表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/33

第15話

 最近のわたしはイサクについてあらためて考えるようになった。

 わたしは彼の何を知っている?

 イサクはわたしの前に突然あらわれ手を差し伸べてくれた。

 彼のお蔭で今日コンニチのわたしがある。

 イサク無しでのわたしの人生は考えられない。


 なのにわたしは、イサクという人となりをよく知らない。

 輝かしい実績と誠実な人柄はみなが賞賛する通りの人物だ。

 誰もイサクを悪く言わない。

 実際にまいにち接しているわたしもそう感じる。


 だが、イサクの過去はどうであろう。

 わたしと出会う前、彼には好きな人や恋人がいたのだろうか。

 娼婦のこどもで孤児院で育ちと言っていたが、実際どんな子供時代を過ごしたのか。

 イサクからそこまでは聞いたことがなかった。

 彼の生い立ちが複雑なだけに、わたしには立ち入れない場所だった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「マリアン? どうかしたのかい?」


 今日はイサクと王城の舞踏会へきていた。

 着飾った男女が楽しそうに集うなか、知った顔を見つけてビクついていた。

 ルイーズだ。

 怯えるわたしをイサクが不審そうに見ているのがわかる。

 高い位置にあったはずの彼の顔が、いつの間にか間近に迫っている。

 

「イサク……なんでもないわ……」

輪舞ロンドがはじまるよ! 行こう!」

「あ、あの……ちょっと待って! 知り合いがいたの! 庭に行ってくる!」

「あっ! マリアン!」


――タッタッタッタッタッタッ……。


「ハアハア……こっちに向かったはずだけど……」


――カサッ!


「マリアン……」

「えっ?」


 草を踏む音に振り返ると、うしろにフランが立っていた。


「あ、あの……いま、ルイーズがこなかった?」

「ルイーズだって! ここにかい? 彼女が今日の舞踏会に招待されているとは思えないが……どんな様子だった?」

「いつものごとく水色のドレスを着ていたわ……。庭に降りたから追いかけてきたの」

「そうか……ぼくが探して連れ帰るよ。マリアンはイサク殿の元へもどったほうがいい。こんなところにいて、あらぬ疑いを掛けられたら大変だ」

「フラン……イサクから何か言われたの?」

「少しね。きちんと弁明しておいた。ぼくたちにヤマしいことは何もない。だが、結果的にマリアンに多大な迷惑を掛けてしまった……。ルイーズの分も謝るよ。これからは、なるべく君と関わらないようにする」

「フラン……あなたのせいではないわ……。でも、あなたの言うとおり誰かに誤解されたくないわ。すぐにフランのところにもどるわね。もう、ルイーズのことも気にしないようにするわ。それじゃあね」

「マリアン、イサク殿とお幸せに……。君の幸福を祈ってるよ。ぼくが出来なかった分、彼には感謝しているんだ……」

「フラン……」


 すぐに舞踏会場にもどり、輪舞ロンドの輪に加わった。

 すぐにイサクが隣りにきた。


「マリアン、どうだった? 知り合いには会えたのかい?」

「イサク……。いいえ、人違いだったみたい」

「そうか……」

 

 イサクはそれ以上、追及してこなかった。

 だが、輪舞ロンドの間じゅう目を合わせてくれなかった。

 2人はただクルクルと踊り続けた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「マリアン、話がある……部屋を用意しておいた」

「宮殿内に?」

「ああ、そうだよ」

「でも、イサク……夜もだいぶ更けたわ」

「だからだろう? 今夜は宮殿内に泊まっていこう」

「イサク……」


 

 そろそろ帰らなくてはと思っていたら、イサクがいきなり誘ってきた。

 突然の申し出にわたしは驚いていた。


 イサクは宮殿内の客室にわたしを連れ込み、鍵を掛けた。

 お茶が用意されていた。


「マリアン、座って。お茶を飲もう」

「ええ……わたしが淹れるわ」


――カチャカチャッ……。


 お茶を飲みながら窓の外にひろがる夜空を眺めた。

 今宵も星がとてもキレイだ。

 満月も出ている。

 だが、その向こうにイサクの笑顔は見られない。 

 唐突にイサクが口を開いた。


「単刀直入に聞こう。さっき、庭でフランと会っていただろう?」

「イサク……あの……」

「悪いが、マリアンのあとをつけさせてもらった」

「あれは……フランが……」

「フランがあとから来たにせよ、なぜおれに嘘を吐いた!」

「フラン! これには事情が……!」

「だったら! 舞踏会場にいた知り合いとは誰だ!」

「ル、ルイーズよ……」

「ルイーズだって? またあの女か!」

「だって……あの人は……」

「あの女にはもうかまうな! こっちにこい!」

「きゃあっ! イサク!」


 イサクが長椅子から突然わたしを抱き上げた!


――ツカツカツカツカッ!


