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第28話

――ワアアアアーッ!

――バンザーイ! 新王! 新女王だー!

――ガラガラガラガラッ! ガラガラガラガラッ!


 城へ向かう馬車の中で民衆が歓喜する声を聞いた。

 わたしに王など務まるはずがない。

 オトシダネというのはウソなのだから。

 このさきいったいどうしたらよいのか。

 いますぐこの場から逃げ出したい気分だった。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇


――キイッ!

――カチャッ!


「レディM、どうぞ! あなたの城です!」

「…………」

 

 再び調査官に手を取られ馬車を降りた。

 領地の城の庭まで馬車が乗り入れていて、わたしは宮殿前に降り立った。

 王都の城に比べて小ぶりだが、それでも立派な城だ。

 震える足を1歩を踏み出した。


――ザワッ!


 城内にいる者たちがわたしを好奇心の目で見つめている。

 怪我をしている者や疲れきって座り込んでいる兵士たち、柱の陰からのぞきこむ侍女や下働きの者たち。

 誰も彼もが固唾を飲んでわたしの動向を見守っている。


 わたしは真っ赤なドレスに黒のレースのベールという、珍妙な格好を皆の前に晒していた。

 せめてドレスだけでも着替えておけばよかった。


「皆のモノ、この方こそが新の王であられるレディM嬢だ! シャルル大公は偽のオトシダネだ!」


――ワアアアアーッ!

――レディMバンザーイ!

――にせものシャルルをやっつけろー!


「レディM、勝利を祝い宴が催されます。こちらへ! それと……どうぞこちらへ捺印を!」


 調査官が、紙に垂らした蝋を差し出してきた。


「はい……」


――レディMさまが口を利かれた! 美しいお声だ!


 ポケットから封蝋の入った袋を取り出し銀の筒を出すと、溶けた蝋に押し当てた。

 蝋に見事な王家の紋章が浮かび上がった。

 調査官がその紙を手に取り皆に見えるように示した。


――ザワッ!


――たしかに紋章が! 正真正銘、王家の紋章だぞ!

――レディMばんざーい! 新女王さま、ばんざーい!


 皆が口々にわたしを讃える。


「女王、皆に何か……?」

「えっ? は、はい……あの……皆に食べ物を……あと……そうだわ! 国民を城に入れてやって! 皆で輪舞ロンドを踊りましょう! もともとは民衆の間で広まった踊りよ。貴族も平民もひとつの輪になりましょう。それが平和というものだわ!」

「レディM! それはいい考えです! 衛兵たちよ、民を呼んでこい! 皆で輪舞ロンドを踊ろう! 平和のために!」


――ワアアアアーッ!

――女王さま、ばんざーい!

――ばんざーい!


 自分でもなぜ輪舞ロンドを提案したのかわからない。

 ただ、それがいちばんよいことのような気がしたのだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 輪舞ロンドがはじまった。

 わたしはベールを被ったまま真っ赤なドレスで民衆、貴族入り混じった人々と踊った。

 城内に集まった人々の数は尋常ではなく、押し合いへし合いしながら入り乱れていた。


「…………!」


 マスクの男が目の前にいた。

 戦時下とあり、マントやフードを羽織った者が大勢いるため目立たずに城内に入れたのだろう。

 わたしはマスクの男と黙って輪舞ロンドを踊った。

 男は終始顔を伏せていたが、その見えない両目からはアポロンの眼光が放たれているようなそんな気がした。

 男はわたしの手をしっかりと握りしめたあと、離れていった。

 絶対におまえを離さないぞ、そんな心意を感じた。

 輪舞ロンドと共に夜は更けていった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 領内の城に3日ほど留まったあと、わたしを先頭に王都へ向け行軍がはじまった。

 家臣や兵士に続いて大勢の民衆もあとに従う。

 このまま王都へ攻め込む算段だ。


 わたしも覚悟を決めていた。

 本当のオトシダネであるフランには気の毒だが、彼は悪い家臣たちに利用されているのだろう。

 こんままでは国民が困窮してしまう。

 もしも王都を掌握してフランが糾弾される立場になったら救ってあげればいい。

 このときわたしは、この一連の出来事をそんな風に簡単に考えていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


――ワアアアアーッ!

――ヤアアアアーッ!


――とつげーき!

――ダダダダッ、ダダダダーッ!


