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十、何もない家

『さて、何から話したらよい?』

「えっと…蒼はどのぐらい覚えてる?」

『名前なら、一応全員知ってるよ。』

「嘘でしょう!?」


そういえば、さっき蒼もそう言った。

瑠璃と会ったことないはずなのに、瑠璃の名前を知ってるんだ。


『名前くらい知ってる。あっ、そうか、そうすればよいか…』


蒼は突然何か思い付いたようで、意味わからないことを出した。


「何か?」

『じゃ、まずこの家の話を続けようか。先言った通りにこの家は色々な部屋があるだろう。あっ、栞のはリビングだけど…』

「…ってことは、瑠璃の部屋みたいで、元々あったけど今なくなった部屋もある?」

『まぁね、そもそも、この世界(パラコズム)はもっと広かった。最初の頃に、この家は洋館だったそうだよ。』

「…洋館?」

『俺も詳しい情報まで知らないけど、庭付きの洋館だったよ。とある時期に、こんな普通のアパートになった。』

「…あれも私が会った子の話だよね?」


あのリビングは栞との繋がりで、消えた部屋は瑠璃との繋がりだった。

それなら、この家も、もしかしたら誰かとの繋がりではないの?


『あぁ。でも、俺はその子知らない。』

「名前知ってる?」

『知ってるけど、お前に直接教えたら意味ないんだ。』

「思い出せばいいのに…」

『じゃ、ヒント要る?』

「ヒント?」

『一、子供の頃に洋館に住んだけど、その後はアパートに引越した。』


【洋館】


『二、あの子、子供の頃に蝶を飼ってた。』


【蝶を飼ってた】


…あぁ。


「本当に、なんで蒼はここまで知ってたか…」

『おっ、名前思い出したみたいね。』

「うん。わかったよ。」


懐かしい…だけど、少し恐怖も感じた。


「ギリシア神話の虹の女神…イリスのことだよね。」


名前が出ると思い出すから、名前は大事だと思う。

名前を聞く度にその人との楽しい思い出も、悲しい思い出も、少しずつ喚び返す。


もしかしてみんなのこと忘れたではなく、頭のどこかに閉まってるだけだろう。


『あの子の名前って、こんな意味だった。』


蒼の顔見ると、なぜか目大きく開いて、びっくりしたよう。


「え?蒼は知らないの?」

『当たり前じゃない?へミアとも会ったことないなら、ヘミアより前の子に会ったことある訳ない。ただ名前を見たことある。』

「そうだよね。小学生の頃のことだったもん。」


あの頃、私の隣にいたのは【蒼】だったし。


「イリスは…私が意図的に知り合った。」

『意図的に?』

「わざっと何回も会って、仲良くしたよ。」

『へぇ…』

「イリスは凄いよ。一日中に寝られなくても平気だった。」

『うわ…しんどいそう…』


確かに、しんどかったかも。

ふっと一つの考えが降りてきた。


「蒼は、イリスのことどのぐらい知ってるの?」

『名前ぐらい?あと、簡単なプロフィール…いや、さすがに誕生日とか分からない。あとは、この家はあの子の家の元に構成してるということ。』

「それは何か見たから知ってる?それともなんとなく知ってる?」

『…お前、何を聞きたいかよ?』


今までの蒼を見てたら、もしかして、【蒼】の記憶を引き継いでるかなぁ?と思ったけど、流石にそんな都合良い話ってありえないかも。

【蒼】が、どこかにノートとも残ってるかしら。

もし後者であれば、そのノートを見せて欲しいかも。


自分について、何を書いたか知りたいかも。


「…【蒼】からもらっとノートにまた何か書いたか知りたいし、何の基準で記録されてるかなぁ…と思っただけ。」

『それは見せない。見せたくないじゃなく、見せないよ。』

「でも、この家、いや、私と会った子のこと書いてたよね。」

『あぁ。ただ、細かく書いてないよ。』

「じゃ、イリスの彼氏は誰なのか、ノートに書いてない?」

『彼氏の名前……』


もし【蒼】が自分で記録取ってるなら、きっと私の好みで記録するだろう。


『徹…?』


聞いた瞬間に胸がドキッとした。

その次、泣きそうになっちゃった。


『ごめん、分からない…っていうか自信がない。頭に浮かんだ名前を答えただけ。読み方違うかもしれないか…』

「大丈夫だ。あることを判明したいだけだ。」

『何を?』

「【蒼】のノートは客観的に記録したか、それとも、私の感情を影響しながら記録したか、確認してみたい。」

『…彼氏の名前でそんなことわかるか?』

「わかるよ。だって、イリスの物語のまま記録するなら、彼氏の名前は、外国人の名前だったよ。」

『…え?…ってことは嘘なの?』

「いや、徹くんはイリスの死んだ幼馴染だった。もちろん、好きな人だった。」

『で、お前がその外国人の彼氏が気に入らなかったから、イリスの彼氏はあの人じゃなく、徹というやつだ!と思った?』

「うん。そういうことだよ。」

『…なに勝手なこと…』

「だって、私はあの外国人気に入らなかったもん。」


子供の頃に好きなアニメキャラの話みたい。

でも、正直、私はイリスのことそんなに覚えてない気がする。


『まじかよ…あの子が書いたから、疑わずそのまま受けた。』

「だかーら、言ったでしょう。【蒼】はどんな時でも私の騎士だよ。」


私、今きっと自慢そうな顔してるだろう。

自分でもわかるくらいに、口角を上げた。


『…まあ、そうだね…だから、ここまで…』

蒼は何か思いついたように、何かボソッと言った。


「でも、これでわかるでしょ?」

『ストップ。あの子の話はいいや。』

「違うよ。そうじゃなく、先、私が言ったことだよ。私の記憶は、あなた達の存在する証拠だって。」


蒼は眉間にシワを寄せてしばらく考えてるようだ


「私が言わなかったら、蒼はずっと気づかないでしょう。イリスの彼氏は徹くんだと信じて生きる。少し考えてみよう。イリスの世界(パラコズム)以外に、彼女の存在を知ってる人は私と【蒼】だけだった。」


