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第二章 第五話

 月曜日、講義も終えてゼミに顔を出して研究資材の使用許可を取る。

 昨日回収した設置した鉄板と一日携行した鉄板の内の一枚の硬度測定を行う。

 結果として、設置した方は変化無し、携行した方は誤差範囲で上昇が測定された。

 設置して変化が無いのかは日数次第の可能性も有るが携行した方は微かな変化は出ている。

 後は上昇率を比較する為に検証用にデータを集める事に成る。

 間引きした数で変動するかの検証の為にも、新たに鉄板を用意する必要も出てきた。


「祟目君、どうだったね?」

 後ろから声を掛けられて振り返るとゼミの教授が立っていた。

 金属学の権威で、鉄鋼分野で僕の研究結果が気に成って仕方が無いらしい。

「やはり迷宮でモンスターを間引く際に携行していた物は変化が有る可能性は高いですね。一日で断言するのは危険ですが、これからもフィールドワークとして迷宮に行く事に成りそうです」

「元々携行した金属の硬度上昇は知られていたのだから驚く事では無いね。で、上昇率は?」

「まだまだ誤差範囲なので何とも。それに鉄の加工難易度で鋼鉄以上の硬度まで引き上げるのには、大量のシーカーに毎日鉄を持ち歩かせる必要が有りますから、現実的とは言えませんよ?」

