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第五話

「特に新しい情報は無いね、相変わらず各国のオカルティストが奮闘してる位だね」

「ああ、物質の硬度が向上するなら魔法も使える様に成るはず、ってやつか?」

「うん、今の所特に魔法が使える様に成ったって噂も無いけどね」

 各国のオタクやオカルティストが「迷宮と言うSFかファンタジーが現実に成ったなら、魔法だって」と自称秘密結社と迎合した団体だ。

「なあ奉、その連中って本当にオカルティストなのか?」

「違うでしょ、本当に歴史ある秘密結社とコンタクトが取れて迎合したとは思えないし、本物なら魔法修行の動画を毎日更新なんてさせないでしょ」

 そう言ってると動画から流れてくる訛った日本語で魔法なのか仙術なのか分からない言葉に三人揃って吹き出してしまう。

 そんなWeeaboo(日本オタク)の一部が数年の後、魔法とは違う分野で多大なる功績を残す事になるのは執念なのか愛故なのか、当の日本人が苦笑する事に成るのだが。

魔法が本当に有るかは知らないし分からないが、不思議な力を望む人間は世界中に居る。

そう言った物を全力で面白がった日本人の功罪かも知れない。


「あ、毛皮は結局どうするの?」

 そう言って綵は僕のリュックの中の毛皮を話題にする。

「ゴワゴワした毛であまり毛皮として使えなそうだよな」

 棗の指摘に頷いてリュックから毛皮と取り出してテーブルに乗せる。

「本当にゴワゴワ……、毛を刈り込まないと毛皮の素材に成らなそう……」

 少し顔を顰めながら毛を撫でて綵がぼやく。

「皮としてはどう?」

 先程自分で確認したが、周りの意見も知りたい。

「薄いし、レザーとして使えるか微妙……」

 これも心から同意する感想が返ってくる。

 学生の僕達が容易に用途を思い付く筈も無く、ついつい唸ってしまう。

「売れないし、使い道も無いし……、どうしよう?」

「売れないのが痛いな」

「まあ、今日の今日で売れるとは思わなかったけどね。でも使い道が無いのも困ったね」

 三人揃って唸ってしまう。

「駄目にする覚悟で、毛を刈り込んでみる?」

 そう綵が躊躇いがちに提案する。

 少し考えて僕は頷く。

 素材を駄目にしてしまうかも知れないが、毛皮一枚で数千円の値は付かないと思う。

 それなら試してみても良いだろう。


 テーブルに新聞紙を広げてハサミを差し出す。

 綵の手で幅四十㎝、縦七十㎝の毛皮の毛がパリパリと音を立てて刈り取られていく。

 五、六㎝は有った毛が一㎝程に刈り込まれた部分を指で撫でてみる。

 専用の機械で刈り込んだ訳では無いから長さが微妙に違う為か、手触りに斑は有るが光沢が出た様に見える。

 毛並みはやや固いが、安い毛皮のコートには成る気がする。

「兎肉より安いって事は無さそうだけど、千円は行かないだろうな……」

「流石に千円で買い取ってたら予算の無い組織では保たないだろうな……」

「五百から七百円って所じゃ無いかしら?」

「市場に素材を流すとしたらそれが妥当な値段だろうね」


 そして牙を持つ獣一匹が五百円となるとやはりシーカーが渋るだろうとも思った。

 今までのシーカーは僕達の様なアルバイト感覚の学生以外だと、田畑を荒らされたくない農家の若手が大半だった。

 そして今回のモンスターの変化でシーカーの覚悟や姿勢が問われる事に成る。

 これからは農作物の被害防止から、本当の意味での身の危険と成った訳だ。

 特に東京の迷宮はシーカーの数が少なく、迷宮そのものが住宅地に存在すると言う事だ。

 身の危険は感じても率先して今からシーカーに成りたがる若者がどれだけ居るか、が鍵となる。

 武器防具の割引と免税措置位しないと今居るシーカーも激減するだろう。

 迷宮庁も頭を抱える事に成るだろう。

