風邪で休んだあとの学校って何か気まずいよね
水無月一種目月曜日
さあ、試合まで一週間もないってことで早速特訓に励んでいきたいところではあるけれども、僕たちは学生で、やっぱり学生は勉学が第一なので授業を受けています。はあ、いつでもどこでも授業って邪魔だよねって言いたいけど僕らにとってとても大切なことだから仕方がないか。
月曜日の最初の授業は歴史学だっけか。あ、この授業は同郷の人が多い。高校の時は学校を休んだ時は後日友人からノートを借りるのが定番だっけ。・・・まあまともな友人が角先一人の僕の場合角先がいなかったら無理です。友人が多いってのはこういう時でも便利だよね。
でも今は誰かしらに聞くとができる!異世界万歳!さーてっと、ここは素直に四万十さんかな。ん?角先とかじゃないのかって?いやこういう時って女子の方が丁寧にまとめてるもんじゃないの?今は男女平等で女性の社会進出が進んでいるからこういった発言はまずいのだろうけど確か脳のつくり的に女性の方が物事の整理整頓が上手いんじゃなかったっけ?
「・・・あいつだよな」「紅くんだよね・・・」
「え?どこにいるの?」「ほら、あそこ」
クラスメイトから噂されている気がするんだけど。まだ僕四万十さんに話しかけていないよ。話しかけようとしただけだよ。もしかしてそれもダメ?そんなぁ。確かにあまり好意的な視線ではないけれどもさ
「紅」
「あ、天衣」
隣に腰掛ける天衣。なんだかんだで隣にこいつが来ることが多いんだよね。
「お前どっかの国の王様に喧嘩売ったって本当か?」
「あーそれもう出回ってるのか」
それがあったか。僕が貴族に喧嘩を売ったって話が広まっていたから僕に対して興味深い視線が寄せられていたのか。「あいつやりやがったぜ」的な視線な
「まじかよ本当なのか。じゃあそのせいで怪我して倒れてたってのも」
「本当だよ」
「・・・」
なんだよ。その顔。ついにやりやがったぜ的なその顔は。ついにってなんだついにって
「とうとうやりやがったよ。いつかやるとは思ってたけどさ」
「とうとうってなに?なんで僕がやらかすの確定?」
「・・・」
黙秘をするな。僕の視線から目をそらすな。「いやだって、前例が」
「今回が初めてだから前例もなにもないよ」
「いや、それは俺が止めたからだよ」
そうだっけ?忘れてしまったなぁ「お前こそ今の俺から目を逸らしたぞ」いやーなんのことだか
「ま、それで・・・その、お前目立ってるから気をつけろよ」
「そんなに目立つようなことか?」
「いやいや・・・」
どうやらあそこまで貴族、それも王様に喧嘩を売ったのは初めてだとか。そりゃまあそんなこと普通は考えないからね。それにあそこまで露骨な態度を取ってくることもないらしいし。サリア先輩曰く、あれはシェミン先輩が絡んでいたからああなっただけでそれ以外では普通に終わらせることができるのだとか。なぜシェミン先輩が絡むとああなるのか教えてくれなかったけど。僕が異世界から来たことは教えたっていうのに「すみません、あなたたちを疑ってませんが、これはシェミンのトラウマなので」とのこと。トラウマなら仕方がないね。山胡桃さんみたく変なところで恨みを買っちゃったケースもあるし
「ま、というわけで気をつけろよ」
「なににだよ」
別に倒したわけではないしそんなに目立つようなことでもないだろ。あ、でも前代未聞のことならあり得るか。
「まーそれは自分で体験しろとしか言えないからな」
なんだよ。意味深な笑い方をして。そんな顔をしたって前も言ったかもしれないけど気持ち悪い以外の感情が出てこないからな。自分で体験しろってあれか。自慢か、自分はゴブリンを殲滅して脚光を浴びたんだーっていう自慢か。あーはいはい、お前は強いよ〜一年の中でも抜きん出てますよ。これで満足かぁ
