再戦(不本意)
???
一ノ瀬と対峙する。さあ再戦だ・・・かなり気乗りしないけどまあ成り行きだしやるしかない。こいつがどれだけ強くなったのかわからないけど、僕だってちゃんと強くなっているはずなんだ・・・
その結果が、人殺しなんだけどね
「それじゃあ、遠慮なく行くぞ」
「・・・」
一ノ瀬が両手を前に突き出す。そこから火でも噴き出すっていうのか。見え見えの攻撃だな。さて、どうかわすかな
「『炎の玉』」
ほら、火の玉がこっちに向かってくるだけだ。あれくらいの速さなら普通に避けることができるけど、もう面倒なことに巻き込まれないように『領域』で吹き飛ばすことにするか
「『電気の領域』・・・え?」
電気が発生しない?なんで?なんで急に魔法を使うことができなくなったんだ?・・・あ
ぼけっとしていたから火の玉に直撃してしまう。そのまま吹き飛ばされ地面を転がる。
「どうだ!さらにいくぞ『炎の剣』」
今度は剣か。なんで魔法を使うことができなくなってしまったのかわからないけど、そうとわかれば使える魔法を模索していくしかない。
向かってくる剣を避けながら一ノ瀬に近づいていく。剣の数は全部で5本。連携もなにもなくただ一斉に襲ってくるだけ。物量で押そうって考えだろうけどそれにしては少なすぎる。
「なんで避けられるんだよ。どんな魔法だ」
いやなにも使ってませんよ。せめてその10倍はもってこい。こうしている間にももう射程距離に近づくことができたぞ
「『電気鎧』」
よし、今度はちゃん発動したな。体全体ではなく腕だけってのは少しきになるけどまあ殴る分には問題ない。
「『炎の壁』」
「遅い」
発動のタイミングに合わせて腕を振り払う。きちんと合わせることができたらこういう設置魔法はキャンセルできる。仕様はわからないけど要は魔力の乱れによって形成できなくなるらしい。普通はできないことだけど一ノ瀬くらい形成スピードが遅かったら問題ない。
「もらった」
「くっ」
振りかぶって、一ノ瀬のお腹をめがけて殴るー「!?」ーその直前にあのときの老人の顔が、死にざまが鮮明に思い出された。突き刺した拳、吹きだす血しぶき。そしてきえゆく命の感触
トン
ただお腹に手を当てただけになった。それと同時にかすかに発動していた魔法が完全に消えた。もう手にはほんのわずかな電気さえも残っていなかった
「!」
一ノ瀬がまたなにか魔法を発動したんだろう。またしても吹き飛ばされる。
「みたかカウンター魔法『反炎』相手の攻撃に合わせて使うことで相手の攻撃を無効化できるんだよ」
そんな風に自慢げに言われたとしてもなにも僕が単に魔法の発動を止めただけの話なんだけどな。いや、そもそも自分の意思で止めたのか?僕は間違いなく殴るつもりだった。だが、実際は電気は消えた。つまり、僕は一ノ瀬を傷つけることを拒否したっていうことなのだろうか。
「さあこいよ!俺の力を見せてやるからさ」
「・・・」
どうする、どうすればいい。魔法がまともに使えないこの状況でどうすれば打開策が生まれるんだ。考えろ、考えるんだ。
「なあ、紅のやつ、変じゃないか?」
「そう?私は一ノ瀬君が押しているようにしか見えないけど」
「今回は一ノ瀬が押してるな。紅の思うように進んでいないから変に見えるだけじゃないのか?実際はそうでもないとか」
「そうかな・・・」
「天衣は考えすぎだって」
「『炎の玉』」
しばらくは避けることに徹しよう。これってスポーツ選手とかがよく起こる精神障害だっけ?スポットって名前のやつ。あ、間違えたイップス?わからん。昔読んだ漫画にそんな描写があったように思う。
