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第17話

――ピュウウウウーッ。


「春1番だわ……」


――チチチチッ! ピピッ! チュンッ、チュンッ!


 雪が解け若草が草原に生い茂り花が咲き乱れる。

 蝶々が飛びまわり鳥たちが恋の歌をさえずりはじめる。

 待望の春がやってきた。


「イサクー!」

「マリアン! 今夜のドレスは何色だい?」

「婚約式で着たグリーンのドレスよ! あなたにもらったグリーンのリボンを結んでいくから、間違えないでよ!」

「では、グリーンのリボンを目印に君を捜すよ!」

「イサク、あなたはどんな格好を?」

「だったら……おれもグリーンのリボンを髪に結ぼう! リボンで髪を結ってる男なんてどこにもいないから、すぐにわかるだろう?」

「そうね……わかったわ! 女の格好をしたイサクを捜すわ!」

「こいつー!」

「キャハハハ……!」


 イサクはもうすぐ行方不明の役人を捜す捜索隊に加わり、わたしの村へ出発する。

 もしも役人が見つからなかったら、イサクは村役場と交渉してわたしの新しい戸籍を作ってもらうつもりでいる。

 たしかにそれぐらいしないと、わたしとイサクの結婚はこのまま暗礁に乗り上げるだろう。


 捜索隊の壮行会も兼ね、今夜宮殿で『仮面舞踏会』が開催される。

 この舞踏会が終わりしばらくすると、イサクは旅立つ。

 結婚したいのは山々だが、そんな危険な旅にイサク送り出して、果たして本当によいのかどうかわからなくなってきた。 

 わたしとイサクはこんな風に笑いあってはいるが、心の中のわだかまりはお互い完全には解けていない。

 こんな気持ちのままイサクと離ればなれになってしまっていいのだろうか。

 

「イサク……やっぱり不安だわ! わたしたちは離れてはいけないような気がするの」

「マリアン……ほんの二、三週間だ。長くても1カ月ぐらいで帰ってくるよ」

「だったらわたしも! わたしも一緒に行かせて! 村を見たいの! どうなったか確認させて!」

「いや、だめだ。今は危険だ」

「やはり、危険なのね? イサク……いまさらだけど、自ら危ない目に遭いに行くことないわ! 今回は見送って! 捜索隊に任せましょうよ」

「いや、君に関わることだ。他人任せにはできないよ。大丈夫。屈強な兵士たちが一緒だ。1人で行くよりずっと安全だよ」

「では……どうしても?」

「マリアン、おれはどうしても君と結婚したいんだ。命を賭けても君と……!」

「イサク……わたしもあなたと想いは同じよ。一生を賭けてもあなたと一緒になりたい。だけど……なぜだが不安なの……。イサク……恐いわ……!」

「マリアン……大丈夫だよ……」


 イサクにぎゅっと抱きついた。

 

――ビュオオオオーッ!


 強い風が花壇の花を散らしていく。

 イサクに強く抱きしめられながら、わたしの心の中に不安が渦巻いていく。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「……イサクはどこかしら?」


 夜になった。

 わたしは舞踏会へ出席するため、グリーンのドレスにイサクにもらったグリーンのリボンで髪を結い上げていた。

 今夜は仮面舞踏会なので、パートナーとは別々に参加する決まりだ。

 宮殿の入り口でピエロのマスクを受け取り、それを被り舞踏会場へ向かった。

 

「これは……!」


 舞踏会場となった宮殿の大広間には仮面を付けた男女が輪になって輪舞ロンドを踊っていた。

 それは異様な光景で身震いするほど恐ろしかった。

 

「…………!」


 だれかがわたしの手を取り輪舞ロンドの輪に誘ってくれた。

 誰だろう?

 隣りを見てギョッとした。

 アポロンの仮面をつけた男がいた。

 マスクの奥からジッと見られているような気がしてゾッとした。


 輪舞ロンドを踊りながら注意深くあたりを見渡してみたが、イサクらしき人物はいなかった。


「イサク……どこにいるの……?」


 不安になったわたしは輪舞ロンドの輪を離れ中庭に出た。

 そこかしこに、春の宵に酔いしれる仮面の男女が戯れている。

 人々の間を縫いながら、グリーンのリボンの男を捜した。


「あ……っ!」

 

――タッタッタッタッ、タッタッタッタッ……。


 目の前を水色のドレスを着たウサギのマスクの女が走り抜けていった。

 わたしは思わず、あとを追いかけてしまった。


「ハアハア……こっちに来たはずだけど……」


 夢中になって追いかけているうち、庭の奥にある生垣の前まで来てしまった。

 生垣の中は迷路になっている


「さっきのは絶対ルイーズだったわ……。でも……女性がこんな暗闇の中で迷路に入るかしら?」


 生垣に近づき迷路の入り口から覗いてみたが、中は真っ暗で狭い通路に人の気配はまったくない。

 あらためてまわりを見渡してみる。

 人っ子ひとりいなかった。

 

 だんだんと恐くなってきた。

 こんな寂しいところまで、どうして1人でウサギの面を追いかけてきてしまったのか。

 自分の危機感の無さを後悔しながら、キビスを返しもどろうとした。


――ザザザザザザ……ッ!


 迷路からいきなり誰かが飛び出してきた!


「…………!」


 イサクだった!

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