第三章 第三話
あれから酷い貧血も徐々に良く成り週末日曜日、羽生と合流して持ち寄ったオカルトグッズを買い取り所の更衣室で広げていた。
樫の杖に使う木材を買って、色々な物を括り付けて槍の様にして試す事に成った。
持ち寄ったのは数珠、水晶、岩塩、銀のアクセサリー、金剛杵、火打石だ。
どれが効果的か分からない為、検証と検討を繰り返す事に成る。
迷宮に入りゆっくりと進んで行くと壁から生える様に幽体が現れる。
その不気味さと、攻撃を受けた時の痛みの記憶に全身が総毛立つ。
先端に銀のアクセサリーを括り付けた槍を構えて突いては引いてを繰り返す。
純粋に効果が有るか?効果が有った場合何回攻撃すれば良いのかを正確に測る為に一突き一突きがハッキリ分かる様に連続では攻撃しない。
腰を落とし、左脚を前に構え、右腕で槍を送り出す様にして突きを放つ。
不思議だ、剣道、剣術は右足が必ず前なのに、槍は左脚が前に来る。
念の為色々と調べて写真や動画で確認したがどれもそうだった。
「ふっ!」
強く息を吐きながら突き出して、後ろに飛び退き、踏み込んで突きまた離れる、を繰り返す
二十分程を掛けて漸く一体の幽体を駆除出来た。
緊張と成れない得物で疲労感は普段より強い。
「何回だった?」
振り返って羽生に確認する。
「六十回だね」
「刀より多い、か……」
「じゃ、次は俺が数珠でやってみるよ」
「了解、カウントする」
そう言って羽生と位置を変わり次の幽体と遭遇するまでに槍の先を交換する。
次は岩塩で試してみようとワイヤーで樫の棒に括り付ける。
少し進むと今度は地面から湧く様にして幽体が現れる。
幽体の厄介さの一つにどこに潜んでいるのかが見当も付かない事、だ。
休んでいる時に突然背後から攻撃される事も多い。
それがシーカーの消耗をより強くさせる環境を作っている。
羽生が数珠槍を構えて突き出し下がりを繰り返す。
僕と違ってナチュラルな身体能力で今まで戦ってきた為だろう、少しぎこちない。
それでも大怪我と隣り合わせのこの状況で、少し(・・)で済んでしまう所が彼の凄い所だろう
才能の差を思い知らされる。
そんな事を考えながら羽生の攻撃回数を計り続ける。
丁度五十回を数えた所で幽体が輪郭を失い消えていく。
「五十回だね、刀と同じ」
そう言うと羽生とまた位置を代わり奥に進んで行く。
「次は何を使う?」
「僕は岩塩にした」
「了解、じゃ俺は金剛杵を試してみるよ」
「了解、カウントお願い」
そう言って居る内に次の幽体が壁から現れる。
本当に不気味な奴等だと不快感に眉間に皺が寄る。
そこからは棒に括り付ける物を入れ替えながら攻撃回数を確認して行く。
取り敢えず一巡した所で迷宮を出て改めて表にする。
迷宮の出入り口の脇に有るベンチに腰掛けて重たいので兜を外す。
梅雨の曇天の下とは言え、迷宮の中の圧迫感と閉塞感から解放されて力が抜ける。
「取り敢えず、差は出たのは確認が取れた訳だけど、どう思う?」
「ちょっと新発見では有るよね、銀、塩、数珠、水晶、金剛杵、火打石、回数はどうなったんだっけ?」
「岩塩が効果はあまりなくて、銀と火打石が六十回、数珠水晶金剛杵が五十回って感じだな」
回数の違いを頭の中で吟味して口を開く。
「本当にオカルト要素が入っているって事だね、数珠、水晶、金剛杵か……」
「いや、それと日本刀もだな」
そう言われて確かに僕の小太刀も五十回だったと思い出す。
それらから導き出される答えは「オカルトが有効」と言う意味の分からない答えだった。
さて、検証出来る物は一通りやり終えた訳だが、このままだと五十回攻撃する以上の効果的な方法には行きつかない。
「次の段階に進もうか。数珠、水晶、金剛杵、日本刀でどれだけ効果的な攻撃手段を確立するか、な訳だけれど……」
とは言え効果的、効率化と言われても正直困るのだ。
思い付くのは金剛杵を水晶で造ったら相乗効果が有るかも?位だ。
「金剛杵を水晶で創る、位しか思い浮かばないんだけど、羽生は何かアイディア有る?」
「金剛杵を水晶で創って槍の穂先にする、って意味なら理解は出来るけど他って言われてもな……」
数珠で金剛杵を作るのは無理、金剛杵で何かを作るのも無理、水晶で数珠は作れる、水晶で日本刀を造るのは無理。
コストと手間を考えると水晶の数珠を使うのが一番早い事には成る。
と言う事で、車でパワーストーンのお店に行く事にした。
装備を全て外して車に乗り込んで十五分程走った、駅前に有るパワーストーンのお店で天然水晶の数珠を購入して戻ってくる。