 奥の寝室へ向かって歩き出す。


「イサク! やめて!」

「君を確かめる! 浮気していないかどうか!」

「イサク!」

「マリアン……誰よりも愛してる! 過去の男なんかに、取られたくない!」

「イサク……フランとは何もないわ! 14年前だって、キスひとつしたことなかったのよ?」

「そういう問題じゃないんだ!」

「…………!」


 情熱的なキスを受けた。

 息もつけぬほどの激しさで。

 夢中になっている間に寝室に連れていかれ、そのままイサクと夜を共にした。


 ◇ ◇ ◇ ◇


――チチチチッ! ピピッ! チュンッ、チュンッ!


「……朝だわ……イサク……?」


 手を伸ばした先にイサクの姿はない。

 

「バラの……香り……?」


 枕元に真っ赤なバラが1輪、置かれていた。

 手紙が添えてある。


『マリアン……ゆうべは済まなかった。急な仕事で領地へ行く。部屋は施錠してあるからゆっくりしていってくれ。愛してる……君だけだ。君も……おれだけであることを祈る』


「イサク……」


 わたしもあなただけなのに。

 でも、わたしは誤解されるようなことを繰り返してしまった。

 そして――イサクも。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 季節はめぐり秋を迎えた。

 たくさんの落ち葉が美しい景色に華を添えていく。

 わたしの戸籍はいまだ復活していない。

 行方不明の役人は見つからないままだ。

 彼はわたしの戸籍に必要な書類を所持したまま失踪してしまった。

 

「マリアン……このままではらちがあかない! おれたちは一生、婚約者のままだぞ!」

「イサク……どうしたらいいの?」

「来年の年明けにもういちど本格的な捜索隊が出るそうだ。そのときにおれも一緒に行く! 必ずマリアンの戸籍を復活させてみせる!」

「イサク……わたしのためにうれしいわ……。本当にどうもありがとう。わたしもあなたと早く結婚したいわ!」

「もしもダメなら、マリアンを誰かの養女にして結婚する方法もある。いまから養父母を探しておこうと思う」

「そんなことが可能なの? でも……わたしのように身寄りのない人間を養女にしてくれる人がいるかしら?」

「いろいろな可能性を探っていこうよ! とりあえずここにサインしてくれ。あとから養父母のサインをもらうから!」


 イサクが白紙の書類を提示してきた。

 養子縁組の用紙のようだ。


「はい……あら? イサク……あなたのセカンドネームはシャルルなのね……」

「こどものころはそっちで呼ばれていた。おれは孤児のくせにセカンドネームがあるんだぜ? 苗字もないのにな! 笑っちゃうよな? ところで、マリアン……また痩せたね? 大丈夫かい?」

「ええ、大丈夫よ。ちゃんと食べてるから……」

「結婚さえしてしまえば、万事うまくいくはずだよ」

「ええ、イサクそうね……」


 本当はずっと満足に食べれていない。

 フランはあれきり接触してこないが、ルイーズの出産は近づいているはずだ。

 そのことを思うと自然と涙がこぼれる。

 ルイーズの産むこどもがイサクの子かどうかはいまだに半信半疑だ。

 でも、イサクがルイーズと会って話し合っていたことは事実だ。

 わたしにはイサクにルイーズのことをちょくせつ聞き出す勇気はなかった。


 仕事が忙しいという理由でイサクと会えない日々が続いていた。

 今日は久々に会えたが結婚について話し合っただけで終わってしまった。

 イサクと離れることにより、彼を客観的に考える余裕が出来た。

 盲目的にイサクを愛するだけだったわたしの心に、いろいろな思いが渦巻きはじめていた。

 

 イサクはいまだ特殊任務の真っ最中らしい。

 だが、これがどうにもおかしいのだ。

 領地へ行くといいながら王都に居たりする。


 これはネイサンが教えてくれたのだが、領地でクーデターの鎮圧をしているときイサクがしょっちゅう下町に通っていたというのだ。

 それもよくない連中がいる界隈だ。

 イサクを下町でよく見かけるというウワサを耳にしたネイサンが、自分の目でちょくせつ確認したらしい。

 だが、ネイサンはこのことをイサクに問い質しはしなかった。


 イサクはまた、領地にいるとき行き先を言わずに何日もいなくなったことがあったそうだ。

 そのときだろう。

 わたしがイサクを王都の娼館通りで見掛けたのは。

 これらの事実は、最近のイサクの態度を見ておかしいと思ったネイサンがコッソリわたしに教えてくれたものだ。

 ネイサンによるとイサクは、王都に戻ってからも勤務中にちょくちょく行方をくらますらしい。


 わたしはイサクを心から愛しているが、彼に全幅の信頼を寄せることができなくなってしまっていた。

 だからといって、イサクのあとをつけまわしたり娼館で待ち伏せするようなことはしたくなかった。

 

 イサクもそうだった。

 彼がわたしを見る目はあきらかに疑惑に満ちている。

 なのにイサクは、わたしに直接なにかを聞いてくることはなかった。


 わたしとイサクはたしかに深く愛しあっている。

 愛を確かめ合う行為もたびたびしている。

 でも、日を追うごとに2人の間に溝が広がっていく。

 わたしはだんだんと疲労していった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


――カーンッ、カーンッ、カーンッ、カーンッ……。


「雪だわ……!」

「ホワイトクリスマスになりそうだな」


 雪の降る季節がやってきた。

 フランにもルイーズにも、ずっと遭遇していなかったので油断していた。

 クリスマスのミサに出席したわたしの目の前に、フランとルイーズが現れた!