 シーカーが適度に間引き出来なければ住宅地で狼が大氾濫する事に成る。

 犠牲者がどれだけ出るか、考えたくも無い。

 そしてこの辺りが居住に適さない土地として過疎化する可能性も有る。

 そうなれば固定資産税が大幅に落ち込むのが目に見えている。

 二人は良いとして、僕自身は内定の取れている就職先に就職が出来たとして、シーカーも続ける様に圧力が掛かる未来が見える様だ。


 真面目に防具を考えた方が良いと結論に達する。

「ねえ、二人共この毛皮要る?」

 一つ思い付いた事が有った為に二人に問いかける。

「いや、使い道ねえし、俺は要らん」

「私も特に良いかな? 奉要るの?」

「うん、二人が要らないならこれで防具を作るのも手かな? って」

 今日まで迷宮で活動して身体能力が向上したが同時に刀やデニムが頑丈に成っている。

 普通のデニムが防刃素材並みに成ったのは驚きだ。

 無論、同じだけ強化された刀で斬り付けたら普通のデニムと同じなのだが。

 この毛皮を革に加工して防具にしたら普通の革よりも強固な物に成るかも知れない。

 普通の革と同じだとしても「モンスター素材の防具」と言う利用価値が発生する。

 その旨説明すると二人に溜息を吐かれる。


「お前……ガキだな……」

「奉って現実主義者のくせに子供っぽいよね」

 二人に酷評されるが、効果や使い勝手が同じなら+αが有った方が、物持ちが良いのが人だ。

「で、何を作ろうって?」

「うん、二枚しか無いから今回は籠手と脛当てしか作れないと思う」

「まあ、革にするにしても面積が足りないから革のジャンパーにも成らないものね」

「ん? ()()()() お前続ける気か?」

「正直分からない、卒業して就職してもシーカーは続けさせられそうならね」

「いやいや、断れるならお前も断れよ!」

「断れない理由を作られる気もするんだよ、それに僕自身様子も見たいし」

 確信が有る訳では無いが、世間がそこまで優しくて平和だと思えないのだ。

 多分、いきなり牙を持つモンスターと対峙して生存本能が喚起しているのだろう。

 それが僕に猜疑心も含めて最悪を連想させるのだ。


 狼が氾濫した場合多数の犠牲者が出る、そして周辺が避難地域に成るのが目に見えている。

「奉、お前考えすぎじゃないか?」

「そうかもね、でも楽観的に成れる根拠も無いしね……」

「奉は直ぐに作りたいの?」

「いや、早い方が良いと思うけど、防具なんて作った事無いから」

「じゃ、調べてみようぜ」

 そう言って棗が僕を追い払う様にしてPCを占領して調べ始める。

 綵も一緒になってああでも無いこうでも無いと言いながら片っ端から調べていく。

「ねえねえ棗、これなんかどう?」

「いや、ちょっと痛過ぎだろう?こっちはどうだ?」

「もっとこう目立とうよ!」

「ならこっちはどうだ?」

「あ! 良いかも!」

 追いやられた上にどんな物を進めてくる気か不安に成る会話が繰り広げられている。

「奉!これ作ろうぜ!」

 そう言われてPCのモニターを見ると戦国武将の鎧が表示されている。

「いやいや、何故ここで戦国武将のコスプレ?」

「だって、西洋の革鎧だとこうなるぞ?」

 そう言って棗が新たにページを表示して僕に示す。


 そこに映し出されているのはどの時代か分からないが、

 日本人の僕が着ると失敗したコスプレに成るのが予想出来てしまう物だった。

「確かにそうだけど、これはこれで悪目立ちが過ぎると思うよ?」

「それは諦めろ、手伝ってやるからさ」

 そう言って棗は面白がる様に笑う。

「そうだよ? 奉。私も手伝うからさ」

 綵まで一緒になって全力で、()()遊ぶつもりなのが分かった。

 迷宮に足を踏み入れる日本甲冑を着たシーカー。

 場違いで、シュールだ。

「それに面頬を付ければ顔も隠せるし喉もカバー出来るからな」