「ギャアアアーッ!」

「矢だー! 飛び道具だぞー! 逃げろー!」


 領地の城を出て1ヶ月が経過した。

 我が軍は次々に領地を広げていった。

 大抵の町や村はレディMに味方して次々と降伏していく。

 地方でも現政権に反対する者が続々と名乗りを上げているようだ。

 いまやフランは国全体を敵に回しているようなものだった。

 

「レディM! あと数日で王都へ着きます! いよいよです! いよいよあなたが真の女王として君臨するときがきました! シャルル大公はまだ正式に王の跡を引き継いではおりません。大聖堂で戴冠式が行われる前に王都へ攻め入りましょう!」

「……はい」


 跡継ぎの話をされると心が痛む。

 フランにはたいへん申し訳ないことをしている。

 だがこれは、わたしのアイデアではない。

 マスクの男ベネディクト男爵の考えだ。

 彼はかつてのフランの共犯者でもある。


 マスクの男は常にわたしのそばにいる。

 馬車の窓から覗くと少し離れた場所に立っていたり、馬で並走していたり。

 敵に襲われるといちはやく駆けつけて見事な剣さばきで馬車を守ってくれる。

 

 村や町を掌握するたびに民衆たちと輪舞ロンドを踊るのだが、そのとき必ずマスクの男が現れわたしの手を取る。

 それを心待ちにしている自分がいる。

 マスクの男に手を握られるとひどく安心する。

 彼はいまやわたしの心の支え、大事な共犯者だ。

 わたしが吐いている大いなる嘘の責任をすべて彼の仕業にしている。

 彼と踊っているその瞬間だけ、わたしはマリアンヌ・ジュブワというひとりの女に戻れるのだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇


――ガラガラガラガラッ! ガラガラガラガラッ!


 あと少しで王都だ。

 うしろに続く兵士や民たちの表情は明るい。

 1週間で着く旅路に2ヶ月もの時間をかけてしまった。

 お蔭でその間に民衆の絆は大いに深まった。


 わたしの乗る馬車を先頭に、左手に崖を右手に深い森のある細い一本道を進んでいた。

 秋を迎え森では紅葉がはじまっていた。

 美しい風景がに皆が魅了されていた。

 

――ゴロンッ! ガランッ! ゴロゴロゴロゴローッ!


 突然、大きな地響きと共に崖の上から大岩が落ちてきた!


「たいへんだー! 大きな岩が落ちてきたぞー!」

「あぶなーい!」

「よけろー!」


――ワアアアアーッ!


――ドオオオーンッ!


「…………!」


 大岩が馬車のうしろを掠った!


――ギギッ! ゴットーオオオオンッ!


 車輪にぶつかり大きく車体がカシいだ!


「危ない! レディM-!」

「たいへんだー! 馬車が!」


――ガゴオオオーンッ!


 馬車が傾き扉が開いた!

 わたしの身体が外へ投げ出される!


「キャアアアアーッ!」


――バッ! ドサッ! ガガガガッ!


 身体に受ける衝撃を覚悟して目をつむったが、なぜかたくましい腕に抱きしめられていた!


「…………!」

 

 目を開けて見上げると、マスクの男がいた!

 寸でのところで馬車から落ちたわたしを抱きとめてくれたのだ!


「ハアハア……どうも……ありがとう……」

「レディーM-! 大丈夫ですかー!」

「誰かが抱きとめたようだ! よかった、でかしたぞ!」


 衛兵たちが駆け寄ってきてくれた。

 そのとき!


――ヤアアアアーッ!


「たいへんだー! 敵だ! 敵がー!」

「ぎゃああああーっ!」


――ダダダダッダダダダッ!

――ダダダダッダダダダッ!

――ワアアアアーッ!


 四方八方から敵が襲ってきた!

 

「どうしよう……どうしたら……」


 あまりの恐怖にマスクの男の腕の中で震えた。

 

「レディM、こちらへ! 森の中に抜け道があったはずです!」


――ダダダダッダダダダッ!


 衛兵たちに誘導されながら、マスクの男に抱きかかえられ森へ逃げ込んだ!


――ヒュンッ! ヒュンッ!

――ギャアアアーッ!


 森の中を矢が飛び交う!


――タッタッタッタッ、タッタッタッタッ……!


「ハアハア……」


 衛兵がひとりまたひとりと倒れていくなか、なんとか森の奥深くまで逃げ延びることができた。

 目の前に山小屋があった!