「さすがに自分を卑下しすぎだろ・・・まあ俺も言葉が悪かった。謎に嫉妬とか受けるから気をつけろってことだ。ただでさえお前、セリアさんを初めとする4年生のトップメンバーやシオンさんに可愛がられてるってことで結構目をつけられているんだからな」
あーそうなのか。今まで特にやっかみとか受けたことなかったからわかんなかった。あ、そもそもあまり関わりがなかった。他の人と会うことがなかったからそりゃ受けないよねー。一段と噂になってから僕ずっと眠っていたから。なおさらだ。シェミン先輩も何も言ってなかったし・・・あれ?そういえば何も言ってなかったってことは誰もお見舞いに来てないってことなのか。あ、なんか悲しくなってきた。これ以上考えるのはやめておこう虚しさしか残らない。
「おーし、お前ら今日も授業始めるぞ」
あ、アルバ先生入ってきた。
「まずは出席の確認だっけ?お前らの風習はわからん。で、えーっと、うん。全員いるな。いない奴は教えろ」
誰だ。そんなことを先生に吹き込んだ奴。だからか、だから僕が休んでいたこと知れ渡っていたのか
「んーミライは、いるなじゃあ問題ない。授業始めるぞ」
ほら、名指しされたよ。言わんこっちゃない。
「さて、今日は・・・そうだな。吸血鬼について話そうか」
「ちなみに前回はエルフについて話してくれたな」
どうでもいい情報をありがとう。種族について次々に説明していたからまあ妥当といえば妥当かな、と上から目線で言ってみる。で、今日は吸血鬼ね。了解了解。
吸血鬼は過去に滅びた種族である。魔族が滅びるよりも後ではあるけれども。人間を食べる種族の一つと言っても実際は地球の吸血鬼と同じで血を飲むだけの存在だった。だから少しは共存の道が取れると思われていた。でも、それは不可能だった。吸血鬼のもつ、吸血鬼だけが持つ能力、異常なまでの回復力と自身に流れる「血」による強力な幻術、および催眠。それらを持っているために人間とはかけ離れすぎていた。同盟を結ぼうにも人間に一方的に不利な条約が出来上がるだけだった。
それでは問題になる、人間が滅びてしまう。だからこそ、人間は吸血鬼を滅ぼした。だが、どうやって滅ぼしたのかは明らかにされていない。ここら辺の歴史がほとんど空白として残っていないからだ。事実、吸血鬼は滅びた。・・・数名を除いて。生き残りがいたようだ。吸血鬼の始祖、姫。その一族が守られ生きながらえた。当然、人間側はそれを見逃すはずもなく、残党狩りが行われた。幸か不幸か吸血鬼の姫は争いを望まず、逃げ続けた。
「で、結局逃してしまったのだがもしかしたら生きているかもしれない。それは誰にもわからない。それ以降日の目を見ることなく歴史の闇に埋もれてしまったからな」
「先生、幻術ってどれくらいの強さなんですか?」
「そうだな・・・あくまで言い伝えだが、おそらくクスノキのと同じと見て間違いない」
「は、まじかよ。あれをか・・・」「楠くんのってあれだよね現実をも変えるっていう」「其れクラスを普通に・・・」
「君たちにはわかりやすい例えだったか?これで吸血鬼の怖さがわかっただろう。だが安心したまえ、もう過去の存在だ」
・・・楠の力。ミロンさんを救った力。確かにあんなのをみんなが持っているとしたらとんでもないな。
「ああ、あとあれだ。君たちの知ってる伝承?って奴はどれも嘘だから」
つまりはニンニクも銀の杭も十字架も効かないのか。じゃあどうやって倒すのか・・・あ、ダメージを与え続ければ多分死ぬって?不死ではないみたいだから。殺し続ければいつか死ぬだろうって・・・わかんないのか。まあ今いないしな
この授業は特に何もなかった。でも、僕はすぐに身を持って知ることになる。僕が注目されているその意味を。それがここまで悪い意味を持つなんて思ってもみなかった




