家族探し編
第一話
スライムの家族がいた。お父さん、お母さん、息子、娘の4人家族だ。
ある日お父さんがお仕事にいったきり帰って来なくなった。
探しにいったお母さんも帰って来なくなった。
息子も探しにいったが帰ってこなかった。
娘だけが残された。
しかし心配なので娘は探しにいった。
道を歩いていると後ろからこう言われた。
「ラッキー!あと1ゴールドで破邪の剣買えるわー!」
振り返ったスライムの娘に突如剣が振り下ろされ眼前が真っ暗になった。
・・・・
話し声が聞こえる。
「いやぁ…、まさか王国の大臣であるサンドリア様がわざわざ市井の
町医者を訪ねられるとは、医業の誉れですぞ」
しわがれた声の主は、何度も息を吸い直すようなゆっくりとした口調で
話した。続いて、どっしり威厳のありそうな重量感のある声がした。
「御託はいいです。旅に出たばかりの勇者が突如姿を消して10日経つ、深手を負い
どこぞの医者に運び込まれたという情報もあります。もし勇者の所在を知ったら
直ちに連絡してください。王直々に褒美を授けるでしょう」
重い声の主、恐らくは王国の大臣サンドリアはそう言い、他にも独り言を
言いながら徐々にその声は遠くなっていった。
続いて若い声が、最初の声の主に話しかけた。
「先生、あの大臣、毎日のように国中の医者を訪ね歩いていますぜ、勇者なんて
前勇者ゲールの息子だからって理由で持ち上げられてるだけのボンボンでしょう?
なぜ大臣が毎日走り回るほど必死で探してるんでしょうか?」
それを受けて、先生と呼ばれたしわがれ声の恐らく町医者の先生はこう言った。
「さあな、じゃが勇者のもつ権限は国家元首に匹敵するとも言われておる。
そのような者が所在不明となった、それも旅立って直後じゃ。なんらかの陰謀に
巻き込まれたと王国政府がみても不思議ではあるまいて それよりエルテム、
昨日渡した医学書は全部読んだか?試験するぞ?」
エルテムと呼ばれた若い声は慌てて言った。
「あと半分、夜までには読みます」
スライムの娘はそういうやりとりが新鮮に聞こえた。他人とはほとんど
関わったことがなく、スライムの家族と小さない穴の中で暮らしていて
あまり外出はしたことがなかったからだ。
しかし不思議に思えた。辺りは真っ暗なのに妙に意識ははっきりしていて
自分の身体も何か不思議な感じがしていた。
身体にあたっているのは、お母さんがよくかけてくれた草から作った糸で
できた掛布団に似ている。
恐らく体になにか不純物でも混じっておかしくなってるのだろう、
以前兄の身体に毒素が入って変な形になったことがあったから。
スライムの娘は、何も見えなかったが体を起こしてみた。
すると町医者の声が響いた。
「お嬢ちゃん!もう動けるのかい?はあよかった…。頭の真ん中から割られてて
よく助かったもんじゃよ。幸い脳の大半が無事だったのもあったが…」
続いてエルテムが言った。
「先生、病み上がりのお嬢さんにそういう話は止しましょうよ。何にしても
助かったよかった。先生は腕だけはいいからね」
どんな風貌の人達なのだろう?どういう種類のスライムなのだろう?
スライムの娘は興味津々だったが、眼前は真っ暗だった。
とりあえずお礼を言おうとしたが声がでない。なんだか口が変な感じでうまく
発声できないのだ。
町医者は言った。
「ところでお嬢ちゃん、いきなりですまんが、お名前は?かぞ…」
家族といいかけて止めた。こんな世の中だから家族のいない者も多い、
言い直して
「保護者はいるのかな?もし居たらむかえに来てもらいたいのじゃ、
お嬢ちゃんをずっと置いておきたいが、他の患者にもベッドをあけねば
ならんのじゃて」
スライムの娘は、必死で家族が行方不明なったことを伝えようとしたが
声が上手く出ず、あー、うー、といったうめき声のようにしかならない。
すると町医者は
「すまぬ、まだ体が本調子じゃないのじゃな。」
と申し訳なさそうに言った。
エルテムは心配そうに言った。
「先生、この子、目の焦点があってません。目が見えてないように思えます」
町医者も頷いた。
それを聞いてスライムの娘はやっと納得がいった。目が見えてないのか。
恐らく、あの時に、後ろから声をかけてきた人に何かされたのだろう。
これからどうしよう。目も見えない…声はうまくでない。
はやく家族を探したいのに…。
恐らく表情に出たのだろう、エルテムが優しく言った。
「大丈夫、お嬢ちゃん。我々がちゃんと治療して見せるから心配しないで
そうだ、お嬢ちゃんと呼ぶのも変だから、名前は…ああ声が出せないみたいだね
じゃあ髪の色が銀色だからシルバーからとってシルと呼ぶよ」
髪の色?なんのことだろう?一瞬よくわからなかったが、とりあえずいまの
状況で自分を識別する名前を与えてくれたのは良いことなのだろうと
スライムの娘、シルは考えた。
第二話に続く。