第27話
「イテテテ、テテテテーッ!」
マスクの男は怒りをあらわにして男の腕をねじりあげている。
目元がフードでよく見えないが、男を射殺しそうな強い視線が感じられる。
「テメー! ゆるさねえ!」
腕をねじ上げられたまま、男がもう片方の手で剣を抜いた!
――ザワッ!
酒場が一瞬ざわつく!
――カキーンッ!
剣のふれあう音と共にすぐさま静まり返る。
マスクの男も剣を抜き応戦しはじめたからだ。
――カキーンッ! カキーンッ!
「なんだ、なんだ!」
「おいっ! ジョーに応戦してやれ!」
――ワアアアアーッ!
――ドタンッ! バタンッ!
たちまち酒場内は大騒ぎとなった!
――ドンッ!
「じゃまだ! どけーっ!」
「きゃっ!」
わたしは隅に追いやられた。
――ドタタタ、タタタタタッ!
――カキーンッ! カキーンッ!
「こいつ、強ええぞ! ぬかるな!」
「やっちまえー!」
――ワアアアアーッ!
――ヤアアアアーッ!
――ドカッ! ドタンッ!
――バキッ! バタッ!
「わあああー!」
「ぐあっ!」
男たちが一斉にマスクの男に襲いかかるも、すぐにやり返されバタバタと倒れていく。
それほど、マスクの男は強かった。
店の裏口が開いている!
「今のうちに……!」
――ダダダダッダダダダッ!
◇ ◇ ◇ ◇
命からがら逃げ出して、やっとの思いで宿屋にもどった。
「ハアハア……危なかったわ。マスクの男はどうしたかしら?」
ドキドキしながらカーテンの隙間から酒場の方角を見つめた。
男たちの争う声がここまで聞こえてくる。
その騒ぎは夜中過ぎまで止むことはなかった。
「う……っん……」
息苦しさに目が覚めた。
あたりは真っ暗だ。
唇を塞いでいた何かがはずれた。
「ハアハア……」
――ズズッ、ズズッ……。
奇妙な音が遠ざかっていく。
どこかで聞いたことのある足音のような気がしたが睡魔には勝てず、そのまま眠りの世界へもどっていった。
◇ ◇ ◇ ◇
――チチチチッ! ピピッ! チュンッ、チュンッ!
「いけない! いつの間にか寝ていたわ!」
気がつくと寝台に寝ていた。
――ズズッ……。
「えっ……?」
寝台の横にマスクの男がいた!
いつも着ている黒いマントがぼろぼろだ。
「あ、あの……ゆうべはどうもありがとう……」
――コン、コンッ!
「な、なに? 誰かしら?」
――バサッ!
「あっ!」
マスクの男がわたしに黒のベールを被せた。
身振りでドアに出ろと言っている。
男にうなずき、ドアへ向かった。
――カチャッ!
「はい……?」
「レディM、わたくしです。衛兵を連れて参りました。部屋の外と宿屋の外にも2名ずつ配備しておきます」
ドアの外に調査官と衛兵が2名立っていた。
「衛兵? どうしてまた……?」
「今日これから国に対してクーデターを起こします。ここでジッとしていてください。封蝋はお持ちですね? 政権を掌握した時点でレディM、あなたを次の王として担ぎ出します」
「待ってください! 次の王って……そんな……!」
わたしはいそいでうしろを振り返った。
マスクの男はいなくなっていた。
寝台のうしろに隠れたのだろう。
「あなたこそが正当な跡継ぎです。シャルル大公にこれ以上好き勝手なことをさせるわけにはいかない!」
「フラン……いえ、シャルル大公はそんなに……?」
「はい。ますます勢力を伸ばし、今度は人事にまで口を出すようになりました。地方の領地も含めすべてです! 王都の家臣たちはすべてシャルル大公の仲間でかためられました! 亡くなった王の后は地方に追いやられました。この領地で去年クーデターを起こした連中は、軒並み王都に移動して役職に就いています。このままでは我が国は滅びてしまう! わたしたちは蜂起する決意をしました!」
「だからといって! わたしを立てるだなどと……!」
「どうしてですか? あなたはこのことも想定して、わたくしに連絡を寄こしてくださったのでしょう?」
「……あの……あなたへの連絡はどうやって……?」
「さあ……いろいろな人間の間を介して話がきましたが……」
「そうですか……」
「とにかくもう、時間がない! ここは大丈夫だとは思いますが……いざというときは衛兵たちがあなたを守ります! では、気をつけて!」
――バタンッ!
「あっ! あの……お気をつけて……」
調査官はあっという間に行ってしまった。
――ガラガラガラガラッ! ガラガラガラガラッ!
前の通りから馬車の音がしてくる。
調査官は領地の城にもどり、城内から敵対派を弾圧するつもりだろう。
「レディM、部屋におもどりください!」
「……はい」
衛兵に促され部屋にもどった。
「…………!」
マスクの男が寝台のうしろから出てきた。
カーテンの陰から外を見ている。
「ふーっ……」
こうなったら覚悟を決めるしかない。
わたしは長椅子に腰かけ、ときを待った。
外は青空の広がる良いお天気だった。
◇ ◇ ◇ ◇
――ヤアアアアーッ!
――ドゥーンッ!
「ギャアアアーッ! 謀反だーっ!」
「またクーデターが起きたぞー!」
「逃げろー!」
――ワアアアアーッ!
――ダダダダッ、ダダダダッ!
――ガラガラガラガラッ! ガラガラガラガラッ!
話し合いが決裂したのだろう。
人々が恐れおののき逃げ惑う声や物音がしはじめた。
戦闘に発展したようだ。
高台にある城の方角からは、ひっきりなしに人の声や武器の音が響いてくる。
あまりの恐怖にベールの下で縮こまっていた。
マスクの男は微動だもせずジッとしたまま、冷静に窓から外を見つめ続けている。
男が一緒にいてくれてよかった。
心からそう思った。
人々が争う物音が夕方近くまで、街中に鳴り響いていた。
◇ ◇ ◇ ◇
夕暮れが近づいてきた。
だんだんと物音は消え、人々の喧騒も静まってきた。
――ドタドタドタドターッ!
――パカッパカッパカッパカッ! パカッパカッパカッパカッ!
「クーデターが成功したぞー! 新しい政権の誕生だー!」
――ワアアアアーッ!
――ドヤドヤドヤドヤーッ!
「新政権、ばんざーい!」
「レディMばんざーい!」
――ガラガラガラガラッ! ガラガラガラガラッ!
宿屋の前に一台の馬車が止まった。
――ダダダダッダダダダッ! バンッ!
「レディM! クーデターは成功です! いますぐ参りましょう! 新王、あなたの城へ!」
「…………!」
調査官がたくさんの護衛と共にわたしを迎えにきた。
いそいでうしろを振り向くとマスクの男は消えていた。
「お手をどうぞ! レディM!」
「…………」
調査官の差し出す手に素直に応じるより他なかった。
こうしてわたしは新王として領地の城へ向かった。




