一進一退
葉月一週目火曜日
「『放電』」
「『盾』」
僕の放った電撃はまたしてもスルトに届く前に防がれてしまっている。シールドって聞こえるから多分防御魔法を展開しているんだろうけど・・あいつの属性はなんだ?
「イヨさん、あいつのスキルわかる?」
「わかりません・・・スルトの戦う姿をまともに見たことがないので」
まあこういうことが起きないに越したことはないけれど起きた時のことを考えて秘密にしておくよな普通。なら自分で推測するしかないんだけど・・・まったくわからん。なんだ防御専門のスキルでもあったっけ?
「どうした?君は接近戦の方が得意なんだろう?なぜ近くに来ないんだ?」
「得意な戦法とできる戦法は違うって話だよ『地雷』」
電撃をいくら放っても多分むりだろうから罠の方に切り替えたんだけど、それも地面にぶつかるまえに防がれてしまう。そりゃあ僕だって近づいて殴りたいよ。でもそれはできない。ここが敵の陣地であるがゆえにもしイヨさんと距離が開いてしまうとイヨさんを拉致られてしまう可能性が出てくる。これだから敵の懐にいるのが怖いんだよ。・・・ん?それって僕はイヨさんを足手まといの扱いにしていないか?
「イヨさんごめん」
「どうしたんですか?」
僕がなにを言っているのかまったくもってわからないという顔をしている。いやわからなくてもいいんですよ。僕の傲慢なところなんて知られたくないし。
「僕にまた君の電気を付与することはできる?」
「大丈夫です」
そうだよ。別に一方的に庇護するだけの関係じゃない。僕は彼女たちを救うと考えているけどでもそれはなにも一人で全てを解決しようとする意味ではない。クレアやイフリートの力を借りておいて今更って気もするけど・・・僕は弱い。だから、他人の力を借りる。
「合図を出したらまた魔法を使ってくれ」
「わかりました」
イヨさんと握手をして電気を与えてもらう。この時に少しだけ・・・っとこれで僕の体の電気の一部はイヨさんの発生させた電気になるんだな。
「ん?もう接近戦に切り替えるのかい?どうして」
「自分の考えが傲慢だって気がついたからね『放電』」
「へえ」
三たび電撃を放つ。そしてまた防がれる。でも今回はそれを織り込み済みだ。
「イヨさん」
「はい!」
イヨさんの『設置』魔法が発動し僕は一気にスルトとの距離を詰める。そのまま強化された身体能力を駆使してスルトに殴りかかる
「その攻撃パターンはすでに知っているよ」
「それでも関係ないね」
この攻撃方法は結局僕の身体能力に依存している。そして僕の身体能力はある意味無限になっている。おまけに僕の体は成長期真っ盛りだ。向こうの想定なんて軽々超えてみせる
「とりゃああ」
体をひねりながら左足で回し蹴り。それは普通に防がれる。そこから左足を起点にして体を中に浮かせるとスルトの頭に向かって右足で踵落とし。
「ふん!」
「ちい」
連続攻撃をしても防がれるのか。思ったよりも頑丈というか強固だな。一回一回のインターバルもそこまで長くないようだし。いや、これはどちらかといえば
「設置型の魔法か」
「へえ、よく気がついたね」
「それで体の防御力を向上させているんだな」
つまりは一度魔法を使えばあの僕の電撃を防いだ魔法は再度使うことができない。つまりその分防御力が低くなる。ならその時にその防御力を超えるだけの火力を叩き込めば・・・勝てる!
「『放電』」
「『盾』」
「とりゃあああ」
電撃と合わせるように顔にめがけて殴りかかる。クリーンヒット、よっしゃあ全力で殴れば少なからずダメージを与えることができるみたいだ
「くっ、予想よりも強い」
「『電気の領域』」
「ぐあああああ」
僕の魔法はなにもただただ殴るだけのものじゃないんだよ。これはどうやら完全に無警戒だったみたいだな。『領域』を展開したことでスルトは吹き飛び一つの建物の壁に激突した。ちっ、埋まるとかそういう展開を期待していたんだけどやっぱりそこまでの威力は発生しないみたいだな
「『創造』」
砂鉄を集めて剣を作り出す。ここは空き地というだけあって下が普通に地面だ。だから砂鉄が普通にある。つまり砂鉄剣を作り出すことができるわけだ。そして接近して力任せに振り下ろす。
「『盾』」
「ぐうう」
どうやらインターバルが立っていたようで防がれてしまう。でもこの魔法はね、そんな一時的な防御魔法では防ぐことはできないんだよ
「『解除』」
「なに!?」
お、やっぱり驚いているな。この魔法は初めてみせるんだっけ。それならまあしょうがないな。
「『爆発』」
「うわああああああああああああ」
粉塵爆発。今の所僕だけのオリジナル魔法。綺麗に決まったな。やっぱり魔法を解除して何かするって発想はなかなか生まれないみたいだな。当然インターバルには間に合っていないので爆発を直接受けるはずだ。まあそこまで砂鉄を集めることができなかったので爆発は規模が大きくなかったけど。
「おーい、意識はあるか?」
「ぐ・・・うぅ」
「お、あった」
どうやら緊急魔法でも使ったのか意識があるみたいだ。よかったこいつには色々と聞かなければならないことが沢山ある。
「おい、ミイさんはどこにいる」
「・・・教えると思うか?」
「『放電』」
「ぐうううう」
あーこれ間違いなく悪者の行動だけど仕方ないよね。てか僕何気に敵を倒したあとにこういう拷問じみたことをよくしている気がするな。ま、それで何か言われたらきちんと償えばいいか。
「早く答えろよ」
「・・・嫌だね。それに私の役目は果たした」
「!」
慌てて後ろを向く。しかしながら後ろを見ても誰もいなかった。なんだこいつを囮にして後ろから奇襲をするものかと思っていたけれど違ったのか・・・っておい
「イヨさんを・・・」
「ふははは。彼女もこの先の研究に必要だからね・・・がはっ」
「それ以上は喋るな」
このやろう。本当はもう何十発も殴りたいところだけどさすがに急がないとやばいからこの一発だけで許してやるよ。だから接近戦はあんまりしたくなかったんだ。そうはいってもこれは結果論だ。見え見えだったけれどもここで時間を稼がれるわけにもいかなかったし。それに時間をかけてしまっていればもっと悪い展開に進んでしまっていた可能性すらある。
「多分だけどルドーの洗脳魔法で何かするんだろうな」
昨日痛めつけたばかりなのにすぐ回復したのかと疑いたくなるがここは研究所だ1日そこらで回復ぐらい普通にできそうな気がする。それに僕だってほとんど回復しているわけだしどっちもどっちだ
「『感知』」
感知魔法で探すか。まあ・・・まさかこの保険を使うことになるとは思いもよらなかったけどね。
「あそこか」
すぐに見つけることができる。多分錯乱の魔法とかがかけられていたのかもしれないが関係ない。他人の魔力を探すのなら手間取るだろうが自分自身の魔力ならば見つけるのはそこまで難しくない。それに向こうだってイヨさんの魔力の方をごまかすからね。僕は自分の魔力が示すところに向けて一直線に進んだ。




