表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レンド  作者: 粟田三輝
7/8

007 情報源





 回復できる、と入力した。これなら何かあれば対処できるはずだ。他は何も書いていない。画面は切り替わり「001376」という番号が表示された。

 霧が吹き出す。咳き込むうちに、手枷が元に戻った。どういった技術だろうか。それから入り口が開いた。慎重に外へ出る。また白衣の人がいた。これまた付いていくのか歩き出した。ここから行動は穏便に。

 これだけの人がいるというのは、それだけ膨大な情報がほしいからに違いない。仮に能力を使える人がいたとしても、一人じゃ手が付けられない。権力を悪用してでも研究したい人がいるだろう。そんな人がいるなら、結果をどこかで厳重に保管しているはず。つまり今ぼくがすべきなのは、それのある位置を知り、脱出すること。リスクはあるが、戻って来ることで再確認できるので、発見し次第逃げるべきだ。


 さあ、廊下に戻って来た。大きな扉はまだ開いている。白衣はどこか単調な動きで壁に触れ、扉が閉まり始めた。

 することは一つ。白衣を気絶させること。後ろから飛び蹴りを決める。想像以上に強くしてしまった。白衣はあっさり倒れた。動かない。

「……すまないな」

一言詫びを放っておいた。よし、急いで保管所へ向かおう。

 

 どれだけ走ったか分からない。いくら探し回ってもそれらしきものは見つからない。白衣はどこにもいなかった。手枷が邪魔になる。畜生、面倒臭い構造にしていやがって。迷路かよ。設計したの誰だよ。説教したいぐらいだ。


〈 水を引き寄せる能力を手に入れました

  声を出すと声量に応じて勢いがつきます 〉


 気持ちに作動したのか声がした。何故だ? 能力を得るのは、相手がいてぼくが敵と見なした時。誰か見ていて、殺すつもりか? これでは部屋が発見できたにしても、そうでなくとも危険だ。説教は敵対になるのか。

 とにかく脱出を優先しよう。ここまで出口も見つかっていない。なのでもしかすると、あの大きな部屋にあるかもしれない。走って行こう。


 そう考え、一つ目の角を曲がると少し遠くに黒い服の人がいた。あの人は知っている。ぼくを自動車に積む前に、目を睨んだ人だ。見つめてはいけない。黒く染まった男は喋り出した。

「おう、また会ったな。だからくたばれ」

圧倒的理不尽だ。手で顔を覆いながら返信。

「もう一回、国語のお勉強し直したらどうですか?」

「チッ」

舌打ちされた。反感を買ってしまったようだ。あの時よりも執念深く見ている。全身から力が湧いて見える。敵として対峙せねばならない。


〈 光る能力を手に入れました

  暗闇で右手の爪が光ります 〉


また得たぞ。条件満たしたのか。短期間で二つもゲットできたと考えると、さっきのは別人で、数人で行動しているのか、一人に対して複数得られるのか、どちらかだろう。

 相手は本気で挑むらしい。ちらっと相手の顔を見たら負けだ。けれども先に進むには相手を倒して行かないといけない。


 身動きできぬままだ。相手は威嚇をしている。テレパシーがなくとも見ずに恐怖を体感できるぐらいだ。

 暫時沈黙が流れていたが、先に動いたのは男だった。短刀を投げてきたのだ。足元に落っこちた。非常に危ない。こっち見ないと刺さるぞ作戦だな? でも簡単に罠に嵌まるような真似はしない。とはいえ回避する方法が分からない。どうしたものか。とにかく会話などしつつ模索しよう。

「あなたなんていう名前何ですか」

突如話し掛けられたことに驚いたのだろう、一瞬、間があった。

「そんな悠長なことしている場合か? 変わった奴だな。まあいい、俺はクレイだ」

彼を押し倒す他に進む道はない。その先は丁字路だ。

「何があってここにいるんだ?」

「所長に勧誘されたんだよ」

奴を見ずに突っ込むべきか。だが、短刀がある。

「昨日の夕食は何だ?」

「そんなの覚えてるかよ」

もしかするとはったりか? 恐れさせるだけか。

「そろそろだな」

何だ? 男は何を言っているんだ?


