なんで男子ってドラゴンにこだわるのかな
今回から第2章「新人戦」編が始まります。
バトルシーン多めになるように頑張っていこうと思います
???
ー学園から遠く離れた地、「光」の国シンにて
「では、行くとしよう」
頭に王冠をかぶり、立派なマントを羽織った男性が馬車に乗り込もうとしていた。後ろには武装した騎士達がずらりと並んでいる。その姿と後ろの騎士達からして相当の高貴な身分なのであろう
「行ってらっしゃいませ。すでに使者は送っております」
「ご苦労・・・しかし「奴」もついに四年生か」
「はい、我が国からの抗議を一切黙認しております。なにせあの学園は中立を謳っているもの。ゆえに我が国だけの声では動くことができないのでしょう」
傍に立っている執事らしき人物からの言葉に悔しそうにする男性。「奴」とよばれている者についてかなりの怒りを持っているようだ。そしてそれはこの男性だけでなく、そこにいる全ての人物からも発せられている。
「奴は来年にはあの学園にはいない・・・それは喜ばしいことだが、同時に我々が「奴」を見失う危険性もある。なんとしても「奴」を殺さなければ」
「ええ、しかし今は難しいでしょう。なにせ奴の側には」
「わかっておる・・・だが、今年の視察が我が国なのは僥倖よ。なにかトラブルがあればそれを全て奴に押し付けてやろう」
「・・・」
執事は何も言わない。本来なら主人がこのようなことを企んでいるのであれば止めるべきところなのだが、この国の人間の「奴」への執着を考えるととめることができない。いや、むしろ止めないことで国民の気持ちを一つにすることができる。それほどまでに怒りや憎しみを抱いているのだ。
視察について触れておくと。学園では毎年4回、皐月、長月、霜月、如月の下旬頃にグラシアに存在している国のなかから一つが視察という名目で学園にやってくることになっている。はじめはいつかわからないが、国と国の交流をかねて作られているために国からの視察ー自国民がどんな生活をしているのかの調査ーを名目にやってこられてもそれを拒否できない。だが、無制限にそんなことをしてしまえば、中立が崩れてしまう。だからこそ、形式にすることである程度制限をかけているのだ。そして今回はこの国が順番となった。
「絶対に許さ位ないぞ・・・貴様は生きていること自体が罪なのだ。だから決して許さん」
怒りと憎しみのこもった目でその男、「光」の国の王、セル・シンファは呟いた。
皐月4週目風曜日
「視察?そんなのがあるんですか?」
僕がそれを聞いたのはたまたまだった。旧修練場にてクレアと模擬戦をして帰ってきたときにシェミン先輩とサリア先輩が話していたのが聞こえてきたのだ。
「あ、ミライ。帰ってきたのですね」
「はい、それで視察とはなんのことでしょうか?」
「それはですね・・・」
要はどこかの国のお偉いさんが学校にやってきて学校の生徒が普段どのような感じで生活を、学校生活を送っているのか確かめに来るらしい。めんどくさい政治の香りを感じるなぁ。でもなんでこんなところでそんな話が出るんだろう。もしかしてギルドリーダーは全員その見回りについていかなければならないとか?シェミン先輩は一応このギルドリーダーだし。実際はサリアさんだけど。
「・・・まあ、そんなところ」
「でも大丈夫でしょう。今回は「光」の国です。・・・「人」の国でない分少しはマシなはずです。それでもやばいのはやばいのですが」
え?今回来るところってそんなにやばいところなのかよ。あれかな、自分の国の人間は他の国の人間よりも優れていると思い込んでいるとか。それとも異世界ありがちの人間以外を差別しているような国なのだろうか。
「まあそのようなものですかね。でも私とセリアがいる限り大丈夫でしょ・・・きっと」
サリアさんがここまで言うのなら大丈夫だろう。うん、まだこういったお姉さん的キャラがポンコツ化するのはまだ早いし。「誰がポンコツでしょうか?」いいえ、なんでもありません。サリア先輩は綺麗で優しくてしっかりしたお姉さんです。
「・・・なんで・・・私の方を・・・ちらっと見た・・・?」
「ミライ?」
