007 情報源
回復できる、と入力した。これなら何かあれば対処できるはずだ。他は何も書いていない。画面は切り替わり「001376」という番号が表示された。
霧が吹き出す。咳き込むうちに、手枷が元に戻った。どういった技術だろうか。それから入り口が開いた。慎重に外へ出る。また白衣の人がいた。これまた付いていくのか歩き出した。ここから行動は穏便に。
これだけの人がいるというのは、それだけ膨大な情報がほしいからに違いない。仮に能力を使える人がいたとしても、一人じゃ手が付けられない。権力を悪用してでも研究したい人がいるだろう。そんな人がいるなら、結果をどこかで厳重に保管しているはず。つまり今ぼくがすべきなのは、それのある位置を知り、脱出すること。リスクはあるが、戻って来ることで再確認できるので、発見し次第逃げるべきだ。
さあ、廊下に戻って来た。大きな扉はまだ開いている。白衣はどこか単調な動きで壁に触れ、扉が閉まり始めた。
することは一つ。白衣を気絶させること。後ろから飛び蹴りを決める。想像以上に強くしてしまった。白衣はあっさり倒れた。動かない。
「……すまないな」
一言詫びを放っておいた。よし、急いで保管所へ向かおう。
どれだけ走ったか分からない。いくら探し回ってもそれらしきものは見つからない。白衣はどこにもいなかった。手枷が邪魔になる。畜生、面倒臭い構造にしていやがって。迷路かよ。設計したの誰だよ。説教したいぐらいだ。
〈 水を引き寄せる能力を手に入れました
声を出すと声量に応じて勢いがつきます 〉
気持ちに作動したのか声がした。何故だ? 能力を得るのは、相手がいてぼくが敵と見なした時。誰か見ていて、殺すつもりか? これでは部屋が発見できたにしても、そうでなくとも危険だ。説教は敵対になるのか。
とにかく脱出を優先しよう。ここまで出口も見つかっていない。なのでもしかすると、あの大きな部屋にあるかもしれない。走って行こう。
そう考え、一つ目の角を曲がると少し遠くに黒い服の人がいた。あの人は知っている。ぼくを自動車に積む前に、目を睨んだ人だ。見つめてはいけない。黒く染まった男は喋り出した。
「おう、また会ったな。だからくたばれ」
圧倒的理不尽だ。手で顔を覆いながら返信。
「もう一回、国語のお勉強し直したらどうですか?」
「チッ」
舌打ちされた。反感を買ってしまったようだ。あの時よりも執念深く見ている。全身から力が湧いて見える。敵として対峙せねばならない。
〈 光る能力を手に入れました
暗闇で右手の爪が光ります 〉
また得たぞ。条件満たしたのか。短期間で二つもゲットできたと考えると、さっきのは別人で、数人で行動しているのか、一人に対して複数得られるのか、どちらかだろう。
相手は本気で挑むらしい。ちらっと相手の顔を見たら負けだ。けれども先に進むには相手を倒して行かないといけない。
身動きできぬままだ。相手は威嚇をしている。テレパシーがなくとも見ずに恐怖を体感できるぐらいだ。
暫時沈黙が流れていたが、先に動いたのは男だった。短刀を投げてきたのだ。足元に落っこちた。非常に危ない。こっち見ないと刺さるぞ作戦だな? でも簡単に罠に嵌まるような真似はしない。とはいえ回避する方法が分からない。どうしたものか。とにかく会話などしつつ模索しよう。
「あなたなんていう名前何ですか」
突如話し掛けられたことに驚いたのだろう、一瞬、間があった。
「そんな悠長なことしている場合か? 変わった奴だな。まあいい、俺はクレイだ」
彼を押し倒す他に進む道はない。その先は丁字路だ。
「何があってここにいるんだ?」
「所長に勧誘されたんだよ」
奴を見ずに突っ込むべきか。だが、短刀がある。
「昨日の夕食は何だ?」
「そんなの覚えてるかよ」
もしかするとはったりか? 恐れさせるだけか。
「そろそろだな」
何だ? 男は何を言っているんだ?
