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第二章 第七話

「お邪魔するぜ~」

「お邪魔しま~す、奉これケーキね」

「いらっしゃい、もう出来るから座ってて」

 綵からケーキの入った箱を受け取って、二人に声を掛けて出来た料理をテーブルに並べて行く。

 出来立ての湯気と香りに二人の表情が綻ぶ。

「奉が料理出来るのは知ってたけど、上手いのは知らなかったな」

「ホント、しかもお洒落料理だよ」

「いや、ネットで拾えるレシピだから上手い、の範疇には入らないよ?」

「いやいや、男子大学生でこれだけ作れたら上出来だろ」

「奉の胃袋を掴むってハードル高いよ?」

 味見をしてるから失敗はしていないとは言え、二人からの絶賛を受けるが食べる前に言われても正直困る。

「まあ、温かい内に食べようよ」

 そう促してさっさと食べ始める。


 サラダを食べてアヒージョを取り分ける。

 ほくほくとしたマッシュルームと太刀魚の旨味が舌の上に広がる。

 味の濃いアヒージョにしても太刀魚の旨味は負けていない。

「旨いな、パンチの有る味だ」

「味が濃いけど、そこまでしつこくないのね」

「乳化が上手く出来るとサラサラに成るんだよ」

 かりかりのバケットを千切って汁に浸して口に放り込む。

 マッシュルームの出汁とホタテと太刀魚の旨味が口の中一杯に広がる。

 二人も同じ様にしてバケットを頬張ると無言で食べ続ける。

 兎のシチューにも手を伸ばすと味が染み込んで良い具合だ。

 昨日の味と比べると野菜に味が染みて居なかった分、今日の方が美味しい。

 誘ったのが今日で良かったと内心で安堵する。

 バケットが思いの外早くに無く成る様なので一度席を立って残りのフランスパンもスライスしてオーブンに入れる。

「あ、ごめん、飲み物を出して無かったね、オレンジで良い?」

 二人の何でも良いと言う返事にオレンジジュースとグラスを出して注ぐ。


 あっと言う間に全ての料理を平らげて満足げに溜息を吐いて寛ぐ二人が妙に笑いを誘う。

 食べ始める前まではこちらの顔色をチラチラと盗み見ていた所を見ると大層心配を掛けていたらしい。

 どうやら僕が落ち着いている所を見て安心したのだろう。

 来た時より二人共力が抜けている。

 空いた皿を重ねてキッチンのシンクに置いて、インスタントコーヒーを淹れる為にお湯を沸かす。

 その間に冷蔵庫の中から頂き物のケーキと新しい皿を持ってくる。

 コーヒーを淹れたマグを二人の前に置いて、ケーキを皿に移して思い思いの皿を取った所で声を掛ける。

「取り敢えず向こうはまだ特に目立ったリアクションはしてきてないよ」

 二人が気にしているトラブルの現状を説明する。

「動きが無いって書き込みもそのままなのか?」

「昼間の段階では、ね。今はどうなってるか確認してないけど」

「昼間言ってた弁護士は?」

「無料相談って形で電話はしたけど、具体的に起訴する以外にはこちらから動ける手は無いみたい。向こうが脅迫とか強行策に出たら刑事事件にって話に成った」

「奉は、今は訴えるつもりも無いって事か?」

「そうだね、まず誹謗中傷の削除して貰わないとね。正直積極的に裁判をしたい訳じゃないし、穏便に片が付けば一番良いさ」

 昼間の弁護士との電話の結果、こちらからアクションは起こさない事にした、と説明する。

 取り敢えず二人にも向こうのリーダーからのメールを転送して見せるが不快そうに顔を顰めた。

 説得すると言いながら説得に失敗した挙句、自分達の行動を棚に上げて非難して来ているのだから。

 当事者じゃなくても親友の現状を見たら怒りもするだろう。


 フリーメールを確認してみると件のリーダーから追加でメールが来ていた。

 どうやら僕が動画を投稿したせいで書き込みの削除を拒否しているらしい。

 元々削除するつもりが有ったとは思えないので、今回も放置する。

「追加でメールが来てた、僕のせいで意固地に成ったってさ」

「意固地ってガキかよ……」

「どうするの? 奉」

「歳は知らないけどガキでしょ、どうするかって言う事ならまだ放置かな? と言うか、僕からアクションを起こすと逆に脅迫って言われかねないしね」

 流石に、謝罪と誹謗中傷を削除しなければモザイク無しの動画を公表する、なんて言える訳が無い。

 危ない橋を自分から渡るつもりは無い。