しかし、記録を残るなんて思わなかった。

【蒼】らしい…私は思わず笑った。


「それで、【蒼】が消える前にノートで記録した。そのノートを見て、もっといろんな人が彼女の存在を知った。そして、確認できないから、ノートに書いたまま信じるしかない。」

『あぁ。』

「そもそも、イリスがいなくても、知らなくても、みんなにも影響がないと思う。」

『俺にも影響がないけど。』

「確かにどうしようもない事だと思った。でも、私が何も言わなかったら、これからの世界(パラコズム)、ここの世界(パラコズム)には【イリスの彼氏は徹くん】だと残ってる。」

『それはそうだなぁ…』

「誤った情報は、そのままに引き続いて、そして…」


誤ったことが事実になる。

なるほど、こんな方法があるんだ。

っていうか、人間の記憶システムと似てる気がする。


『…俺は、ただ、あの子はお前に甘えすぎだと思っただけ。』

「なんでだよ。私は真面目に言ったのに…」


私は少しむすっとした。


『はい、はい。』

「…もう一つ聞いてもいい?」

『問題による。』

「【蒼】のノート、あと何人ぐらい書いた?」

『お前が今まで出会った子全員分だった。ストーカーと思われるぐらい、一人一人のことちゃんと書いておいた。』


そもそも私も先まで思い出そうともしなかったので、全然気づかなかった。

昔、こんなに忘れたくないや忘れちゃっやだ!と言ってたのに、

あの気持ちは、知らないうちに綺麗に消えてしまった。


『で、聞きたいのはそれだけじゃないよね?』

「…私とのことは書いた?」

『書いてないよ。あの子は、お前が出会った子達とのエピソードを細かく書いたのに、お前とのこと一切書かなかった。』

「そうなんだ…」


蒼にバレるのも恥ずかしいと思ったから、少しホッとした。

しかし、悲しい気持ちもある。

なんで他人のこと詳しく書いたのに、

一番側にいた私のこと、何も残されないだろう。


『それは書かないだろう。』

「え?でも、一番一緒にいたのに…」

『俺なら書かない。お前が忘れたら仕方ないと思うし、その方が普通だ。』

「忘れる方が普通なの…」


どうしても忘れたくないと思ったのは私だけでしょう。


『それに、俺は、あの子と違うから、考え方も違う。』

「たとえば?」

『あの子はお前が願ったことなら、なんでも叶わせる。だから、そのノートもこの家もそうだった。』


口調を荒立てないのに、なぜか蒼が機嫌悪いそうと感じる。


『お前が死のうと言うまで、あの子の愛情度を試そうとした。それで、お前はあの子の前に何回も泣きながら、「みんなのこと忘れたくない」と言っただろう。』


ビクッ。


「…なんで?」

『なんでわかる?あぁ、だってこの家を作り出す理由として、ノートに書いたよ。まあ、泣くながら言うのは、俺の想像だけど…』

「この家を作る理由…」


意味をはっきり理解できないため、もう一度ボソッと言った。


確かに、彼達は特別な存在だった。

それで、彼達の世界(パラコズム)はこの家しかない。


ってことは、世界(パラコズム)は作れるなんて…?


『とりあえず、話を聞いてから文句言うね。』


知らないうちに、蒼はまだ何か書き始めた。


『先も言ったけど、俺は【蒼】と会ったことないから、彼はお前に関することやこの家のこともノートに書いてた。でも、ノートだとしても、全部俺の頭に入ってるから、見せない。でも…彼は几帳面な性格で助かった。』


蒼の手は止まって、私にその紙を見せた。

よく見る住宅の平面図だった。

線をまっすぐを引いて、説明もちゃんと綺麗に書いてる。

二階建で、各部屋の場所も描いて、部屋の持ち主の名前も記入した。


イリスの部屋、瑠衣の部屋、ヘミアの部屋、瑠璃の部屋、織の部屋……


名前を見ただけで懐かしいと思った。

みんなの顔も頭の中に出てきそう。


しかし、それだけだった。

もっと思い出そうとしても、何も出てこない。


そういえば、これは…


「ここ、イリスの家だった…」

『あぁ、形一緒だけだった。元々洋館だっだし、2階もあるから、部屋の数も多かったみたい。これ、名前を見ればなんとなくわかるでしょう。』

「うん…本当に最初の頃に会った子も入れたんだ。でも、今と違うよね。」


今の家は、栞の部屋となってるリビング、と蒼の部屋だけだ。

悔しい気持ちもある。

以前そんなにいたのに、今は何も残さない。


『…まあ、お前にとってそうだろう。では、こう考えてみよう。』

「うん?」

『あの子達は、確かにお前の前にいきなり消えた。でも、ここの部屋はさ、昔も今も、部屋だけだった。言っただろう。ここに居られるのは、俺とお前だけだった。』


それはそうだけど…


『この家は、お前が今まで出会った子達との繋がりで構成させてるんだ。』

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