 新たな人物が向こうの角から現れた。黒い服を着た女性だ。不気味に笑っている。男が喋る。

「それじゃ交代だな」

「もちろん」

何が起こるのさ。男は瞬時に去った。

 その女性は両腕を重ねて伸ばした。手のひらをこちらに向けている。確か、アルサ君が考えるのに良いって言ってた奴だ。ちょっと違うか。手が光っている。嫌な予感。少し屈む。何か発射されそうだ。

「はあああっっ!」

丁度その時、手のひらから赤いレーザーが発射された。本能的に横に飛んだ。だが、右肩に食らってしまった。上半身無くなって終わりかな。

 しかし、痛みはない。右肩を触るとちゃんと肩はそこにあった。けれども変だ。感覚がない。

「もうあたしの能力分かったよね? まあ、手加減はしないけど」

右腕が動かない。まずい、麻痺している! これ以上ダメージを負っては相手の縦だ。避けないといけない。


 もう一度射撃される。

「はあああああっっ!」

どちらに避けるべきなのだろうか。分からない。何かしら行動しておこうか。いや、次こそ駄目か。最後の叫びを投げかける。

「うおおおぉぉぉりゃああぁぁ!」

どうにかなる気がした。その思いが届いたのか、相手はつんのめる。麻痺する光線は床目掛けて射出された。ぼくには届かない。

 相手が伏せた今なら逃げ出せる。念のために左手で短刀を拾い、床を蹴った。しかし、その女性を通り越そうとした所で、足を掴まれた。

「どんな能力か知らんが、逃げしてたまるか」

けれども容易に振りほどいた。脚力が強化され過ぎなのだ。女性は驚嘆する。

 相手も決死の覚悟だろう。女性は手をピストルの形にした。撃つのか? すぐさま、声は無く指先から細く青いレーザーが飛び出る。そんな攻撃方法があるのか? 短刀を振り回した。すると奇跡的だろうが、手元のナイフが光を受け止めた。そして、刃先が折れた。これを直に食らっていたなら、命がなかったかもしれない。


 女性から「クッソヤロウッ!」という可愛げのない罵声を浴びたが、気にせず逃げ行く。角に差し掛かり曲がると、例の黒い男がいた。

「油断大敵だよ」

そして目を大きく見開いてきた。これは良くない。既に目が合っている。だがまだ動ける。これを打破するために、手を前に突きだした。もちろん、刺されたくはないだろう。男はナイフに視線を変えた。ナイフは折れているので深い傷をつけることは難しい。その場に落とす。

 振り向き駆け出す。男は呆気に取られている。力の限り遠くへ。

 もう一つの廊下が見えた時、そこに誰かがいた。白衣が沢山と様々な子供達だ。違う、あの少年は知っている。自転車壊した張本人だ! どうしているのか知らないが、チャンスだ。能力が復活するかもしれない。

 全速力で突進する。少年はこちらを見た。両手を上げた。少年の声。

「おまえ助けてく、うわあ!」

頭を打ち砕く勢いで振り下ろす。直撃する直前で景色が歪んだ。少年の隣の少女に見覚えがあった。


 歪む寸前で足に何か当たった。多分、折れたナイフだ。

 数秒間、謎の時空間を高速で飛んでいた。木々の間を縫うように通り抜けた。体感的には何十分もジェットコースターに乗らされた感覚だった。移動が終わると、勢いの余り転んでしまった。足から血が垂れている。右手の爪が仄かに輝く。もう手枷はない。

 外は夜だ。雨が降っている。よく知らない場所だ。体が冷えていく。傷口に雨粒が染み、疼痛が走る。

 痛い。

「ぅうああああぁぁぁぁ!!」

 痛い。

ぼくは何か悪行を働いたか? 罰が下ったのか? 人を救えなかった。レストランでも、奇妙な研究所でも。

 暫く叫び続けた。酷く呼吸がしづらい。ああそうか、ぼくの能力だ。水が集まっているんだ。窒息してしまう。……いや、いいかそれでも。ぼくは救えなかったから。

 小さな水溜まりに溺れ始めた。静かに大自然に還ってしまえばいいんだ。ゆっくり、ゆっくりと。

 そこへ誰かが歩み寄ってくる。ほっといてくれ。センチメンタルな気分なんだ。その人物はそんなこといざ知らず、無用心に近づいてくる。そして手を伸ばす。

 段々安らかな気持ちになり、ついには眠りに落ちた。


 穏やかな朝が来た。暖かいお日様がぼくらを起こす。

 あれ? いつの間に自宅に帰ったのだろう。それに衣服が濡れっぱなしだ。

 荷物もない。はっきり思い出せないが、あの研究所の時も既に持っていなかった気がする。どこで失ったか。

 とにもかくにも、まずは着替えよう。風呂にも入り、それから学園に向かおうか。

 そういえば、研究所では怪我が治っていたな。手枷の怪奇現象のことも含めると、相当なテクノロジーがあるんだろうな。


 ゆったりと学園へ登校中である。何せ、怪我をしているからな。ある程度包帯を巻いたので、周囲から見ても違和感はないはず。軽く外食した。残念だが、旨かった。お金は家の貯金を使った。