新たな人物が向こうの角から現れた。黒い服を着た女性だ。不気味に笑っている。男が喋る。
「それじゃ交代だな」
「もちろん」
何が起こるのさ。男は瞬時に去った。
その女性は両腕を重ねて伸ばした。手のひらをこちらに向けている。確か、アルサ君が考えるのに良いって言ってた奴だ。ちょっと違うか。手が光っている。嫌な予感。少し屈む。何か発射されそうだ。
「はあああっっ!」
丁度その時、手のひらから赤いレーザーが発射された。本能的に横に飛んだ。だが、右肩に食らってしまった。上半身無くなって終わりかな。
しかし、痛みはない。右肩を触るとちゃんと肩はそこにあった。けれども変だ。感覚がない。
「もうあたしの能力分かったよね? まあ、手加減はしないけど」
右腕が動かない。まずい、麻痺している! これ以上ダメージを負っては相手の縦だ。避けないといけない。
もう一度射撃される。
「はあああああっっ!」
どちらに避けるべきなのだろうか。分からない。何かしら行動しておこうか。いや、次こそ駄目か。最後の叫びを投げかける。
「うおおおぉぉぉりゃああぁぁ!」
どうにかなる気がした。その思いが届いたのか、相手はつんのめる。麻痺する光線は床目掛けて射出された。ぼくには届かない。
相手が伏せた今なら逃げ出せる。念のために左手で短刀を拾い、床を蹴った。しかし、その女性を通り越そうとした所で、足を掴まれた。
「どんな能力か知らんが、逃げしてたまるか」
けれども容易に振りほどいた。脚力が強化され過ぎなのだ。女性は驚嘆する。
相手も決死の覚悟だろう。女性は手をピストルの形にした。撃つのか? すぐさま、声は無く指先から細く青いレーザーが飛び出る。そんな攻撃方法があるのか? 短刀を振り回した。すると奇跡的だろうが、手元のナイフが光を受け止めた。そして、刃先が折れた。これを直に食らっていたなら、命がなかったかもしれない。
女性から「クッソヤロウッ!」という可愛げのない罵声を浴びたが、気にせず逃げ行く。角に差し掛かり曲がると、例の黒い男がいた。
「油断大敵だよ」
そして目を大きく見開いてきた。これは良くない。既に目が合っている。だがまだ動ける。これを打破するために、手を前に突きだした。もちろん、刺されたくはないだろう。男はナイフに視線を変えた。ナイフは折れているので深い傷をつけることは難しい。その場に落とす。
振り向き駆け出す。男は呆気に取られている。力の限り遠くへ。
もう一つの廊下が見えた時、そこに誰かがいた。白衣が沢山と様々な子供達だ。違う、あの少年は知っている。自転車壊した張本人だ! どうしているのか知らないが、チャンスだ。能力が復活するかもしれない。
全速力で突進する。少年はこちらを見た。両手を上げた。少年の声。
「おまえ助けてく、うわあ!」
頭を打ち砕く勢いで振り下ろす。直撃する直前で景色が歪んだ。少年の隣の少女に見覚えがあった。
歪む寸前で足に何か当たった。多分、折れたナイフだ。
数秒間、謎の時空間を高速で飛んでいた。木々の間を縫うように通り抜けた。体感的には何十分もジェットコースターに乗らされた感覚だった。移動が終わると、勢いの余り転んでしまった。足から血が垂れている。右手の爪が仄かに輝く。もう手枷はない。
外は夜だ。雨が降っている。よく知らない場所だ。体が冷えていく。傷口に雨粒が染み、疼痛が走る。
痛い。
「ぅうああああぁぁぁぁ!!」
痛い。
ぼくは何か悪行を働いたか? 罰が下ったのか? 人を救えなかった。レストランでも、奇妙な研究所でも。
暫く叫び続けた。酷く呼吸がしづらい。ああそうか、ぼくの能力だ。水が集まっているんだ。窒息してしまう。……いや、いいかそれでも。ぼくは救えなかったから。
小さな水溜まりに溺れ始めた。静かに大自然に還ってしまえばいいんだ。ゆっくり、ゆっくりと。
そこへ誰かが歩み寄ってくる。ほっといてくれ。センチメンタルな気分なんだ。その人物はそんなこといざ知らず、無用心に近づいてくる。そして手を伸ばす。
段々安らかな気持ちになり、ついには眠りに落ちた。
穏やかな朝が来た。暖かいお日様がぼくらを起こす。
あれ? いつの間に自宅に帰ったのだろう。それに衣服が濡れっぱなしだ。
荷物もない。はっきり思い出せないが、あの研究所の時も既に持っていなかった気がする。どこで失ったか。
とにもかくにも、まずは着替えよう。風呂にも入り、それから学園に向かおうか。
