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第25話

――ガラガラガラガラッ! ガラガラガラガラッ!


「ここがかつて、イサクがクーデターを収めに行った領地……」


 あれから1週間が経過した。

 調査官は準備をすると言い途中で馬に乗り換え先に行ってしまった。

 王都の領地である街の入り口が見えてきた。

 追っ手がくることもなく安全に旅を終えようとしていた。


「マスクの男を置いて勝手に王都を出てきてしまったけれど……果たして調査官を信じていいのかしら? まさか調査官がマスクの男を出し抜いて……? 疑い出したらきりがないわ。こんなことなら酒場の前でグズグズしていないで、さっさとネイサンやモニカに会いに行けばよかった。王城では、わたしが行方不明になったことはどう思われているのかしら……? フランはわたしのことをなんて説明したのだろう。彼はどうやって王都に戻ったのかしら? あの矢の攻撃をどうやってかわしたの? それにしても……王が突然、崩御なされるとは。調査官は王の死に疑問を抱いているようだったけど……」

 

――ギイイイーッ!

――ガラガラガラガラッ! ガラガラガラガラッ!


 門が開き、馬車が領地へ入っていく。

 そこは、なんの変哲もない街だった。

 クーデターが起きた場所とはとても思えなかった。

 

――ガラガラガラガラッ! ガラガラガラガラッ!


 馬車はやがて一軒の宿屋の前に泊まった。


――バタンッ!


 馬車の扉が開き、目の前に調査官が立っていた。


「レディM、この宿屋にしばらく滞在していてください。決して顔は見られないように。どうぞ、この袋に金が入っています。ときが来たら名乗りを上げましょう!」

「はい……」


 調査官から金の入った袋を受け取り、宿屋の中へ連れていかれた。

 客もろくにいない、うらびれた宿だった。


「部屋から出ないでくださいね。わたくしはいったん王都へ戻り様子を伺います。どうかお気をつけて」

「はい……」


 調査官はわたしを2階の部屋に案内すると、いそいで宿屋を出ていった。


「ふーっ……」


 ベールを脱ぎ、ひとごこちついた。

 窓から街の様子を伺う。


「すぐ近くに酒場があるのね……。あまり治安がいい場所ではなさそうだわ」


 そのとき、ネイサンの言葉が思い出された。

 イサクが領地に滞在中、娼館のあるいかがわしい下町界隈に出入りしていたと言っていた。


「そういえば……あの派手な建物は娼館ではないかしら? あそこにイサクは通いつめ、娼婦に横領した金を貢いでいた……」


 日が陰りはじめていたが、思い切って行ってみることにした。


 ◇ ◇ ◇ ◇


――コツコツコツコツ……!


 自分の足音がやけに響いて聞こえる。

 勢いあまって宿屋を抜け出したはいいが、足下に広がる見慣れぬ古い石畳にだんだんと心細くなってきた。

 酒場がはじまるにはまだ早い時間帯なのか、店の準備をする女がチラホラいるだけであたりは閑散としている。


「娼館はこの奥ね……」


 暗い路地の奥を見つめた。

 入って行く勇気がない。

 やはりやめようとうしろを振り返ろうとした瞬間、呼びとめられた。


「ちょいと娘さん! ここはあんたみたいなお嬢さんのくる場所じゃないよ!」


 声の主を見ると娼婦だろうか、派手な赤いドレスを着たケバケバシイ女が立っていた。


「あの……」

「こっちにおいで! 事情を聞こうじゃないか?」

「はい……」


 女はわたしを路地裏に連れていった。

 

「どうしたんだい? 誰か捜しているのかい?」

「あの……」

 

 困った。

 なんと答えたらいいのか。


「黒いベールなんか被って……未亡人かい? 娼婦になりたいのかね? やめときな! わたしみたいになるからさ!」


 女はわたしを娼婦希望と誤解したようだ。

 

「そんなことは……」

「もっとも……良い男を捕まえてこの町を出ていった娼婦もいたけどね。いつも水色のドレスを着ていてね。男ができて出て行ったよ。たまたま王都でその女に再会した仲間がいてね。相変わらず水色のドレスを着ていたが、おなかが大きかったって話だよ。どこぞの奥さまみたいになってたってさ! だが、そんなことはまれだよ。たいていは、わたしみたいに堕落していくんだ……!」

「水色のドレスですって? すみません! その女性のお名前は?」

「さあ……流れ者で、路地に立ってるような女だからね。水色のドレスの女としか……。もともとは騎士の娘だったらしいよ。家が没落してね。最後まで着ていたのがお気に入りの水色の服だったから、いつもドレスはその色を選ぶって話だった。騎士の娘だから女だてらに武芸が出来たらしいよ。特に吹き矢が得意だって言ってたそうだ。この国の武器は飛び道具だからね。森にある毒草を使うんだよ」

「毒草……飛び道具……」

「水色のドレスの女が入れ込んだ男がいてね……流れ者の孤児だけど、まあ、これが良い男でさ! たいていの女は引っ掛かるよ!」

「そ、そう……」


 イサクのことだわ。

 彼はやはり、ルイーズと繋がっていたのだ。


「その男がむかし、顔に傷のある男といるのを見たことがあるよ」

「か、かおに……傷が……?」

「おや、知り合いかい?」

「い、いいえ! ただ……恐ろしいなと……思って」

「大きな男でね……マントのフードを被ってた」


 嫌な予感がする。

 すべての附合が合いはじめた。


「それがさ、そのマントの大男をまた見たんだよ! 何年ぶりかね……今度はマスクをつけていたよ」

「マントの男が! それはいつ?」

「昨日だよ。そこの酒場に入っていった。あんた本当は……その男を知ってるんだろう? あんたの捜し人かい?」

「い、いいえ! いいえ! そんな男は知らなくってよ!」


――ダダダダッ!


 そう言いながらわたしは駆け出していた。


「ハアハア……」


 宿屋の部屋にもどり息を整えた。

 イサクのことがショックだったが、それ以上にマスクの大男が気になった。

 彼は、この領地までわたしを追いかけてきたのだろうか?

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