「ここは……?」

「レディM、ひとまずこの山小屋に身を隠しましょう。ここから川へ下って舟で王都へ脱出しましょう!」

「王都へ……?」

「はい。ここは王家の秘密の山小屋です。衣装も食料もあります。川には舟も隠してあるはずです。ご安心を」

「わかりました……」


 不安だったがマスクの男も衛兵もいる。

 山小屋で休むことにした。

 小屋の中には携帯用の食料が用意されていた。

 それらを食べ仮眠を取った。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「レディM……夜もだいぶ更けました。敵の物音もしてきません。そろそろ参りましょう……」

「わかりました……」


――キイッ……。


 わたしは衛兵に守られマスクの男にピッタリと寄り添いながら山小屋を出た。

 

――カサカサッ、カサカサ……ッ。


 草を踏み分け、やっとの思いで川へ下った。

 敵は追ってこない。

 隠してあった舟を見つけ出し順番に乗り込む。


――スー……ッ。


 静かに川に漕ぎ出した。

 このまま川を下れば王都に着く。

 安心していたそのとき。


――ヒュウウウーンッ!


「ギャアアアーッ!」


――バッシャーンッ!


「…………!」

「レディM、うしろに敵が!」


――ヒュウウウーンッ!

――バッ! カキーンッ! バキッ!

――ヒュウウウーンッ!

――ガキンッ! バサッ! カキンッ! カキンッ!


 また矢が飛んできた!

 マスクの男が立ち上がり、剣を抜いて次々に矢を払い落としていく!

 

「いまのうちに舟を漕げ! 木の枝でもなんでもいいから!」

「「「ハッ!」」」


――ザアアアアー……ッ!


 衛兵たちが一斉に舟を漕ぎ出した。

 舟はかなりの速度で川を下っていく。


――ヒュンッ! ガキッ! バサッ! 

――ヒュンッ! ガガッ! バキッ!


 段々と敵の矢の勢いが衰えていき、遂にわたしたちは彼らの手の届かないところまで漕ぎ出すことができた!


――ザアアアアーッ!


 舟は流れに乗り、更にスピードを増していく。

 わたしはホッと一息ついた。

 風のない静かな晩だった。

 空の高い位置に三日月が出ていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


――チチチチッ! ピピッ! チュンッ、チュンッ!

――ザアアアアーッ!


「う……んっ……」


 まぶしい光で目が覚めた。

 気がつくとマスクの男に抱えられて眠っていた。

 

「レディM、もうすぐ王都です。敵に見つかる前に舟を乗り捨てましょう。混乱に乗じて都に入れるはずです」

「わかりました……」


 衛兵は1人しか生き残っていなかった。

 わたしたちは山小屋で農民の衣装に着替えていた。

 怪しまれずに都に潜入できそうだ。


――ズザザザザザーッ!


 舟が岸につけられた。


「レディM、どうぞ!」

「ありがとう……」

 

 衛兵に手を取られ岸に上がった。

 マントの男もうしろからやってきた。

 目の前に小道があった。

 街へ続いていそうだ。

 

「わたくしは調査官と連絡を取ります。レディM、この道の先は王都です。待ち合わせ場所はどこがよろしいですか?」

「では……以前、調査官が用意してくださった酒場の2階の同じ部屋におねがいします」

「かしこまりました。それでは、どうかお気をつけて!」


――ダダダダッダダダダッ!


「あっ! 気をつけて!」

 

 衛兵はあっという間に行ってしまった。


「…………」


 結局、またマスクの男と2人だけになってしまった。

 

――バッ!


「あっ!」


 男はわたしのベールを取ると、手を取り歩きはじめた。

 素直に従うしかない。

 しばらく歩くと急な階段があり、それを上がると王都の裏通りに出た。

 そこから大通りへ出ると大勢の人々でごったがえしていた。

 まるでカーニバルのときのようなにぎわいだ。

 皆が口々にクーデターのことを口にしている。

 あちこちから逃げてきた人々で王都はあふれているらしい。

 物売りや売春婦までもが客に声を掛けている。


「あの……宿屋はこっちよ?」


 マスクの男が宿屋と反対方向へ歩き出したので驚いて声をかけた。

 そっちはお屋敷街だ。

 だが、男は構わずわたしの手を握りしめたまま歩いていく。

 仕方なくそれに従った。

 しばらく歩くとある屋敷の前で止まった。


「ここは……!」


 フランの屋敷だった。

 男は裏門へ回り、離れた場所にわたしを置くと使用人を呼び出した。


「…………!」


 応対に出てきた下男に耳打ちしている!

