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とある魔法学園の問題児  作者: 冬空さんぽ
第一章:入学編
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第一話 宝石竜と冒険者ギルド

なろうで長期連載一本(長期休載中)

ノクターンで長期連載一本(もうすぐ完結)

を連載しているにも拘らず『もうエロは疲れた……』

と嘆いている作者が息抜きに書き始めた小説です。

六話までは毎日投稿予定(執筆済み)



 ガタガタガタガタ。


 荷馬車が揺れる音。

 そして護衛に雇った冒険者達のささやかな雑談の声のみが街道に響いている。


 荷台の上には碧色の宝石竜が丸ごと縛り付けてある。

 その巨体を牽く役目を負った馬達は、平地を歩いているにも関わらず荒い息を吐く。

 しかし、若干の疲労を顔に浮かべながらもその足取りは乱れない。

 着実に目的地に向けて歩を進めていく。


「センセー、ようやくアトリアが見えてきましたね」

「……そうですね、昼過ぎには着くでしょう。夕方までには精算も済ませたいですが」

「こんな立派な宝石竜ですからね、半日で査定が終わりやすかね?」

「終わらないでしょうね、まあそこは私とギルドで喧嘩しておくので。アランさん達は久々の酒を楽しんじゃってください」

「へへっ、そうさせていただきますよ」


 護衛に雇った三パーティーの代表、アランは楽しそうに笑った。

 アラン達冒険者ギルド・アトリア支部の冒険者は俺の事を「センセー」と呼ぶ。

 どうやら竜をひとりで倒せる俺に対して彼らなりに敬意を表してそう呼んでいるらしいが……

 ウマい仕事を斡旋する俺の事をヨイショしているようにしか思えない。


 まあどうでも良い話ではある。

 若干馬鹿にされている気はするけど。

 どっかの誰か達(・・・・・・・)と違って敵意を向けてこないだけマシだ。

 何だかんだで歓迎して貰えるだけ良い。

 俺にとって彼らはこの異邦の地で良くしてくれる、数少ない「仲間」と呼べる人達だ。


 竜の血は高難度の魔法薬を生成する際に重宝される。

 俺の作りたい魔法薬には今のところ絶対必要な素材だ……

 将来的には代替する素材を考案したい所だが。


 しかし、竜は人里離れた山の奥や魔境の奥深くにしか生息していない。

 しかも奴らは強いのだ。

 今回運んでいる宝石竜なんて、討伐依頼を出したら金貨が何千枚ぶっ飛ぶか知れたものではない。そしてこんな高価な獲物を無防備に運搬していれば、当然盗もうとする馬鹿な盗賊が羽虫の様に群れてくる。


 だから、そんな盗賊達から身を守る為にも護衛は必須だった。


 竜を討伐する程度の実力があれば賊も撃退出来るのでは?と思うかもしれないが数の暴力は厄介だ。ひとりでは戦闘をしている隙に竜を盗まれるかもしれない。そうでなくても荷馬車を牽いている馬を殺害されれば、帰りは悲惨な旅路になりかねない。


 それにひとりで竜を何度も討伐して手柄を独り占めすると、余計な嫉妬を買いかねない。だから高額な護衛依頼を他の冒険者に依頼して、彼らの資産を豊かにする事によって竜討伐という事業への風当たりを緩和したいという思惑もあった。




 のんびりアラン達と雑談しながら馬に合わせて道を往く。

 そしてようやく眼前に街門が迫る距離まで辿り着いた。


 港湾都市アトリアは王都から滅茶苦茶離れているにも関わらず、それなりに賑わった大都市である。

 老巨竜をはじめとした凶悪な竜が数多く住まう山脈を迂回して、大陸西部と唯一繋がるこの国の玄関口なので、ここが栄えなければ何処が栄えるんだよって言われてしまいそうな立地ではあるが。


 そんな大都市を囲う無駄に高い白色の外壁をぼんやり眺めながら、街に入る順番待ちをしている人々の最後尾に並んだ。門番と偶然こちらを振り向いた人々がぎょっとした顔でこちらを眺めていてなかなか面白い。


 竜の爪や牙を見た事がある人は多いだろうが、全身を見るとなると実際に戦う冒険者か襲われて死ぬ間際の犠牲者がほとんどだ。数人の商人がこちらを興味深気に眺めている。彼らのうちの何人かが、将来的にこの竜の素材をギルドから買い取る事になるかもしれない。


「す、すごい竜ですね……」

「碧色にすっごく輝いている、全身が宝石みたいだ……」


 門番の所へ辿り着くと彼らは入門手続きも忘れて宝石竜に見蕩れている。

 俺達がそれぞれ身分を証明する為のタグを渡そうとすると、彼らはようやく正気に戻ったのか手続きを開始する。その後は滞りなく処理してもらい、冒険者ギルドへ向けてゆっくりと進んだ。


