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第二章 第三話

 目を覚ますと鼻背デバイスを付けたまま寝ていた事に気が付く。

 普段なら煩わしさに寝ている間に外しているのだが、昨夜は身動ぎすらしなかったらしい。

 時刻を見ると六時を少し過ぎた頃合いだ。

 スエットに着替えて日課のジョギングに出る。

 特に決まった距離を走っている訳では無いが、今日は少し距離を伸ばしてみる事にする。

 昨日の戦闘を考えると持久力は必須だと思える。

 結局の所、毎日微々たる努力と微々たる変化を甘く見ると足元を掬われるのだろう。

 ジョギングで出た汗を流してから迷宮に向かう用意をする。


 装備一式と研究資材を纏めて部屋を出る。

 空を見上げると灰色の薄曇り、今日は雨が降るかも知れない。

 今日は少し荷物が多い為に車で行く事にする。

 荷室に荷物を収め、刀の類は運転席の下に固定する。

 いくらシーカー活動の道中に関してのみ規制緩和されたとは言え、刃物を助手席に出しっぱなしには出来ない。

 この辺りの規制緩和は意外と速かった割に、まだ対応が出来ていない部分も目立つ。

 結局、シーカーの意見を吸い上げる議員がほぼ居ない為だろう。

 むしろ、シーカーの足を引っ張っている野党議員の方が目に付く位だ。

 時折TVで野党議員がシーカーを「モグラに税金をばらまくな」と発言しているとSNSには書かれている。

 そう言う意味では今の総理大臣は迷宮関連では対応が早い方なのかも知れない。

 前総理大臣は氾濫の対応を小突き回されて退陣に追いやられたのには正直同情する。

 実際問題として、追求していた野党議員が氾濫以前に迷宮の調査等を与党に働きかけた記録も無いのだが。

 自分達も想定外だった事を責め立てる、そんな大人達を冷めた目で見ている若者が増えている。

 僕自身を含めて若者の政治不信は深刻化を進めている。

 そうは言っても、迷宮が側に有る農家以外は迷宮問題に積極的には関わろうとはしていない。

 氾濫で困る人間が少なかった東京では、シーカーの数その物が少なかった。

 迷宮が住宅地に有る東京は一番問題が深刻では有る。

 誰が、狼が氾濫する可能性の有る地域に住みたいと思うだろうか?