 あの男は口が利けたのか?

 わたしの前では、なぜしゃべらないのだ?

 

 男がこっちへこいと身振りでわたしを呼んだ。

 ちかづいていくと屋敷の中からルイーズが出てきた!

 

「あ、あの……マリアンヌさま……ですよね? なんでまた……あの……事故に遭われたのでは……?」

「あの……」


 マスクの男はいつの間にかいなくなっていた。


「どうぞ、入ってください!」

「はい……」

 

 仕方なく、ルイーズに言われるまま屋敷内に入った。

 フランの屋敷に入るのは初めてだった。

 非常に豪華な屋敷で庭の造りも歴史が感じられ見事だった。

 フランはこんなすごい財産を受け継いだのか。


 そして、イサクの子を産んだこのルイーズも。

 彼女は今日も水色の清楚なドレスを身につけていた。

 イサクが横領した金をこの女に貢いでいたのはほんとうなのか。

 彼女が領地で娼婦だったということも。


「マリアンヌさま! マリアンヌさま?」

「あ、あの……はい!」

「どうかなさいました? あら? ずいぶんと服が汚れていますね? どうされました?」

「あ、いえ……と、とおくからきたので……」

「そうですか? では、少しこちらでお待ちください……」

「はい」


 広い大広間に通された。

 見事な調度品と家具が並べられている。

 大したものだ。 

 それにしても、フランの正妻はどうしたのだろう。

 なぜルイーズが、正妻のような顔をして我が物顔で振舞っているのだろうか。


――トントン!


「はい!」


――カチャッ!


「失礼します」


 メイドが茶を持って入ってきた。


「あの……奥さまは……?」

「奥さま? でしたらさきほど……」

「ルイーズじゃないわ。シャルル大公の正妻の奥方さまよ」

「それでしたら……」


 年増のメイドは眉間にシワを寄せてこちらに屈みこんできた。


「あの女に追い出されたんですよ! 大旦那さまが亡くなられたあとすぐに! こどもを盾にして!」

「こどもを……そんな……!」


 イサクの子がそんなことに利用されていただなんて!

 

「い、いまはどちらに?」

「亡くなられた母親の親類がいる地方に行かれたとか……。おかわいそうに……。もともとは奥さまのお屋敷なのに! あの側室のせいで!」

「そうだったの……」


 メイドが出ていったあと、あまりのことに放心状態になってしまった。

 

「わたしは、これからどうしたら……」


 ◇ ◇ ◇ ◇


――コツコツコツコツ……。


 しばらく待たされたあと、誰かがやってきた。


「マリアン! いままでどうしていたんだい!」

「…………!」


 フランだった! 

 彼がなんだって、ここに?


「あの……フラン……あなた王城に居るはずでは……?」

「君が見つかったっていうのに、城になんていられないよ! 連絡を受けてすぐに飛んできたんだ!」

「でも……あの……あなたは王に……」

「ああ、そうだ。最近レディなんとかというやからが台頭してきたそうだが、あれは真っ赤なニセモノだ! ところでマリアン! いままで、どこでどうしていたんだい?」

「あの……フラン……歌劇場で……会ったわよね?」

「……やっぱり! あれはマリアンだったんだね! あのあと必死で探したのだが、君はどこにもいなかった! 君に会いたいと願うぼくの幻かと思っていたよ! ところで……一緒にいたマントの男は? 何者だい?」

「フラン……あれが……あの人こそが、あなたの伯父だった男よ!」

「あの男が……? 本当に? ぼくの記憶にはないな……マリアンはなぜ、あの男と一緒にいたんだい?」

「……よくわからないのよ。気がついたらあの男に助けられていて……ここに連れてこられたの」

「では……その男とずっと一緒にいたのかい? だけど……その男爵を名乗る男は盗賊だったんじゃないのかい? マリアン、大丈夫だったのかい?」

「え、ええ……親切に面倒を見てもらっていたわ。わたしはいま、王都では行方不明ということになっているの? あなたはあのとき……どうやって王都へ帰ったの? 危なくなかったの?」

「なんだって! 面倒を見てもらった? ほんとうにぼくの伯父だった男かい? 君、記憶は? ぼくのように無いのかい?」

「記憶は……すこし曖昧よ……」


 誤魔化しておいた。

 いろいろ聞かれるとまずい。


「だろう? だったら! その親切な男は伯父ではないよ! 別人だ! マリアン……君はあのとき滝壺に落ちて急流に呑み込まれていった……もう助からないと思ったよ。それでも、何度も捜索隊を出したんだよ!」

