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第三章 第五話

 土曜日、仕事の合間に考えに考え抜いた組み合わせを試しに迷宮に赴いた。

 完全武装をして迷宮に入り、幽体を探す。

 潜っているシーカーが少ないのか、入って少し歩いただけで幽体と遭遇した。

 小太刀に手早く水晶で出来た数珠を巻いて幽体に切りかかる。

 今回は間合いが近い事も有って反撃されるリスクを考慮して、ヒット&アウェイに終始する。

 一太刀浴びせたら後ろに飛び退きを繰り返し斬り付ける事二十三回で幽体は消滅した。

 この事から小太刀の効果は大して乗っていない事が分かる。

 金の粒を拾って暫く思案する。


 今度は数珠を柄部分に巻いて、接触部分にしか効果が無いのか、武器全体で効果が表れるのかを検証してみる。

 二十三回、今までの半分以下の手数で戦えるのは有り難い。

 これがもっと少なく成れば全国の迷宮の間引きも上手く行くかも知れない。

 氾濫が起きたら恐らく数万人規模の被害が出る、それが予想出来てしまう位幽体は厄介だ。

 壁も床も無く透過してくる、攻撃は激痛を伴い内出血と言うが全身に攻撃を受ければ出血性ショック死すら起こす。

 今まで以上に慎重さを求められる現状はシーカー活動を思い切り阻害している。

 これを機になんとか打開しなければならない。

 そう考えながら通路を進んでいると新たな幽体が壁から生える様にして出現する。

 全身に酸素を行き渡らせるイメージで大きく息を吸って幽体に飛び掛かる。

 柄に巻いている数珠が邪魔で握りが安定しない。

 その煩わしさに最短で倒し切る為に斬って斬って幽体が攻撃動作を起こすまで斬り続けてから間合いを取る。

 数回、そんな際どい攻防を繰り返すと幽体の輪郭がぼやけて消失する。


 大きく息を吐いて金の粒を拾い上げる。

「二十回か……、柄に巻いているだけでも効果が出るか……」

 効果は出るが、もっと劇的な効果が欲しい。

 これでも最低限の効果は有るとは言え、間引き活動には足りない可能性が有る。

 取り敢えずもう一段追加して効果が乗るかも検証してみる。

 針金で柄に括り付けて何度か振って外れないかを確認して奥に向かって歩いて行く。

 通路の奥で薄ボンヤリと漂っている幽体を視界に捉える。

 腰を落として一瞬脚に意識を傾けた後、一気に飛び出して間合いを詰める。

 右手に握る小太刀からシャランシャランと言う透き通った鈴の音を鳴らしながら幽体に一太刀を入れる。

 銀線が走る度に澄んだ音が洞窟に響く。

 その場違いな音に合わせて斬り、離れ、再び斬る。

「十五回か……、相乗効果は武器全体をカウントする訳だ」

 ポトリと転がる金の粒を拾いながら言葉が口から零れる。

 要素を一つ増やすだけで効率化が進むのが分かった。

 つまり全要素を乗せれば今までと全く違う結果が出る事がハッキリした。

 それでもまだ攻撃回数が多いのだが、これ以上乗せるのが難しい。

 まあ、今の段階でも以前に比べたら難易度は雲泥の差が有る。

 今日の所はこれでよしとして間引き作業を進めていく。


 そこからは今までが嘘の様に間引きが順調に進んで行った。

 夕方まで間引き作業を続けて総数二十六体の幽体を駆除出来た。

「新記録、と言うか日本記録かも知れない」

 そんな事を考えつつ買い取り所に足を運ぶ。

 買い取り所では金純度測定器で純度を計ったらそのまま買い取りをして貰える様に成っている。

 この辺りも迷宮の変遷に合わせて変わってきている。

 相変わらず閑散とした買い取り所の窓口に向かい集めた粒をトレーに置く。

「お疲れ様です、ただいま純度を計りますのでお待ちください」

 そう窓口で言われて待っていると数分で買い取りが終わる。

「随分と多く駆除されたんですね」

「ええ、効率的に駆除出来る方法が見付かったので」

「え?本当ですか?」

 軽い世間話のつもりだったのだろう、驚いて聞き返してくる。

 窓口の女性は驚いた顔から真剣な顔に変わる。

「具体的にお伺い出来ますでしょうか?」

「構いませんよ、今夜にも情報は流すつもりで居ましたから」

