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第三章 第九話

 食事を終えて明日からの仕事の準備をしているとメールが届く。

 宛名もアドレスも無い正体不明のメールだったが中身を読むと合点がいった。

 絳峯三等陸佐に取り敢えずの報告をしておいたが、検証結果が出た時点で知らせて欲しい旨書かれている。

 迷宮に危機感を覚えている人間は横で繋がって行くのだとしみじみ思う。

 目立たない所に本当の危機と言う物は存在する、と言う事だろう。

 メディアにしても不用意に混乱を招く情報は報道出来ないのも有るだろうが、それが結果として一般的な危機感を薄れさせているジレンマが有るのかも知れない。

 まあ、スキャンダルを追っかけている方に力を入れている映像メディアには期待する価値も無いが。

 溜息交じりにSNSに投稿した概念武器の拡散具合を見てみる。


「おお、盛り上がってる。ネタ認定も否定されたか」

 一週間程の間に全国のシーカーが試し、その結果を書き込んでいるらしい。

 ただ、僕程手数を削れてはいない様子。

 この辺り最適解はまだ模索の最中だ。

 もう暫くは厳しい道のりだが、現状打破の道筋が見えてきた気がする。

 メールや調べ物を終えた所で寝る準備をして床に就く。

 少しだけ光明が見えてきた事に微かな安堵を憶えて眠りに落ちていった。


 月曜、朝礼を終えて職場の研究室に入る。

 代わり映えの無い、データ分析と実験を行っていると上司の実験が視界に入った。

「桜玻さん、これは何を調べているんですか?」

 透明な結晶を何やら機材で検証しているらしかった。

「ああ、これは水晶の振動を調べてるだけだ」

「えっと振動……なんでしたっけ?」

「水晶振動子な? 祟目君に迷宮に持ち込んで貰った水晶と普通の水晶とで振動数に変化が出るかを調べてる」

 気持ち眉を上げる様にして驚いて機材に目を凝らす。

 水晶に電気を流すと規則的で一定の幅で振動する特性の事だ。

 確かに先週の週末に持ち込んで欲しいと言われていたプラスチック容器をリュックに入れていたが、それが水晶だったとは知らなかったし、知らされていなかった。

 時代なのだろう、迷宮絡みの研究も盛んに成っていると言う事だろう。

 実際問題として僕が就活で内定を複数貰えたのもシーカー活動をしていた事と、迷宮内での金属の変化の研究をしていた事が恐らく最大の要因だろう。

「それで何か変化は有りましたか?」

 土曜日に持ち込んだだけだった為、それ程顕著な変化は出ないとは思ったが気には成る物だ。

「ああ、大きな差では無いが誤差とは言えない差は出てるな」

「それは振動が増えたんですか? 減ったんですか?」

 気に成るかい? と言わんばかりの笑顔を向けられて若干イラッとしたが大人しく頷いて見せる。

「増えたね、規則正しく増えた。祟目君の研究の金属の強度変化だけじゃなく、水晶でも何らかの変化が有ると言う事だ」

 僕が調べていたのは鉄や鋼だったが、水晶にも変化が有ると言う事か。

 防具や繊維でも変化が有るのだから当然と言えば当然だろう。

 結局僕達人類は迷宮と折り合いを付けて生きて行くしかないと言う事なのだろう。

 しかし水晶にも目立った変化が有るのか、と考えていると何かが引っ掛かった。

「水晶? 振動? ん? なんだろう……」

 その違和感に首を傾げながら何が気に成っているのかを自問する。

 何か凄く重要な事を見落としそうな、絶対に取り零してはいけない物を目の前にしている感覚に首筋がチリチリする。

「どうかしたかい? おーい? 祟目君?」

 何を見落としている? テストの見直し中に致命的なミスを見落とし掛けている焦燥感に近い物が有る。

「振動、水晶、振動、水晶……」

 考えながら腕組みをして歩く。

 暫くしても引っ掛かりがハッキリしない為、桜玻に質問をする。


「桜玻さん、この水晶の強度はどうですか? そっちの変化は有りましたか?」

「ああ、漸くこっちを向いた。強度? いや、そこまでは確認していない、極薄に切り出されているからな。元々柔らかいからそれこそ誤差程度しか変化は無いんじゃないか?」

「そうですか、ん? 切り出す? これってどうやって作られてるんですか?」

「こいつは人工の水晶だからな、高温高圧で再形成した純度百%の水晶をスライスした物だ」

「人工の水晶……、その水晶の硬度はどの位ですか?」

「どうした? 一体。硬度としては亀裂も包有物も無いから天然の水晶よりは高い筈だぞ? 成分的にも天然水晶が原料だからまがい物とは言わないし、な」

 桜玻の言葉にデバイスで水晶の硬度等のデータを調べる。

「おいおい、どうしたんだ? さっきから?」

「すみません、何か重要な事に気が付きそうなんです、モース硬度十、鉄並み、でも幽体に硬度も何も無いし行けるか? だとしたら加工が可能なのか? 形状は? 概念を乗せるならやっぱり……あの形しか……」

