ダンジョン侵入中編
若干ご都合主義です
文月一週目水曜日
『もう少し肝の据わったやつだと思ったんだけどなーがっかりだなぁ』
「誰だ!?」
「まさか他にも侵入者がいるのか」
突然響いた声に騒然となる。でも僕はこの声の正体を知っている。そう・・・この声は
「フラグ回収が早すぎる」
『・・・』
「すみませんでしたーー!」
なんか不穏な空気を感じたので即謝りをする。そうだよいつもと同じように軽口で対応しようとしたけどこの声って精霊・イフリートじゃないか。僕みたいな人間なんてあっという間に殺されてしまうよ
『はあ、その臆病な心に免じてっていいたいけどざーんねん。私の機嫌を損ねた罰を受けてもらいまーす』
次の瞬間、僕の左腕が発火する
「うわああああ」
「なんだ?何事だ!」
なんの前触れもなく発火したらそれは怖いよね・・・いやそもそも魔法自体が突然なんだけどさ。でもこれはある意味チャンスだ。兵士が驚いて僕の手を離した。つまり僕はもう掴まれていない。自由に動くことができる
『あら?へえ、あっさり捕まって諦めようとしてたからどうかと思ったけどまだやる気あるんだ』
「僕は必ず助けます!」
『ふふっじゃあ見せてもらおうかしら。まずは第一段階として私のテリトリーに入ってこれるかしら?』
「!まて、あいつを止めろ」
ちっ、声に集中してくれていたから僕の存在なんててっきり忘れてくれているものだと思っていたけどイフリートの声によって気付かれてしまった。というかイフリートのやつ、・・・イフリートさんはこのことを狙っていたんですね。多分心を読まれていそうだから発言に気をつけないと
『さすがに心の中で思うことは大目に見る努力をするわよ』
「でも火の火力が上昇したんですけど」
『気のせいよ?』
「すみません・・・」
「あいつどうしたんだ?あんなに燃えて平気とかふざけてるのか」
「もしかしたら我々を近寄らせないための魔法かもしれないぞ」
いや燃えていて熱いからね?でもさすが精霊というべきかこないだクレアに焼かれた時よりもやや温度が低いっぽいんだよね。・・・いや、これは
「ミライくん・・・魔法」
「使えるようになったのか?」
僕の腕には『電気鎧』が発動しているのか電撃がまとっていた。これによって本当に焼かれずに済んでいる。でもどうして魔法が発動したんだ・・・・?あれだけ使おうとしても全く使えなかったのに
『さっすが人間の本能は恐ろしいわねー死にそうになったら防衛本能が働いてさ』
「そういうものなんですね」
「ミライ!邪魔者は私が飛ばします!」
『あ、フェンリルの力は使わないでね?』
「え?」
サリア先輩がおそらく魔法を使おうとしたのだろう。でもその魔法は発動することなくイフリートの言葉によって霧散した。おそらくフェンリルが自分自身で止めたのだろう。精霊間でどんな取り決めがあったのかわからないけど多分不可侵とかそんな感じだろう。もしくは何かしらの話し合いが行われていたのかもしれないな。だって今回はある意味試練みたいなものだしな。邪魔されたくないのだろう
「フェンリルだと!まさかあの女・・・」
「やばいな」
僕はこそっと呟く。やっぱり精霊使いはかなり有名みたいだな。でもこの展開は結構まずい。身元特定されてしまうかもしれない
「もしかして『月』の国の姫?」
「は?なんでそんな人が?」
「・・・」
サリア先輩は黙っている。てか今兵士たちが言った言葉を鑑みるとサリア先輩ってこの国のお姫様だったのか?いや確かに名字付きだから貴族とかそこらへんのお偉いさんみたいだとは思っていたけどまさかお姫様だったとはね。予想外なんだけど・・・
「・・・大丈夫『血の呪い』」
「この魔法は・・・!」
「みんなあの魔法に当たるとまずいぞ」
