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電気使いは今日もノリで生きる  作者: 歩海
第5章 バックアップ
212/317

月桂樹に込めて…二日目の幕引き

葉月一週目火曜日


それから僕たちはほとんど言葉を交わすことなく家にたどり着いた。正確にはクレアとメイさんはなにかしらの会話をしていたようだけれども僕は感傷に浸りすぎていてなにも話せなかったというほうが正しい。


「イヨは、そこに埋めてあげましょう」

「了解」

「手伝おうか?」

「いや、悪いけど一人でやらせてくれ『創造(creat)』」


砂鉄をシャベルの形にして地面を掘っていく。人が一人入るだけの大きさを確保するとなるとそれなりに掘らなければならない。これはクレアの協力を受けたほうがよかったかなと少しばかり思ったけれど時間がかかるほうがちょうどいい。イヨさんから記憶を一度に送られたから少し混乱しているのでそれを整理する時間が必要だったからね。ただただ無心に掘り続けるのはそういう意味でありがたい。だから当然『電気鎧(armor)第三形態(third)』も解除した。自分の力だけで掘り進めたかったから


「こんなものでいいか」


適度な大きさになったのでそこにイヨさんを寝かせる。改めて見ても綺麗な死に顔だよな。月明かりに照らされているイヨさんはかなり美しかった。もう目を開けて僕と話してくれることがないというのは辛い。でも現実を受け入れて前へ進まないとね。そして、イヨさんの横にある一人分(・・・)のスペース(・・・・・)を見て、イフリートに呼びかける


「………ねえ、イフリート」

『どうしたのかしら』

「ナナさんがどこにいたか、わかる?」

『ええ、わかるわよ。案内してあげる。ついてきて』

「…ありがとう」

『…別に私のきまぐれよ』


だとしても僕が声をかけたらすぐに出てきたってことは気にしていてくれていたんだよな。『気まぐれだといっているでしょう?』わかってるよ。でも、ありがとう


『なら明日、ちゃんとあいつに勝ちなさい』

「ああ、必ず」


イフリートに連れられてナナさんと出会った場所、つまりはおそらくナナさんが死んでいるであろう場所に向かう。もしかしたら研究者たちにもう連れ去られているのではと危惧したけどまだそこにいてよかった


『まああなたたちのおかげでほぼ壊滅してたしそんな余裕なんてないのでしょう』

「そっか」

『だからあなたが戦ったことは意味あるわ。こうしてナナもちゃんと弔うことができたのだから』


そうだね。できればムツキさんもきちんと弔いたかったけどしょうがない。さて、運ぶとするか。イヨさんの時と同じように『電気鎧(armor)第三形態(third)』を発動させて抱えていく。そういえばさっきは全く気にしていなかったけど今の僕の姿って側から見れば完全に不審者だよね。通報…警察とかそういう期間があるのかは知らないけど『まあ騎士とかはいるわね』通報されたらまちがいなくアウトじゃねえか


『大丈夫よ』

「いやいやいや。さっきは偶々見つからずにすんだけどさ、そんな幸運が続くかな」

『あら、気が付いていなかったの?』

「え?」

「それなら大丈夫ですよ。ミライさん」

「メイさん?」


え、どうしてメイさんがここにいるんだ?『あら、ついてきていたのを気がついていなかったの?』え、そうなの?全く気がつかなかったんだけど。キョトンとした顔を晒している僕をみてメイさんはクスクスと笑う


「ふふっ、当然ですよ。隠密魔法を使っていましたし。てかさっきも使っていたんですよ?」

「そうなの!?」


そうだったんだ。だから誰にも見つからずに済んだわけね。ミナさんが使っていた魔法と同じような感じか。でもミナさんは自分だけだったけど、メイさんは複数人にかけることができるのか。さすがはオリジナル、といったほうがいいのかな


「ええ、その認識であっていますよ。イヨさんが使える魔法は基本的に私も使えます」

「すげぇ」


だってそれはつまりさ、イヨさんたち少なくとも七つの別系統の魔法を扱うことができるっていうことなんだよな。これが天才ってやつなのか…


「ミライさんも同じスキルの持ち主ですしいつかできるようになりますよ」

「そ、そうかな」


それは嬉しいな。まあそれだけ努力をしなければいけないってことなんだけど今までと違ってある意味指標ができているのはありがたいな。イメージがあるのとないのとではかなり違うから。


