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第4話

「…………!」


 どうしてよいのかわからなかった。

 口に手をやり、声を押し殺すのが精一杯だった。

 どうしようもないほど足がガクガクと震え、涙があふれた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


――ザアアアアー……ッ……。

 

 気がつくと誰もいなかった。

 噴水から、水がとめどなくあふれ出ていた。

 わたしの両目からも涙がとめどなくあふれ出し、足元の草をグッショリと濡らしていた。


――サクサクッ、サクサクッ……。


「マリアン! こんなところにいたのか?」

「……イサク……わああっ……!」

「い、いったい……どうしたんだ……?」


 イサクに抱きつき、たくましい胸にもたれ思い切り泣いた。

 思えば3年前に両親の墓前で慟哭して以来、こんな風に泣いたことは1度もなかった。

 食べていくのに精一杯で、胸の中は苦しくとも、泣くような時間も腕もわたしには存在しなかったからだ。

 それがいま、一気にセキを切ったように大きな悲しみとなってわたしを襲ってきた。

 誰かにしっかりと支えてもらわないと立っていられないほどの激情に、わたしは身を任せていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 しばらくして泣きやんだわたしは、イサクにいままでの出来事を包み隠さず話した。


「そんなことがあったのか……。それにしても……マリアンの家が破産したくだりはどうもおかしいな。領地も借金の形に持っていかれたのだろう? それだけ払っても生活費すら残らない借金なんてするかな? 親戚に騙されたんじゃないのか?」

「おじたちはとても困惑していたわ。演技ではなかったように思うわ」

「3年前か……。それにしても……本当にそこの噴水にいたのは、マリアンの婚約者で行方不明になったフランってヤツに間違いないのか?」

「絶対に間違いないわ! 髪は短かくなっていたけど、身体つきも仕草も表情もフランそのものだったわ!」

「だとしたら……そのフランって野郎は何者なんだ? 廃村に住んでいたり、死んだと見せかけて女と一緒にいたり……。王都で知り合ったんだっけ?」

「13年前こどものときに……本当にぐうぜん知り合ったのよ。それから文通をして、3年前に再会して婚約したわ」

「住んでいた場所が離れていたとはいえ、10年も会わずにいきなり婚約か……。そのときの書類は?」

「ないわ。何も持たされずに屋敷を追い出されたの。石ころ1つ持ち出せなかったわ……」

「ひどい話だな……よし! たしかめに行こう! 来い!」

「ええっ……! でも……女性が一緒にいるから……」

「なに言ってんだ! あきらかに状況がおかしいだろう! おれが、とっちめてやる!」

「イサク……!」


 イサクに引っ張られるようにして舞踏会場へ連れもどされた。


「マリアン! どの男だ?」

 

 たのしそうに輪舞ロンドを踊る男女の群れに目を凝らした。


「どこにもいないわ……。帰ってしまったみたいね……」

「どんな服を着ていた?」

「……よく憶えていないわ。立派な服装をしていたけれど……」

「金髪碧眼で短髪の、背の高い細みの男だな? 女のほうはどうだった? どんなドレスを着ていた?」

「女性? 女性は……」


 フランと見知らぬ女性のキスシーンを思い出し、胸に痛みが走る。

 ふたたび涙があふれ出した。


「……よく……憶えていないわ……フランと……キス……していて……」

「マリアン、もう帰ろう! 今日はゆっくり寝るといい……」


 イサクが背中を支えてくれた。

 グッタリと彼にもたれながら、舞踏会場をあとにした。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 翌日、気が晴れないまま仕事をしていた。

 フランのことはイサクが探ってくれるらしい。

 イサクには重ね重ね申しわけない。

 せめて仕事をがんばって恩返ししようと、辛い心にムチ打って作り笑顔を貼り付けていた。


 翌日の午後になり、イサクが飛んでやってきた。

 フランらしい人物のことがわかったそうだ。


「フランが……結婚?」

「そうだ! すぐに行こう!」


 フランが今、大聖堂で結婚式を挙げている。

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