 昼下がりに学園に辿り着いた。入った途端に三人がこちらに振り向いた。アルサ君とアマネと、もう一人は知らん。

 最初に歩み寄ってきたのはアマネだった。

「レイ! 大丈夫だった? 怪我はない? 何処行ってたの?」

おいおい、質問攻めかよ。クエスチョンの大人買いかよ。

「足を怪我しているけど大丈夫。場所は分からないや」

「もう、心配したんだよ……」

涙ぐんでいる。そうか、誘拐だもの。

「二日ぶりですね」

アルサ君も案じて、え? 二日? そうか、一日もあそこにいたのか。

「それよりもあの方は誰?」

「え、ああ、調べてたよ」

アマネがおどおどと答えた。そして、調査書を差し出す。

 枚数が増えていた。ぼくの失踪していた間の能力クラブの全てだろう。パラパラとめくると八つも増えていた。

 

 一人目は、人体発火する能力。最大で30分も続くそうだ。能力者本人には火傷はできない。ただし、発火中は歩きにくい。かなり疲れる。

 二人目、美味しくする能力。お腹が減っている時だけ、食べようとした物が美味しくなる。自分が空腹なら、他人であれ効果する。持ってきたのは卵サンドイッチ。

 最後の情報はいらないよな。


 三人目は、姿を消す能力。詳細は、とそこでアマネの一声。

「レイ、リリーさんの能力見た?」

リリーというのはその方の名前ですかね。用紙は一番上の紙か。

 症状を軽くする能力。病気や怪我を和らげる。触れた所が少しだけ治る。

 これだけが書かれていた。少しは役立ちそうだ。

「それで、どうしたの」

「入部したいとさ」

アルサ君の返答。なるほどな、部長の許可を得ろと。

「ちなみに僕は入部できました」

ピシッと敬礼をする。良かったな。

「まあ、いいんじゃないか」

リリーさんは喜んでいる。そんなに嬉しいのか。

「ええと、ありがとうございます! これから頑張ります!」

快活でいいな、活気付く。

「ところで、レイは最近授業に出席してる?」

「いや。興味ないから」

最後に受けたのは何ヵ月前だろう。それぐらいほったらかしだ。

「なら、四人で経済学を学びに行きましょ」


 そういうことで、強制的に連れられた。結構受講者が多い。みんな企業するのかな? アマネがここに来たのは何故だろう。

「それで、何するんだ?」

「ちょっと話し合いしてて、私は今から講習だから」

呼んでおいて放るのか。別にいいけども。

 アルサ君が初手だった。

「部長、能力増えましたよね。今まで何があったか教えて」

やっぱり情報収集に関しては無敵なんだな。

「まず誘拐されて、監禁。一日ほど経っていた。能力の研究所と分かって、戦って、逃げた。いつの間にか家にいた」

「それだけ?」

「一応二人と対決して逃げて来たけど、それ以外は特にない」

何もないはず。倒して、少年に合って、溺れて。あ、見覚えある人がいたな。

「そういえば、その研究所で知っている少女がいた」

「それはこれじゃ?」

アルサ君は資料を取って、あるページを開いた。そこにはチルロさんが載っていた。危険な能力とある。

「そう。その人だ」

アルサ君は不穏な表情になる。

「そうなら、早々に助けなきゃ!」


 アルサ君が立ち上がった時、後ろで破壊音が聞こえた。見ると壁が崩れ、人が立っていた。

「やあ、お久し振り。容赦はしないよ」

そこには、あの笑った黒い女性がいた。ぼくを狙って来たのか?

 アルサ君が声を張り上げた。かなり動揺している。

「皆さん、奴は危険です! 逃げて!」

そして一斉に扉へ向かった。混雑している。

 しかし、それを阻止するように緑色の光が放たれた。奴が手を大きく振ったのである。そんな色もあるのか。光は出入り口である扉に当たり、崩壊した。これからは犠牲者を出させはしない。


 止めようと動いたが、アマネが先だった。

「学習の邪魔をおぉ、するなああ!」

筆箱からビー玉ぐらいの鉄球を取り、一直線に飛ばして奴に当てた。そして倒した。当たる直前で電光が見えた。一瞬で決着が付いてしまった。強い。

 そんなことより、アルサ君の言動が気になった。動揺して、危険だと言った。そうだ、つまりは、

「アルサ君。君の本当の能力は何なんだ?」





あまりルビやふりがなは

つけたくないのでここで紹介

意味は調べてください

ほしいまま→縦


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