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第二章 第八話

 大学の講義やゼミの合間に通販で取り寄せた素材の加工等を行い、週末を迎える。

 迷宮に入る準備を行い、買い取り所の前でフル装備の状態で待ち合わせをする。

 今日合流するグループは都内の農業系の大学生グループらしい。

 農作物の最大の天敵を駆除する為に集まった東京迷宮で一番大きな勢力との事だった。

 変遷で狼が出る様に成った事でシーカーを辞めたメンバーも多いらしいが、兎も出る事から半数がまだシーカーを続けている。

 東京以外のシーカーは大半が農家か農業関係者で、元々農業関係者は兼業猟師をしている割合が高い。

 農業関係者がシーカーに成るのは、田畑を荒らす鳥獣を駆除する感覚と同質だからかも知れない。

 東京と言う土地で、自衛隊を除いた最も迷宮を直視している人間なのだろう。

 

 今日はその農業系大学生のグループ中の一チームと組む約束に成っている。

 時刻を確認するとそろそろ待ち合わせの時間が迫ってきた。

 特にする事も無い為に無言で立っている自分の姿が建物のガラスに反射して見える。

 全身黒い光沢の有る甲冑を身に纏い、顔にも仮面を付けて腕組みをしている無駄に威圧感の有る立ち姿に我が事ながら引く。

 内腿にも装甲が付いている為に脚を開いて立っているから余計に怖い。

 一端腕を解くが、装甲パーツでポケットに手を入れられずで、手持無沙汰に成る。

 仕方なく左腕を腰に差した小太刀の柄に乗せて右腕をだらりと垂らす。

 ガラスに映った姿をもう一度確認すると無頼な印象で、これも感じが悪い。

 良く考えると待ち合わせで手をポケットに突っ込んでいるのも印象は良くない。

 溜息を漏らして両腕を素直に下ろす事にする。


 そうこうして居る内に先方が到着した様だ。

「祟目さんですか?」

「はい、そうです。羽生さんですか?」

 カーボンと硬化プラスチックの重層プロテクターを装備した同世代の男に声を掛けられ、その声に答える。

 一度周囲と目の前の一団の顔を見て、件の連中が居ない事を確認して面頬の鼻パーツを外して顔を晒す。

 連中に顔を見られるのを避ける為に、失礼ながら面頬もフル装備で待ち合わせた。

「いやぁ、祟目さんの立ち姿は目立ちますね」

 そう笑って羽生氏は僕の姿を繁々と観察する。

 彼の言葉に連れも笑う。

「目立ちますよね、バイクにも乗らないのでプロテクターの存在も思い浮かばなくて」

「思い浮かばなくて、防具が鎧に直結するのも凄いですね」

「デザインは僕がした訳じゃないんですよ?」

 現代具足が悪目立ちしている事を自覚している為に、苦笑して言い訳を口にする。

 正直に言えば格好良いけど恥ずかしい、と言うのが本音だ。

「え? どこかで売ってるんですか?」

「いや、友人が面白がってデザインを起こして……」

 デザインは綵が、装甲パーツの芯の鉄板は鍛冶屋さんが、コーティングの漆塗は僕が分担しているので、自作と言えなくも無いので言葉に詰まる。

 胴部分が前屈した時にスライドして動きを阻害しない構造に成っているのを見て感心される。

 体高が目線より下に来る狼を相手取る事から体がつっかえる胴の形状では不安だった。

 そこで身体の動きに沿ってスライドする機構を綵が考案しデザイン画に。

 そのデザイン画をCADで設計図にして鍛冶屋に持ち込んだ。

 鍛冶屋さんで設計図を手直しして装甲パーツを造り、僕自身が組み上げた。


「着心地と言うか、付け心地はどうですか?」

「悪くないですよ、何度も試作したお陰で全身の関節に一切干渉しないので」

「重そうですけどね、その辺りは?何㎏位なんですか?」

「この当世具足だけで九㎏程ですよ、なので正直重たいとは感じてないですね」

「え? そんなに軽いんですか?」

 重量を伝えると一同驚きの声を上げる。

 確かに当世具足の大半は鉄製で、表面に漆のコーティングをしている事が多い。

 むしろ剥き出しの鉄板で作られる事の方が少ない。

「ええ、これ形を保つ為に芯に極薄の鉄板を仕込んでるだけで、革なので」

「強度的にはどうなんですか?」

 僕の説明の不味さで耐久性に不安を抱いたらしい。

「薄い鉄板を革で挟んで、表面を漆塗りで固めているので硬くて軽いんですよ。漆塗りの御椀って木製ですけど、あの薄さで早々割れないじゃないですか」

「あ~、確かに、意外と頑丈ですよね……」

