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第31話

 あれから2週間が過ぎた。

 酒場の老婆が街のうわさ話をよくしてくれた。

 領地を含め、いたるところでレディMのことが話題になっているそうだ。

 彼女は地方といわずあちこちに出没し、生活に困窮する民に勇気を与えているそうだ。

 各地で農民たちが重い税に抗議し立ち上がった。

 職を失った兵士や戦士も加わり各地で暴動が起こっている。

 王城には多くの怒れる民が押しかけ苦しい現状をどうにかしろと日夜訴え続けている。

 皆がレディMを女王にと望んでいた。


――コン、コンッ!


「はい」


――カチャッ!


 調査官がやってきた。


「レディM、いえ、マリアンヌ殿お迎えにあがりました。役者はすべて揃っております」

「では、主役が行かないとなりませんね」

「はい。参りましょう。我々の舞台へ!」


 調査官の差し出す手を取りわたしは部屋から1歩踏み出す。

 いよいよ戦いの火蓋が切って落とされた。

 フラン、見てらっしゃい!

 あなたに復讐の恐ろしさを思い知らせてやるから!


 ◇ ◇ ◇ ◇


――ギイイイーッ!

――ガラガラガラガラッ! ガラガラガラガラッ……!


 馬車が王城の門をくぐる。

 大挙しておし寄せる人の波をかいくぐりなんとか城内へ入ることができた。

 怒れる人々は今日も拳を振り上げ声高に政治に対する抗議を口にしている。

 そのうちレディMの大合唱となった。

 それは宮殿内の謁見場まで聞こえてきた。


――コツコツコツコツ……。


 今日のわたしは調査官が用意してくれた白いドレスで正装している。

 これからはじまる茶番劇に対する期待に胸が躍り落ち着かない。


――キイッ……。


「シャルル大公の御なりです!」


 低頭しながらフランが王の台座に着くのを待った。


「くるしゅうない。面をあげい……! これはなんと! マリアン! 生きていたのか!」

「はい……お会いしとうございました。フラン!」

「あ、ああ……わたしもだ……よくぞ……。あの……どうやって……?」

「実は……犯人を捕まえてくださったのです。こちらの調査官殿が!」

「そ、そうか……? 調査官、犯人とは?」

「はい! 衛兵! こちらへ!」


――ジャラジャラジャラジャラッ!


 重い鎖に繋がれた荒くれ男どもがやってきた。


「調査官! この者たちがマリアンを……?」


 フランの顔色は真っ青だ。

 手も震えはじめた。


「はい。これから自白させます。領地で悪さしていた連中で余罪がありそうです」

「よい! あとでわたしがなんとかする! サッサと地下牢に引っ立てろ!」

「おい! 絶対助けろよ!」

「なにかあったらぜんぶ暴露してやるからな!」

「はやく! はやく連れていけ!」


 フランは慌てて男たちを追いやった。


「シャルル大公……マリアンヌ殿を無事とどけました。どうぞ末永く……」

「末永くだと? 彼女はただの幼馴染だが?」

「いいえ。あなたの婚約者です。戴冠式で正式に正后になられます」

「なんだと? ぼくには正妻がいる。側室もだ! これ以上の妃は不要だ!」

「では、ちょくせつ聞いてみましょう。ネイサン、こちらへ!」

「はっ!」

「ネイサン……?」


 うしろを振り返ると、ネイサンが黒髪の美しい貴婦人を伴い現れた。


「ネイサン!」

「マリアン! 無事だったんだね! どんなにうれしいか……詳しい事情は調査官殿からお聴きした……ほんとうによかった……」

「ありがとう……ネイサン……」


「おや? 奥方! なぜここに……!」

「シャルル……」

「シャルル大公、奥方さまです。ずっと地方におられたとか。戴冠式はどうなさいますか?」


 調査官の言葉に、シャルルの正妻は悲しげな様子で夫を見上げた。


「あ、あの……君が勝手に田舎に帰ったんだ! 離縁したと思っていた……」

「そんな勝手なことを! だったら! 屋敷も財産も権利もすべて返して! 元々はお父さまの物よ!」

「ああ、いいよ。国に比べたら安いものだ」

「……なんて人なの! あなたを信じてわたくしもお父さまも……!」


「なんですって! あの屋敷はわたしのモノよ!」


――ツカツカツカツカッ!


「ルイーズ!」


 うしろからルイーズがやってきた。

 

「ルイーズ! どうしてここに……?」

「呼ばれたのよ! その女をやっと追い出したのに! あの屋敷はわたしとあなたの息子の物よ!」

「ルイーズ! あの赤ん坊はイサクとあなたのこどもでしょう? わたしにハッキリそう言ったじゃないの!」


 わたしはみなの前で大声でそう言ってやった。

 ルイーズとフランが真っ青な顔をしている。

 この際イサクには目をつむってもらおう。

 元はといえばイサクがいけないのだ。


 フランの正妻がビックリして呆気に取られている。


「シ……シャルル! どういうことなの! この女のこどもはあなたの子じゃないの? だからわたしは身を引いたのに……」

「いいえ、いいえ! わたしの息子は正真正銘シャルルの子よ! 顔がそっくりじゃない!」

「ルイーズ……ちょっと待ってくれ!」

「フラン? どういうことかしら? この女はわざわざわたしの元へイサクの子が出来たと言いにきたのよ! 2度目はフランも同席していたわよね。しかもルイーズ、あなたフランの奥さまの遠縁の女性のはずでは? ちがうの? わたしはフランに、ルイーズがイサクとカフェで落ち合っているところへ連れて行かれたこともあるのよ!」

