水の王の正体
ついに300話を突破しました!
これからも頑張ります
神無月一週目土曜日
「はぁ…はぁ…」
「『思ったよりもやるなぁ…でも、まだまだだね』」
あれからどれだけ魔法を打ち続けたのだろうか。もうこれ向こうでクレアが全部倒してくれているんじゃないか?そろそろ助けに来てくれてもいいだろう
「『忘れてるかもしれないけど君が簡単にこんな数を相手取れたのは「世界」のおかげだということを忘れてるよ?彼にはイフリートが付いているとはいえそれでも厳しいだろうな…それから君時間感覚が飛んでいるけどそこまで時間経っていないからね』」
「まじかよ…」
自分的にはそこそこ時間が経過していると思っていたけどそこまでなのか。あれかつまらない作業とか同じ作業を繰り返ししていると時間感覚が麻痺して通常よりも長く感じてしまう現象なんだろうな
「『それで…まだ続けるきかい?君そろそろ限界だろ』」
「まだ…負けてない『放電』」
「『はいはい、「水壁」』」
水の壁に阻まれて僕の電撃はイワナガにまで届かない。ちっ、やっぱり純度が高いと水に電気は流れずにそのまま吸収されてしまう。
「『「氷の礫」…ほらほら、ボケッとしてたら死んじゃうよ?』」
「『創造』」
こいつ…間違いなく煽ってきてやがる。それでも反射的に飛んでくる全ての礫を切り裂いていく。遊ばれているようにしか思えない。仮に当てることができなくても致命傷にならないように計算されている
「お前…殺しに来ていないのか?」
「『まあ…僕の目的はあくまでも遅延だからね』」
「遅延?」
僕を今村に近寄らせない理由でもあるのか…いや、これは普通に考えたら魔物達を討伐されたくないということなんだろうな。
「『それにさすがに同郷の人間を殺したくないし…君が呼ばれたのもこれからが本番だろうから』」
「ちょっと待て」
同郷というのはまだいい。いや、よくはないけれどもひとまず置いておいてもいい。「剣」の国の出身であるという風に設定を作っておいたからね。でも、その後の言葉、呼ばれたという言葉でその意味が大きく変わる。つまり、僕が地球から来たことを知っているわけで、それでもなお同郷というのならば
「お前…日本人なのか」
つまりこいつも、僕と同じ転移者ということになる。
「『日本人…か。懐かしいね、そう呼ばれるのは』」
「嘘だろ…」
僕たちだけじゃなかったのか。…むしろ今までどうしてその考えに至っていないのかわからない。僕たちが連れてこられたということは同時にこれまでも、またこれからも同じように地球から連れてこられる可能性もあったじゃないか
「『そ、僕も転移者だ…この世界に呼ばれてもうかなり長い月日が経つ…死ねないこの体のおかげでね』」
「死ねないのか…」
いや、死ぬという概念がないというほうが近いのかもしれない。吸血鬼の王みたいに何かのきっかけがあれば現代に蘇ることができるということなのだろう。
「『まあ、選んだのは僕自身だし、別に後悔とかはしていないんだけどね』」
「でも…」
「『いいんだよ…もう、昔の話だ』」
そう言ってイワナガは笑う。少し諦めたような笑顔だった。きっと、昔に何かあったんだろうか、いやあったに違いない。だからこそのこの言葉、この表情なんだろうな
「そういえば…日本人なら漢字…それと下の名前を」
「『ああ、岩山の岩に永遠の永、そこに保つことと久しいと書いて岩永 保久って言うんだ』」
「岩永…」
ここでもし聞いたことがある名前だったら…それはそれでショックだな。昔に知り合いの人間が同じように転移していたなんてね。でも幸か不幸か知り合いではないみたいだ
「『そこでホッとされてもな…ま、だから君がここまで生き延びることができたのだろうな』」
「…」
「『もういいでしょ?それよりも…ミライ…ああ君の名前は?』」
「紅 美頼…紅いに美しい、そして頼る」
「『そっか、暮れない未来。いい名前だね』」
「ありがとう」
ここでお礼をいうのもどうなのかと思うのだけどまあ、褒められたのならそれはそれでお礼をいうのが筋だというものだろうな。そういえばクレアもフルネームを伝えたときに似たような言葉を返してくれたな…この名前にどんな意味を見つけたのだろうか
「お前は一人だったのか?」
「『いや…全部で8人いたよ』」
「8人…」
そういえば魔王の数も8だって言っていたな。もしかして…いや、これは考えすぎか?
「『ああ、別に僕たちが全員魔王になったわけじゃあないよ?普通に生を終えた人もいる』」
「そうなんだ」
「『君は一人…なのか?』」
「いや、クラス丸ごと」
「『へえ!じゃあかなりの大人数が居るのか。じゃあこの先君のクラスメートと出会うことがあるかもね』」
「今僕が岩永を…殺せばそれは構わないことになるよ」
「『ははっ、それができるものならしてほしいけど…無理だね。まだ、僕のほうが強い』」
「ぐっ」
事実上の勝利宣言、それを傲ることなく、喜ぶこともなくただ、淡々とまるで事実であるように岩永は述べる。でも、それが事実であることを僕は知っている。知っているからこそ、何も言い返せない
「『さてと、それじゃあ僕は行くよ。君を殺す気もないし…目的も達成したし』」
『待て!』
どこかに去ろうとする岩永を闘蛇が止める。あ、そういえばお前いたな。ごめん、すっかり忘れていたよ
『酷いな!?』
「『…どうした?』」
『玄天を返してもらおうか』
「『ああ、そういえば居たな…そこの森に放っているから好きに出会うといいよ』」
『本当か!』
それを聞くとすぐに闘蛇は森の方へと行ってしまった『電気使い…このお礼はいつか必ず』最後にその言葉を残して走り去ってしまった。
「『ははっ、あれじゃあ神獣の威厳も何もないな…ミライは何か話したいことあるか?』」
「いや…いい」
本当のことをいえば聞きたいことは山のようにもある。シェミン先輩のこととか昔のこと、魔王のこと、精霊のこと。きっと岩永なら答えてくれるだろう。でも、今はダメだ
「お前に聞いたらきっと村が滅ぶ」
僕の答えを聞いた岩永は満足そうにうなづいた。
「『ああ、それでいい。それに君の知りたいことは必ず手に入る…それも近いうちに、これは戦いを中途半端で止めてしまったことへの謝罪として送らせてもらうよ』」
「ああ」
でも、いつかきっと、お前ともう一度戦うことになるんだろうな。僕が生きていれば、の話だけど。生きていればきっと死ぬまでにもう一度会う気がする。
「『さらばだ、同郷の友よ…そしてー』」
「ああ、またな岩永」
僕たちは別れを告げる。そして僕は…一目散に村へと走り出した。