密会
サリア先輩との婚約が決まった次の日、僕はシズクと会う事にしていた。あいつもあいつで忙しいだろうにこうして時間を取ってくれるのは非常にありがたい。僕は指定された場所に向かう。当然のことではあるが僕の顔はこの国では知れ渡っているので顔を隠しながら約束の場所に向かう
向かったがまだシズクは来ていないみたいだ。あいつが約束に遅れるなんて珍しいこともあるもんだと思っていたけど冷静に考えてみればまだ時間になっていなかった。少しまで時間があるし待つか
「珍しいですわね。シオンがこんなに早く来るなんて」
「え、ちょ、シズク!?」
「お久しぶりですわ、シオン」
「あ、ああ久しぶり」
というか今どこにいたんだ?気配が全くしなかったんだけど
「さすがに今の状態のシオンと二人っきりであるのはまずいので隠密魔法をかけてもらいました」
「ああ、なるほど」
確かに何も知らない人からみれば僕は月の国の姫と婚約したことになっている。まあ誰が見てももうそうなってしまいそうなんだけど。あいつこういう時だけはやけに早いだよな。ともかくそういう時の僕とシズクが二人っきりでいるとなれば色々と体面とかあるしまずいことになるよな。てかそれでもこいつの魔法に気がつかなかったのか…
「私の魔法はそれだけ完璧ですので」
「普通予想してないって」
「それよりも、いくつか情報をもらってきましたわ」
「ああ、助かる」
シズクにはいくつか情報を集めにもらってきた。主にミライとクレアの情報について。ダンジョンに突入したとはきいていたがそのあと彼らがどんな行動をしていたのかまったくわからない。生きて帰ってきているのかそれとも考えたくはないがダンジョンで死んでしまったのか…そういった情報を集めてもらっていた。
「ただ…人が多いところではあんまり話したくはありませんの。どこか人気がないところが好ましいのですが」
「すぐに思いつくところは王宮だけどあそこはあそこで不安だしな」
「ですわね」
結局こうなってしまう。普通のダンジョン攻略の話であるのならここでも問題ないのだが内容が内容なだけに慎重にならざるを得ない。それに父上のことだ知っていることがあれば全部話せとか言ってきそうだしな。これ以上先輩たちの迷惑にはなりたくない
「念話は…無理か」
「誰にも聞かれることはありませんが周囲にかなり気をつけなければなりませんもの」
誰かが急に叫び声を上げてしまったら当然注目される。それにずっと黙ったままでいたらさすがに不審に思われる。
「シオンが何も反応しないのであればいいのですが」
「あれ?反応するの僕確定?」
「ええ」
「…」
悔しいけれど僕とシズクのどちらが叫び声をあげるかって考えたら間違いなく僕の方になるんだよな。シズクは結構冷静に物事を考えることができるし…僕だってできるけどさ
「はぁ。では、私の家に向かいましょう。幸いですが私の家には今誰もいませんし」
「リスクが大きいが…」
「どの選択肢を選んでも大きいですわ。誰かさんのせいで」
「父上に言ってくれよ…」
こういった相談ができなくなっている理由は僕が王子でシズクが女の子であるというのが大きい。シズクが男だったらまだ王宮で話していても何の噂にもならない。でも女の子と話しているとなれば噂になるのはさけられない。それに…シズクは決して僕には言わないけど多分僕の婚約候補として言われていたと思う。城にいるメイドとかの反応からして予想しかたてれないけど
「まあいいですわ。向かいましょう」
「ああ、シズクの家に行くのって久しぶりだな」
「そうですわね」
シズクは王宮に使える魔術師の家系に生まれている。だから歳が同じということでよくこいつと一緒に勉強をしたりすることが多かった。その際によくこいつの家に言ってシズクの父親に魔法とかを教わった。言うなれば僕の師匠にもなるんだよな。そんなわけで僕はシズクの家へと向かう。王宮に使える魔術師というだけあってかなり近いんだけどね…結果論ではあるけどシズクの家に行けばよかったな。いやそれだと噂が立つか
そして家にたどり着く。シズクの家にいるメイドさんが開けてくれる。僕をみてかなり驚いた表情をしたけどすぐに元の顔に戻った
「今日は『友人』が来たの。何か飲み物を用意して下さるかしら?」
「はい、かしこまりました」
殊更に『友人』を強調するシズク。まあできる限り誤解されたくないのだろう。まあ友人なのでシズクの部屋に通されることはなく応接間で話すことになった
「あの子達は信頼できますわ。今日シオンが来たことは黙ってくれますわ」
「ああ、ありがとう」
シズクが言うんだ。疑うなんてもってのほかだ。こいつだけは今信じられるわけだし
「それでは、ミライくんたちのことですけど」
「ああ、頼む」
「まず、ユン様と話をすることができました。おそらくですが、彼らは生きている可能性が高いそうですわ」
「本当か!」
それを聞いて安心する。とにかく無事でいてくれてよかった。
「ええ、彼らはダンジョンの主である炎の精霊『イフリート』のお気に入りだそうです。ですので死んでいる可能性は低いと」
「ユンさんたちは一緒に脱出したわけではないのか?」
「はい、彼らとは最終層手前で別れたそうですわ。ミライくんたちを死なせないためと言っていましたが」
「ああ、そういうことか」
一緒に脱出してしまったらそのあとにすぐユンさんはミライとクレアを捕まえなければいけない。ダンジョンの中であれば生き延びるためという理由でなんとでもなるが外に出てしまったらそれも言い訳に使えない。
「ユンさんたちもミライたちを気に入ったみたいだね」
「そうですわね。あとは」
「しばらく逃げるかまたは、かなりの手柄をあげるか」
…ふと、ここで僕は一つの考えがよぎる。罪をおかしたとはいえ、何か大きな手柄をあげればその罪は消されることが多い。そして今僕の国における魔族の進行。まるでミライたちが罪をつぐなうために用意されたみたいだ。
「さすがに考えすぎか」
「どうかいたしましたの?」
「いや、なんでもない。それにしても、精霊か」
「ええ、精霊ですわ」
精霊、しかもイフリートということは4大精霊の一角ということになる。それだけ大きな精霊と契約することができるとなれば彼らにとってかなりの成長になるだろう
「ならそろそろダンジョンから出てきてもいい頃か」
「そうなりますわね…まあさすがに出てすぐに事件に巻き込まれるとかそんなことはないでしょうけど」
「そんなにあいつらトラブルメーカーだったか?」
「否定できません、とだけ申しますわ」
あいつらが来てからというものかなり賑やかだったからな。逆に言えばあいつらがダンジョンに入っている間こちらではあんまり面白いことがなかったし。ただ…あのクスノキとかいう奴がそこそこ名前を轟かせてるぐらいか?あとはテンイやイチノセ、アオメといった奴らも頭角を現し始めているな
『あら、シオンが言ってた子達、イフリートと一緒にいるの?ならかなりのことを成し遂げてくれたわよ?』
「え?」
「シオン?」
急にそんなことを言われて驚く。えっと、つまりどういうこと?