『逆に言えば偏った知識を持っていたからこそってところもあったんだけどね。まあいいわ』


それはそうなのかもしれないけどさ。もっと「電気」というものについての理解を深めていきたいんだよ。そうすれば僕はたくさんの魔法を自由自在に扱うことができるようになると思うから。でもそれは今は置いといてナナさんを運ぼう


「『電気鎧(armor)第三形態(third)』」

「そうですね『遮断(ミスト)』」


ほお、これで僕らの姿は隠れたわけか。これどういう原理で発動しているんだ?電気と隠密ってどう考えても結びつかないんだけど『精進しなさい』まあそうですね。楽して手に入れることができるだなんて思ってはいけないもんね。努力して努力して努力して、そして掴めばいいんだし


『そうよ。あなたはそれでいいの』

「ん?何か言った?」

『いいえ、もし躓いたら私やクレアが支えてあげるって言ったの』

「そっか」

「私ももちろん協力しますよ」

「メイさんまで…ありがとう」


やっぱり僕ってかなり恵まれているんだな。こうして支えてくれる仲間がいるってことだし。僕一人で無理でも仲間に遠慮することなく頼ればいいんだし。そんなことを思いながら僕らは家まで帰って行った。



「お、戻ったか」

「クレア、お前外に出て待ってたのか」

「まあ、な」


さすがに捜索に戦闘、さらにはそれなりの距離を往復となればもうかなり夜も遅くなってきている。そんな時間に長々と外で待っていてくれていたのか。その心遣いにまた嬉しくなる。ああ、こういう風にちゃんと相手の好意を受け取れるくらいには回復したんだな


「ナナさんは僕もそれなりに面識あるからね」

「そっか」


そういえば僕とクレアとでナナさんを助けたところからこの騒動は始まったんだもんな。そして僕はイヨさんの隣にナナさんを横たわらせる。そして上から掘った土を全てかけていく。埋めるときはメイさんやクレアも協力したいと言っていたので二人と一緒に行った。そして土を完全にかぶせて元と同じようにすると


『クレア、少し魔力をもらうわよ』

「え、わかった」


イフリートの体が輝いたかと思うと二人を埋めたところから小さな葉っぱが生えきた。これは、イフリートの力で生やしたのか?


『月桂樹よ。私はアウラルネやドリアードといった植物系の精霊じゃないから木まで成長させることはできないけどね』

「これが、月桂樹」

「ありがとうございます。精霊様」

『これは目印に、よ』


月桂樹ね。名前は聞いたことあるんだけどよくわからないんだよな。有名な木の種類であることは間違いないんだけど。よく月桂樹の冠みたいなのがゲームに登場していた気がする『まあそれね。だいたい合っているわ』


「精霊が祝福の意味を込めて送る伝説の木のことだよ。主に契約者が死んだときにその屍が変わるとされているけど…」

「そんなに大事なものだったのか」

『別に。言ったでしょ?これはあくまで目印』

「それでもありがとうございます」


ん?でも一本苗木というか種があればそこから繁殖させることができるんじゃないのか?なら別に伝説とはいえもっと普及してもおかしくないんだけど


「そうなの?」

「いや詳しくは知らない」


育て方とかわからないし。毎日水をあげればいいのかな?


『あなたの世界の月桂樹とは少しばかり異なるの。精霊の祝福は契約者に対して行われるのが基本。つまりその契約者が完全に…大地に還ったときに枯れるの』

「そういうものなんだ」


便利なものなんだな。『だから水をあげなくても勝手に育って勝手に枯れるわ。土に還るのもそんなに時間がかからないし』へえ、そうなんだ。でも白骨とかは長く残るイメージなんだけど


『ぐちぐちうるさいわね』

「契約者がそのまま月桂樹になると言われているんだよ」

「ああそういうことね」


そういう仕組みならさっさと教えてくれても良かったのに『うるさいわね』もう黙るよ。ここはイヨさんとナナさんの前だし。僕はそこにしゃがむと静かに手をあわせる。どうか安らかな眠りにつきますように。そして同時に決意する。必ず、この研究を終わらせてくるから。明日に全てを



その後、僕たちはフランさんが用意してくれた夕飯を食べ、風呂に入るとそのまま泥のように眠った。今日一日で二回も魔力を使い切ったしメイさんが治療してくれたと言ってもかなり疲労が溜まっている。明日の決戦のためにしっかりと休養をとらないとね。明日、勝つために

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