「少し……掛けてお待ちください」

 椅子に座って待てと言われてそれに従う。

 恐らく上司か迷宮庁に連絡をするのだろう。

 疲労感も有って腕組みをしながら目を閉じて体を休めていると話し掛けられた。


「お待たせいたしました、こちらへどうぞ」

 そう言われて窓口の脇から内側に招かれる。

 どうやら応接室かどこかに案内されるらしい。

 窓口の人間に従って進んで行くと案の定応接室の札が掛かった部屋に通された。

「掛けてお待ちください」

 そう言って窓口の人間は出て行ってしまう。

 立っていても仕方が無いのでソファーに腰掛けて兜と面頬を外して待機しているとドアがノックされる。

 ドアが開いて二人の男性が部屋に入ってくる。

 一人はスーツ、一人は白シャツの軍服と言うのだろうか?夏服を着た自衛官だ。

 見た感じ二人共に三十代前半だろうか。

 ソファーから立ち上がり挨拶をすると相手も挨拶を返してくる。

 どうも、自衛官の方相手だと緊張してしまうのは過去の経験に起因しているらしい。

「お掛け下さい、お話をお伺いします」

「ありがとうございます」

 再びソファーに腰掛けて深呼吸をする。

「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか? 私は東京迷宮買い取り所、所長の大木、こちらは陸上自衛隊の絳峯(あかみね)三等陸佐です」

 スーツを着た人物が口火を切った。

「祟目奉と申します」

「迷宮のモンスターの効率的な駆除方法を発見した、とお伺いしましたが、それは本当でしょうか?」

 二人共真剣な表情で詰め寄ってくる。

 現状に危機感を感じているのが良く分かる。

 つまり僕と同類だと言う事だ。

「はい、経緯は後回しにしますが端的に言えば武器に依存する事が分かりました」

「武器ですか、具体的には?」

 絳峯三等陸佐の視線が怖いぐらいに据わっている。

「銀、塩、数珠、水晶、金剛杵、瑪瑙、鈴、刀、これ等で一体を駆除する為に必要な攻撃回数に変動が出た事が確認出来ました」

 僕の言葉を聞いて二人共眉間に皺を寄せて言葉の意味を吟味している。


「先週友人と一緒に検証した所、鉈で九十回攻撃して漸く倒せると言われました。私が使う武器はこの小太刀です。そして私は五十回で倒していたんです。つまり個々人で相違が有った事に気が付いたのです。そこで思い付きでしか有りませんでしたが、幽体に効きそうな物を集めてみました」

 そして先週と今日の検証結果を話す。

「そんな事が有り得るのですか? 絳峯三佐」

「分かりません、そんな話は聞いた事が有りませんから」

「単純な思い付きですが、ずっとヒントは有ったのです。――ニホンオオカミです」

「と言いますと?」

「何故、絶滅したニホンオオカミが出現したのか? 幽霊の様なモンスターが出現したのか? 世界中でモンスターの相違が発生するのか? です」

「良く分かりません、どう言う事でしょう?」

「迷宮はその土地の記憶を吸い上げてモンスターを産んでいる可能性が有る、と言う事です」

「少し理解の範疇を越えた仮説に聞こえますが」

「そうですね、普通なら正気を疑われると思いますが、まず根本的に迷宮その物がSF染みた代物だと言う事を土台に考えないといけません」

 そこからは映像で見て貰った方が確実だろうと判断してPCで動画を見る事を提案する。


 すると大木氏が内線電話でノートPCを持ってくるように言いつけて数分後には応接室にPCが設置される。

 僕の鼻背デバイスを繋いで今日の駆除作業の映像を再生する。

 そこに映る映像で僕が戦闘で大幅に時間短縮した戦闘を見て二人は驚きを隠せない様だった。

「とは言え、この映像だけで信じて頂けるとは思って居ませんので、お二人の見ている前で再検証したいのですが、どうでしょうか?」

 見終えた所で二人に直接目で見る事を提案する。

「そうですね、報告を上げるのに自分で見ないといけません」

 絳峯三等陸佐が同意し、大木氏も頷いたのを確認してソファーから立ち上がる。

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