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第五章 第五話

「ふっ!」

 向かって来る鬼を一刀の元、斬り伏せる。

 シャン……。

 戦闘を終えて、血を払う為に手首を返して鍔の鈴を響かせる。

 六つ目の迷宮を沈静化させ、色々な事が変化した。

 牛鬼の動画が公開、公表され日本中が恐怖と安堵が混じった感情が広がった。

 当然厳しい意見も出たが、大半は応援を含めた肯定的な意見だった。

 その世論に推されてか色々な企業から支援の声が上がる。

 特に防具のチタンプレートがチタン合金β型に変更出来たのがありがたい。

 牛鬼の角で心臓を貫かれかけた事を考えると今でも身の内から震えが起る。


 シャン……。

 意識を切り替える為に再び手首を返す。

 六ヶ所目を終えて、最も地味で、もしかしたら最大の変化かも知れないのが手の中の水晶刀だった。

 湧き水に浸して、自宅に戻ってから確認すると本来無かった筈の刃紋が刀身に浮かび上がっていた。

 濤乱刃とうらんばの様に波のうねりが有り、そして重花丁子じゅうかちょうじよりも激しく踊っている。

 まるで刀身の中で炎が揺らめいている様に。

 それが全ての水晶刀に出ていた。

 全くもって摩訶不思議な物だと思う。


 シャン……。

 鈴の音が以前よりも澄んでいる様な、その響きだけで神宮の神域の様な空気に成る。

「燃えてる――のか? 霊験あらたかな神刀もこんな雰囲気なのかな?」

 そして自身の言葉の響きから水晶刀改め、水晶霊刀すいしょうれいとうと呼び名を変える事にする。

 炎を内包する水晶の刀、色々と矛盾が酷くて笑ってしまう。

 それでも、効果が有るなら何でも使うべきだと思う。

 迷宮も残す所、後一ヵ所。

 ここで失敗しては意味が無い。

 専業のシーカーは僕だけで、他のメンバーはそれぞれ仕事や生活が有る。

 最後の一ヵ所に挑む前に個々で準備をする必要が有る。

 その間もなまくらに成らない為に、単身で鬼の間引きを行っている。

 水晶刀改め、水晶霊刀の切れ味は冴えに冴えていた。

 水晶刀の段階でも切れ味に不満は無かったが、鬼の硬い骨を断った感触すら小さくしか感じられない。

 背筋に冷たい物が走る位だ。

 断言は出来ないが、この先に居る鬼の親玉相手でも通用するだろうと思えた。

 十数体の鬼を間引きして、一日のノルマを終える。 


 迷宮を徒歩で出ると辺りは既に赤く成っていた。

 迷宮内部は肌寒い位なのに、夏の終わりの外気はまだ蒸し暑い。

 緊張感と疲労感を身の内から追い出す様に、大きく息を吐き出す。

 回収した金の粒を買い取り所で売却し、更衣室のシャワーを使用してから家に帰る。

 知人もしくは仲間の一人に夕食に誘われてはいるが、刀や防具を車に放置も出来ない為一度帰宅する。

 自室で水晶霊刀や防具を金庫に仕舞った瞬間に悪寒に襲われた。

「なんだ……?」

 その違和感に首を傾げ、着慣れたツナギに着替えをして部屋を出る。

 吉祥寺駅に到着した頃には、日も完全に落ちて気温も少しは下がっていた。

 シアトル発祥のチェーン展開された喫茶店の前に車を寄せる。

 淡い水色のワンピース姿の帳さんが手を振って現れた。

 手を振り返して車に乗る様に促すとドアが開き彼女が乗り込んでくる。

「お待たせしましたか?」

 約束の時間にはまだ若干早いが、礼儀として訊ねてみる。

「いいえ、今来た所です。逆にお待たせしませんでしたか?」

「いえ、僕も今来た所です」

 彼女がシートベルトを装着するのを待って車を出した。

 井の頭通りを三鷹方面に少し走った所にあるフレンチのお店に案内される。

「この先にコインパーキングが有りますから、そこに」

「了解」

 指示された通りに車を停めてお店に向かった。

 コンクリート打ちっ放しの外観に円形に配置されたドット柄の看板が目に留まる。

 促されるまま地下に降りていくと、白を基調とした穏やかな雰囲気が広がっていた。

