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第二章 第十二話

「そう言えば聞いてなかったけど、余所のグループと組んでみてどうだった?」

「うん、三十分経たずに別行動に成ったよ」

 棗の問いに即答で返すと二人揃ってズルリと体を傾かせる。

「三十分って短すぎだろ? それ」

「奉、貴方の思い切りの良さは良い所だと思うけど、それでも早過ぎない?」

「ん~、そうは言っても戦闘のスタイルが違い過ぎて組めなかったんだよ」

 苦笑しながら向こうの戦い方と僕の戦い方の相性の悪さを説明する。

「人数居て装備が同一規格で揃えられたらそうなるか……」

「表現が難しいわね、盾を構えて一列に並んで攻めるスタイルと、壁に背中を預けて二刀流で迎撃、言葉にするとどちらも矛盾してる様に聞こえるのがねぇ……」

 確かに盾を構えて攻め込むスタイルと、背中を壁に付けて攻撃回数を稼ぐスタイル、

 攻撃的受動姿勢とか受動的攻撃姿勢とでも言うのだろうか?

 結局動き方が根底から違うから合わせる方法が今でも思い付かない。


「基本的に兎も狼も攻撃的でこっちが待ちの姿勢でも向こうが飛び掛かってくるから、こちらから飛び込む事って少なかったもんな」

「うん、飛び掛かってくるのを確実な攻撃で駆除するってスタイルだったしね」

「兎しか出なかった時は盾なんて誰も使わなかったし、狼が出てから私が抜けて、戦い方が待ちに傾向するのは当然ね」

 戦闘スタイルの噛み合せなんて考え付きもしなかった。

 これで余程戦闘スタイルが似ていない限り組むのは難しいだろう。

 もしくは十人単位での大所帯で役割分担が出来るなら、だが狼の群れが複数同時に来ない限り大所帯で活動する意味も無い。

 何か迷宮内で変化が有るまではこのままソロで間引き活動と研究資材の育成を行う事に成るだろう。


 あれこれ話している内にオーダーしたスープやドリンクが提供される。

 熱々のスープを冷ましながら胃袋に運ぶ。

 最後まで残っていた微かな胃痛が失せた気がする。

 スープの塩っぽさを旨いと感じるのはきっと一日迷宮で活動し続け、その間ミネラルウォーターで水分補給していたからだろう。

 胃袋が温まったら落ち着きを取り戻せたように感じる。

「もう落ち着いた?」

 綵の確認の声に笑顔を浮かべて頷く。

「取り敢えず奉は彼女作れよ、こういう時に誰か傍に居ないとキツイって分かったろ?」

 棗の言葉に苦笑を浮かべる。

 確かに二人の存在に救われたし、もし僕に恋人が居て話を聞いてくれたら簡単に落ち着きそうだと自分でも思うが、

 恋人を作る切っ掛けとしてそれはどうなのか? とも思う。

 前回の反省も込めて、告白されたから付き合いに応じるのではなく、心惹かれた人と仲良く成ろうと思っているだけなのだが。

 言葉にすると至ってシンプルなのに難しい物だと実感する。

「恋愛か、つまらない男って言われてしまうとなかなかね」

 そう苦笑すると二人が苦い顔をするのが見て取れた。

 大学も大分落ち着いた三回生に成るとあまり真新しい出会いも無いし、アルバイトをしている訳でも無いから、大学以外の時間でも出会いは特に無い。

 土日は卒論用の鉄板の為にもシーカー活動は休めない。

 そう考えると当分色恋とは縁が無さそうだと思った。


「奉、私の友達紹介しようか?」

 綵の提案に首を左右に振って遠慮する。

「当分卒論用の資材集めで土日とか平日の講義の無い日は迷宮に入らないとだから。時間的に厳しいと思うんだ」

 硬度上昇率の統計データは日数が掛かる。

 一日中駆除活動をするのは疲労が溜まるが、これをやらないと卒業出来ないので仕方が無い。

 それにお金稼ぎも出来るのだから、開き直って三十日分をこなしていく事にする。

 とは言え明日の日曜日に一人で行くのは少し不安では有る。

 朝一で釈放されたかを確認してから決めようと思う。

「なあ奉、明日は俺も行こうか?」

「あの男が釈放されてなければ大丈夫だよ、朝電話して確認するよ」

 棗の優しい言葉に首を振って答える。

 実際、勾留(こうりゅう)されていれば不安は特に無い。

「明日は休みにしたら? 気晴らしにカラオケとかさ?」

「気晴らしか、あぁ温泉に行きたい、行くか、行こう、それが良い、明日は休んで温泉!」

 高速の前言撤回を敢行、明日は休みにして温泉に行く事にする。

「何故二人共突っ伏す? 何故二人揃って残念そうな顔をする? 何故そこで溜息を吐く?」

 棗と綵が同時にテーブルに顔を落とし、顔を上げて表情を歪め、同期した様に溜息を吐いた。

「いやだってさ? 気晴らしでカラオケって単語が出たのに、奉って若者感無いよね」

「良いじゃないか、温泉。一人暮らしの部屋の風呂は狭いんだから、温泉は憩いだよ? 寒くなって来たしね」

「まあ、駄目とは言わないけどさぁ」

 綵の妙に不満そうな声に肩を竦める。

「温泉か、俺等も行こうか?」

「棗が行くなら行く」

 と、二人が僕を余所に盛り上がり始めた。


 しかし、困った事に僕が行こうとしている温泉は渓谷の川縁に有る混浴温泉だ。

 とても恋人以外の女性を伴って行くべき所では無い。

 確かに女性専用の仕切られた温泉も有るが、それなら二人だけで行ってほしいと思う。

「残念だけど、僕が知ってる良い温泉は混浴で野天だから。行くなら二人で行ってね」

 そう言うと二人揃って残念そうな顔をする。

 小さく笑って、デバイスでその温泉を紹介しているHPのアドレスを棗に送る。

 実際、棗も綵も免許も持っているのだから、二人で婚前旅行にでも行けば良い。

 そんな所に伴う方が無粋と言う物だ。

 そんなお邪魔虫に成るのは遠慮したい。

 二人のやり取りに和んでいると胃痛も薄れ、食欲が多少戻って来た。

 改めてメニューから食事を注文し、出来立ての料理を胃に収めてレストランを出る。

「奉、念の為ツナギは普段から着ていた方が良いと思うぞ」

 そう言い残して棗はバイクに跨って綵を連れて帰って行った。

 遠ざかるバイクを見詰めながら感謝の念を二人に送る。

「心配ばかり掛けてごめん、ありがとう」

 そんな言葉が口から自然に零れ、夜の闇に溶けて行った。


 部屋に入って着たままだったツナギを脱いで内側の掃除を行う。

 固く絞った布巾で内側の汗を拭ってハンガーに掛けて部屋干しをしておく。

 今日はこれ以上考えるのは止めようと思う。

 ザッとシャワーだけを浴びて寝る準備をして床に就く。

 枕元の充電器にデバイスを繋いで布団にくるまった。

 暫く寝付けないで寝返りを繰り返していたが、多分一時間も掛からずに睡魔がやってきて眠りに就く。

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