結局は爆発オチ
水無月4周目日曜日
静寂がその場を支配する。そしてその一瞬の静寂のあとに、うだる様な湿気と凍てつく様な寒気に襲われる
「た、助かった」
僕の捨て身の特攻では全てをカバーすることはできなかった。それでもこうして僕が無事なのは、津波が完全に消えているのはシオン先輩が半分以上凍らせてくれたのと、クレアの放った火の剣が一部を蒸発させてくれたからだ。そのせいで辺り一面に蒸発した水と、水素と酸素がかなりの高濃度で空気中を漂っている。
時間がない。早くしないとこれらが風に流されてしまう。だが肝心の黒龍とは距離が離れすぎている。どうすればいいんだ・・・まあ普通に諦めるか
「!」
『津波を防ぐか・・・少しは評価を改める必要があるな』
声が聞こえた。上を見れば巨体が空を舞っているのがみえる・・・まってこのままだと僕潰されるんだけど、さっきの攻撃で力使い果たしているからもう動けない
「なぜここに」
「私たちがこちらに来たからです」
ふと横を見ればそこにはサリア先輩の姿が。いや、それだけじゃない。他の先輩方も一緒だ
「やはり黒龍は私たちの力を見に来たのでしょう私たちをこちらに集中させれば追ってくると思っていましたよ」
「ど、どうして」
いつの間にか転移させられていてクレアの横にいる。これはセリア先輩の力だな。ありがとうございます。おかげさまで潰されずに済みました
「どうせ、ろくなことを考えてないのでしょう・・?」
「よくわかりましたね」
まあ僕が考えることって言ったら最近はほとんど一つだけだしな。今回は少しだけ違うけど
「すみませんセリア先輩、黒龍に向かって火を放ってくれますか?僕ももう限界です」
「?ああ、わかった『炎』」
『その程度の攻撃で我に傷つけられると思うなよ』
当たり前だろ。先輩には申し訳ないけど僕だって無理だと思うよ。でも僕の目的はそっちじゃない。そこには高濃度で漂っている水素がある
『これは・・!』
耳の鼓膜が破れそうなほど大きな音がして目の前で爆発が起こる。僕が自分で作り出せる粉塵爆発の非じゃない。そう、中学生の時、水を電気分解して酸素と水素に分けたあとマッチの火を近づけることで起きる自然現象、水素爆発。粉塵爆発と比べどちらの方が高威力なのかはわからない。でも、今は広範囲に水素がある。僕が粉塵爆発を巻き起こさなかったのは弾かれるっていうのもあったのだけどもっと単純に黒龍の大きさに対して範囲が小さすぎるってのもあったんだよね。だが、これなら大丈夫。全身を覆い尽くすほどの爆発が発生してる
「やはり爆発ですか・・・精霊に防がせておいて正解でしたよ。危うく鼓膜が破けるところでした」
ありがとうございます。耳ぐらい多少は・・・って思っていたんですけどちゃんとフォローしてくださったんですね。
「問い詰めたいところですが、今が攻撃のチャンスなのは明らかです。話はあとにしましょう『氷結』」
さすがにこういう攻撃は想定していなかったようで黒龍の動きが鈍い。少し混乱しているのだろう。だからその隙に畳み掛けようって寸法だ
「そうですね。まだ僕の『氷の領域』が発動しています。氷魔法を中心に使ってください」
「りょうかい!『氷の拳』いっくぜぇ」
今度は氷が拳にまとっている。あの人ってなんで『力』スキルなのにあんなに属性が豊富なんだよ。
「グレンは拳を音速を超える速さで振り抜くことで発火させ、音速を超える速さで手を回すことで周りの温度を冷却し氷をまとうことができます」
あ、説明ありがとうございます。・・・って納得出来るか!なんだその超理論。とんでも人間じゃないか
「いやオリジナルという観点でいえばミライも同じ」
「え?そうなんですか?」
「普通の人はそんなにポンポン新魔法覚えないよ」
ふーん、そういうものなんかなぁ。ま、どのみち僕は今何にもできないし先輩たちの戦いでも見学してようかな