「時々、自分ご褒美に来るんですよ」

「固過ぎず、カジュアル過ぎず良い雰囲気ですね」

 格式ばったフレンチという事も無く、それでも騒がしくも無い。

 良い塩梅といった感じがして好ましく思った。

 ギャルソンと言うのだろうか。

 姿勢が奇麗な男性スタッフに予約された席に案内される。

 レザー張りの椅子を引いて帳さんを座らせてから自分も席に着く。

 この辺りは渡仏中に見て学んだが、未だに気恥ずかしさを覚えて苦笑する。

 テーブルクロスの純白が目に眩しい。


 コース料理が順々に供されて、雑談を交えながら楽しい時間を過ごしていた。

「東京迷宮はいつからですか?」

「そうですね。来週全員揃うので来週末に終わらせる予定です」

 デザートを食べ終えた所で問われた問いに答える。

 僕の時の様な状況を避ける為に、連休に合わせて合流する事にしていた。


「あの祟目さん、……そろそろ敬語は止めませんか?」

 帳さんの言葉に首を傾げる。

 特に違和感も無かったし、そもそもの関係性が医者と患者から迷宮の最深部攻略の一行とは成ったが、友人かと問われると否だと考えていた。

 勿論、本当にお世話に成っていたから食事を奢るのもやぶさかでは無かったし、気にもしていなかった。

 帳さんと知り合って数年。

 それも最深部へ同行した事が何度も有ったのだし、仲間意識は当然有る。

 確かに、他人行儀が過ぎると言うのも頷ける。

「そう……だね、確かに。なんだか慣れないけど」

 そう苦笑しつつも口調を崩して答えた。

 帳さんは嬉しそうに、花が咲いた様に笑い何度も頷く。

 苦手だ。

 誰かが懐に入って来ようとする、そんな感覚が。

 棗や綵の時はまだ子供だったから気には成らなかったが。

 この年に成ると踏み込まれる事が妙に怖いと感じてしまう。

 フランスでの人間関係よりは楽では有るのだけれど。

 それでも、やっぱり苦手だ。

 苦手なのに、有難いとも感じるのは何故だろう?

 以前感じた事が有るこそばゆさに自然と表情が緩む気がした。


「あの、本当に奢ってもらって良いんですか?」

「良いよ、いつもお世話に成っているし。それより、帳さんの方が敬語抜けてないよ?」

 帳さんのマンションまでの道中も時折敬語交じりに成っていた。

 自分から言い出しておいて、と可笑しくて笑ってしまう。

「あははは、えっと、ご馳走様」

「じゃあ、来週にまた。おやすみ」

 軽く右手を上げて別れの挨拶をした。

 彼女は一瞬何か言いたげな素振りを見せたが、それも直ぐに隠れた。

 何となく察する物は有るが、今は時期じゃないと感じて気が付かないふりをした。

「はい、おやすみ。待機してるけど、出来れば怪我せずに……」

 最後の迷宮。

 待機する側も相当に気を揉むだろうと思う。

 僕だったら大人しく待機など出来ないと断言出来てしまう。

 無論、僕達も怪我を計算に入れた戦いをするつもりは無い。

「分かってる。最後はスマートに閉めたいからね」

 最後の最後に大怪我なんて目も当てられない。

 微かな名残惜しさを残すやり取りを終えて、帳さんがマンションに入ったのを確認してから車を出す。


 住宅地から幹線道路に出て自室に戻る最中、信号に引っかかって停車した瞬間に再び悪寒に襲われる。

「なんだ? 流石に……」

 違和感に体調不良を疑ったと同時に真後ろから衝撃が走った。

 背中がシートに沈み込む程の衝撃にルームミラーに視線を向けるとリアウィンドウが砕け、その向こうに大型トラックが映る。

 追突されたのか、と認識した直後に動きが有った。

 下がると思われたトラックが動いた。

 ()()

 物凄い馬力でブレーキを強く踏んでいる愛車が交差点に押し出される。

 何が起こっているのかと状況を把握しようと視線を走らせた刹那、真横からの強い光を感じた所で僕の意識は寸断された。

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