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十七、最後の藁

「…こんな話、知ってる?」


男の視線を感じるけど、私の視線は床に置くままにした。

実際、目合うと話せなくなるよね。


「人間はね、誰の中にも、もう一人の自分がいる。」


先ほど蒼が教えた事は、頭の中に簡単に浮かんできた。

蒼がいないのに、蒼の声を聞こえた。


「だけど、ほとんどの人は何も気づかず人生を過ごしてる。一部の人は、子供の頃に中の人のことを気づいて色んな世界で遊んでたりする。そんな人たち、二種類に分ける。一つ目は、成長するにつれて中の人の姿も見えなくなって、段々記憶からこんな人がいるのも忘れる。」


あぁ、目元が温かくなってきたそう。


「もう一つは…」

「君みたいに、中の住人を忘れたくないし、別れたくない。たとえ、自分を壊されても、忘れたくない。」

「え、?」

「…あいつ、蒼が言ったことある。」


笑う気がないのに、失笑した。

カウンセラーにここまで言う意味は何なの?


「だから、邪魔しないで。という意味だと思う。」

「邪魔っていうのは?」

「だって、あいつにとって、ぼくは厄介なやつだった。君の無意識に暗示するか、偽の記憶を作ろうか…だから、あれが原因だと思った。君の望みであれば、ほかのことはなんとも良い…たとえ、君の体調が崩れても構わないって。」

「あぁ。でも私、やっぱ蒼はいない世界に行きたくないよ。」

「……だからさー」

「あなたには感謝する。親にちゃんと治療完了ように演じるから、あなたには迷惑かけないと思う。」


蒼がいない世界を考えてみた。

考えるだけで吐きそうになる。


「…君、そのままだといつか限界になるじゃー」

「あぁ、あれなら、もうだいぶん前から限界にたどり着いたよ。」

「……」

「蒼が、あなたに言ったかもしれないけど、私の小さい頃から死にたかった。死んでも別にいいと思った。」

「…な、なんで?」

「蒼がいつか私のそばから消えてしまうなら、彼が側にいた時点で死んで欲しかった。あとは、蒼は、本当に私のこと大切にしてるかどうか確認したかった。」

「…その考え方、おかしいだろう…」

「ええ、でもこれは私にとって普通だった。そもそも、普通かどうか、その定義は人それぞれだと思う。周りの人と違うなら、おかしいと認定される。ただ、なんで皆と同じじゃないとダメでしょうか?」


男は黙った。


「人間は、だいたい八十年生きるとしたら、何年間を使ってだれかと仲良くなり、その翌年はもう挨拶するしない。学校や職場など、それぞれの環境で、どうやってみんなに受けるか考えて、みんなに合わせたりする。そして、段々どれか本当の自分がわからなくなる。」


そういえば、私、なんでこの男にこんな話をしてるの。


「誰にも、いつかどのタイミングが分かれる。凄く簡単だった。なぜなら、人間は、だれでも自分の中に優先順位決まってる。もちろん、その順位の決め手は人それぞれの見解があったのに…」


私、そんな変な事言ってるでしょうか?

誰にも見たことないから、嘘しかないの?


「…私、ただ蒼のことを一番の順位にしたかったのに…」


あぁ、ダメだ。

また涙が落ちそう


「…別に悪いなんて、誰も言ってないよ?」


私は、男の目を真っ直ぐに見る。


「だって、忘れても別に悪いことじゃないよ。」

「だから、それは嫌だって言っただろう。」


久しぶりにこんなモヤモヤになった。

頭が上手く回れない。

自分でもわかる。今喋った事は理論的におかしいかも。

情緒不安定になりたい訳ではないよ。

しかし、今の私の中に溢れてきた感情は、おそらく、昔と同じだった。


なのに、蒼が出てこない。


…あの言葉、最期の言葉なの?


