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第三章 第八話

「そう言えば祟目君仕事の方はどうなの? 慣れた?」

「そうですね、研究職なのでそこそこ。機械の癖が違うので少し大変ですけど」

「頭良い仕事だよね、私には無理だわ」

「調べるのが気質として好きなんだと思います」

 細かい事が気に成る僕の様な人間には天職なんだと思う。

 営業職では無いから体力的にも出来るのか、学生時代から続く習慣だから続いているのかは微妙な所だけれど。

 周囲からは休めと言われるが、休日にフットサルや草野球みたいなスポーツをしている社会人なんて珍しくないのだし、特に問題が有るとは思わない。

 第一次変遷の頃よりは稼げないのが手痛いけれど、間引き手が減ればそれは本当に危険な事に成る。

 それが分かっているから手を休める事は出来そうに無い。


「迷宮の幽体ってそんなに厄介なの?」

「そうですね、武器が効き難いのも有りますけど、兎に角攻撃された時が厳しいですね。防具で防げないので。引退したシーカーも多いと思います」

 食事を終えた所で元原さんが迷宮関連の話題を出して来た。

 誇張する意味も無いが矮小化する意味も無いので血生臭い部分だけ避けて答える。

 武器の方は解決の方向性だけは見えてきたが、防具の方はどうなるかまだ分からない。

 元原さんに頼んだとは言え、銀と幽霊だとあまり効果は期待出来ない様に思う。

 まあ、武器として効果が有るなら防具としても多少は効果が出てもおかしくは無いのだけれど。

 あの痛みを態々検証の為とは言え受ける気には成れない。

 土壇場で受ける位なら覚悟を決めて受けておいた方が良いのは理解しているけれど。

 なんだか憂鬱に成ってしまった。

 食後に紅茶を頼んで鈍色の溜息を吐き出す。


「ちょっと、目の前で溜息吐くってどう言う意味かな?」

「あ、ごめんなさい。迷宮の間引き活動を思い出したら少し気が重く成って」

 弁解に成るか分からない言葉を慌てて口にする。

「幽体の攻撃って本当に痛いし辛いんですよ、酷い時は治るのに二週間位掛かりますし」

 実際、皮膚が破れないだけで筋繊維や血管がズタズタにされる。

 銀板を挟んで軽減出来たらどれ程助かるか分からない。

「そんなにキツイんだね……、ねえ祟目君は辞めたいとは思わないの?」

「どうでしょう? 怪我をした時は辞めたいと思う事も有りますけど、辞めてしまったらどうなるかが分かってるので」

「そっか、氾濫が有るもんね」

「故郷を追われるって辛いですからね、それに座視すれば沢山の被害が出ますし」

 元原さんは一瞬複雑そうな顔をするが、直ぐに表情を気遣わしげな顔にする。

「でも、祟目君が一人で抱え込む話でも無いよ?」

「抱え込んでる訳じゃないですよ、単純に日本には今一人でも多くのシーカーが必要なんだと言う事実が見えてるだけで」

「君は真面目だね、真面目過ぎるのかな? 息抜きはしないと駄目よ?」

 元原さんのお姉さんオーラ溢れる言葉に苦笑しか出来ないで居る。

 元原さん、棗、綵、皆に心配を掛けてしまっている自覚は有る。

 皆に守られている事を実感する。

 だから、僕は皆を守りたい。

 素直にそう思う。

「息抜きはしていますよ、毎日充実していますしね」

 職場での研究も面白いし、職場の先輩との交流も楽しい。

 新婚の棗達の話を聞くのも嬉しい物だし、元原さんの新作を見るのも良い。

 羽生とのシーカー論で意見交換するのも有意義だし、絳峯二等陸佐からも時折連絡が来るし。

 充実はしていると思う。

 それが薄氷の上のギリギリの日常だとしても、だ。


 食事を終えてファミレスを出て、防具一式を元原さんに預けて家に戻る。

 現代具足を預けてしまった為に迷宮には潜れない。

 今日はこのまま羽を伸ばす休日にした。

