第八話
そんなやり取りを終えて三十分程した所で綵の実家の近所に到着する。
コインパーキングに車を停めて歩き始める。
移動の合間で棗が綵と連絡を取り合っていると前方から綵が歩いてくるのが見えた。
「お疲れ様、大分振り回されたみたいね」
そんな苦笑交じりの言葉にこちらも苦笑が漏れる。
「綵の恋人を危険に晒した、ごめん」
狼型のモンスター相手だと分かっていたのだ。
前もって連想していてもおかしくは無かった。
シーカーを辞めた綵や、付き合ってくれているだけの棗がそこまで予測を立てられる筈が無い。
結局、迷宮関連での行動の責任は僕に在るのだ。
むしろ僕自身の我が儘に棗を巻き込んだと言える。
棗が怪我をしなかったのが幸運だった、としか言い様が無い。
脳内でそれ等の事が渦巻いて、心底からの謝罪をする。
「それは奉だけの責任じゃないよ、棗自身が選んで奉と同行したんだし……」
そう言って綵は僕の言葉を受け流す。
勿論顔を見れば自身も思い至らなかったと後悔しているのが分かる。
結局三人が三人共、危機管理能力が足りていなかった事を痛感している。
「まあ、こんな所で立ち話をしていてもしょうがないから、家に行こう」
そう言うと棗の手を取ってさっさと歩き始める。
住宅地の一角に在る綵の家は煉瓦タイル貼りのお洒落な一軒家だった。
外観から見ると暖炉が有りそうな感じだ。
「まあ、入ってよ」
そう言う綵の言葉に促されて玄関に入る。
僕達はリビングに案内される。
ソファーを促されて棗と並んで腰掛ける。
綵の母親と挨拶をすると、「準備してくる」そう言って綵の母親はリビングからパタパタと出て行った。
恐らくメジャー等を取りに行ったのだろう。
「奉、お母さんと相談してこんなデザインに成ったけど良いよね?」
そう言うとスケッチブックを取り出して、デザイン画を僕に見せる。
と言うか見せる前に「良いよね」と言われても困るのだが、まあ綵がそう言うある種、天真爛漫な人物だと良く知っているのでスルーする。
提示されたデザイン画を見るとレザーのツナギなのだけれど、胸元と太腿部分のデザインに違和感が有る。
「ああ、ここ? 胸元と腹部は革が二重に成る様に着物のテイストを入れてみたの」
二重と言う事は内臓をガードする為のデザインと言う事だ。
耐久性は迷宮で活動をしていれば徐々に向上していく事を考えれば、安全面で考えても良いデザインだと思った。
太腿部分も剣術ベースで戦う僕の場合は余裕が有るのは有り難い。
「良いんじゃないか? 前にデザインした甲冑と合わせても変じゃないだろ」
横から覗きこんでいた棗が賛成を唱える。
僕としても変な服では無いと感じたので異論は無い。
「OK、後はお母さんに採寸して貰ってからパターン起こしね」
そうこうしていると綵の母親が戻ってきてテキパキと採寸が始まった。
手首周りから腕の長さ、肩幅から首回り、胸囲から丈、脚の長さまでかなり細かい。
その時にツナギを作る事と必要なdsを言えば見繕ってくれると言う。
dsは革のサイズ単位で十㎝×十㎝の事。
綵の母親とのやり取りで在る程度の段取りが決まる。
懸念材料に成る部分を包み隠さず言葉にすると一長一短がハッキリ出てくる。
「なあ奉、耐久性は甲冑のパーツを頼るとしてツナギは動き易さを重視しても良いんじゃないか?」
「甲冑のデザインなら変更したわよ? 手足のパーツは外側だけじゃなく内側にもパーツを付けて、噛まれても牙が通らないデザインにしたわ」
棗の意見に綵が被せる様に報告が上がる。
日本の甲冑は基本的に外側には装甲が有るが、内側にはほぼ無いのが特徴だ。
手傷がそのまま死に直結する印象が有る。
そこにアレンジを加えるのであれば不安要素は確かに減る。
二人の言葉で方向性が見えてきた。
ツナギは運動性を重視して、耐久性は徐々に付いて行く事に期待する。
防御力は思い切り装甲に依存する事とする。
使い続ければ続ける程、防御力は上がる。
身体能力の向上で回避力も上がって行く、ここで態々動きにくい革で作る理由は無い。
同時に筋力も向上しているので重量が多少増しても気に成らなくなる気もする。
それなら装甲パーツをより堅くすれば良い。
使い続ければ耐久力も向上するのも確実でもある。
ここはバランスを取った方が良いと判断する。
「鹿革で作る事にするよ」
使用素材を決めると綵の母親がパターン起こしを終えた段階で必要な革の量の連絡を貰える事に成った。
必要な打ち合わせを終えて綵の家を辞する。
結局明日の日曜日が丸々空いてしまった。
特にやるべき事も無いので、甲冑の作り方を調べる事にする。
自宅に戻った所でネットを使用して色々な情報を調べたが今一ハッキリしない部分も多かった。
同時に自分でレプリカを作る教室の情報も有った。
詳しく見てみると土日でサークル的な事もやっているらしかった。
そこに参加して作り方を教わる事にした。
身を守る為に出来る事は何でもしよう、そう心に決める。