そういえば、研究所では怪我が治っていたな。手枷の怪奇現象のことも含めると、相当なテクノロジーがあるんだろうな。
ゆったりと学園へ登校中である。何せ、怪我をしているからな。ある程度包帯を巻いたので、周囲から見ても違和感はないはず。軽く外食した。残念だが、旨かった。お金は家の貯金を使った。
昼下がりに学園に辿り着いた。入った途端に三人がこちらに振り向いた。アルサ君とアマネと、もう一人は知らん。
最初に歩み寄ってきたのはアマネだった。
「レイ! 大丈夫だった? 怪我はない? 何処行ってたの?」
おいおい、質問攻めかよ。クエスチョンの大人買いかよ。
「足を怪我しているけど大丈夫。場所は分からないや」
「もう、心配したんだよ……」
涙ぐんでいる。そうか、誘拐だもの。
「二日ぶりですね」
アルサ君も案じて、え? 二日? そうか、一日もあそこにいたのか。
「それよりもあの方は誰?」
「え、ああ、調べてたよ」
アマネがおどおどと答えた。そして、調査書を差し出す。
枚数が増えていた。ぼくの失踪していた間の能力クラブの全てだろう。パラパラとめくると八つも増えていた。
一人目は、人体発火する能力。最大で30分も続くそうだ。能力者本人には火傷はできない。ただし、発火中は歩きにくい。かなり疲れる。
二人目、美味しくする能力。お腹が減っている時だけ、食べようとした物が美味しくなる。自分が空腹なら、他人であれ効果する。持ってきたのは卵サンドイッチ。
最後の情報はいらないよな。
三人目は、姿を消す能力。詳細は、とそこでアマネの一声。
「レイ、リリーさんの能力見た?」
リリーというのはその方の名前ですかね。用紙は一番上の紙か。
症状を軽くする能力。病気や怪我を和らげる。触れた所が少しだけ治る。
これだけが書かれていた。少しは役立ちそうだ。
「それで、どうしたの」
「入部したいとさ」
アルサ君の返答。なるほどな、部長の許可を得ろと。
「ちなみに僕は入部できました」
ピシッと敬礼をする。良かったな。
「まあ、いいんじゃないか」
リリーさんは喜んでいる。そんなに嬉しいのか。
「ええと、ありがとうございます! これから頑張ります!」
快活でいいな、活気付く。
「ところで、レイは最近授業に出席してる?」
「いや。興味ないから」
最後に受けたのは何ヵ月前だろう。それぐらいほったらかしだ。
「なら、四人で経済学を学びに行きましょ」
そういうことで、強制的に連れられた。結構受講者が多い。みんな企業するのかな? アマネがここに来たのは何故だろう。
「それで、何するんだ?」
「ちょっと話し合いしてて、私は今から講習だから」
呼んでおいて放るのか。別にいいけども。
アルサ君が初手だった。
「部長、能力増えましたよね。今まで何があったか教えて」
やっぱり情報収集に関しては無敵なんだな。
「まず誘拐されて、監禁。一日ほど経っていた。能力の研究所と分かって、戦って、逃げた。いつの間にか家にいた」
「それだけ?」
「一応二人と対決して逃げて来たけど、それ以外は特にない」
何もないはず。倒して、少年に合って、溺れて。あ、見覚えある人がいたな。
「そういえば、その研究所で知っている少女がいた」
「それはこれじゃ?」
アルサ君は資料を取って、あるページを開いた。そこにはチルロさんが載っていた。危険な能力とある。
「そう。その人だ」
アルサ君は不穏な表情になる。
「そうなら、早々に助けなきゃ!」
アルサ君が立ち上がった時、後ろで破壊音が聞こえた。見ると壁が崩れ、人が立っていた。
「やあ、お久し振り。容赦はしないよ」
そこには、あの笑った黒い女性がいた。ぼくを狙って来たのか?
アルサ君が声を張り上げた。かなり動揺している。
「皆さん、奴は危険です! 逃げて!」
そして一斉に扉へ向かった。混雑している。
しかし、それを阻止するように緑色の光が放たれた。奴が手を大きく振ったのである。そんな色もあるのか。光は出入り口である扉に当たり、崩壊した。これからは犠牲者を出させはしない。
止めようと動いたが、アマネが先だった。
「学習の邪魔をおぉ、するなああ!」
筆箱からビー玉ぐらいの鉄球を取り、一直線に飛ばして奴に当てた。そして倒した。当たる直前で電光が見えた。一瞬で決着が付いてしまった。強い。
そんなことより、アルサ君の言動が気になった。動揺して、危険だと言った。そうだ、つまりは、
「アルサ君。君の本当の能力は何なんだ?」
あまりルビやふりがなは
つけたくないのでここで紹介
意味は調べてください
ほしいまま→縦