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第三章 第一話

 あれから一年と少し。

 僕は大手商社の研究室に就職した。

 当然ながら週末シーカーとして活動も続けている。

 貯蓄も出来たし、去年は氾濫も起きなかった。

 棗と綵が結婚をし、今は本格的な修行に入っているらしい。

 僕は僕で卒論の準備期間が十分に取れた為、英訳した物を寄稿して学術誌の誌面にも乗った。

 研究は今でも続けているし、充実した日々を過ごしている。

 日本国内は順調だった。

 その空気に踊らされて油断していたのだと思う。


 そんなある種楽観的な事を考えている所で変遷が起こった。

 再び地面が光り、迷宮内で出現するモンスターが一変した。

 世界中で同日、同時刻に変化が起こった。

 今度は前回の変遷よりも変化も相違点も大きかった。

 モンスターの種類が大きく違った。

 日本では半透明で宙に浮き、人型で漂う異様な存在。

 オカルト的な言い方をすると幽霊、少し凝った言い方だとアストラル体と言えば良いのだろうか?

 兎に角、超常の物が現れた。

 アメリカではゾンビが出現した、ヨーロッパではスケルトンが出現した。

 地域で様相の異なるモンスターが跋扈する様に成った。

 厄介な事に、倒せ無い訳では無いが倒し切るのに時間と手間が掛かった。

 僕自身も何度か遭遇し戦闘に成ったが、苦戦した。

 倒す為に何度も切り付けたが効果が見られなかった。

 都合五十回斬り付けて漸く一体の幽体を駆除出来る位に手間取った。

 そして犠牲者や脱落者が続出した。


「本当にしつこい!」

 思わず愚痴を通り越して罵る様に言葉を発した。

「いくら鍛えているにしても……連続で五十回も刀を振る練習はしてなかったからなぁ……」

 思わずぼやいてしまう。

 精神的な疲労が溜まっているのだろう。

 独り言が最近増えた気がする。

 今日だけで八体の幽体を駆除したが、鉄の刀を四、五百回振るのは流石に筋力的にも体力的にも厳しい物が有る。

 ましてや向こうの攻撃は一度でも当たれば悶絶する程の痛みとダメージが有る。

 集中力と体力の消耗が激し過ぎる。

「今日はもう無理だ……」

 疲労が溜まり過ぎたのも有るが、一回攻撃を受けてしまった事が大きい。

 背中の傷が熱を持っている。

 押し寄せてくる痛みに眩暈すらする。

 重たい足を引きずる様にして僕は迷宮を出た。


 迷宮を出た所で我慢の限界だったのだろう、痛みが耐えられなくなった。

 買い取り所に行く前に隣に併設された治療所に向かった。

 現代具足が重たく感じる。

 防具を透過してくる為に防具を着用する意味も無いが、時折狼も出る為に防具を手放せないのが厄介だった。

 刀を鞘に納めてトボトボと歩いて行く。

 迷宮の外は雨が降っており少し濡れた。

 既に梅雨に入って湿気と暑さが鬱陶しく感じる季節だ。

 そんな感傷も相まって気分がささくれ立つ。

「すいません、お願いします」

 治療所の建物に入って受付にシーカー免許を預ける。

 痛む体に鞭打って現代具足の装甲パーツを外してリュックに詰めていく。

 流石に鎧姿で治療は出来ないから、と言うのも有るが動く度に擦れて痛むのだ。

 暫くすると名前を呼ばれるので指定された処置室に入る。


「お願いします……」

「はい、今日はどこをやられました?」

 もう顔馴染に成った医師で確か(とばり) (あい)と言う女性だ。

 シーカー連中に評判の美人だが、正直この痛みの最中そんな事を考えられる他の連中は凄いのか馬鹿なのか良く分からない。

 痛みに顔を顰めつつ攻撃を受けた場所を答える。

「背中です」

「はい、では脱いで見せて下さい」

 そう、幽体はイメージの通りどこにでも現れるし、壁を抜けてくるのだ。

 今回も休憩中に背中を壁に預けて水を飲んでいる時に背中を攻撃された。