「天然水晶ねぇ……、人工の水晶ってなんだ?」
「ああ、天然水晶は見た通り中に気泡とか傷とか断面が内包してる事が有るんだよ。で、人工水晶は天然水晶を高圧力で溶かして再結晶化させた純度が物凄く高い水晶の事だよ」
「へえ、詳しいな」
「これでも研究職だしね。マテリアルは一通り頭に入ってるよ、まあ専門は鉄だけどさ」
そんな話をしながら再び現代具足を装着し直して迷宮に入る。
棒に水晶の数珠を巻き付けて幽体を捜索する。
少しの間休憩して居たからか、入り口付近に一体居るのを発見した。
深く息を吐いて神経を集中させる。
無言で数珠槍を突き出して飛び退き、踏み込んで飛び下がる、を繰り返して攻撃を繰り返す。
心の中で、もしくは頭の中で攻撃回数を数えながら間合いを取りながら攻撃を繰り返す。
攻撃が十を越え、二十を越え、三十と二十の間で幽体は動きを止める。
幽体の輪郭がぼやけて、崩れて、無く成り、小さな粒が地面に落ちた。
「え?」
効果検証の為に嫌になる位槍を振るうつもりで居た僕は想像の半分で消滅した幽体を見て頭の中が真っ白に成った。
「は? 二十五回? 今までの半分?」
羽生も想像して居なかったのか驚きの声を上げた。
羽生の声で真っ白な頭の中に僕自身が戻って来た気がする。
「水晶と数珠の組み合わせは相乗効果が有る、と……」
そう呟いて思考が思案に傾く。
「いやいや、ここで考え込むな、一端出るぞ!」
羽生に肩を掴まれて迷宮内で無防備に立ち尽くす危険な行為をしていた事に気が付いて、彼の後を追って迷宮を出る。
迷宮の外はあれから然程時間も経っていないにも関わらず雨が降っていた。
「なあ、二十五回だったよな?」
羽生も僕と同様に意外な結果に動揺しているらしい・
正直、今日の検証その物が馬鹿馬鹿しい思い付きだとしか思って居なかった。
それが斜め上の結果に進んで行ったのだ、驚くのも無理はない。
「ちょっと、これは大事件だと思う……、早く広めなきゃいけない種類の情報なんだけど……」
「誰が信じるかって話に成るな、どう考えても与太話で聞き流されるぞ……」
動画を公開してシーカーの共通認識にするのも手では有るのだが、現状で幽体と言う厄介極まりないモンスターに水晶や数珠で殴れと言っても誰も試しはしないだろう。
「祟目は確か迷宮関連で論文を出してるよな?」
「ん? うん、物質の硬度靱性強度変化の論文だけど」
「モンスターに効果的な武器とかなんとか名前を付けて論文にして発表は出来るか?」
「出来るけど、その為のデータが必要に成る、その為に二百回は水晶数珠で攻撃して誰がやっても同じって証拠資料が必要に成るよ」
一般的には知られていない話では有るが、論文の厄介な点は「誰が検証しても同じ結果に成る物」が求められている事だ。
そして幽体はアジアに出現するが欧米では出現しない、つまり検証がそもそも地域に因っては出来ないのだ。
こうなると学術として認定されるかが不透明と言うより、恐らく認められないと言う事だ。
「だから、この場合訴えかける手段には成らないんだよ、他のアプローチを考えないと……」
「アプローチって言われてもな……」
「今日は切り上げよう、アプローチ方法を考えないと」
そう言って買い取り所に戻り回収した金の粒を売却し羽生と折半する。
「取り敢えず俺も考えてみるよ」
「僕も考えてみる駆除効率を上げる方法を」
買い取り所の更衣室でも話を続けているが具体案は出ず、仕方なしに今日は解散と成った。
装備品をリュックに詰めて建物を出て駐車場に向かう。
その間もあれこれ考えるがなかなか難しい。
ふと振り返って買い取り所を見るが活気が無いと言うか、人間の動きが無さ過ぎて外から見ても煤けた印象を抱く。
「シーカーが減ってるから仕方が無いか……」
第二次変遷からこっち、ほとんど稼げていないのが痛い。
その前はかなり稼げていたので、そのギャップも有ってモチベーションが上がらないシーカーも多いと思う。
特に幽体は犠牲者が多発しているから、シーカーが慎重に成るのは当然だ。
怪我すれば数日は動けない、倒す為に手間が掛かり過ぎる。
この二つの問題をクリア出来なければ前に進まない。
「棗の知恵を借りるべき、か」
なんと言うか、幽体に対する知識も無ければオカルトの知識も無い。
少なくとも宗教関係の知識が必要な気がする。
このまま顔を出そうかとも思ったが、汗を掻いて埃にまみれて挙句に本身を持ち込む訳にもいかないと思い直す。
一度戻って身綺麗にしてから連絡をしてみる事にする。
車を駐車場に停めて部屋に戻る。