 これから迷宮周辺の地価はガンガン下がって行くだろう。

 世界中で都市部に迷宮が出来た所は似た感じに成って行くだろうし、地価が上がる事は無さそうに感じる。

 社会は実害を伴う突発的な要素に弱いのだろう。

 逆に商魂逞しい人達は迷宮周辺で弁当屋なんかを開いて稼いでいる様子だが。


 車を暖気している間にネットニュースを見ていると、アメリカでは迷宮内での銃火器の使用を禁止されるかも知れない、と報道されていた。

 どうやら迷宮内で誤射や跳弾で死者が出て、遺族が裁判を起こしたらしい。

 現段階で、日本国内で狩猟用の銃は使用されていたと言う報道は無い。

 狩猟免許を取る段階で徹底的に教わる事も有り、迷宮内に持ち込もうとする人間も居ないだろう。

 狩猟をする人間も年々減っていた事も有って国内では同種の事故は発生していない。

 自衛手段が身近に必要な社会と言う物が想像つかない。

「なんで、迷宮内で銃を使おうと思ったんだか……」

 銃社会と言う身近過ぎる自衛手段に飛び付いてしまう人間が居た、と言う事だろう。

 まあ、アメリカでの毛皮の買い取り額次第で、銃弾の価格と折り合わなければ使用はされなくなるかも知れない。

 各国で迷宮対応は本当に違うと感じる。

 水温計に目をやって、メーターの真ん中辺りに成ったのを確認してシートベルトを締める。

 駐車場から車を出して迷宮付近の駐車場に移動する。


 物の数分で到着して車を停めて、装備一式と荷物を抱えて買い取り所の更衣室へと向かう。

 更衣室でツナギに着替えて装甲パーツを装着して行く。

 階折釘を籠手に仕込む。

 面頬を付けて最後に兜を被る。

 腰に刀を帯びて姿見で自身の格好を確認する。

 時代錯誤感を残しつつ、現代仕様にデザインされた何とも言えない鎧武者の姿に改めて苦笑した。

 昨日も感じたが、場違い感満載だ。

 黒々と光沢を放つその鎧は異様な物々しさを放っている。

 ちらほらと見かける他のシーカーのプロテクター装備に混じると酷い浮き方をしていると思う。

 バイク用のプロテクターをベースに改良した装備が今は主流らしく、外観の違いは悪目立ちする。

 面頬で顔が隠れているから良いが、正直顔を晒す気には成らない位に居心地が悪い。

 逃げ足を発揮してその場を離れ、迷宮の入り口に移動する。


 鼻背デバイスの動作確認をして二刀を抜く。

 深呼吸を一つ行って意識を戦闘用に切り替える。

 鳥肌が立つ手前の微妙な皮膚感覚の変化で闘争本能が起きたのが分かる。

 暗い迷宮の中に足を踏み入れると視界が一気に緑色に変わる。

 午前九時、既に何組かのシーカーが入っているだろうからいきなり狼が現れる事は無い。

 今日の段階で狼の発生のペースは分かっていない。

 常に周囲の音を拾える様に集中力を引き上げる。

 数百m進んで最初の小部屋に到着する。

 中を確認するが狼もシーカーも居ない。

 既に駆除済みらしい小部屋の片隅目立たない所にリュックから取り出した薄い鉄板を三枚設置して「実験中」の札を掛けておく。

 迷宮に持ち込んだ物の耐久度、硬度上昇の分析の為にかなりの数と量の鉄板を用意していた。

 迷宮内での時間経過で変化するのか?モンスターを討伐した数に比例するのか?を測る。

 残りの鉄板は日数毎に区別をして測定する為に持ち込む事に成る。

 本当なら狼一頭毎に試す必要が有るのだが、複数で群れる狼相手にはそれは難しい為に断念した。

 耐久度や硬度の変化次第で新しい概念の金属が発見されるかも知れない為、有意義な調査と言える。

 工学分野での価値は分からないが、新しいレアメタルを作れるかも知れない。

 ゼミ論でガラスのモース硬度上昇率は以前書いたが、本命の卒論のテーマとしては十分だと教授にも言われている。

 そこからは次々と小部屋を確認して回って、MAPを確認しながら進んで行く。


 枝分かれする分岐に差し掛かった所で戦闘の音がする。

 戦闘音のしない方を選んで進んで行くと漸く狼と遭遇した。

 数を数えてみると通路に四頭居る様だ。

 通路の床を確認するが特に目立った凸凹も無く、石も転がっていない。

 それならば壁を背に陣取る前に、先ず一当てを加える事にする。


 出端を挫く為に全力で走り出す。階折釘(かいおれくぎ)は向き的に使えない為に直接躍り掛かる。こちらを警戒して身を低くして唸っていた狼達は驚いたのか飛び下がるが、間誤(まご)付いた一頭に攻撃を加える。右手に握った小太刀を横に滑らせて狼の頭部を斬り飛ばす。その勢いのまま壁際に駆け寄って背中を預ける。残りの三頭がジリジリと間合いを詰めて来て、襲い掛かってくる度に迎撃を加えて処理して行く。四頭とも処理が終わった所で首を傾げる。


 昨日対峙した最後の群れはもっと動きが複雑で警戒心も強かった気がする。

 学習していたと言うのか、仲間が減って行く事で慎重さが出てきたのかも知れない。

 と言う事は今処理した狼は発生して学習する事無く対峙した可能性が有る。


 毛皮を回収してリュックに収めながら口をついて独り言が零れる。

「もし逃がせば狡猾な個体に成る可能性が有るのか……」

 手間取れば後々に障害に成る厄介な存在だと認識を改める。

 気を引き締めて遭遇したら殲滅が必須だと心に決める。

 狼の遺骸が毛皮に変わるまでの数分の間に呼吸を整えて次の小部屋に移動する。

 そこからは遭遇する度に残らず処理をし続けてそれなりの数の毛皮を稼いだ。

 時刻を見ると午後一時過ぎ、リュックの容量を考えて一端出る事にする。

 後数分で出口が見えてくると言う地点で前方から戦闘音が聞こえてきた。

 邪魔に成らない様に立ち止まって様子を見ていると狼が疾走する音と怒声が聞こえた。

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