 幽体の攻撃は防具を完全に透過して直接体に傷を付ける。

 促されるままにツナギの上を脱いで上半身を露出させる。

 自分ではその傷は見えないが今までも何度か受けているので想像は付く。

 攻撃された箇所が毛細血管を破壊されて内出血するのだが、それが広範囲に出来るのだ。

 帯状疱疹の内出血版と言うと分かり易いかも知れない。

 内出血の量もそれなりなので貧血に成る人間も居る位だ。

「かなり広くやられましたね、取り敢えず血を抜きますね」

 そう言うと浮いた皮膚に注射針を刺して溜まった血をトレイに排出する。

 血の臭いが処置室に立ち込めた。

 数分間血が流れ出続け気分が悪く成る。

 今回は今までになく広範囲にダメージを受けたらしい。

 貧血の時の様な眩暈がする。

 歯を食いしばって、体が動かない様に力を入れるが、ふらふらするのは、完全には抑えられなかった。

 肩を掴まれ体を支えられた。

「祟目さん、あと少しで終わりますからね、頑張ってください」

「はぃ」

 痛みと貧血で答える声にも力が入らない。

 目を閉じて考える事を放棄する。

 暫くして血は抜けたのだろう、何か動きが有るのを感じる。

「祟目さん、祟目さん聞こえますか?」

「あ、はい、すいません大丈夫です」

「ちょっと貧血気味なので点滴しておきましょうか?」

「ええ、はい」

 ぼんやりとした頭で何か聞かれたので答えたと言う感じだった。

 あ、いや点滴するか聞かれたのか、受けておく方が良いだろう。

 処置室のベッドに寝かされ静脈に針を打たれて透明な液体パックが傍らに吊るされる。

 五分か十分かすると意識が少しハッキリしてきた気がする。


 この治療所は変遷後、狼相手に怪我人が続出した為に迷宮の側に併設された国営の治療所だ。

 シーカー専門で、迷宮での怪我のみしか診察も治療もしないが無料で受けられる。

 この治療所が出来るまでの間に数十人単位でのシーカーの怪我人が出た。

 自衛隊の中でも怪我人は珍しくないと聞く為、相当に手間取っている事に成る。

「すいません、えっと少し聞いても良いですか?」

 気に成った事を聞いてみようと思い口を開く。

「ええ、良いですが、なんでしょう?」

 少し硬い声で帳医師は返事を寄越す。

「一日に何人のシーカーが担ぎ込まれていますか?大体の数で良いんですが」

「はあ、そうですね、五人六人程でしょうか、もっと多い時も有りますが」

「そうですか……、やっぱりどのチームも手古摺ってるか……」

「何か気に成る事でも有りましたか?」

「いえ、間引きの数が足りなければ氾濫が起きますから。幽体は壁も透過して来ますし、シェルターも意味を成さない可能性も有るので」

「そうですね、まだ変遷から間もないですけど、心配ですね」

 このまま間引きの数が低迷したままだとほぼ確実に氾濫が起きる。

 周辺でどれだけの犠牲が起きるか分からない。

 兎や狼とは比較に成らない被害が出るのは目に見えている。

 この辺り一帯がゴーストタウンに成ってしまうかも知れない。

 そう思うと故郷の寒々とした風景を思い出して切なく成った。


 寝ている間に点滴を終えていたらしい。

 自然に起きるまで寝かせてくれていたらしい。

 医師に礼を言い治療所を後にする。

 まだ痛みは有るが、傷口を圧迫しなくなっただけ楽には成った。

 換金所で金の粒を現金に換えた。

 何故幽体からは純金が出るのだろう?

 不思議でならない。

 兎は毛皮か肉、狼も毛皮だったのに、幽体は純金の粒と関連性が見えて来ない。

 何かを見落としている気がするが、ナニカが分からない。

 纏まらない思考を、頭を振って追い出して、家に帰ろうと車に乗り込んだ所でデバイスに着信が有った。

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