「でも革じゃ強度が足りてないと思うよ?」

「あー、どうするかな?」

「牛革の上に貼るとか?」

 二人の会話で思い付いた事を口にする。

「それなら漆を塗って固めた方が軽さと強度は確保出来ると思う」

 僕の趣味のクラフトワークの一つに漆工が有る。

 地味に箸や茶碗は自分で木地に塗って作った物を使っている。

 その漆工の一種に漆皮(しっぴ)と言う技法が有る。

 今では印伝以外ほぼ使われない技法では有るが、硬さと軽さを考えると良いアイディアだと我ながら思う。

 そう言うと棗が漆皮を検索して綵と検討を始める。


「良いかもな、光沢も有るし」

「そうね、でも当世具足だと狼の噛み付きで掌側が刺さりそう……」

「そうだな、鎖帷子で補う部分が問題か」

「構造は西洋甲冑を取り入れた方が良いかも……、奉ノート貸して」

 綵の求めに応じて大学ノートとペンを渡す。

 シャシャッと小気味良い擦れる音と共にノートにはデザイン画が書きこまれていく。

 大学で講義の暇つぶしに時折ノートに何かを描いていたのは知っていたが、デザイン画が描けるとは知らなかった。

「鎧のデザインが出来るって時代を無視した才能な気がする……」

 余りの巧さに「あれ? うちの大学って美大だったっけ?」と思ってしまう位に巧かった。


 腕や足だけでは無く、全身のデザインも勢い良く描き上げていく綵に声を掛ける。

「いや綵? 〇ーダー様は止めようね? いやホントに」

 綵の書き上げた西洋甲冑と当世具足の融合はどう見ても銀河の暗黒の黒い人だった。

 マント要素は何処から着たのだろう?あれ?僕マント着用なの?

「絶対にアメリカ辺りでやってる人居ると思うから止めようね?」

「えー、面白そうなのに……」

「じゃ、綵の防具はこれにしようか」

「分かったわよ……」

 自分に矛先が向いた途端に断念した所を見ると自分で着るのは恥ずかしかったらしい。

 それから三人で洋の東西を問わずに鎧の構造を調べては綵がスケッチをして形状の案を纏めていく。


 当世具足だと紐で固定する箇所が多い為に革のツナギに縫い付けた方が利便性も高いと結論に至る。

 籠手と脛当て、胸当てのパーツだけは縫い付けずに別パーツにする事に成った。

「帰ったらお母さんと相談してみるね、型紙も必要だし」

 手芸の得意な母親に彩は手伝ってもらうつもりの様だ。

「で、ツナギの革はどうするんだ?」

「狼の革で作るか、鹿革を買ってくるか、だね」

「狼の毛皮集めが出来るのが何時からか分からないぜ?」

 確かに、棗の言う通り迷宮に入れる様に成るのがいつからかは現段階で未定だ。

 装甲パーツを作る分量だけでも三、四十枚は必要に成る気がする。

 更にツナギの分量を考えると何枚必要に成るか分からないし、革なめしの手段も無い。

「鹿革を買って来るしかないか」

「そうだね、色々買い揃えないとだけど、高く付きそう……」

 シーカーを辞められなく成るか分からない段階で注ぎ込むにはかなりの出費だとは思う。

 ただ、数年数十年と続けざるを得ないなら、防具に先行投資するのは当然だとも言える。

「まあ、革とか買うかは政府発表が出るまで待つとして、手足用のプロテクターは買っておく事にするよ」

「そうね、取り敢えず私はお母さんとツナギのデザインの相談だけはしとくね」

「ツナギと具足一式と成ると躊躇うよな……」

 鹿革と道具だけでかなりの出費に成るのが予想出来た所で三人揃って腰が引けてしまった。

 結果としてサッカーの脛用プロテクターを二枚ずつ挟んで、牙が食い込まない様に着用するとして、明日買い物に行く事にした。

 シーカーを続けるか否かは未定だが、前途は多難なのだと気落ちするのを自覚する。

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