「なんですって! ルイーズ! わたくしとあなたは親戚でもなんでもないわ! こんな女知らない! ある日とつぜんシャルルのこどもが出来たとうちに居座りはじめて! 側室らしいけど正式な書類も交わしてないわ! そのうち嫌がらせをはじめてわたくしを追い出したのよ! 何者なの?」


 わたしと一緒にフランの正妻が詰め寄る!

 2人の女性に迫られさすがのルイーズもたじたじだ。

 

「そ、それは……シャルル大公に頼まれて……」

「いい加減なことを言うな! ルイーズを追い出せ! こんな女もともと知らない!」

「知らないだって! あんたのこどもを産んだ女を? あんたがイサクって男のこどもってことにしろって言ったんだろ? カフェにあんたの情報を知ってるってその男を呼び出して……マリアンヌとあんたが関係してるってウソの情報を教えさせたんだろうが!」

「その女を捕らえて連れて行け! 頭がおかしい!」

「なんですってー!」


 ルイーズが暴れはじめた。

 衛兵が押さえ込んでいると、更なる女が登場した。


――ツカツカツカツカッ……!


「あらあら、まだ水色の服を着ているのかい? ねえ?」

「なっ! あんたは……!」

「娼館のローザさ! あんたと同じ娼婦! こどもが出来て男のとこに行ったんだろ? 今は側室だって? いいご身分じゃないか! 吹き矢が得意だったよね? 領地の毒を仕込んだ……」

「やめろ! その女もたたき出せ! 全員だ!」

「ちょっと待って! お父さまが亡くなったのは……領地の毒を仕込んだ吹き矢が原因だったわ。まさか、あなた……!」


 フランの正妻がルイーズに詰め寄る!

 

「ぼくはこの場を去る! あとは勝手にやってくれ!」

「シャルル大公! それでは、こちらのマリアンヌ殿を正式な婚約者として手続きを取らせていただきますが……」

「なんだと! マリアンはイサク殿の正妻であろう!」

「夫が亡くなって半年以上経てば結婚できます」

「シャルル! わたくしはよろこんで離婚するわよ! この女も一緒に追い出してあげる! 娼婦で殺し屋ですって? ふざけるのもいい加減にして!」


――バッシイイイイーンッ!


 謁見場にフランの奥方がルイーズの頬を叩く大きな音が響き渡る。

 ルイーズの頬はたちまち真っ赤に腫れあがった。


「よくもお父さまを! だれか! この殺人女を捕らえて地下牢へ!」

「はいっ!」

「きゃああっ! はなせ! やめろー! あなたー! 助けてー!」

「おとなしくこっちにこい!」


 ネイサンがルイーズを引っ立てていく。

 

「じゃあ、わたしはもう行くよ! 王都見物が出来てよかったよ。水色のドレスの女もざまあみろだわ! 娼婦が王妃なんかのぞむからさ! アハハハ……!」


 ローザが謁見場を勝手に出ていく。

 よかった。

 わたしのことには気づかなかったようだ。


「シャルル! わたくしも行くわ。わたくしの屋敷に! もう、あの屋敷にあなたを近寄らせない! あなたの罪も、そのうち必ず暴いてみせるわ! 無一文で教養もないあなたをお父さまはここまで立派に出世させた……。恩をアダで返すとは……!」

「記憶喪失で最初は知らなかったが、ぼくは王家のオトシダネだった! リュゥフワ大公はそれを知りぼくを利用しようと近づいたに過ぎない! だから娘の君の婿にさせた。離婚で結構! 最初から愛がない政略結婚だからな!」

「なんですって! この……悪党!」

「なんとでもいえ。 リュゥフワ大公はクーデターを企てていた。ぼくというオトシダネを使ってね。策に溺れ誰かに殺されたんだ」

「なんという男なの! わたくしも出ていくわ! あなたと同じ空気を吸いたくないから!」


――ツカツカツカツカッ……ッ!


 フランの奥方が謁見場をあとにする。

 

「さあ、マリアン! 君は、ぼくが正真正銘、先王のオトシダネだと証明してくれるね? ぼくには記憶がないが、小さいころ君と踊った輪舞ロンドは憶えている。さあ、共に生きよう!」

「はい……フラン!」


 フランみずから下りてきてわたしの手を取った。

 わたしは彼をまっすぐに見つめながらその手を握り返した。

 どこからか視線を感じる。

 横を見ると柱の陰にマスクの男が立っていた。

 アポロンの瞳。

 強い視線を感じながらフランと輪舞ロンドを踊った。

 その輪は次第にひろがり夜中過ぎまで続いた。

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