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電気使いは今日もノリで生きる  作者: 歩海
第5章 バックアップ
180/317

現実

葉月一週目月曜日


「じゃあ鎖を外しますね」

「ありがとう」


そしてイヨさんは鎖の繋がれている部分、僕の手じゃなくて後ろの壁のところに繋がれている部分に近づいていくと


「『電撃』。これで壁から外れました、動けるようになるはずです」

「あ、ありがとう?」


あれ、てか直接鎖を切ってくれるとか鍵を持っているから外してくれるとかそういう感じじゃないのかな。ただただ壁に向かって電撃を放って抉り取るだけなのか?


「私の魔法も電気系統なので全部吸収されてしまいます。だから一度壁から外す必要があるんです」

『つまり電気伝導率がものすごくいい物質を使っているっていうことね、だから電気は鎖の方に流れていく。そして壁に吸収されることで実質電気を無効化しているわけね』


そういうわけか。なら僕はもう魔法を使うことができるというわけだね。電気伝導率がかなりいい物質かぁどんな素材を使っているんだろう。異世界とかだとオリハルコンが有名だけど実際のところはどうなんだろう


『うーん、多分違うわね。まあ気にしてはダメよ。どうせあなたには理解できないことなんだし』

「『電気鎧(armor)第三形態(third)』」


イフリートの言葉ももっともなので自分のことに集中する。腕を中心に電気を展開して鎖を引きちぎる。幸いというべきか電気をながすことに特化していたようで簡単に引きちぎることが出来た。これで完全に僕は自由になった。


「まずはどうするんですか」

「クレアに協力を求めよう」


時間がないという言葉も確かに気になるけれどここは一人でも多い方がいい。さすがに一人で潰すにはこの研究所は大きすぎる。クレアの協力があった方が助かる。それにその方がイフリートもより動きやすくなるはずだ。


『あんまり巻き込むのは好きじゃないけどしょうがないわね。もうしのごの言ってられないし』


いやあなた巻き込むこと好きでしょうに。なんで僕までダンジョンを攻略することになっていたんですか。


『それはミライが勝手に来たからでしょ?私は来るものは拒まずタイプなのよ』


あれ?そうだったっけ?言われてみればそんな気がしてきたんだけど。でもなんか一度夢の中で会話をしたような気がするんだけど・・・覚えていないな。


「クレアというのが精霊の契約者ですか?」

「そうだね」

「精霊の契約者が加わるのであれば心強いです」

「それって僕だけだと頼りないってこと?」

「・・・」


ねえ、露骨に目を逸らさないだ欲しいんだけど。なんか悲しくなって来た。確かに勢いに任せて動いたりと少々大人気ない行動を取ってしまったりもしてしまったけどさ、僕まだ未成年なんだよ?この世界での大人と子供の区分は知らないけどさ


『だいたいあなたの通っている学校に入学するぐらいが大人っていうのが一般的ね』


そうかつまり僕はこの世界では大人というわけか。まったく嬉しくもなんともないけどね。あれ?大人になったということはお酒とか飲めるのか?『問題ないんじゃない?飲んで何やらかすか知らないけど』それはとても怖いので信頼できる先輩方と一緒に飲むことにします。普通に二十歳までお酒は飲んではいけないというスタンスでいこう。この世界では異なっていたときにはそのときとして考えればいし


「それでは一旦研究所外に出るということですね」

「そうなるね」

『幸い、今実験しているというのなら手薄になっているはずよ。早くここから脱出しなさいよね』


イヨさんの案内で研究所内を進んでいく。僕がいたのは地下の牢獄だったようでまずは地上に出る。研究所といっても何もかもが電気で動いているわけではなく、そこらへんの壁なんかは普通に土が見えている。なんていうか・・・なかなか原始的な牢屋だ。鉄の檻があってそこに囚人を入れるみたいな。


「『感知(feel)』」

「どうしたんですか?」

「一応感知魔法を使っておこうかと思ってね」


こんなに早くイヨさんが陥落するとは思っていないだろうがそれでも用心しておくことに越したことはない。特に戦闘するであろうミイさんとかは補足がしやすい。だから感知魔法を使っておけば不意打ちを受けることはまずあり得ないだろう。・・・ん?


『見てミライ』

「あそこにいるのは・・・人?」


すぐ近くに人の電気を見つけたからすぐに逃げようと思ったけれど周りを見る限りどうも牢屋の中にいるみたいなんだよね。外部から連れてこられたっていう病人なんだろうか。それにしてはこんなところに居させたら他の住民に感染したりして大事にならないのかな


「これは・・・」


近づかなければよかった。それが素直に思った僕の感想。『少し手伝ってあげるから脳に電気を回して』了解。イフリートの指示に従って電気をコントロールする。・・・少し吐き気がおさまった気がする。


『中枢神経系を操作して嘔吐しないようにしたわ。・・・今後とも覚えておきなさい。これ結構有効よ』


助かる。僕だけだとどうすればいいかわからずここで普通に吐いていてしまっただろう。そうなれば匂いがきついしなにより音で気づかれてしまう可能性がある。というかイフリートはよくこの仕組みを知っていたな


『昔ゼノちゃんとやんちゃしていたときにね』


なんかとんでもなく怖い言葉が飛び出してきたんだけど。やめよう。でもおかげで覚えたから次からはショッキングな光景を見たところですぐに吐くことはないだろう。解除した後がかなり恐ろしいことになると思うけどそれはそれ、しょうがない。


『にしてもひどいわね、これ』

「これは・・・」

「はい、スルトたち曰く、失敗作(・・・)らしいです」

「なんて言い草だよ」


そこにいたのは多分だけどクローンの一人。多分というのは目の前のにいる人間が・・・多分人間なんだろうけどほとんど人間の形をなしていないから。ただの肉の塊のようにも見える。それでも僕が人間だと判断できたのは僕の感知魔法が人間だと伝えていたからにすぎない。だからこうしてみたときにショックを受けてあまりの気持ち悪さに吐きそうになったんだけどね


『おそらく定着しなかった(・・・・・・・)者の最期よね・・・可哀想に』

「定着?」

「スルトたちも言っていました。うまく定着させることができない失敗作だと」

『こうなってしまえば病気も何もないわ・・・ただ死ぬのを待つばかりよ』


助けることは・・・できないのか?


『無理ね。殺してあげるのがせめてもの救い・・・でも、どうして彼らはこれをこんなところに捨てたのかしら』


捨てたって、そんな言い方・・・いや確かに他に言い方がないのもわかっているけどさ。


「せめて・・・人の手で殺してあげよう『放電(thunder)』」


こんなことをしている時間がないってことはわかりきっているんだけどそれでも僕は目の前のかたま・・・人間に向けて電撃を放つ。高電圧の電流に当たったことで発熱し、肉の焼けるような気持ちの悪い匂いが辺り一面に広がっていった。


「どうしたんだい?」


そんな僕をイヨさんはじっと見つめていた。あまりにずっと見つめていたものだから気になって聞いてしまった。


「いえ、こんな姿になってもあなたはまだ人間だというのですね」

「・・・感知魔法でそうなっていたからね」


「・・・だからあなたはクローン研究が嫌いなのですね」


何か呟いたようだけど僕にはまったく聞こえなかった。聞き返そうかと思ったけれどもそれはやめておいた。だってイヨさんの顔にはまぎれもない困惑の表情が張り付いていたから


『・・・まずい気がするわ。はやく地上を目指しましょう』


イフリートの指示に従って僕らは地上を目指す。なんとなくだけど・・・誰かが死ぬ、そんな気がしてきた。

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