 生産性と言う面では量が足りなく、性能面では期間が必要な為に実際の所あまり旨味は無い。

 本当に実用化させようとするならば、硬度上昇に作用している要因や元素的な事象を特定しなければ始まらない。

 そしてそれは学生では無理な規模だ。

 正直、シーカーにしか価値の無い情報に成るはずなのだが、どうもこの教授は金属の法則が変わる事が楽しくて仕方が無いらしい。

「祟目君は院には進まないんだったね?」

「はい、そのつもりです」

「惜しいな、この研究は長期間の検証が必要だから進学すると良いのに」

「この研究は将来に生かせる職が有りませんから」

「そんな事は無いぞ? 金属や結晶の可能性はまだまだ有るのだからね」

「研究者として食っていけるとも思えませんし、迷宮研究の一端でしか有りませんよ」

「ああ、君自身がシーカーだったね。ならその道の研究者にだって成れるだろうに」

 迷宮研究を行っている学部も無いのに、食っていけるはずは無い。

 と言うか発表する学会がまず無い。

 必要な事は分かっているが、新分野過ぎて自分には手に余る。

「迷宮庁には週末シーカーでも良いから続けて欲しいと言われていますから。その内論文に纏める様な物が有ればその時に相談に乗っていただけると助かります」

「論文を出して、コメンテーターとして発信してからどこかの大学の講師に成る方が早いかも知れない。大学から新分野で研究費を引っ張るのは難しいからね」

 結局そこからは研究のヒントと言うよりも研究費のもぎ取り方を力説されると言う不毛な時間に成った。


 取り敢えず話を切り上げて取れたデータを纏めて記録し直してはたと気が付く。

 関連文献が無い事に。

 ネットで調べてみても迷宮学に類する論文はモンスターの生態の推論程度で、使える種類が無かった。

 その文献を使った場合、日本の迷宮で出現するニホンオオカミ関連に成る。

 教授に相談すると比較データを他から引用して、自分で調べたデータと照らし合わせる事に成った。

 程々の所で切り上げて帰る事にする。

 気に成る事も有って車の暖気中に、ネットで東京迷宮関連のネット情報を漁る。

 すると出るわ出るわ、鎧男と言うキーワードで僕に対する誹謗中傷が。

 どうやら書き込みは昨日と今日に集中して書き込まれている。

 昨日の案件の事も当事者以外には分からない事まで書かれていた。

 取り敢えず書き込まれた画面をスクリーンショットで画像として保存する。

 このまま放置するのも手だが、それはそれで癪に障る話なので報復を検討する。

 昨日の連中のSNSは特定済みなので、そのグループのリーダーにコンタクトを取る。

 一連の書き込みのアドレスを添付して日付が変わるまでに削除されない場合は徹底抗戦する旨宣言しておいた。


 三十分程してメールに返信が有った。

 相手グループのリーダーから謝罪をされ、説得し削除させる旨記載されている。

 ここからは何を書いても脅迫に成りそうなのでそれ以上のやり取りは控える。

 苦虫を噛み潰した様な顔をしている自覚が有った。

 自宅に帰り付いて荷物を置いたら直ぐに動画の編集を開始する。

 一連の流れの中の狼の駆除部分を削除して、登場人物全員の顔にモザイクを掛けて完成させる。

 作業を済ませると食材を冷蔵庫に入れ、今夜の夕食を作る作業に入った。

 そうこうして野菜を切っているとデバイスに着信が有る。

 名前を見ると棗からだったのでそのまま取った。

「おう、今大丈夫か?」

「うん、料理してるだけだから大丈夫、どうした?」

「いや、単に昨日はどうだったかな、と思ってな」

「昼間綵とも顔を合わせてるんだから、無事なのは伝わってるだろうに」

 心配性な棗にわざと溜息を吐いて見せる。

 棗がこう言う回りくどい言い回しをする時には気が進まないが話すべき事が有る時だ。

 棗関連で何かやらかしたか考えるが特に思い浮かばないので、迷宮絡みだろう。

 迷宮絡みなら件の書き込み以外に無い。

「昨日、迷宮で危ない目に遭ってさ、今夜の日付が変わるまで様子見する事に成ってるんだけど」

「やっぱりあの書き込みお前絡みか……」

「厄介な事にね、馬鹿なシーカーにナイフを投げ付けられて、叱りつけたら誹謗中傷の書き込みだよ、本当に参るね」

「叱りつけた? お前が?」

 声を荒げて叱りつけた事が意外だったらしく、棗は聞き返してくる。

「動画、編集したから見てみる?」

「ああ、ちょっと送ってくれ、見たらまた電話する」

 了解と伝えて編集済みの動画を送信する。

 棗からの着信が有るまで料理を続ける。

 寒い時期に成ったので今日は兎と蕪のクリームシチューを作る事にする。

 アルコールを飛ばした白ワインで兎肉を、煮て灰汁と臭みを取ってから切った野菜とコンソメスープの素を入れて煮ていると着信が有る。


「お前怪我はしてないんだな?」

 ソファーに移動してから着信を取るとこちらはこちらで激昂している。

 まあ、これが棗や綵が同じ目に遭っていたら僕も同じリアクションをしたと思う。

「ああ、大丈夫、無傷だよ。鎧のお陰で」

「それで? 警察はなんだって?」