「現代まで残る伝統には、残るだけの理由が有るんだと思いますよ」

 不要な物は淘汰されるか置き換わる、そう言う物だ。


「さて、そろそろ行きましょうか」

 ここで長々と話し込んでいても仕方が無いと言葉を切り出す。

「ここでお喋りしていても仕方が無いですね。その前に自己紹介をしましょうか」

 羽生氏の提案に従って自己紹介をする。

 僕が名乗ると羽生氏の仲間はそれぞれ恩田、海原、山本と名乗った。

 全員の名前と顔を覚えた所で面頬を付け直して意識を戦闘モードに切り替える。

 迷宮に入る前に最後の打ち合わせを行う。

「どう連携を取るかを見極める為にまず僕が単独で戦いますね。その後は羽生さん達の戦闘を見せて貰って動きのすり合わせをしましょう」

「了解です、少し距離を取ります、数が多かったら声を掛けて下さい、フォローに入ります」

 その言葉に頷いて、腰から小太刀と脇差を抜いて迷宮に足を踏み入れる。

 棗や綵以外の人間に観察される事に緊張と居心地の悪さを感じつつ、今日は他人と集団行動と言う事で研究資材は全て置いて来ている。

 随分と身軽で動き易い。

 土日と言う事も有って、既に他のシーカーが入っているのだろう。

 狼の姿は見当たらない。

 そのまま十数分、歩みを進めて小部屋と通路を探索する。


 何個目かの小部屋から唸り声を上げながら狼が飛び出してくる。背後を取られない様に、即座に背中を壁に預けて刀を構えた。飛び掛かってくる狼を蹴飛ばして、怯んだ別の狼の頭に刃を落とす。蹴飛ばした狼が怒り心頭と言う風情で向かってくる所を脇差で刺し貫く。刃を引き抜く動きに乗せて右手の小太刀で別の狼の頭を切り落とす。一連の流れで仲間を次々に失って怯んだ狼はその場で固まった様に動かない。躊躇いを見せる事無く最後の一頭も始末をして周囲を警戒する。


 辺りを見回して他の狼が居ない事を確認して肺の中身を吐き出す。

 刀を振って血糊を払い落としてから羽生氏に合図を送る。

「祟目さん、ずっと一人でシーカー活動していたんですよね?」

「ここ最近は、ですよ。それまでは三人で活動していましたし」

「祟目さん、一人で十分戦えてますよね?」

「戦えますけど、大きな群れや複数の群れ相手だと体力的に厳しいですよ、やっぱり」

 羽生氏の言葉に彼の仲間達も異口同音に「俺等要らなくね?」と言う言葉が聞こえる。

 正直深い所まで行かなければ単独でも問題は無い。

 ただ、一人での活動の危険性は確かに有る。

 困った事に先週、厄介な事に巻き込まれたのだから。


「大きな群れ?」

「先週、一度に十二頭と戦闘に成りましたよ、あれは参った」

 その時の疲労困憊具合を思い出して思わず呻いてしまう。

「十二頭? えっと……」

 流石に数が多過ぎだと思ったのだろう、二の句が継げないでいる。

「多分群れとしては三つが合流していたのだと思いますけどね。遠吠えで集まって来たので……」

 奥に行けば行くほど狼の群れの数は増えてくるかも知れない。

 狼は仲間を呼ぶ事が有る。

 その時の群れの数は分からない。

 囲まれない様に立ち位置の重要性等を告げる。

「まだまだ知らない事が多いですね」

 そう羽生氏は呟くと彼の仲間も口々に同意している。

 そしてそれは僕自身も同感だ。

 生物の定義は良く分からないが繁殖をしている様子も無く増え、死ねば遺骸の一部を残してその場で消滅するモンスターは僕達人類が関わってきた生物とは違い過ぎる。


「本当に、モンスターも迷宮も分からない事だらけですね。何故迷宮内に持ち込んだ物の硬度が上がるのか、とか」

「ああ、そう言いますけど実際どの位硬く成るんですかね」

「一般的なガラスの硬度が七で、迷宮に持ち込んで調べた限りだと八まで上がったのは確認しましたよ」

「確認したんですか?」

 緑色の視界の中で羽生氏が驚いた顔をする。

「大学の研究で測定したんですよ、今は鉄の靱性の上昇率を調べてます」

「靱性、ですか?」

「ええ、金属の壊れにくさとか粘り強さの値ですね」

「難しい研究してるんですね」

「難しくて、実用性が有るか微妙な話ですね」

 そう説明して最終的には苦笑しか出来なくなる話だ。

 そうこうして居る内に四頭の狼が毛皮に変ずる。

 回収してリュックに収めると今度は羽生氏達が先頭に立ち通路を進んで行く。

 今度は彼等の戦い方を見る番だ。

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