すみません。他意はないんです。2%くらいしか。
「じゃあ特に何かするってわけではないんですね」
「まあ、基本的には・・・ただ、使者は滞在中にどこかのギルドの寮の一部を使うこともできます。大体は一年生の最初の寮に泊まるのですが」
その言い方だと今回は違うって感じがしますね
「ミライも関係者ですし、先に言っておきましょう。おそらくですが、このギルドにきます」
「え?」
うちにきてなんのメリットがあるって言うのだろう。僕とシェミン先輩しかいないこのギルドに。もしかして二年生の先輩と何か関係があるのだろうか
「いえ・・・」
なんでそこで二人して顔を見合わせるんだ?僕には言えないことなのかな。まあ深くは聞かないけどさ
「・・・ありがとう・・・ミライ」
「いえ」
聞いたところで主人公でもなんでもない僕では解決するのは無理な話だしね。普通のスキルを与えられ、特に何かしたわけでもない・・・大体これくらい時間が経っていたら何かしらの才能が開花してるのが異世界小説のお約束だしね。
少しナイーブな気持ちになったけど、次の日にはクレア達と依頼をこなさなければならない。最近はサクヤが大分イライラしているから難しいクエストになりそうだししっかりしておかないとね。
「明日の依頼はもう決まっているのですか?」
「決めるのは明日ですけど・・・この二つです」
僕はサリア先輩に二つの依頼書を見せる。ミロンさんに渡されたものだ。毎回ミロンさんは依頼達成後に二つの新しい依頼書を渡してくれる。僕とクレア用のとサクヤ用のだ。毎回選んできてすごいなとは思うけど他の三人の誰でもおかしなことになりかねないから妥当といえば妥当なのかな。
渡した依頼書の内容は一つが『月の狼20匹の討伐』でもう一つが『黒龍の調査』。どっちが僕らようなのかは言わなくてもわかるだろう。そう、前者だ。
「『黒龍』ですか・・・確かに最近噂されていますね」
「そうなんですよ。なぜか最近活動が活発になっているみたいで」
まだ被害は出ていないが、それでもいつ被害が出るのかまったくわからない。そのために何の目的で動いているのか把握して欲しいというのが依頼の内容だ。
そんなのわかるはずがないというのが本音だが、幸か不幸か『黒龍』は竜種の中でもかなり古い龍のようで僕たち人間と意思疎通ができる。そして過去に何度か同じようなことがあったらしい。その時その時で勇気あるパーティーが出向き、何かしらの話をつけてきていた。何かしら、でごまかされているのは向かったパーティーの人全てがこの件に関して口を閉ざしているからだ
「でも大丈夫ですか?これはかなり危険だと思いますけど」
ごもっともな依頼でもある。でも、そこは大丈夫だ。だって調査といっても実際は
「暴れている龍がいるみたいだから討伐してこいってことなんで、『黒龍の調査』ってしといたら腕に自信のある人しか受けないからそういているだけみたいなんです」
名目では活動が活発になっているから何かしらの関係性を掴んでこいってことなんだけどこれは明らかに目的が別だよな。いくら危険だとはいえ、調査はあくまで調査。龍を討伐してくれって依頼よりも格段に安い報酬で済む。大方、黒龍の出現にかこつけて安いお金で龍を討伐して欲しいってのが依頼主の思いなのだろう
「だと思いましたわ・・・でも大丈夫ですか?竜なんてあなた達で倒せますか?」
「今回は別のパーティーと・・・天衣たちのパーティーと合同なので大丈夫だと思います。竜自体もそこまで大型ではないようですし」
そう、今回は僕たちのパーティーと天衣たちのパーティー二つのパーティーの協力で行う。だから僕もそこまで危険視していない。だって、あいつら天衣、楠、青目、四万十さんっていうガッチガチのパーティーだもん。多分一年生の中で最強。明らかなチート持ちしかいないもん。天衣はスキルこそ普通だけどなんかやべーくらい才能が開花しているらしいし
「なら大丈夫でしょうね・・・ちなみになぜ二つあるのですか?」
「望みの薄い希望でも持つことが大事ですから」
「そ、そうですか」
諦めているけどね。はあ、ついに僕らだけでもドラゴン退治か、気が重いなぁ




