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第24話

 身体中が凍りついた。

 フランはルイーズと一緒だった。

 彼は変わらず元気でたのしそうだ。

 隅で子守がルイーズの子を抱いていた。

 彼女は今日も水色のドレスを着ていた。

 驚いたことに2人は、手を握り合い目を見合わせて非常に親密そうだった。

 たしかに彼女はフランの側室だがいつの間にこんなに仲が良くなったのだろう。

 フランもルイーズも劇に夢中でうしろに立ったわたしたちに気づいていなかった。

  

――コツンッ!


 マスクの男がフランの椅子の背に膝をぶつけた。

 驚いたフランがうしろを振り返る。


「…………!」


 暗闇でもわかるほど、フランの顔が真っ青に変化していく。

 マスクの男がわたしのベールを上げた。


「おおっ……!」


 フランが手で自分の顔を覆う。

 わたしが生きていたことが、よほどショックだったのか。

 マスクの男はベールをすばやく下ろすと、わたしの手を引きその場をあとにした。


――ズズッ……ズズッ……。

――コツコツ、コツコツ……。


 2人の足音が静まり返った劇場内にこだまする。

 

――バッ!


「あ……っ!」


 出口の手前で男に暗闇に引きずりこまれた!


「…………!」

「…………」


 男はわたしのベールを引き上げ激しいくちづけをしてきた!

 突然の出来事にあらがうすべもなくされるがままになるしかない。


――バッ!


 男はキスをはじめたとき同様、唐突に離れていった。

 

「ハアハア……」


 わたしは唇をぬぐいながら息を荒げた。

 この男はいったい、なにを!

 なにをわたしに求めているのか!

 

――グイッ!


「あっ……!」


 再び男に腕を取られ、劇場内から外へ出る。

 そのまま酒場の2階の部屋まで連れ戻された。


――キイッ!


「あの……?」


 男はしっかり鍵をかけるよう手振りで示したあと、逃げるように部屋から出ていった。

 その夜、男は帰ってこなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


――チチチチッ! ピピッ! チュンッ、チュンッ!


「朝だわ……」


 翌日も男はもどってこなかった。

 昨日、調査官から返された銀の筒は袋に入ったままポケットの中にある。

 

「おなかが空いた……」


 昼過ぎまで待ったが男が帰ってこないので、勝手に部屋を出て階下におりた。

 

「すみませーん!」


 酒場は静まり返っていて老婆の姿はどこにも見えない。

 仕方なく酒場の扉を開け目の前の路地に出た。

 

「…………!」


 いままで気づかなかった。

 ここは、例のイサクを見かけた娼館のある界隈だ。


――ドンッ!


「きゃっ!」


 キョロキョロしていたら、うしろから来た人とぶつかってしまった。


「まあ! ごめんなさい!」

「い、いえ……こちらこそ……」

 

 ぶつかった人物を見て、思わず大声を上げそうになった。

 ミサのときにイサクを呼びにきた女だ!


「道に迷ったのかしら? それとも……なにかお探し?」

「あの……」

 

 ためらったが、好奇心に負け女に聞いた。


「イサクが……あなたといるのを見たことがあるわ」

「ええっ!」

「…………」

「あ、あなたはどなた?」

「……それは言えません」

「イサク……。あの子は小さい頃から正義感が強くてね。それは立派な子だったのよ。とても優秀だったから王城の騎士に選ばれた。娼館の主マリアが危篤のときは何度も駆けつけてくれたんだよ。本当に、思いやりのある良い子だった……」

「……娼館の主とイサクはどういう関係だったのですか?」

「おや? 知らないのかい? イサクは1本向こうの路地を入ったところにある孤児院で育ったんだよ。若くして病で亡くなった高級娼婦の子でね……。彼女の娼館の主がマリアだったんだ。マリアはいわば、イサクの母親代わりみたいなもんだ。わたしは孤児院の世話係をしている者さ。だから、イサクをこどもの頃から知っているんだよ」

「そ……そうでしたか……」


 なんてことだ!

 イサクは親代わりの娼館の主を見舞いに行っていただけだ!


 手がガクガクと震えはじめた。

 わたしはなんという誤解をしていたのか。

 亡くなったイサクにほんとうに申し訳ない。


「イサクは王城の侍女と婚約してた。心から愛し合ってるんだとそれは幸せそうでね……。彼女もきっと、イサクの死を嘆き悲しんでいることだろう。かわいそうに……」

「…………!」


 返す言葉がない。

 黒いベールの下で、わたしはポタポタと涙を流しはじめた。

 

「じゃあ、いそいでいるからわたしは行くね!」


――タッタッタッタッ、タッタッタッタッ……。


 女は走り去った。

 わたしは呆然としたまま薄暗い路地で、ただただ涙を流し続けていた。


――ガラガラガラガラッ! ガラガラガラガラッ!


 通りを馬車がやってきた。


――バッ!


 馬車の扉が開き、誰かが降りてきた。

 

「…………!」

「ああっ! ちょうどよかった! レディM! 早くこちらへ!」


 調査官だった。

 ひどく慌てている。

 走り寄るとわたしの腕を取り、馬車へ向かって歩きはじめた。


「あ、あの……」

「たいへんです! 王が崩御なされました。王に跡継ぎはひとりもいません! シャルル大公が跡継ぎとして名乗りを上げました! 実は……先走ってあなたのことを暴露してしまった家臣がおりまして……。シャルル大公派が、だったらレディMを連れてこいといきまいております! 今、皆の前に出ていくのは危険過ぎる! すぐにわたしと領地へ逃げてください!」

「で、でも……」

「封蝋はお手元に?」

「は、はい」

「では、行きましょう!」

「あ、あの……でも……!」


 馬車にむりやり押し込まれた。


――ガラガラガラガラッ! ガラガラガラガラッ!


 わたしと調査官を乗せると馬車はすぐに出発した。

 大通りへ出ると更に速度を増し王都の門を出て外の街道を全速力で走りはじめた。

 あれよあれよという間に王都が遠ざかっていく。

 なすすべもなく、わたしは調査官と2人で領地へ旅立つこととなった。

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