予選最終戦・開幕
ブクマありがとうございます
長月二週間日曜日
「…まあ、戦う以外の選択肢はないですけどね、期限は今日までですし」
近づいてきたハジキさんに僕はいう。今日まで一切連絡が取れなかったというか何も行動を起こしてくれなかったのはこれを狙っていたからなのだろうな。予選が今日までということを利用して、楠たちと戦って疲労している僕たちと戦う。そうすれば楽に勝利できる…大方、そんなことを思っていたのだろうな
「うん、悪いんだけど勝負だからね」
「ええ、勝負の世界にルールなんてない…あるのは勝者と敗者だけ。あなたたちのやり方に何も文句はありません。それにルールには従っていますしね」
「へえ、意外だよ。もっとゴネるかと思っていたけど」
「そんなことをして何の意味があるんですか」
それに、戦いにはルールがない。今、このやり口に僕が文句を言ったとしてその言葉は全部僕に返ってくる。天衣との戦いのときに天衣の僕を必要以上に傷つけたくないという思いを利用して僕は勝利した。必要以上に突っ込むことで相手の攻撃を弱めた。それと何一つ変わらない。むしろ僕の方が酷いかもしれいない
「助かるよ…僕たちと戦ってくれるんだね」
「ええ、もちろん」
「…フェアじゃないから一言言わせてもらうけどミライ、拒否してもいいんだよ?事情が事情だし引き分けということに持ち込んでもいい」
「…第5ギルドと第10ギルドの勝敗は?」
「それは、ハジキたちの勝利だね。僕たちのグループは君たちと僕が2勝、ハジキのところが1勝だ」
「…」
つまりこれからを戦わなければハジキさんのギルドは予選敗退ということになる。逆に僕たちに勝つことができれば予選突破の可能性が残るというわけだね
「…それはダメだよ。君たちが戦わないということになればそれは不戦勝ということにしてもらわないと」
「もっと早くに試合を組めなかったのか?」
「都合が合わなくてね。申し訳ない」
どうだか。でも、この際ハジキさんの真偽なんてどうでもいい。大事なのは今試合を申し込まれているという状況だけだ。これくらいの戦法ならどこのギルドでもやっているだろう。むしろそのための日程決めじゃないのかな
「まあうちのグループは比較的平和だけど他はかなり情報戦というか駆け引きを行っていたよ。順番とか時間帯とか」
「なら、ハジキさんたちの行いは何も問題ないはずです」
「そうだよ、ハル、当事者が良いと言っているんだ部外者の君が口を出すべきことじゃない」
「わかった…いこう」
納得してシェミン先輩がハジキさんを連れて行こうとする。いや、多分、そうじゃない。
「ああ、ミライくんと僕が戦うよ」
「!!…ギルドマスターは私」
「ギルマス同士が戦わなければいけないというルールもない…別に良いだろ」
ほら、ここまで策を考えているに決まっている。向こうは僕かシェミン先輩のどちらかに勝てば良いのだから当然僕の方を倒しにくるに決まっている
「でも…」
「これ以上の口出しはやめてもらいたいね…こちらも君が戦うということを承諾しているんだ」
「!!」
「どういうことだ?…いや、言わなくても良いです」
あそこまで悲しそうな顔をしているしきっと今このタイミングで聞いて良いものではないのだろう。
「それじゃあ戦おうか…ああ、君の対戦相手は向こうにいるよ…勝手に行くと良い」
「わかった…その前に、ミライくん」
「はい?」
突然シェミン先輩がこちらに向いてくる。えっと…何か言い残していることでもあったのですか?
「『回復』」
「!、ありがとうございます」
どうやら僕に回復魔法をかけてくれたみたいだ。これで僕は『電気鎧・第三形態』を使い続けておく必要が全くなくなった。これはかなり戦いやすくなったぞ
「魔力までは回復していないから…気をつけて」
「いえ、これで大丈夫です」
別に回復をしてはいけないという決まりもないし、遠慮なく受け取らせてもらいますよ
『ミライ、さすがにフェアじゃないから口出させてもらうけどあいつのスキルは「大地」よ』
「…ありがとう」
「?、どうしたのかな」
「いや、大丈夫です。少しアドバイスをもらっただけで」
「へえ、念話使いでもいるのかな」
まあ念話というかほとんどの人間には見えていない存在がいるんですけどね。イフリートからのアドバイスはかなり有益だな。相手のスキルがわかっただけで相手の初動の見方がかなり楽になる。それに相手は僕が知ったということを知らない可能性もあるし、その点でも有利だな
「それじゃあ始めましょうか…シェミン先輩、先輩も気をつけて」
「うん…ミライくんも」
シェミン先輩が去っていく。そして僕はハジキさんと向き合う。ハルさんも少し距離を置いてくれたみたいだ。
「それじゃあ始めようか…さすがに途中棄権とかはしないでもらえるかな?」
「そんなことができるのなら開始直後にしますって」
「へえ…」
だってできそうにないからね。僕と楠が戦っていた時にいた観客よりもかなり多い人数が今僕たちの戦いを見ようとしているし。なんで増えたんだよ
『まあ、テンイやクスノキを倒しちゃったからね』
なるほど、だからどんな奴が勝ったのか気になってきたと、そういうわけなのか。ふう、あんまり目立ちたくなかったんだけどなって冗談はさておいて、僕としても途中棄権だなんてつまらないことはしたくない。だって…
「それに僕が勝てばあなたは手負いにすら負ける程度だって知らしめることができますからね」
「…バカにしてくれる『土堀』」
「『電気鎧・第五形態』」
地面を強く蹴り上げる。警戒しておいてよかった。ハジキさんの魔法で僕が立っていた場所が地下に沈んでいく。地面だから空中に行けばいいだろうと思って高く飛んでみたけどこれで正解だったみたいだな
「僕のスキルを誰から聞いたのかな?」
「誰でもいいでしょ?『放電』」
空中から電撃を飛ばす。ハジキさんは避けるように後ろへと下がっていく。うん、魔法に対しての防御力は楠の方が上だな。でも油断はしない
「『電気鎧・第三形態』」
すぐさま魔法を切り替えて走っていく。地面に足をつけることは少し不安だけどまあなんとかなるでしょう。加速していってハジキさんに向かう。僕のほうが移動速度は速い。
そのまま裏をとるように回り込み、ハジキさんを殴る
「『土人形』」
「…避けられた」
殴った瞬間、ハジキさんは土の塊に変わってしまった。いつの間にやら変わり身の魔法を使われていたらしい。流れるように魔法を使うとかやっぱりギルマスなんだな。
「『土の槍』」
「『電気の領域』」
「やっぱりその魔法は厄介だね。でも」
「『放電』」
「『避雷針』…君の魔法なんていくらでも代替できるんだよ」
僕の電撃が全部吸収されてしまった。これはあれか。扉とかを開ける前に壁とかに手を当てていたら静電気とかが発生しにくくなるとかいう奴なのかな。というか…それで代替したと言われてもね
「僕の『領域』はすべての魔法を弾くよ」
「そっか…君、噂に聞く『領域』使いなんだね…あいつの仲間だしお似合いか」
「『領域』が悪いみたいな言い方だですね」
「まあね。ま、でも君は今ここで僕に負けるんだけどね『土の槍』」
「その程度の速度なら…『領域』を使わなくても避けることができるんだよ」
走りながら土の塊を避けていく。実際にそこまでの速度がないからね。この程度ならまだなんとかなる。ただ、問題があるとすれば天衣や楠の時と違って使える魔力量がかなり少ないっていうところかな。なんとなくだけど後4割ほど。間に合うか…?