 拾った情報を片っ端から調べて頭の中でリストにしていく。

 頭の中で一つの形に成った所で再度桜玻に質問を投げかける。

「桜玻さん、人工水晶のメーカーってどこが有ります?」

「国内でもいくつか有るがどうした?」

 頭の中で情報の箇条書きにしていく。

 水晶、銀、桃の木、鏡、目貫、と並べていき一つの結論に達する。

「水晶で刀を造りたいんです!」

 幽体に最も効果的な武器に成る、そんな確信が有った。

 昨夜からずっと引っ掛かっていた事の答えを得たと思う。

 全身に鳥肌が立つ程の興奮を覚えた。


「うん? 何の話をしてるんだ?」

 桜玻の平淡な声にもどかしさを感じながら順序立てて説明していく。

「今全国の迷宮で幽体と呼ばれる幽霊みたいなモンスターが出る事はご存じだと思います。その幽体は武器で攻撃しても透過してしまうんです。鉄の武器、僕の場合だと刀ですが、――で攻撃をしても50回攻撃して漸く一体を駆除出来る状態です。そこで攻撃回数を減らせないかと色々と検証した結果、幽霊が嫌う物で攻撃すると攻撃回数が減っていく事が分かりました。一つ一つの要素は小さいですが、確実に効果が乗る事も確認が取れました。その要素は刀、水晶、銀、鈴、等です。それ等を一つの形にした武器が必要なんです」

 一気に捲くし立てる様に喋ると桜玻は驚いた様に上体を反らした。

「う、うん、言いたい事は分かったが、それで水晶で刀? ってのが分からん」

「幽体が一番嫌ったのが水晶と刀だったんです。ですからその二つの要素を一つにすると水晶型の刀か刀型の水晶ですが、水晶型の刀って既に刀では無いので結論として水晶で刀を創る以外無いんです」

「言いたい事は分かったが……、つまりは人工水晶を削り出して刀にしたいって事か?」

「はい、そうしなければ壁をすり抜けて出没するモンスターが全国に氾濫します。シーカーも自衛隊も間引きが追い付かない状況ですから」

「TVでもやっていたが、そんなに不味いのか?」

「最悪の場合、来年の6月で日本壊滅、と成ってもおかしくない程です」

 今まで恐ろしくて言葉に出来なかった、正直な感想を述べる。

 真顔で告げた言葉に桜玻は固まって言葉も出ない様だった。

 当然と言えば当然だろう。

 それだけ日本のメディアは国民もしくは視聴者に危機的情報を伏せてきた。

 混乱を招く恐れがある、と言えば聞こえは良いが耳に入れない事が危機を回避する事には繋がらないのだから、結局社会不安を伴う準備か突然の破滅かと言うだけだ。

 このまま行けば突然の破滅へと一直線と成る。

 それだけ危機的状況だと思っているのは極少数らしい。


「分かった、少し待ってろ、メーカーに多少のコネは有る。だが、高く付くぞ?」

「貯金を叩いてでも必要だと思います」

「分かった、必要なサイズは?」

 そう問われて少し考える。

 小太刀が六十㎝、打ち刀が七十㎝、太刀が八十㎝位。

「一m弱、九十㎝有れば何とか」

 そう答えると桜玻はどこかに電話をする。

 桜玻からの紹介でとある人工水晶を生産加工まで行っているメーカーに渡りを付けて貰う事に成功した。

 翌日、無理矢理休暇を貰ってメーカーに直接(おもむ)く事に成った。

 また仕事終わりにメールをチェックすると柄巻師からは強度的に若干の不安があるが可能だと返事が来ていた。

 複数の柄を作って貰う事に成るので木材の手配も大目に依頼しておく。

 一般的な木材では無いし、難しいとは思うが言っておかなければ始まらないし、もし在庫が有ってもスルーしてしまったら意味が無い。

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