 スーツに皺が出来ても困る為、部屋着に着替える。

 夕食を作り始めるにしてもまだ早い事も有り、久しぶりに部屋の掃除をして空気の入れ替えを行う。

 元々あまり物が多くない為に掃除も簡単に終わってしまう。

 刀箪笥の鍵を開けて刀のメンテナンスをする事にした。

 とは言え、既に数年迷宮で使用し続けて硬度等が向上していて、ここ二年は切れ味も落ちた事も無い。

 シーカーに成って二、三回研ぎに出した事も有るが、それきりに成っている。

 目釘を抜いて小型の電動ブロワーで埃等の付着物を取り除いてから油を引く。

 小太刀と脇差両方の手入れを終えて再び刀箪笥に仕舞う。

「刀……か、どうしたら良いやら……」

 ソファーに深く座って腕組みをして考え込む。

 あれこれと検証した結果、刀に小物を付ける事で間引きが楽に成ったのは事実だ。

 事実だが、それでもまだ二桁を切れないのが問題だ。

「にっかり青江……、霊を切った逸話の有る刀、分類は大脇差……、僕の刀は小太刀、分類は脇差、広義の意味で大脇差に含まれる……、刀では無く小太刀、大脇差だから効果が出ている可能性……」

 腕を組みながら部屋の中をグルグルと歩き回る。

 何かが有る筈だ。

 最適解が有る筈なんだ。

 他国のモンスターと比較しても難易度が高い。

 その難易度も針孔程の隙でも無ければ困る。

「刀、水晶、鈴、銀、瑪瑙……、刀、水晶、鈴、銀、瑪瑙……」

 ブツブツと小さく声に出しながら攻撃をより効果的にする手段を考える。

 全部乗せでは使い難く成る。

 利便性と効率をキチンと合わせないと意味が無い。

「鈴を銀で作る、か……。確かにそれなら増量させずに済むか?」

 鈴を銀にして、中の玉を何かに差し替える事も可能だろう。

 火打石の瑪瑙か教えて貰った玉髄を入れる事も可能かも知れない。

「銀と火打石で鈴、他には……。桃の木……何処に仕込む? 水晶は何処に使う?」

 頭の中でグルグルと考え、部屋の中をグルグル回って行く。

「ああ、そうか桃の木を鞘の材に、とうし、っ痛っ!」

 余程集中していたのか足元を疎かにしていたのか、ローテーブルの脚に小指を強かにぶつけてしまう。

 目の覚める鮮烈な痛みに思わずソファーに座り込みぶつけた右足を抱える。

 少しの間、足を擦りながら痛みが遠退くのを待つ。

「なんで足の小指の痛みって骨折より痛いんだろう?」

 本心ながらどうでも良い言葉が口から出る。

 そして痛みで中断した連想ゲームが頭から抜けて思い出せない。

「えっと、鈴を銀で、中の玉を火打石の鉱物で元原さんに作って貰うとして、桃の木で何だっけ? ああ、柄の材に使えないかって考えたんだった。あれ? その後はなんだったかな?」

 いくつかは思い出せたが思い出せなかった物も有る。

 暫く悩むも一向に思い出せない。

「駄目だ、思い出せない。思い出すまで保留」

 必死に思い出そうとする事を諦めて連想ゲームを再開する。

「鈴は柄の頭に固定、鏡は……鍔にするか。後は刀の構成要素は……目貫位か……」

 デバイスで画像を検索してみるが特に霊験あらたかな意匠の物は特に見当たらない。

 気に成って色々と調べてみたが特にそれらしい情報も見当たらない。

「まあ、これも元原さんと相談、かな」

 最近、元原さんに無茶振りな仕事をお願いし続けてる気がする。

 創作活動の邪魔に成らない範囲で依頼をセーブしなければならないと思う。

 壁掛けの時計に目を向けると夕方、良い時間に成っていた。

 夕食の準備をしてから自分の小太刀の柄を制作した柄巻師とコンタクトを取って、桃の木材で柄を作れないか等の相談をメールでしておく。

 やれる事は全てやる、それ以外に現状を打破する事は出来ない。

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