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レンド  作者: 粟田三輝
1/8

001 能力クラブ





 そのとき頭に何かがぶつかった。避けようとしたが見えないことにはどうしようもない。ただ、後頭部ではなく前から飛んできたんだ。あまり痛くはない。

 投げた本人はすぐ先にいる。彼が投げた物も何か分かっている。ボールだ。ゴム質の柔らかなボールだ。けれど投げた瞬間に目視できなくなった。それから彼は切り出した。

「これが、その、俺の能力ですね」

そこでやっと、当てられた被害者であるレイは理解した。

「なんというか、物を消す、というより、物を透明にすることができるんですよ」

 なるほど、面白い。空気をぶつけるようなもんだろう、と考えた。

「じゃあ、もう一度お願いできますか」

はい、といい再び投げてきた。


 勘違いしてもらいたくはないのでいうが、決してマゾヒストじゃない。能力に興味があるだけだ。それに今回はちゃんと避けた。彼の投げる一瞬に手首を見て、回転のかかった向きはどうか、力の加減はどんなか、飛んで行く方向はどちらか。そういったことをなんとなく分析して、体を動かした。まあ、簡単にいうとキャッチボールをする時の感覚だ。


 彼は定期検診を受けるような、微妙な顔をしている。みんながそうとは限らないので、はっきりとはいえないが。なんだろうか。そんなに避けられたことに疑問を抱いたのか? ボールに当たってほしかったのか?

 それよりもボールの方に目を向けた。始めはもちろん透明だったのでよく分からなかったが、次第に姿を現した。つまり、手から離れてしばらくすると、能力の効果はなくなってしまうのか。


 部屋に溜まった沈黙を破って問いかけられる。

「どうなんですか? 何か分かったんですか?」

好奇心の大きくなったぼくは提案をしてみた。

「そうですね。ここはひとつ勝負といきましょう。あなたはそこの箱にあるたくさんの球を、その能力を使って投げてください。僕はすべて避けます。先に球が無くなればぼくの勝ち。無くなる前にひとつでも当てられたらあなたの勝ち。どうでしょう?」

「いいですね。その勝負、受けて立ちましょう」


 勿論負けるつもりはないですから、と宣言しようとしたが先にボールが飛んできた。

 あぶねえ、当たると思った。寸前で避けることができた。彼は躊躇わず、どんどん投げつけてくる。

 持ち前の反射神経でなんとかかわしていく。あまり良いとはいえない。彼はむきになってひたすら投げる。なんかもう必死で、たまに透明にならず飛んでくる。むしろそれが恐ろしくもある。

 2分経った頃には疲れ始めた。なにせこんなに動いたのは久しぶりだ。子供のとき以来かもしれない。彼もなかなか当てられないことで飽きを感じているのか、少し顔に疲れが出ている。

 何の賞もない攻防戦は終わりかけていた。もういいだろう。そう思ったのは束の間、彼は最終兵器を出してきた。


 緊張の混じった声で話される。

「それでは、最後の賭けに出ますよ」

しまった。ボールの中にそれが入っていることを忘れていた。一応私物なのだが、もはやゴムのボールだけだと思い込んでいた。その最終兵器とは、スーパーボールである。

 今戦っている場所は広い部屋だが、広いといえどもスーパーボールなら跳ね返ってくる距離だ。二度攻められるわけだ。

 すでにボールは手に持っていた。さあ、早く投げるんだ。とっとと終わらせてしまおう。ついに飛んできた。速い。先ほどに比べ明らかに速い。理由は色々あるのだろう。だがこの際どうでもいい。上手く避けるのみ。

 予想通り跳ね返ってくる。それも華麗にかわす。また投げた。かわす。意外に避けれるものだ。

 彼は何を思ったのか片手を箱に突っ込み、大量のスーパーボールを取り出した。嘘だろ最後の賭けとか豪語していたじゃないか。彼は持っていたすべてのボールを一気に手から放す。これはまずいな。なんとかボールのあまり飛んでいない方へいかねば。すれすれのところを掠めていく。よし、当たることなく隅へと移動できた。


 やっと終わったか。と思ったが、ボールらがばらばらに壁にぶつかる。その中にひとつ直接こちらへ飛んでくるものがあった。まだ隠していたか。いや、それってぼくのですから隠してはいませんね。

