二度ある事は三度ある
葉月一週目月曜日
「・・・どうしてなにも聞かないのですか?」
ふと、メイさんが僕にそう質問してきたのは僕とメイさんが家を出てからしばらく経ってのことだった。つまり、その間、僕らには一言も会話がなかったことになる。なぜかついてきていたイフリートがいたので特に退屈することなかったけどもそれでも気まずいことにはかわりない
「いや・・・だって関わりたくないし」
「そんな理由ですか」
あれ?メイさん一歩横にずれました?ちょっとだけ引かれたとかそういうことだろうか。あまりにも考えなしに発言するのは良くないな。
「まあ正直下手に事件に突っ込む気はないってことかな。でもどうしてフランさんになにも言わないの?お姉ちゃんでしょ?」
「あなたには関係ないと思います。というか本当に無関心なのならなぜそんなことを聞いてくるんですか」
「ちゃんと言葉で伝えとかないと後悔するかもよ?っていう年上からのアドバイス」
僕は何か別に隠しごとがあったわけではない。それでも両親にはなにも言わずしてこの世界に来てしまったしそれにクラスメートたちのこともある。半分は誤解だけれどももう半分は僕は彼らときちんと話をしなかったからだ。一ノ瀬にも大分嫌われてしまったけど僕にも責任がある。メイさんにはああいったけど後悔はそこまでしてない。それでももっといいやり方があったのではないかとも思う。嫌われるにもそれ相応の理由があるのだ。別にいじめ問題でいじめられた側が悪いとか言い出すわけじゃない。あれはまずいじめるのが悪いという前提のもと話が進むわけだし。・・・なんかごちゃごちゃしてきたんだけど
「そういうものですか。でも私はお姉ちゃんになにも言いません・・これは私の問題です」
「そっか。なら僕もなにも言わないよ」
「ならもうこれ以上首を突っ込まないでください」
ここまで頑なに拒絶されちゃったらね・・もうこれ以上僕はなにも言わないよ。面倒なことはごめんだ。『ここで「そんなこと言うなよ。俺も力になる」とか言えたなら違う人生になるのに』いやだよそんな面倒な人生お断りだ。絶対に早死にするやつじゃん。一つだけ同じ顔の人が存在する理由が考えられるけどそれはかなり重たいやつだから関わり合いになることは避けたいし。まだ決まったわけじゃないけど。でもまあ、一つだけ確認しておこうかな。
「わかったよ。でもメイさん隠し事苦手そうだけど大丈夫?」
「な、ほっといてください」
「・・・」
はあ、『あれ?関わらないんじゃないの?』そのつもりだったんだけどさすがにここまで不器用な様を見せつけられたらね。関わる気はないけれども手伝うくらいはしてもいいかなって。僕とクレアがいることで発生する問題くらいは僕の方で受け持ってもいいかなった思っただけさ。努力している人を見捨てるのは忍びないからね。
「隠し事を手伝うくらいはするよ」
「あなたの助けなんていりません」
「でも今日危なかっただろ?別になにを隠しているのかは聞きやしないけどこの調子だとすぐにフランさんにばれてしまうよ?」
「それはあなた方がいるからです」
「だからだよ。僕らがいることによって生じることぐらいは誤魔化す手伝いをするって話」
「・・・」
悩んでいるな。僕は別に何か新しい情報をよこせとかそんなことを言っているわけではないっていうのに。単に僕らがいることで秘密がバレそうになったらそれを誤魔化すぐらいはしてあげますよって話なのになにを悩む必要があるのだろうか。もしかしてこれって実はかなり闇が深かったりするのか?やっぱりなのかな・・・
「わかりました。でも必要以上に関わらないでください」
「それは重々承知しているよ・・ところでどこに向かってるんだ?」
「それは「メイ」あっ」
突然僕らの方に話しかけてくる人がいた。メイさんがビクッと反応したってことはこの人と待ち合わせをしていたのかな。・・・いや、別にいいんだけどさ
「遅かったから心配してきてみたけど、こちらの少年は誰かな?」
「私のうちに居候しにきてる人です。二三日で帰るみたい」
「そっか。ああ、すまない私の名前はスルト。はじめまして、かな?」
「はい・・・えっと僕はミライです」