シェミン先輩を中心に赤黒い霧のようなものがあらわれる。あの霧はどんなものなんだろう。兵士たちの反応を見るに明らかにやばそうなんだよな。もしかして記億を消してしまうとか?案外ありえそう
「援護する『催眠』」
「頭に強力な打撃を与えると記憶が飛ぶよな?『炎の拳』」
先輩たちから続々と援護が飛ぶ・・・って明らかにやばい使い方をしているんですけど!ま、まあやっぱり先輩たちなら問題なかったね!ってことで僕は気にせずにダンジョンの入り口に突っ込もう。
「あと少し・・・」
「待てやぁ」
「『氷柱』」
「ありがとうございます」
また僕に近づこうとした兵士がいたけど今度こそサリア先輩の氷柱で弾き飛ばされる。そして同じようにセリア先輩とグレン先輩の援護のおかげで僕の前にいる兵士たちが大分減ってきた。それでも最初の15人よりも多いんだけどね。いつの間にやら援軍が到着してしまっていたらしい。あんまり時間がかかっていなかったと思うけど予想以上に時間を食ってしまっていたみたいだ。
「このままじゃまずい」
先輩たちがいかに優れているとはいえ、彼らの魔力だって有限ではない。それに僕の体力の問題だってある。遠距離魔法を全部防ぐことができないので僕はそれなりの魔法を体に受けている。まだ我慢できているけどあと1、2発当たったらきっと倒れてしまうだろう。
こういうときに、魔法が使えたら・・・
なんのために僕は・・・僕は!
ー仲間のために人を殺すことを覚悟した。でも実際僕の心はそれを躊躇している
ーどうして僕はあのとき動くことができたのだろうか・・・動くことをしなければこうして今を苦しむことなんてなかったのに
「なんとしてもあいつらを食い止めるんだ!」
「そうだ!見ず知らずの相手にこのダンジョンの攻略をさせてたまるかー!」
兵士たちの声が聞こえる。彼らも必死なんだよな。
ー『人を殺すことはその人の生き方を覚悟を人生を全て背負うということです』
ーああ、そっか、サリア先輩が言ったことはそういうことか
もう一度しっかりと刻み込もう。今、僕も兵士もお互いに譲れない思いでこの場にいる。僕は友を助けるため。そして兵士は・・・?なんだっけ?
「ま、国のためでいいと思いますよ」
そう、国のためってやつだ。つまり相手にも譲れない思いってのがある。それがぶつかりあったとき人間は昔っからどういう行動を取ってきたか。それは歴史が証明している。
まだ全部納得できたわけではないけど・・・相手の思いを無下にするのもアレだしね。ま、今回は僕が、こちらがわが100%悪いとは思うけど、
「意外と短かったな・・・」
もう少しトラウマが長引くかと思っていたけど案外そうでもなかったかな。では、相手に敬意を持って、僕にある譲れない思いをぶつけて。
ーもし殺してしまったそのときは、思いを受け継ぎます。
国のためってことは結局は、『大切な』人のため、ですよね。僕が代わりに僕の『大切な』人を、友人を仲間たちを、守ります
「おい、何を言っているのかわからないけど。なんでお前のなんだよ」
え?だって、そんなこと言われても、まず受け継ぐのは『思い』だけで対象が誰かなんて気にしていないし。そもそも
「あなたたちの大切な人が抽象的すぎてわからないし」
「はあ?」
意外と僕は単純ってことだな。ちょっとしたことですぐに回復するし、今回は先輩たちの言葉が身にしみてわかった瞬間回復したから先輩たちのおかげってことだけど。先輩ありがとうございます。
「おい、ぐだぐだ言ってるんじゃねえぞ『炎の槍』」
僕に向かって魔法で作られた槍が飛んでくる。でももう慌てることはない。だって・・・
「『電気の領域』」
きちんと発動した僕の魔法によって敵の魔法と近くにいた兵士たちを全て吹き飛ばしたから
二回で終わらなかった・・・