 気を緩めたところで本当の最後のボールを繰り出す戦法か。いいじゃないか、素晴らしいアイデアだ。だが、こちらにも秘策があるんだ。

 手をそのボールに向かって突き出す。そして、キャッチ。見えなかったが奇跡的に掴めた。相手は呆然としている。

「え、それはありなの?」

はっきりとキメ顔をして言い下す。変な顔になっていないだろうか。

「始めに伝えましたよ、当たらなければいいと」

彼は不満ながら納得したようだ。こうしてぼくらの戦いは幕を閉じた。部屋中にボールが転がっている。扉を開けながら喋る。

「歩きながら話しましょう」


 その頃に丁度鐘の音がした。誰かが鳴らしているのだろう。ぼくは対戦相手と部屋を出た。会話しながら廊下を歩く。

「あれって結局どっちの勝ちですかね」

「俺に聞かれても知りませんよ。引き分けでいいんじゃないですか」

「そうですね。どちらにしろ楽しかったですね。そうだ、その能力で手品とかをしてみてはいかが?」

「いやいや、俺はそういうの苦手でして」

「そうかあ。出来れば儲かるんじゃないですか」

正に手品にぴったり、と思ったがそうでもないらしい。


 聞いていないことがあるんだった。

「そういえば、あなたの名前と学年を聞いて無かったですね。お聞きしましょう」

「ええと、シータといいます。学年は3ですよ」

「え、3ならこんなとこにいないはずですけど? それはどういうことで?」

(ここで説明しよう。ぼく、レイの通っている学園がここ。オレフニアム学園という有名なところで、幼稚園から大学までの内容をすべて学ぶことが出来るのだ。そして、ここでの学年が3というのは小学生にあたり、昼前の時間、つまり今は授業で行動できないはずである。それに見た目が小学生ではない。ちなみに今は学園内にいて、その中心部に向かっている。以上)

「実は少し離れた高校に通っていて、今日は休みで暇でしたので来たというわけです」

なるほど、さっきのはシータ君には暇潰しだったのか。残念だ。


 すぐに同じような質問をされた。

「あの、名前と学年、それと年齢も教えてください」

「レイです。16歳で第13学年です」

「えっ13? それに年下? えっ、え?」

まじか。シータ君は年上ですか。あまり興味はないけどもっと下だと思ってたよ。

「ああ、この学園は面倒くさがりで下から順に番号なんですよ。それに進級が単位制だから早く進む人もいますね。僕もそうで、3つ分早いかな」

シータ君は驚きの顔だ。口が空きっぱなしだ。見下されていたのか? 見た目に反してひどいじゃないか。いや、勝手な当てつけはやめておこう。


 そんなときにある人が現れた。同学年の女友達である。ちょうど授業が終わったのだろう。

「おはよ、レイ。あれ? 隣のお方は?」

「おはよう。シータっていうどっかの高校生だよ」

「え、あの、どっかって言い方じゃなくてもいいんじゃない」

言い過ぎたかな? まあ、いいや。

「あ、それよりも大事な話があるんだった。ちょいとこっちについてきて」

そう言われたが腕を無理矢理引っ張られた。なので、シータ君には合図をして先に行ってもらうことにした。待ってくれるといいのだけれど。


 少し戻ったところの空いた教室に入った。さっきから資料を持っている。

「はい、資料ね」

知ってる。何枚か重なっていて、色々書かれている。

「能力クラブについて? どういうことだ?」

「簡潔に申しますと、クラブを設立しようということね。教授の命令で」

命令なのか。興味がばさっと削がれたじゃないか。

「ええと、教授のことだからぼくに何か望んでるよね?」

「その通り! よくわかったね」

当たり前だ。何回こうしてきたと思っている。

「まあその、部長をしてほしいなということで」

でしょうね。そんなとこだと思った。

「それと、もちろん活動内容は能力に関することなんだけど、さっき一緒にいた高校生をさ、最初の実験、いや調査対象に出来ないかなと思う。仲良いだろうし」

惨いこと言いますね。仲良く見えたかな。

「大丈夫だと思う、聞いてみるよ。仲良いつもりじゃないけど」

「仲良くないの?」

とりあえず頷く。相変わらず面倒臭い奴だ。


 ということで聞いてみると「あ、いいよ」的なノリで承諾。けれども左腕の時計を見て、用事があるって言って帰っていった。さっきまで暇だったじゃん⁉ と思いつつも、明日再び来ると言うので、平静を保ったままでいた。