「ミライくんね。もしかしてメイを心配して送ってくれたのかい?それはありがとう。でももう大丈夫だから私に預けてくれないか?」
メイさんの方を見ると少し顔を青ざめているけどそれでも僕の方を向いてうなづいた。青ざめていることは少し引っかかるけど本人が特に問題ないって言っているみたいだしいいのかな
「わかりました、一応帰りも送ろうと思うのですが、どこに行けばいいですか?」
「え?そうだな確かにまた襲われても困るしそうだな、そこの広場に集合でいいだろうか?時間はまあ夕暮れ時を目安にしてくれ」
「わかりました」
そして僕はメイさんと別れる。・・・イフリート
『なあに?』
あれ、おかしくないか?あのスルトって人、白衣なんて着てさ。そういうのを着てる人っていうのは大抵研究者なはずなんだけど
『そうね確かに研究者というものがこんな昼間っから外に出て・・・いやメイって子に会いに来るなんておかしいわね』
まあそうでなくても普通の服装をしていたって絵面がやばいことは間違いないんだけどな。高校生ぐらいの年頃の女の子と明らかに成人男性のセット。これは事案ですよ。お巡りさんこっちです。
『親子の線もあるからねーこの世界よ。美魔女がどんだけいると思ってんの、あ、文字通り魔女もいるわよ?』
今更そんなことカミングアウトしなくても大丈夫です。てか魔女ねえ。魔法を使うものを魔法使いって呼んでるけど魔法を使う女性を魔女って言うしそんなの当たり前でしょうに
『そうね?でもあの子達の両親も研究者なんでしょ?そこに行ったのかもしれないじゃない』
でもそれだとなぜわざわざ僕を外したのかわからないんだけど。『研究所って秘匿の塊じゃないの』それもそうか。なら別になにもおかしくはないな。てか頼むから普通の実験であってくれよな。・・・さてと、じゃあ一旦帰るとするか。夕暮れ時って言われても今からなら結構時間かかりそうだしいや待てよ?せっかく外にきたのだから色々と物色してみるのも悪くない
『素直に迷ったって言いなさいよ』
それは・・・面目無いです。メイさんに付いていくだけで特に道順とか覚えようとしなかったので本当に帰る道を忘れてしまった・・・いや覚えていないから忘れてないな。わからないんだ。帰り道がわかりません。子供かよ。あ、イフリートはわかりますか?
『さあ、私は別にクレアのところに一瞬で戻ることができるし道なんて気にしてなかったわ』
そうでしたね。あー僕も早く転移魔法というかそれに近い魔法を使えるようになりたいな。覚えたら絶対に便利そうなんだけどな。だからまあレアスキルというかほとんどの人間には使うことができないし使うことができる人間は重宝されるんだろうけどね。はあ、ここは開き直って適当に散策しますか
『それもそうね〜もしかしたら素敵な出会いがあるかもしれないしね?』
それって曲がり角を曲がろうとしたら女の子とぶつかってしまうとかそういう類のものだろ?いやそんなのないでしょ。だってそもそも僕はすでに女の子の悲鳴が聞こえたらその子が襲われているという同じくらいベタな展開に巻き込まれたんだぞ?もう僕のラックは使い果たしているって
『あんたそんな甘い展開あるわけないでしょ?』
ねえ、さっきと発言が矛盾しているんですけど。かなりひどくないですか?
『いやいや、もっと普通の話よ。可愛い子がいたりとかさ。横に誰がいるのかは置いといて』
あーそれはまあ確かにありえるかもね。横にって・・ああ、彼氏持ちってことか。そりゃまあ綺麗な女性が独り身とかそんな都合のいい展開なんて期待してないっていう『少し黙って』・・・?
『魔法の発動の気配がしたわ・・・近く。喧嘩かしら?どうする?』
え、いやどうするて言われてもね、行きませんよ?だって二度ある事は三度あるってばかしに同じ現象が相次いているじゃないですか。今回は女の子かはわからないけどでも襲われている人を助けるのは今日もう3回目・・・
『この感じ・・・ナナって子ににてるわね』
・・・仕方がない助けに行きますか。さすがに知り合いが襲われているっていうのに助けないほど薄情でもないし。じゃあ、イフリート案内お願い
『ええ、こっちよ』
そんなわけで僕はイフリートの案内で魔法が発生した場所へと向かった。