「明確な怪我をしていないから傷害事件には出来ないって」

「ボールじゃなくて刃物でも、か?」

「刃物じゃなくても怪我をしていないと立件出来ないってさ」

「なんか法律が間違ってる気がするぞ?」

「それは同感だけどね、明確に僕目掛けて投げていれば殺人未遂なんだろうけどね。現行法で取り締まれないなら仕方が無いさ」

「納得出来無いんだが、奉は納得してるのか?」

 棗が怒りを抑えながら確認をしてくる。

 正直納得は出来ないが、諦めるしかないとも考えている。

 ただ、諦めるしかないと考えているが、ネットでの誹謗中傷は見過ごすつもりは無い。

「まあ、事件に出来ない部分は仕方ないけど、あの書き込みに関しては叩き潰そうかとは思ってるよ」

「どう言うやり方するんだ?」

「向こうのリーダーは道理が通じる相手だからまず削除させる様に説得させる事に成ってる。日付が変わるまで削除されて居なかったら夜中の内に動画を捨てアカで投稿する」

「お前もかなり怒ってるな……、ってかお前が怒鳴ってる事に驚いてるよ」

 棗の言葉に小さく笑う、棗の前で怒った事が無いだけで僕自身は比較的気が短い方だ。

 決して温厚な人間では無い。

 努めて理性的で有る様に抑えているだけだ。

「僕だって怒る時は怒るよ。友達の前で怒るのが恥ずかしいから出さなかっただけだよ」

 こうしていつだって気遣いをしてくれる友に心労を掛ける趣味は無い。

 最も、何をしても棗は僕の心配をする様だから、どう立ち回っても気苦労を掛ける事に成るが。


「まあ、動画を流せば迷宮内での投擲武器の使用は禁止に成ると思うから」

「なんだ、結局流すつもりなんじゃないか」

「削除しても僕への誹謗中傷をした事実は残るからね。謝罪が無ければ許す道理も無いさ?」

「なんて言うか、今まで怒った顔を見た事が無い奴が激怒してると若干引くよな……」

 棗の恐らく本心から出た言葉だろうが、親友に引かれるのは悲しい。

「モザイク有りで先ず流して、謝罪が無ければモザイク無しフルバーションも流すよ」

 モザイク無しで相手グループの顔は思い切り流れるし、

 間の狼に襲い掛かられている所も乗せれば、見た人間の認識は大問題に格上げされるだろう。

 実際問題、防具が良かったからナイフや狼の牙を防げただけなのだ。

 動画流出でヘルメットを被っていても素顔を晒していた連中は懲りるだろうし、逆にこちらの動画を流されても既に鎧男とあだ名を付けられているし、素顔は隠れている。

 個人特定される物でも無い。

 肖像権の侵害で訴えられる可能性は有るが、先に名誉棄損をしたのは向こうだ。

 裁判闘争でも、どうとでも成るだろう。

 PCで件の書き込みがされた場所をタブで全て表示出来る様にして置く。

「奉、実は大激怒?」

「超激怒、かな?」

 微かに探る様な棗の声に笑って応じる。

 明るく応じた所で、そんな様子に棗が引いている事に気が付いた。

 昨日の事なのに、相当頭に血が上っているらしい。


 肉と野菜を煮ている鍋から灰汁を取りながら苦笑する。

 シチューのルーを入れる前にスープを味見してみると癖も無く、濃厚な出汁が出ているらしい。

 これならカレーのルーを入れても違和感なく食べられそうだ

 そんな事を考えていると棗が口を開く。

「何してるんだ? なんか変な音してるけど」

「ああ、今兎肉と野菜を煮込んでスープを作ってる所、今夜と明日はクリームシチューの予定」

「ああ、旨そうだな」

「寒くなって来たからね、来て食べる?」

 会話の流れで棗を夕食に誘ってみる。

「あ~、今日は流石にな」

「じゃ、明日シチューのつもりで」

「綵も誘って良いか?」

「勿論、問題は無いよ、結構な量作ってるしね」

 翌日の予定が纏まった所で電話を終わらせる。

 鍋の火を弱めてルーを投入する。

 完全にルーが溶けた所で味見をして、牛乳で伸ばして味を調える。

 火を止めて味を馴染ませる間に大学の課題に取りかかる。

 一時間程机に向かって課題をこなしてから夕食にする。

 一人飯の寂しさに動画を見ながら食事を平らげて、さっさと洗い物まで済ませてしまう。


 合間々々でPC画面を確認するが特に変化は無かった。

 一時間置きにPCを確認しながらレポート作成をやり、刀の手入れを行うと日付がちょうど変わる所に差し掛かった。

「さて、削除されてるか、されてないか……」

 ページを更新して書き込みを確認すると削除されていない事を確認する。

 深い溜息を吐いて動画投稿サイトに音声加工と字幕を追加した動画をアップロードする。

 アップロードされたアドレスを、誹謗中傷が書き込まれていたサイトに張り付けて書き込みを終える。

 書き込みの内容と動画に収められたやり取りを見たら賛否も有るだろうが、

 今後の迷宮活動には必要な事だと自身に念を押してページを閉じる。

 後は明日以降の様子見しか出来る事は無い。

 寝る準備を済ませてベッドに潜り込んで目を閉じ、夢の世界に沈んで行く。

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