「あなたはフラン……どうしてわたしが滝壺に落ちたことを知っているの? あなたはたしかあのとき、道をもどったわよね?」

「……すぐに君を追いかけたんだが……君は馬車ごと滝壺に落ちるところで……。そのまま敵を蹴散らして逃げたんだ。たまたま、運がよかっただけだけど……」

「そうなの……? では、王都でわたしは、滝に落ちて死んだことになっているのね?」

「ああ……だが……こうして生きていた! よかったよ!」


 フランが満面の笑みをたたえ喜んでいる。

 

「あの……クーデターが起きたそうね。あなたは……?」

「すぐに鎮圧するよ! 大丈夫だ。政権交替時によくあることなんだ」

「戴冠式は……いつ?」

「来月だよ。それが済んだらぼくは王だ! 君を后にできる!」

「后……? 正妻の方は? どうなされたの?」

「妻とは……不仲でね。所詮、政略結婚だ。子供もいないし……」

「あの……ルイーズとは……その……」

「今は彼女が正妻代わりだ。でも、ルイーズはあくまで側室だ。正妻の座はいつでも君のために空けてあるよ!」

「フラン……」

「君が見つかったんだ! 王城へ行って知り合いに報告するといい! そのまま家臣たちに君を紹介して、できたら戴冠式と共にマリアンと結婚したい!」

「な、なんですって! 結婚……?」

「ああ。ぼくの願いはずっと、君と結婚することだった! 夢が叶ってうれしいよ!」

「でも……」

「とりあえず王城へ行こう! 友人たちを安心させてやれ!」

「そうね……ありがとう、フラン」


 フランに従い屋敷を出た。

 早くネイサンやモニカに無事を知らせたい。

 フランとの結婚うんぬんは二の次だ。

 それにしても――マスクの男はわたしに何をさせたかったのだろう。

 偽のオトシダネの次は、フランの后にさせてわたしを陰から操るつもりなのか。

 ジクジクとした気持ちを抱えたままフランの用意した馬車に乗り込んだ。


――ガラガラガラガラ……ガラガラガラガラ……。


 大通りは人でごったがえしていたが、馬車はなんとか進んでいった。 

 誰もこんなところに自分たちの国の王さまがいるなんて思わないだろう。


「ところでマリアン……君に預けてあった十字架だが……」

「えっ? な……なあに……フラン?」

「棒の先に何かついていなかったかい? 何度も家臣に聞かれたが思い出せなくて……。なにしろ、君に預けっぱなしだったらからね」

「そ、そうね……」


 困った。 

 なんと答えよう。

 

「わ、わたしは何も……気づかなかったわ……」


 とりあえず黙っておくことにした。


「そうかい、だったらいいんだ。どこかで落としたか……」

「な、なんのことかわからないけど……」


 うまく誤魔化せただろうか。

 フランには申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 ポケットの中にある銀の筒は、本当は彼の物なのに。


――ガタンッ!

――ダダダダッダダダダッ!

――ワアアアアーッ!


「なに? なんなの?」

「たいへんだ! マリアン! 敵だ!」

「ええっ! なんで? 王都の中まで?」

「先日、王都の近くで奇襲攻撃をかけたのだが……残党が王都に入ってきたらしい! さあ! 早く馬車を出て!」

「はい!」


 あとから考えると馬車から出るほうが危険なのだが、そのときは慌てていて何も考えずにフランに従っていた。

 

――バンッ!


「マリアン、こっちだ!」

「はい!」


――タッタッタッタッ、タッタッタッタッ……!


 フランに手を引かれ走った!


「おい! 逃げたぞ!」

「追えーっ!」


――ワアアアアーッ!

――ダダダダッダダダダッ!


「ハアハア……どうしよう……」

「マリアン! しっかり!」

「待って! フラン! フラン……!」


 群衆の中を逃げまわるうちにフランとはぐれてしまった!

 剣を持った戦士たちの出現に人々がみな逃げ惑っている。


「かくごー!」


――ダダダダッダダダダッ!


 ひとりの戦士が剣を手に群集を掻きわけ、わたしの元へ一直線に斬り込んできた!

 殺される!

 わたしはそのとき、死を覚悟した。

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