「放置していたらいつまでも解決しないぞ? いつまでも誹謗中傷が残るし、お前が鎧男だって事は東京のシーカーならその内バレる」

「そうよ、早めに決着付けないと駄目よ」

「僕も早く片を付けたいよ、鎧男とかあだ名としてもダサ過ぎて辛い」

 僕の方から前のめりに動くと結果的に損する気がする。

 カウンターの準備を万端にしておくのが最善だと判断している。

「ただ、週末にシーカーグループと組む話は流した方が良さそうだけどね」

「え? なんで止めるの?」

「だって絡まれたら巻き込む事に成るから」

「そこは巻き込んで味方を増やすべきだと思うぞ?」

 棗も綵も僕に味方を作る様に促してくる。

 無論指摘されるまでも無く、狼の群れに毎回一人で飛び込むべきじゃないのは分かっている。

 同時に新しい仲間を作るのに消極的な自分に呆れもしている。


「ん~、そうだね、巻き込むのは申し訳ないけど、投擲武器はシーカー全体の問題に成るだろうしね」

 二人の言葉を受けて暫く考えて予定通りに組んでみる事にした。

 積極的に巻き込む事はしないが予定通りに動いて巻き込まれたら大事に成る様に立ち振る舞う、と言う路線だ。

 考え付く今後の展開は三パターン。

 一つ目が、向こうが飽きて放置、現状維持になるパターン。

 二つ目が、週末直接猛抗議に現れて揉めるパターン。

 三つ目が、襲撃。

 ただし、迷宮に車で行き来している僕の身元を向こうが知っている筈も無く、この部屋や僕の身元を調べる術は無いはずだ。

 故に、直接部屋を襲撃される事だけは無い。

 一番有りそうなのは迷宮内部か、買い取り所で絡まれるケースだろうか。

 ただ、あの連中が人目の有る所で揉め事を起こすとは思えない。

 有るとすれば迷宮内で絡まれて乱闘騒ぎに成るケースだろう。

 その場合、双方が武器を携帯しているので刃傷沙汰は必須になる。

 そんな時に僕側に仲間が居ればどうだろう?

 手出しを控えるか、武器を収めて口論に成る位か。

 一つ思い付いた事が有ったのでPCを起動して通販サイトで複数の買い物をする。


 二人が不思議そうな顔をしているが画面を見て納得した様に頷く。

 衝撃吸収素材と長袖のインナーでダメージを軽減する現代版鎧下を作る事にする。

「備えは必要よね」

「必要無ければ一番なんだけどな」

「良く考えたら硬さと丈夫さしか考えてなかったしね」

 少し考えれば思い付く物と、差し迫った時にしか思い付かない物が有る。

 思い付いたら先延ばしにせずに、優先的に対応策を講じる様に心に決める。

「コーヒーのおかわり要る?」

 取り敢えず話が一段落した所で二人のマグが空なのを見て声を掛ける。

「あ、いやもう十分だ、そろそろお暇する」

「そうだね、あまり遅くまで居るのも悪いし」

 時間を見ると二十時を回っている。

 確かに大学生とは言え月曜日に遊んでいる時間とは言えない。

「了解、じゃ車出すよ」

「いや、今日は良いや。いつも悪いし、今日はご馳走に成ったし、な」

「うん、今日は二人で帰るよ」

「分かった」

 そうこうして二人を見送ってから洗い物をして風呂に入る。


 狭い浴槽に張った湯に身体を沈めて溜息を漏らす。

 急に冷え込んだ事も有り、温かい湯に浸かるのは心地良い。

 もう少し寒くなったら栃木に有るお気に入りの温泉に行こうかと計画を立てる。

 片道二時間は掛かるが渓流脇の温泉で、ロケーション抜群の景観を誇る温泉が有る。

 夏場なら蛍が見られる温泉で有名だったりもする。

「トラブルが片付いたら足が伸ばせる温泉行こう」

 風呂とトイレが別なだけましでは有るが、一人暮らし用の部屋の風呂のサイズなんて知れている。

 就職したら引っ越す事に成る。

 部屋選びが、風呂が基準に成りそうな自分が怖い。

 お湯が温くなるまでたっぷり浸かってからお風呂を出る。

 体を拭きながらリビングに戻るとガランとしている。

 友人が帰った後は急に寂しい空間に成るのが苦手だ。

 少し早い気もするが寝る準備をしてさっさとロフトに上がる。

 布団にくるまりながらネットを覗いてみるが特に削除されてはいなかった。

 デバイスを枕元の充電器にさして部屋の電気を消す。

 真っ暗に成った部屋で睡魔がやってくるのを待つ。

 自分の呼吸音だけが聞こえる闇の中、穏やかな眠りが訪れる。

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