とにかく精神的な問題で僕は魔法を使えないってわけだよな。よっぽどトラウマになっているみたいだ・・・いやなるよな!怖いし。今も怖いよ。正直なにも閣後ができていない状態でまた人を殺す可能性があることなんてできないよ。僕のバカ、なんで戦いを引き受けたんだよ。今の状態じゃあまともにできないって・・・わからないね。うん
「さっきから避けてばっかりだけどどうしたんだ?俺と最初に戦ったときはもっとこう・・・やばいって印象しか与えれられなかったけど」
「・・・なあ」
「どうした?」
「もう、ここまでにしないか?」
もうやめたい。これ以上は僕の心が持たない。戦いたくない(戦えない)のに強制的に戦わせられるなんて辛すぎる。
「は?なに言っているんだ?」
「え?」
一ノ瀬の調子がおかしい。僕が一時休戦を持ちかけると、怒りの形相を浮かべる
「俺はお前から屈辱を味わった・・・本戦のとき、俺は紅に手も足も出なかった。完敗だった」
「・・・」
客観的な事実だね。でもそれを理解している人はあまり多くない。『黒龍』の力によって意識を失った際、記憶が曖昧になったとかで僕と一ノ瀬との戦いの記憶が一部思い出せない人がかなり多いみたいだ。リンナ先輩がそこらへんのことはちゃんと教えてくれたしね
「『黒龍』が表れて俺は意識を失って・・・でもお前は失わず戦ったんだろ?そこまで実力差が開いていたと実感したよ」
「・・・」
「なのにその屈辱を胸に一週間かなり訓練したっていうのに、お前は再戦の場所にこなかった」
正確には来れなかっただけどね。つーか行けたとしてもまともに戦えたのかって言われると微妙な話だぞ。『電気鎧・第三形態』の副作用によって右腕が使えなくなっていたし、そもそもエルフの里で無事に解決できたとしても満身創痍で棄権していた可能性の方がかなり高いからな。
ま、そんなことは絶対に言わないけど
「まさかここまで馬鹿にされるとは思わなかったけどよ・・・こうして再戦の機会を与えられたかと思って喜んだらこの仕打ち。怒りを超えて悲しくなってくるよ」
「・・・」
一ノ瀬の思いもわかる。わかるけど僕にも事情があったんだということを考慮してもらいたい。・・・これ説明しないといけないのかなぁ。あんまり広めたくないんだけど。
「そうだよなーほんと一ノ瀬くん可哀想」
「あのクレナイってやつほんと酷いやつだよな」
「クレナイ?ミライくんじゃなくて?」
「あーあいつも俺たちと同じなんだ」
「えーそうなんだ!」
ちょっっと待てぇ。僕への風評被害というか悪口はこの際水に流してもいいくらいとんでもない情報がさらっとでたんだけど。天衣のやつなにミロンさんに僕が異世界から来たことを話しているんだよ。あ、口止めしていないからそれもそうか。あいつらベラベラ話してるもんな
「ミライくん・・・」
「そ、その件もちゃんと話すね」
こう言うしかないじゃないか。
「紅!お前なによそ見してるんだよ」
「いや・・・もういいだろ?一ノ瀬の勝ちで」
「てめぇ・・・俺の話聞いてなかったのかよ」
「聞いてたよ。その上でもういいだろって言ってるんだよ」
「はあ?」
僕と一ノ瀬の会話は平行線でいつまでも続くかと思われたがそんなことはなく、すぐに別の人の声で止められた。
「ミライくん!」
「誰だ?」
「シェミン先輩」
人混みをかき分けてやってきたのはシェミン先輩。そこまで大きな声ではなかったけど透き通るような声だから僕のところまで届いたんだな。
「あの人誰?」
「知らない・・・けど綺麗な人だな」
「紅の知り合いなのか?先輩って言ってるけど」
当然周りの人は注目する。人見知りだと(勝手に思っている)だから顔が少し赤くなって、可愛いけどここは僕がしゃんとしなきゃ
「帰ろう」
「あ、はい」
拍子抜けするほどに先輩は冷静だった。そのまま手を引かれるようにして僕らは修練場を去っていった。