 その後教室に戻ると、どうだったと聞かんばかりの表情で待っていた。

「明日また来るってさ」

そういうとさっと資料に向き直って、一人何かを納得した。

「そういえばさ、あのシータって人とどう知り合ったの?」

「そうだね、いつもの教室でいつも通り能力の本や論文を読んで、いつも通り退屈していたんだ。そこに、ひょこっと顔を出して、暇ですか?って聞いてきた。まあ何かしらあるんだろうと思い暇と言って、ボール遊びをしていた。それから歩いていたところにあなたが来たのです」

「そうなの。大体分かった」

分かってくれて良かった。でも本当に分かったのか?

「それでさ、長を努めるの?」

忘れかけてた。でも悩むことはない。

「悪くないし、やってみるよ」

「そう? こっちに役を回さないでくれてありがと」

そうか、その手があった。何で言わなかったんだ。紙に何か書いてるしもう変更出来ないな。嬉しそうだなおい。


 あ、いつものあの顔だ。長い長いお話が始まるのかな。

「よし、本題に入ろう。資料に書いてないことも含めて話すね」

ここで資料が役立つのか。まだあまり目を通していない。

「まずは活動内容についてね。大雑把にまとめますと能力の研究。能力の素性を調べていくことね。例えば、どんなのがあるのか、どういったことができるか、能力同士をぶつけたらどうなるか、とかね」

なんか思っていたのと違う。考えを話して見る。

「でも既に研究は進んでいるんだろ?」

「ほんの少しだけだよ。研究の余地はまだまだ残ってるんだし、そういうことするのって楽しそうでしょ?」

ああ、何言っても駄目なやつだな。


「具体的には、教授の研究室を使って試すんだけどね、能力によって出来ることが大きく違うから、まだ検討つかないんだよね」

とはいいながら、やる気がすごくあるな。やはりあんたが部長をすべきだ。そんなことは実際言わないが。

「それにレイもあの事件を知ってるでしょ。今有利な状況だって分かってる? それも教授の狙いだから」

「そんなのわかってるよ。でも、研究は違うかなと思うのですよ」

そうなんだ。アクション映画は見るから楽しいし、未知の発見だって知らされるからわくわくする。自分でやるのとは違う。

「じゃあ、レイはクラブに入らないの?」

それも違う。なんだろう、興味はあるのにやりたくないみたいな。難しい、あまり考えないようにしよう。

「あとさ、自分の能力が何か分かってる? とっても重要だよ」

「そうだね。まだ分かんない」

実は恐ろしくて使ってない、なんて言えないだろう。


 言い返してやろう。

「じゃあ、あなたは分かってるんですか?」

「そりゃ当然! 手出して」

と握手を交わそうとてを出してきた。まさか怪力か? 握り潰すのか? いやまさか。彼女ならそんなことしない。ならばなんだ。実は変身してて偽物でしたとか? それなら手は出さないか。

 考えたところで意味のないような気がするので、手を出した。けれどもすぐ引っ込めた。意思ではなく本能で。あ、笑ってるじゃないか。

「あはは。びりりときたでしょ。それが私の能力ね。あはは」

何てことすんだよ、びっくりした。そんな笑うことかな。

「まあ、こんな具合で調査するつもりだから」

「まさか! ぼくを利用するのか?」

「その通り」

全部押し付けられるな、まいったな。

「でもぼくはトップだから、傷つく立場は良くないよね」

「どっちにしろ任せてましたから」

そうきたか。もうどうしようもないな。


 しばらく机にうなだれていた。自分を催眠にかけてなんとかしようと試みた。無理だった。

「ちなみに、シータの能力ってなんなの?」

「透明化」

あまり興味なさそうな顔になった。

「今日は解散にしようか。授業あるし」

そう言ってぱっとどこかに行ってしまった。ぼくは今日は授業ないし、この後も暇だな。そこへ一人の人物が来た。帰ってきたのか。

 起きて顔を見てみると違った。誰だろう。

「あの、能力クラブについて話したいです!」

いや、誰だよ。





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