また泣きそうになってしまうか、それとも他人のことを拒否してると見えるか、

男は、優しい声でこう言った。


「…人間の脳はさ、小さいよ。ただ1300グラム…いや、女性はもっと軽い気がする…取り敢えず、言いたいのは、人間の脳は、多分世の中に一番速いコンピューターかもしれないが、万能ではない。」


男がいつの間に私の前にしゃがんでる。


「もちろん、容量も無限でもない。」


知ってる。そんなこと、私はわかってるよ。


「だから、忘れるのも大事だよ。全部忘れようなんて言わないから、ただ、一人で全部呑み込まないでほしい。あいつもそう言ったよ。」


ーーお前が十年以上も頑張ってたから、もう俺たちと他の子たちを背負わなくてもいいと思った。全部思い出せなくても、俺たちが死なないよ


なぜか知らないけど、この男と話す度に蒼との会話を浮かんできた。


「…だ…ひと…なしい…」

「うん?」


目の焦点が合わない。

もう、先からボーッとなってる。集中力も判断力も、明らかに鈍っている。


「…だって、彼はずっと闇の中に一人だって、寂しいじゃない?」


多分、私は、思ったより強くない。

全部一人でやっても構わないと思ってるのに、

実際そうでもないかもしれない。


男は心配そうに見える。


「誰にもいないし、なにもないよ…蒼が、自分の人生は私の人生だと言われた。でも、そんなのが悲しいではないの?私たち、子供の頃知り合ってから、十年も一緒にいるからこそ、これは残酷な事だかわかる。一緒にいるのに、私の方だけ時間進めてる…」


蒼にも、【蒼】にも、

大丈夫だよ。って言われた。

だからきっと大丈夫だと信じたかった。


「もうこの歳だからやらないといけない。そろそろあれをやめてください。とか周りの人からよく言われて、この世界で生きるために何度も好きなことを手離した。今まで誰にもバレてないようにやってきたのに、なんで蒼から手を離そうと言われるの…」


しかし、私は誰よりも知ってる。

あれを信じないと壊れるから、信じるしかない。


彼達の【大丈夫だよ】を信じなかったら、あの一瞬で世界が壊れてしまう。

これを避けたいから、信じるしかない。


「記憶は自分で決められないもんだけど、好きなものや好きな人は自分で選んで欲しい。他人と一緒じゃなかったら悪いの?蒼がこっちの世界で実体がないから、存在すら否定される?もし彼の存在を否定されたら、私、今までの人生、記憶、感情は…一体何なの…」


一気に喋りすぎたか、もう喋り気がなくなったように、声が段々小さくなった。


誰にも言ってない話だった。

この不安を抱きながら生きるつもりだった。

誰にも言えなかったら、このまま生きられると思った。

しかし、蒼が出てこない。


あの時点で、どこかで壊れてしまった。


「…きっと、君と同じ気持ちだよ。」

「……」

「まぁ、これからはぼくの感想だけで、それも聞いてみよう。ぼくは蒼と三回しか話してないから、君の気持ちと違うかも。ただ、今までの話まとめたら、蒼が消えないために君はずっと頑張ってた。彼の存在がこの世界に抹殺されないため、君は彼との記憶を忘れていけないよね。」


私は、頷いた。


「ぼくは、正直、君より蒼のことわかってない。たけど、こんなぼくでもそう感じたあの三回の会話の中に、彼はほとんど君の話しか話さなかった。」

「私の話って…」

「君の悩みとか…彼は、このままだと、君がいつか壊れそうじゃないか?と心配してるでしょう?だから、彼は自分が出来る限り、君を守りたい。自己犠牲でも構わないから、君が無事にいてほしい。」


私、もしこの世界で生きると、彼達も生きている。

自分が死んだら、彼達がまたあの闇に落ちてしまうではないか、とずっと思ってた。


いつか間違えたでしょう?

いつから【蒼】に不安を言えなくなり、全部一人でやってしまったか。

いつからどれが本心なのか、わからなくなったでしょう。


一体、本当の自分は、どっちなの?


「ちょ…」


見えなくてわかる。

自分の目から涙ボロボロに出てきた。

泣きたくないのに、涙が止まれなくずっと溢れてきた。


「えっ…もしかして、どこか痛い?体調また悪いの?」


男は焦ってるけど、私の口からある言葉を出た。

「…蒼…」


こんな状態の私を落ち着かせるのは蒼しかいなかった。

だから、たとえ大人になって、魔法が魔法ではなくなっても、


私は蒼の名前を呼び続いてるしかない。


もう何回も呼んでも出ないから、出てないとわかるけど呼んでしまった。

と思いきや…


『…お前、なんでまた泣き出してるの?』


ビクッ。

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