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第一章 第一話

「ふっ!」

 ごつごつとした岩肌に囲まれた洞窟内に、気合の声が響く。床の凸凹に足を取られない様に足の裏で探りながら刃を走らせる。わらわらと群がってくる敵意剥き出しのモンスターを斬り殺していく。右手に持つ小太刀の刃が銀閃を作る度に鮮血が舞う。視線を左右に躍らせながら兎型モンスターを視認し、最短で駆除。思考は既に放棄し、ただ最短最速で処理していく。切っ先で斬り、ブーツのつま先で蹴り、踵で踏み潰す。


 僕は祟目(たたりめ)(まつり)、二十三歳大学生。

 現在、東京に出来た迷宮内部でモンスターの間引きを行っている。

 少し高めの身長と、中の上と言われる褒めも貶されもしない少したれ目のフツメン、小学生の頃から続けている剣術を駆使して活動してる。

 そして友人と一緒に東京の有名な公園の中に発生した迷宮(ダンジョン)、その内部のモンスター駆除をバイト感覚で行っている。

 蟻の巣の様に通路と小部屋の組み合わせで構成され、そして、その洞窟の内部では見知った動物が生息していた。


 西暦二千十六年、世界中で同時多発的に複数の洞窟が突然発生した。

 世界中、同日・同時刻に発生した洞窟も原因不明ながら危険度の低さから全てを放置した。

 それが厄災の凶兆だと誰も気が付かないまま。

 放置した結果、田畑を食い荒らす兎型のモンスターが数十万と言う単位で迷宮の外にあふれ出た。

 周囲の農業は壊滅状態にまで追い込まれたし、小動物サイズでは有ったが人間に攻撃的で軽傷を負った人間も多かった。


 暗視カメラ越しに映る兎型のモンスターの群れを小太刀で斬り続けている。

 二十羽近くは居るだろう、幅四mの洞窟の通路を犇めき(ひしめき)ながら僕達に攻撃を仕掛けてくる。

「相変わらず出る時は出るよね、っと」

 群れの数に思わずぼやく。

「間引きが追い付いてないんだろうな」

 僕より上背で、イケメンで、高校時代からの友人の木村(なつめ)が足元の兎を蹴り飛ばして応じる。

「二人共! 喋ってないで! 真面目にやって!」

 こちらは大学からの友人で、棗の恋人、元気美人の本田(あや)が肩に掛かる髪を揺らしながら薙刀を振るい、僕等を一喝する。

 多少ぼやく程度は許して欲しいと思いつつ、目の前の大群の処理に集中する。


 十分程ですべてのモンスターを処理し終えると地面にブルーシートを広げる。

 倒した兎をシートの上に並べていると一瞬発光し、そしてドロップアイテムに変わった。

 他の兎も次々と光っては形を変えていく。

 鶏肉に近い、ピンク色の肉の塊だ。

 モンスターの特徴は死んでしばらくするとドロップアイテムに変ずる点と、人間に敵意剥き出しで向かってくる点だ。

「今回は全部肉みたいね……、一個二百円だから四千円ね」

 綵がドロップアイテムの買い取り額を計算しながらタッパーに入れて、クーラーボックスに収めていく。


 立ち上がってデニムの裾に付いた砂を払う。

 兎型モンスターは腿肉に該当する部分もしくは毛皮がドロップアイテムとして残る。

 そしてそれを迷宮の外の買い取り所で売るのが僕達ダンジョンシーカーの日常だ。

 三人で一日、七時間程籠って五、六万円程の稼ぎに成る。

 週末限定で、三人で頭割りしても普通のバイトよりずっと割が良い。

 何よりも、モンスターの間引きを怠ると氾濫が起きて近隣の野菜農家が壊滅してしまう。

 人的被害は出ないとは言え、田畑が荒らされて家計に大打撃を受けるのは避けたい

 これは僕達だけじゃない、多くの日本人、いや世界中の人々が共有する事だろう。

 モンスターの氾濫は家計に直結し、消費が冷え込む新しい原因と成った。

 逆に氾濫が起きない範囲で間引きした副産物としての肉は並みの肉よりも美味しいと評判だった。

 国内の畜産業者には打撃だったのだが。

 迷宮と言う新しい要素が加わった社会はまだまだ均衡には遠かった。


「もう良い時間だな、切り上げよう」

 鼻背(びせい)に装着した網膜投射(もうまくとうしゃ)デバイスに触れて時間を確認して二人に尋ねる。

 数年前に発売された携帯端末は網膜に直接映像を投射し、視界モニター化する事で電話やパソコンの機能を持たせた物だ。

 同時に暗視装置の機能も搭載され、両手が塞がりがちなシーカーには必須アイテムと言える。

「そうだな、帰るか」

「了解、十分な成果も出せたしね」

 棗も綵も時間を確認したのか、同意を寄越して立ち上がる。

 大型のリュックを背負い直して迷宮の出口に足を進めていく。


 時折数匹の小さな群れに出くわしては処理をして、出口が遠目に見え始めた所で足元が光った。

 思わず目を閉じるが、瞼を通しても強烈な光が網膜に届く。

 両目を手で覆って光を遮る。

「「「なに!?」」」

 三人が揃って驚きの声を上げる。

「これって迷宮が出来た時に地面が光ったってやつか?」

 棗が周囲を見回しながら呟いた。

 幸い目が眩む前に手で覆ったお陰で視界は直ぐに確保出来た。

「二人共! 急いで出よう!」

 そう言うと全速力で出口を目指して床を蹴る。

 何が起きているかは分からない、でも厄介な事が起きる前兆にしか思えない。

 僕達は遠くに見えていた出口までの距離を数十秒で走破した。

 後十数歩で外に出られると言う所で眼前に異変が起きた。

 洞窟の壁からのそりと二つの影が現れる。

 それは犬に見えた。

これから毎日、19時に投稿致します。

時間やタイミングは読めませんが、閑話休題も入れていく予定でおります。

楽しんでいただけると幸いです。

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