 意図せずとはいえ周囲の視線がその碧色の巨体に集まり若干恥ずかしいが……往復二週間にも及ぶ長い旅路の末、ようやくと冒険者ギルド・アトリア支部へと帰還を果たした。




「はあ……確かに本物の宝石竜のようですね」


 冒険者ギルドの受付令嬢のひとり。

 エリーがジト目で竜を見定めながらつぶやく。


 周囲では解体を担当する作業員が「久々の大物だ!」「今夜は徹夜だ……とほほ」と騒ぎ立てながら竜を捌いていく。そんな作業を横目に俺はエリーと話を詰めていく。


 ちなみにアラン達は護衛代を貰うと同時に酒盛りをする為に酒場へ駆けて行った。

 長旅の疲れを感じさせない機敏な走りだった。


「血と心臓は私が使うので、それ以外の部位の買取査定をお願いします」

「要はいつも通りですね、血と心臓は研究室宛で良いですか?」

「あの研究室に送られると二度手間なので、数日だけ預かって貰えませんか?」

「……? 二度手間ですか?」


 エリーが訝しげに呟く。

 普段は錬金術師ギルド名義で借りている研究室に運び込んで貰っている。

 しかし、もうあの研究室は引き払うつもりなのだ。何故なら……


「ええ、明後日には学園に入学しますから。今後は学園で割り当てられた研究室を使う予定ですので」

「ああっ! なるほど。 そういえばそんな話をされていましたね!」


 エリーが手をパンッと打ち鳴らしながら納得する。

 そして「でも……」と若干困惑しながら今まで何度も繰り返したやり取りを再現する。


「トットさん、学園に行く意味あるんですか? もうひとりで竜を倒せるぐらい強いのに。あの学園で一体何を学ぶつもりなんですか? 学園に行くより冒険者ランク上げましょうよ! そろそろBランク昇格試験をですね……」

「何度も言いますが魔法使いは戦えればいいというものでは無いんですよ……学ぶべき事なんて腐るほどあります。あと交友関係を築くとか学園を卒業したという実績が欲しいというのもあります。魔法使いなら学園を卒業していないと侮られますからね」

「……そうですか、分かりました。でもいい加減試験受けてくださいよ~! 竜討伐者が未だにCランクだと外聞が~って毎週怒られるんですよ! そんなに不満なら自分で催促すればいいのに……あのジジイ」


 エリーの怒りが解体部屋に響き渡る。

 作業員も苦笑いしながら同情的な視線を彼女に向ける。


 ちなみに「あのジジイ」とは冒険者ギルド・アトリア支部副ギルドマスターのゴーシュ氏の事である。

 冒険者としての実力も運営手腕も評価されているが、他人の心情に対する配慮が少々欠けているのと説教が長過ぎてギルド職員からの評判が物凄く悪い。通称「禁呪詠唱のゴーシュ」。これは失われた古代の禁呪(強力過ぎて意図的に失伝させられた魔法群)の詠唱時間が極めて長く、時には日を跨ぐ事すらあった事に由来しており、つまり何が言いたいかというと「説教が長過ぎるクソジジイ」という事である。




 冒険者はA~Eの五つのランクに振り分けられる。

 厳密には『迷宮探索専任冒険者』『護衛専任冒険者』『素材採集専任冒険者』『特定災害種討伐選任冒険者』などのランク外も存在するけど。一般冒険者は所属年数と実績に応じてランクアップする。


 EからDへの昇格はほとんどの冒険者が至れる。

 もちろん基準を満たすに至る日数は人それぞれだが。


 D以降は才能の世界だ。

 一般的には生涯をかけてCまで昇格すれば「冒険者として成功した」と言えるらしい。

 ちなみに俺は十歳から冒険者ギルドに所属して十三歳である現在Cランクである。

 控えめに言っても異常と呼べる昇格速度と言えるだろう。


「学生しながらBランク冒険者なんて無理に決まってるじゃないですか。指名依頼とかされても困ります」


 冒険者ギルドがBランク以上になると、ギルド側から指名依頼が入る事がある。


 これは大抵それなりに偉い人からの依頼や冒険者ギルド内で緊急性の極めて高い依頼を回される為、断る事が難しい物が多いらしい。


 ……物凄く面倒そうだ。

 実際割りは良いがなかなか面倒なものだと高位冒険者の先輩が毎晩ボヤいている。


 冒険者としての栄達が目的な人ならまだしも「魔境や迷宮への立ち入り許可証代わり」として冒険者ギルドのギルドタグを求めた俺の意図からは大分外れてしまう。

 俺は真面目に冒険者なんてするつもりは無いのだ。

 魔法薬の素材を集める為だけに冒険者ギルドを利用している。


 「試験受けてください!なんでもしますから!」と縋りついて来るエリーをかわしつつ話を纏めた。

 竜の血と心臓はとりあえずしばらくは厚意(・・)で預かってくれる事になった。


 他の部位の査定は少し時間が掛かるらしいが、特にお金に困っている訳でも無い。

 数日毎に進捗を聞きに来れば良いと判断した。

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