『なんという魔法だ一瞬にして爆発をさせるとかこんなの見たことがない』
「まあ魔法じゃないからね」
どちらかっていうと自然災害だし。あれ?水素爆発って自然に発生しないっけ?ならなんになるんだろ。天災?わからん
「でも相変わらず爆発ですわよね」
「それは・・・すみません」
さすがにシズク先輩に言われてしまったらもう謝るしかないでしょうに。
「・・・結局・・・爆発」
「だからすみませんって」
辛い、なんで僕がやることなすこと全部爆発につながってしまうのだろうか。辛すぎるんだけど
「「「「日頃の行い」」」」
はい、自分でもいいながら思ってましたよ。しょうがないじゃないですか。格上に勝とうと思ったら結局爆発しかないんですよ。これで勝ち上がってきてるからいいじゃないですか
「でも・・・怪我したら・・・ダメ」
「それはそうですけど」
肉を切らせて骨を断つ戦法って言ってもきっと納得しないよな。・・あ、そういえば黒龍!あいつどうなった
「グレン!俺が陽動を仕掛けるから頼む『阿修羅』」
「へえ、昔のお前に戻ってきたな『炎の拳』」
セリア先輩が大量の剣で目くらましをするその隙にグレン先輩が殴っている。そしてその後ろではレイ先輩が刀を振るっている。翼を中心に切っていっているようで・・・あれ?なんか空を飛んでいる気がするな
「・・・少しなら・・・回復させられる」
シェミン先輩が僕とクレアに治療をしてくれる。でもなんで僕らにまで?
「おそらくですが、クレアとミライが戦えることを示さないと引いてくれない気がします。倒すにはまだ力が足りませんし」
確かめるのって釣り合う力を持っているかでしょ?なんで僕とクレア限定なんだろうか
「あなたたちが津波を対処しに行った後すぐにこっちこれたのもそれが理由です私たちはすでに満たしている、と」
「そうなんですね」
でもそうなると、どうするか。さっき爆発で一撃入れたからもう一回うまいところ決めれればなんとかなるかな。・・でもどうすればいいんだ。僕とクレアの魔法でなんとかなる方法を考えよう
「『電気鎧・第三形態』で突っ込むしか手段がない」
「・・・それは・・・ダメ」
でもそれ以外だと圧倒的に火力が足りない。それに回復したっていってもいつもみたいに全力で魔法を使うことができない。
「どうする?正直僕も火力がね」
こうなったら新しい魔法とかを考える考えるよりもなんで暴走したのかを考えよう。あのとき殴ることしか考えることができていなかったように思う。でもまだ情報が足りない
「なあ、僕が暴走したときどうだった?」
「え?なんていうか殴ることしか頭にないって感じだったな。どんなに妨害を受けても回避しようとさえしなかったし」
「なるほど」
それが本当なら、少しはその暴走を防ぐことができるかもしれない。確証はないけど・・・やって見るしかない
「サリア先輩。僕の考えが正しければ暴走はしないと思いますが、万一のことがあればお願いします」
「それは・・・まさか!」
「『電気鎧・第三形態』」
自分の内側に電気を発生させて筋肉強化を図る。でも、絶対に脳の電気信号には作用させない。あのときはコントロールがうまくいかなくて体のすべてに・・・脳内にまで電気信号を操作したけど今回するのは自分の腕だけ。『電気鎧』でしていたことをより強くしたって感じかな。あれは単に反動を抑えたりどちらかっていうとバネみたいにして少なくとも限界を超えることはないはず。
でも今、この一撃だけは自分の限界を超える。普段は制御しているリミッターを外す。
「う、くっ」
何もしていないのにただ魔法を発動させているだけで痛みに襲われる。限界を超えるから当然長くは持たないよな。しかも今体力魔力が尽きかけているし、一撃が限度だろう
「クレア、作戦を話すよ」
さあ、一発決めようか




