帰国したら、また仕事探さないといけない。


そんな多忙な日々に、蒼がまた私の前に現れた。


「…ごめんね。」

『うん?』

「一時期、蒼のことすっかり忘れてしまってごめん。」


蒼はフッと笑った。


『いいよ。別に気にしてない。ただ、昔はそんな懐いてたのに、突然一言だけで海外に行って、連絡も全くなかった…あっ、でも悲しくないよ。大人になったなぁと感慨がわいたけどね。』


蒼は話を続く前に私の顔をちらっと見た。


『ただ…俺、てっきりお前があの男と付き合うと思った。』

「まあ、曖昧な関係になっただけ。てか、私はそれも言ったっけ?」

『さぁ…』

「だとしても、付き合わないと決めたのは蒼のせいよね。」

『おい、人のせいにすんなよ。』


あの時の自分は、本当に相手と付き合おうと思った。

ただ、付き合うなら一度蒼に、相手のことを紹介しようと思った。

しかし、蒼は相手のことを聞いた後に『あの人との交際、やめた方が良い。』と言い出した。結局、相手に適度な言葉を言って、曖昧な関係になってしまった。


昔からこんな習慣がある。


わからないことや決断つけない時に、蒼に聞く。

アドバイスか意見か、私は蒼が言ったことを疑わず全部受ける。

だから、この件も、蒼から反対されたから、一旦止めた。


そもそも自分は相手と出かけた時にも、途中退屈して蒼に連絡したこともあり、これは確かに付き合えないだろう。


ずっと説明できない違和感を感じてたけど、はっきりわからなかった。


ある日、相手は未来について、楽しそうで話してた。

結婚とか、子供とか。どこに住むか、家はどんな感じにするか。

相手が語り続いてる未来には私がいるだった。

相手があまりにも楽しそうで喋り続いたから、他人事のように見えてしまった。

そして、相手から「どんな感じになって欲しい?」と聞かれた。


あの時、初めてその違和感は何なのか気づいた。


私が思い付いた未来には、彼がいなかった。

結婚式も。葬式も。

その場にいてほしいのは彼ではなく、蒼だった。

目をつぶって浮かんできた断片は全部、彼ではなく蒼だった。


きっと、これこそ正解だった。


『…ねぇ、大丈夫?』

蒼から声かけた。


私は思い出から現実に戻った。

目の前にいる男の顔を見ると妙に懐かしく感じた。


『嫌ならあの男の話もう言わないから、泣くなよ。』

「いや、こんな事で泣かないよ。」

『お前すぐ泣くだもん。』


それは違うよ、蒼。


あなたは知らないでしょう。

私、あなたの前だけ、泣き虫になるよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