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十三、記憶の断片:蒼

一旦話が落ち着いたから、ふっと時間を気になった。


あれ、私、今日ずっとここに居て平気なの?


普段なら、よく途中で呼ばれていきなり追い出された。

確かに、今日はなかなか、ここでいる時間が長い気がする。


逆に不安になった。

でも、この不安は自分の世界に戻れないせいじゃなく、

蒼が何かあると思ってしまった。


基本、みんなが消える前にも、いつもと違うことが起こってる。

私がいつもと違う行動を選択したから…


ダメだよ。


「…ねぇ、蒼、私は…」

『そろそろ時間かも。』

「えっ?」

『あっ、【蒼】はノートにちゃんと書いたけど、ここはお前の世界を崩れないように作った世界(パラコズム)だよ。』


蒼に聞こうと思ったら、彼がまた話を始めた。

…やっぱ今日の私って、頭の回転悪いかも、しかも気分悪い。


『ここで、時間は流れ去らないから、過去は過ぎ去らず、未来も既にここにある。』


だから【蒼】と蒼は二人も、出会ってから姿が一切変わらなかった。


【蒼】との初対面の時、私は小学生で、彼の見た目は二十代前後だった。

優しいお兄さんというイメージだった。


【蒼】と最後にあったとき、私は社会人で、彼の見た目も二十代前後だった。

優しい弟くんというイメージだった。


蒼との初対面の時、私は短大生で、彼の見た目も二十代前後だった。

口が悪いが根は良い同級生というイメージだった。


そして、今目の前にいる蒼も、当時と何も変わらなかった。


『心配せず、俺たちはずっとここにいるよ。お前の隣にいて、お前が誰と会ったか、誰と遊んだか、一つ一つ記録して覚えてる。』


いつだったでしょう。

蒼の姿は何も変わってないと気付いたのはいつだった。


『いつものように、仕事を終わったらどこかに寄ったりして、服屋でどの服が良いか聞かれたりして、栞とヘミアの世界よりつまらないかもしれない。でも…』


同行する友達がいなければ、私は必ず蒼を呼び出した。

蒼は食事できなく、物を触るのもできないのに、それでも文句を言わない。


『俺、お前の物語が好きだよ。たとえお前がずっと「くだらない」か「つまらない」と言い続いても…嫌いになれない。何故なら、俺はお前のこと否定したくない。』


私から見ると、

自分の物語はどうしようもないと思う。

ただ、こんなくだらない物語が好きだと言われるのは、彼しかいないと思う。


『お前は俺たちと違いんだ。お前の世界で時間は流れる。お前と初対面の時、また学生だったのに、いつの間にお前が大学卒業して就職ともした。』


私の身長は150センチから165センチになった。

髪も伸ばして、オシャレに興味あって、好きな服ブランドも変わった。

趣味も変わって、ピアノも弾けなくなった。


ただ、蒼はちっとも変わらない。


『お前の世界は広くなった。色んな人に接して色んな物語を見てきた。それで、お前の物語を書き続くために、新しい知識や情報を覚えないといけない。新しい出会いも必要だ。』


私の物語は、私で決めるじゃないか?

それとも私の脳で決まるの?


…今、なんで、言葉を口から出せないの?


『段々、いっぱいになって、要らない物や価値ない記憶を捨てろうとする。だから、【蒼】は、お前がみんなとの記憶を隠した。お前の脳が記憶を消さないように、彼はちゃんと他の所に保管してる。』


