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第三章 第六話

 買い取り所を出て再び迷宮に入り通路を進んで行く。

 一つ目の小部屋を覗き込むと一体の幽体が佇んでいるのが見えた。

 一回深呼吸をして二人に合図を送ってから全力で走り込んで間合いを詰めて斬り掛かる。

 斬り付けながら幽体の動きをよく観察し、攻撃動作を取ったら離れる。

 厄介な事に幽体は攻撃を受けても体勢を乱すと言う事が無い為に崩しか効かない。

 その為に攻撃の動作を妨害が出来ず飛び退く以外に無い。

 これもシーカーが優位に立ち回れない要因の一つだろう。

 それでも十五回と言う少ない手数、短い戦闘時間で済む様に成った事が精神的にも余裕を作ったと思う。

 極端な差の為に油断に成り易いが、幽体の攻撃を受けた時のダメージを思えば油断出来る人間の方が少ないだろう。

 観察しながら攻防を繰り返し、今度の戦闘も手数十五回で終えた。


 金の粒を拾ってから二人の所に戻ると目を見開いて鼻息荒く僕を見ていた。

 二人の表情を見ると興奮しているのが緑色の視界ででも分かる。

 それは停滞した間引きによる氾濫の危機に対する活路を見出したのだから当然だとも思う。

 もしかしたら絳峯三等陸佐は自衛官の怪我人を減らせる事を単純に喜んでいるのかも知れない。

 小太刀を鞘に納めてから二人の元に戻り話し掛ける。

「証拠に成ったでしょうか?」

「申し訳ない、後二、三回お願い出来ますか?」

 絳峯三等陸佐の言葉は恐らく周囲から検証回数が少ないと言われない為だろう。

 それならば三体倒した後、絳峯三等陸佐にも試して貰えば良いだろう。

 頷いて再び迷宮の通路に出て周囲を見回して幽体が視界内に居ない事を確認して奥に進んで行く。

 十分も歩かずに次の幽体と遭遇し、二人に合図を送ってから戦闘を開始し、手早く片付ける。

 いい加減体力的にもきつく成ってきたがここが踏ん張り所だろうと腹を括って柄を握り締める。

 神経をすり減らし、体力を削りながら遭遇戦を繰り返す。

 四体目の幽体を駆除した所で絳峯三等陸佐に声を掛ける。

「絳峯三等陸佐、使ってみてください」

 そう言って小太刀を持ち替えて柄を差し出す。

 一瞬逡巡するが頷いて手を伸ばし小太刀を受け取った。

「お借りします」

 繰り返し僕の戦闘を見ていたからか絳峯三等陸佐の動きはスムーズで危な気の無い物だった。

 きっかり十五回刀を振った所で幽体は消滅した。

 これで誰がやっても同じ結果に成るのが証明された。

 絳峯三等陸佐は戻ってきて小太刀を返そうとするが、僕の呼吸が乱れたままなのに気が付いたのかそのまま出口まで先頭を歩いてくれる。

 有り難い、正直握力がだいぶ怪しく成っていた所だった。

 十五分程歩いて迷宮を出た所で小太刀を返されて鞘に納める。

「祟目さん、ありがとうございます! これで間に合せられるかも知れません!」

 やはり絳峯三等陸佐も僕と同じ懸念を抱いていたらしい。

「絳峯三等陸佐、少しはお役に立てましたか?」

「勿論です、これで反攻作戦に出られます」

 その言葉に、彼を通して数万の味方を得たのだと思うと安堵の溜息が出た。


 心折れたシーカーがこの情報でどれだけ戻って来るかは分からないが、少なくとも自衛隊の役に立てた事、あの時の恩を少しでも返せたなら良かった。

 恩、感謝、憧れ、様々な事が身の内を駆けまわって言葉が出無く成ってしまう。

 思わず深く頭を下げて絞り出す様に思った事を口にした。

「あの時、僕は自衛隊の方々に救われました、お役に立てたなら幸いです。少しでも恩を返せたならそれだけで……」

 頭を下げていると涙腺が緩んで涙が零れそうに成って慌てて頭を上げる。

 少し声が震えていたかも知れない。

 何となく場の雰囲気が生暖かい気がした。


 買い取り所に戻りこの後の動きを打ち合わせる。

「自分はこのまま報告書を上げねば成りませんので、大木さん、祟目さんこれで失礼します」

「私も迷宮庁に報告を上げますので、この辺りで」

「私もシーカーSNSで情報を流す準備をします」

 買い取り所が閉まっていて更衣室が使えなかった為、車に戻ってから装備を解き、家路に付いた。

 疲労が蓄積し過ぎて何をするのも億劫だった。

 食事を作る元気も無かった為、途中でコンビニに寄って弁当とサラダを買って自宅に戻る。

 部屋に上がると肺に溜まった疲労混じりの溜息を吐き出す。

 刀を仕舞ってリュックを下ろす。

 追加で拾った金の粒が四つ、無くさない様に仕舞ってからリュックを下ろしソファーに腰掛ける。

 疲労が溜まり過ぎて油断すると寝てしまいそうだ。

 取り敢えず寝落ちしてしまう前に羽生に今日の検証結果と自衛隊、迷宮庁にその情報が上がる旨説明文をメールしておく。


 メールをし終えた所で重たい体を起こしてPCデスクに移動して鼻背デバイスを接続する。

 戦闘の部分だけを切り出して動画編集を行う。

 少し時間が掛かるがBGMを付ける必要も無いので弁当を食べながら作業を進める。

 完成した動画を繰り返し見て問題無い事を確認して動画サイトに投稿する。

 シーカーの集まるSNSで幽体に効果的な武器の情報と動画のアドレスを書き込む。

 必要な事を終え風呂に入り、装備を絞ったタオルで綺麗に拭き上げて明日の準備を終える。

「疲れた……寝よう」

 もう目を開けているのも辛い、風呂に入った直後だから余計かも知れないが。

 寝る準備を済ませてベッドに潜り込んで瞼を閉じる。

 迷宮の暗闇は怖いのに、瞼を閉じた夜の闇は心地良い、そんな事を考えている内に沈み込む様にして眠りに落ちた。


 翌朝、貧血で怠い体を起こして日課のジョギングを行いシャワーを浴びる。

 今日は迷宮には篭らずに棗の所に顔を出して、棗と棗の父親の宮司に相談とお祓いをお願いする予定に成っている。

 もしかすると相談が長引く可能性も有る為、早めに向かう事にする。

 卸したての下着やシャツを着込み、スーツを着て荷物を抱えて車に乗り込んだ。

 暫く車を走らせて目的地に到着し駐車場に車を停める。

 夏も過ぎたとは言えまだ日差しは強く、神社を囲む木々は力強い緑の葉を揺らしている。

 石畳の道を端に寄って進んで行く。

 鳥居に一礼して境内に入る。

 真っ先に拝殿で参拝をしてから社務所に向かう。

「おはようございます、祟目と申しますが権禰宜(ごんねぎ)の木村さんはいらっしゃいますか?」

 社務所で何か帳面に書き込んでいた巫女さんに声を掛ける。

「おはようございます、ただいま呼んで参りますので、少々お待ちください」

 どうやら僕が尋ねてくる事を伝えていてくれた様でスムーズに話が通った。

 数分待って居ると浅葱色の袴の装束を纏った棗が現れる。

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