暖かい日常
長月一週目水曜日
「うわぁ」
「すごい…」
僕とクレアは目の前の出来事にただただ驚きを隠せない。というか冷静に考えてみれば僕たちは同級生の戦いというものを最近全く見ていなかった気がする。
「あれ?ミライくんにクレアくん。二人とも来たんだ」
「あ、紅?それから…えっと、クレアくんかな」
「お前らどうしてここにいるんだよ」
「ははは、サクヤも久しぶり」
僕らがいることに気がついたのか一ノ瀬たちは戦いの手を止めて僕たちのところにやってきた。いや、別に戦いを中断しなくてもよかったんだけどさ。
「久しぶりってお前な…どこに行っていたんだよ。学期中に急にいなくなるなんてさぁ!」
「いやそれは…」
「本当に申し訳ない」
サクヤから早々に僕たちに向かって文句が出てくる。いやそれは本当に申し訳ないわけですよ。ギルドの仕事を受けるっていう授業があって僕とクレア、それからサクヤに今はいないけどミロンさんがいて、その4人で一つのチームだったんだけどダンジョンに行っていたせいで途中から全く参加できていなかったもんな。まあ当然のことだけど僕とクレアは単位を落としている…というか僕らは今期一つも単位を取っていないからね
「まあおかげで二人で課題を達成したってことで俺様の実力が証明されたわけだけどさ」
「ああ、お前ってそんなキャラだったな」
いや、お前みたいなやつがいるとなんだか落ち着くんだよね。こう、みんなおとなしいやつじゃないってことがわかるっていうかさ。
「なんのことだ?まあとにかく俺様が最強だということを誇示するために、まずはギルドの代表に選ばれなくちゃいけない…だからイチノセやフランと模擬戦をしているんだ」
「ああ、そのことなんだけど…」
僕は三人に向かってここにきた目的を話した。僕たちも対抗戦のために戦う相手を探していたということ。そしてもしよかったら僕たちの模擬戦の相手になってくれないかということ
「私はいいよーメイがね、ミライくんたちがきてからかなり明るくなったの。そのお礼も兼ねて」
「俺は構わない…強くなりたいのは俺も同じだからね」
「はっ、この俺様と戦おうっていうのかよ。お前らそんなに強いのか?」
「まあ多分」
三者三様の返事をしてくる。そして、サクヤの答えには曖昧に返すしかない。だって僕たちの実力がどれくらいなのか全くわからないんだもんね。クレアの場合はまあイフリートが加わればかなりやばいことになると思うんだけどさ
「多分?」
「あーじゃあさ、紅は俺、クレアくんはフランさんが一度戦ってみればいいんじゃないか?」
「お前それ僕と戦いたいだけだろ」
「ダメか?」
「いや…いいよもうなんでも」
何がともあれ一ノ瀬が僕と戦ってくれるっていうのならそれを断る必要は全くないな。戦いたくないという気持ちも確かにあるけどそれ以上に戦ってくれる人は大事にしないとな
「それじゃあいつにする?今一ノ瀬たち戦っていたし後日魔力が回復している方がいいだろ」
「え?俺は別にいいけど」
「それじゃあ明日はどうだ?」
「そうだな」
というわけで明日、僕と一ノ瀬は戦うことを決めた。今度はもう逃げるなよって言われたけど…もう逃げねえよ。さすがに明日行かないってなったら僕の信用がガタ落ちだぞ『元々落ちているでしょ』それは言わないお約束だよイフリート…
そのあと、一ノ瀬たちは三人での練習に戻った。サクヤの態度もあるけどまあ途中で人数が増えるのはさすがに良くないもんな。そういうわけで僕とクレアは旧修練場に戻ってきた。そこには相変わらず誰もいないので二人で練習が出来るってもんだ
「それじゃあ夕飯…の支度をしないとね」
「あ、今日は僕が作るよ」
すっかり忘れていたけど夕飯を作らないといけないのを思い出したので僕たちは第32ギルドに戻ってきた。
「シェミン先輩ただいまー」
「あ…ミライくん…おかえりなさい」
「僕もいますよ」
「クレアくんも…いらっしゃい」
「今日は僕たちが夕飯を作りますね」
「うん…お願い」
僕とクレアが料理を作る。作っている最中になぜだか呼び鈴が鳴る…え?一体誰がここに来たんだ?シェミン先輩はあらかじめわかっていたかのように玄関の方に向かう。先輩が扉を開けると、そこには
「シェミン、きましたよ」
「いい匂いだな…ああ、ミライとクレアが作っているのか」
「へえ、どんな料理が出来上がるのかな〜」
え?ここにはいないはずの先輩たちの声が聞こえてくるんだけど。食事の準備が済んだのでそれを食卓に運んでくるとそこには
「どうして先輩たちがいるんですか?」
そこにはサリア先輩を初め、セリア先輩、グレン先輩、スバル先輩、レイ先輩、セレナ先輩にイオリ先輩まで集合していた。どうしてここに集まったのだろうか
「ふふっ、私たちは一時ですけどこのギルドに在籍していたことがあるんですよ」
「え?」
「ギルドが成立するためには三人以上が条件だったからな。このギルドを作るために俺たちは以前のギルドを止めているんだ」
「そ、そうなんですね」
知らなかった事実に驚いてしまう。というか先輩たちこのギルドにまとまっていたのかよ。もしバラバラになっていなくてここに集結したままだったら対抗戦は絶対にここが優勝するだろうな。確実に
「まあ、そうだね〜俺たちに勝てるとしたら…ハルぐらいかな?」
「ああ、確かにハルがいたな。でも他は正直…いないか?」
「二人とも、あんまり舐めてはいけませんよ。みんな本気なんですから」
「そのせいでよく模擬戦の誘いを受けるからね」
「え?俺全く受けないんだけど」
「人徳の差じゃない?イオリになら話しかけやすいし」
「えぇ」
「え?グレン先輩今空いているんですか?」
「あ、あぁ」
「「じゃあ僕と模擬戦をしてくれませんか?」」
まさかグレン先輩が空いているなんて。でもどうしてなんだろう。肉対戦…体術においてはグレン先輩との戦うのが一番経験になるっていうのに。グレン先輩の体術本当に凄いもんな。なんで『領域』で吹き飛ばすことができないんだよ。いや、今ならいけるかな?
「お、おう。いいぞいつでもこい」
「ふふっ…もちろん…私もいいよ?」
「本当ですか?」
「うん」
「そっか…なあサリア」
「なんですか?」
「シェミンやグレンと戦いたいのだが」
「…わかっていますよ。ですが私も同行します。セリアだけでは行かすことはできませんので」
どんどん話が進んで行く。でもなんていうか…サリア先輩から諦めて一ノ瀬たちの方に向かう必要なんてなかったのかもしれないな。グレン先輩やシェミン先輩が戦ってくれるっていうのなら
「同期と触れ合うのは大事ですよ。私たちはミライの先輩にしかなれないのですから」
「はい…」
そうだよな…でも、だから絶対に先輩たちには黙っていよう。僕たちが一年生を終えたらどうするかってことを。
少し暗い話がありながらも先輩たちがみんないることでかなり楽しい夕飯を過ごすことができた。
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