蒼は、私の異様を気付かず、ずっと喋り続いてる。


『…俺、最初【蒼】のノートを見た時に、お前が俺たちのこと忘れるなんて起こらないと思った…彼は心配しすぎだって。まぁ、根拠のない自信だったかもしれない…』


蒼は最初から知ってるんだ。


『それで、お前がある日から俺に声かけなくなり、完全に俺の前に来なくなった。忙しいから来なかっただろう、と思った。』


あぁ。

そういえば、私も一時期蒼と会わなかったもん。

蒼が呼ばなくなった。

でも、蒼は、【蒼】と違って、私の元に来た。


『心配して様子を見に行っただけど、お前が家に出た瞬間、いつものように「あっおはよう」と言ってくれた。しばらく喋っても何も違和感を感じなかった。』


あの頃の私、勇気を出して質問を聞いた。


『その次、お前が口から出た言葉を聞いて、ゾッとした。』


私、【君、誰でしょうか?】と聞いた。


あの頃の蒼は、悲しげに苦笑した。

そんな顔、一度も見たことなかった。

あの表情は何もないように見えてるのに、

裏に悲しみも悔しみも含めた。


『名前を答えたら、きっとお前はすぐ思い出せるだろう…』

『でも、お前が自分で俺の名前を思い出せて欲しかった。毎日も懐いてたのに、忘れるわけない…子供っぽいよね。かっこつけで、思い出せなくてもいいよーと返事した。』


実際、私は数日後に彼の名前を思い出せた。

もちろん、その間に、蒼という名前を口から出ることは一回もなかった。


『お前は俺の名前思い出せないなら、もういいよと思った。ただ、どうしても悔しいと感じてしまった。こんな結末は嫌だと思ったから、最後に賭けてみた。』


私が彼の名前を思い出せたまでの数日間に、毎日も少し話してた。

最後の日は、休日だった。

何も思い出せない時点で会話が続かなかった。


ーーもういいよ、予定あるでしょう?行ってらっしゃい。


しかし、あの時、私は動けなかった。

普通なら、そのまま歩き出すだろう。

でも、私はなぜか離そうと思わなかった。


この人を置いて行っちゃっダメだって。


という気持ちが強かったから、蒼から離れなかったかも。

蒼は、私の目をまっすぐ見ながら、そう聞いた。


ーー相手の所に行くか。それとも俺とどこに行く?


悲しい顔でそう言って、私に手を差し出した。

これを聞いた時、なぜか目がウロウロになってしまった。


今考えば、当時の自分にとって、蒼はただの「どこかで見たことある人」だけだった。

なんで離れるのが迷っただろう。


ただ、私、あの時蒼の手を掴んだ。


『お前が俺の手を素直に掴んだ瞬間驚いた。名前覚えなかったし、掴まないと予想した。』


私が蒼の手を掴んだ時、蒼はフッと笑って言った。


ーー知らない人について行ってダメだって言っただろう。


あの時の私は、理由もなく目の前にいる人は私を傷つかないと感じた。

そして、そのまま口から出して答えた。


『お前が、迷わず俺に「知らないけど、私を傷つかないでしょう?」と答えてくれて、びっくりした。お前が俺の名前を思い出せなくても、俺に懐いて信頼してる。あの時、思い出せなくても、感覚と感情は残ると思った。』


確かに。

懐かしい記憶だった。

目の前にいる人が誰かどうか知らなくても、信用できるなんて、

多分、生まれてから初めてだった。


蒼の顔を見ようとすると、

なぜか見えなくなった。

見えないじゃなく、私は、真っ黒しか見えない。

…私、いつ目を瞑ったの?


一体、何かあった?

急に、怖くなった。


動けないから怖くなったではない。

喋れないから怖くなったではない。


そんな感じではなく、もっと深い所から襲われた。


強烈な不快感。

真っ黒な世界(パラコズム)で、蒼の声はいつものより綺麗に響いてる。


『だから、いいよ。』

『お前が十年以上も頑張ってたから、もう俺たちと他の子たちを背負わなくてもいいと思った。全部思い出せなくても、俺たちが死なないし。』


何か良いでしょうか。

なんでさっきから勝手なこちばかりを言う…


『正直を言う。俺たちがいなくても、お前の世界は止まらない。』

『物語も続けるし、だから、手を離そう。あの世界…たとえどんな理不尽だと思っても、少しずつ好きになろう。だって、俺たちもそっちで出会っただろう。』


何バカのことを言うか。

私は蒼を見て話したいのに、瞼は、開くな、閉じようと反抗してる。

私の体、先から自分からコントロールできなくなった。


『俺、やっぱりお前から名前を呼ばれたかった。』

『成長しても甘えてきて、くだらないことでも俺に言ってほしかった。』


蒼、もういいから黙って。


『お前がこれ嫌いとわかるのに、止めさせなくてごめん。』

『でも、俺も知りたいかも。きっとだいじょ…』


突然、無音の世界(パラコズム)に落ちた。

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