 2人は金髪の赤ん坊の洗礼式を行っていた。

 ミサの途中だったが、すぐに退席した。


「ハアハア……」

「マリアン!」

「きゃあっ! あら? イサク……! あの……警備は?」

「ミサの最中に君が出てきたからいそいで追ってきたんだ! 気分でも?」

「そ、そうなの……頭が痛くて……。もう、帰るわね」

「だったら送っていくよ! ちょっと待っててくれ」

「イサクだめよ! あなたは勤務中でしょ? わたしはひとりで……」

「イサク!」


 暗闇からとつぜん女が現れ、イサクの名前を叫んだ。


「あれ? レア?」

「すぐ来て! マリアが……!」

「なんだって! すぐ行く! マリアン、申しわけないが、大聖堂の中で待っていてくれ!」


――ダダダダッダダダダッ……!


 イサクと女はあっという間にどこかへ行ってしまった!


「なによ、あれ! あっ……!」


 レアと呼ばれた女は、いつか娼館通りでイサクと抱擁していた人物ではないか!

 途端にわたしは不機嫌になった。

 イサクってば!

 なんて人なの!

 婚約者のわたしを差し置いて娼婦なんかと!


「なによ! イサクの浮気者ー!」

「マリアン!」

「えっ?」


 振り向くと暗闇にフランが立っていた。

 

「帰るなら送っていくよ。ルイーズのこどものことで……話がある」

「フラン……奥さまやルイーズは?」

「妻は来てない。ルイーズは息子と馬車で帰ったよ。マリアン、寒いだろ? 早く帰ろう」

「……ええ」

 

 イサクが勝手なことをするなら、わたしもいいわよね?

 別にフランとはなんでもないんだし。

 それに――イサクのこどものかもしれない赤ん坊について話し合うのよ。

 かまやしないわ!


 わたしは衛兵に先に帰るとイサクに言付けをして、フランと一緒に大通りへくり出した。

 大通りはミサに向かう人々で昼間のようにニギやかだった。


「マリアン、見ただろ? ルイーズのこどもを……」

「ええ。でも……父親の件はどうなったの? 彼女、父親がはっきりしないと産めないって……」

「ぼくが父親ということにしておいた。さいわい、髪と目の色が一緒だ」

「なんですって! そんな! それで……それで奥さまは納得しているの?」

「だから今日のミサに来なかったんだ。納得はしてないよ。でも……妻の遠縁の娘だからね」

「フラン……あなたがそこまで責任を負うことはないわ!」

「だけどマリアン! こどもがかわいそうだよ。父親がいるのに認知されないなんて!」

「フラン……」

 

 フランがキラキラと青い瞳を輝かせながらそう言った。

 神の日にふさわしい尊いおこないだ。

 フランは、イサクのこどもかもしれない男の子の父親になった。

 この事実をどう受け止めたらよいのだろう。


 その夜はフランに王城まで送ってもらった。

 翌日の早朝、イサクがやってきた。


「マリアン! どうして勝手に帰ったりしたんだ! 心配したんだぞ!」


 イサクは寝ていないようで、目の下が真っ黒だった。

 目も赤く充血していた。


「ごめんなさい……。でも……早く帰りたかったから……。あなたは女性とどこかへ消えてしまうし……」

「マリアン、すまない! 知人が危篤で……」

「なんですって! それで?」

「天に召されたよ……」

「お葬式は? ついていなくていいの?」

「密葬だからいいんだ。付き添いは大勢いる」

「そうなの?」

「ゆうべはすまなかった……。君は具合が悪いのに……慌てて置いてけぼりにしてしまった……。このとおりだ。代わりの者に君を送らせるべきだった……」

「いいのよ、イサク。緊急事態なら仕方がないわ。わたしはこのとおり、無事にもどったわけだし」

「本当にすまない。マリアン……」

「イサク……」

 

 わたしとイサクはしっかりと抱きしめあった。

 よほど大切な人を亡くしたのだろう。

 イサクの瞳は悲しみにくれていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


――カーンッ! カーンッ! カーンッ! カーンッ……。


 年明けにモニカからおかしな話を聞いた。


「かつて王都随一だった娼婦がクリスマスに亡くなったんだって! ずっと病気を患っていて……。密葬だったそうだが、大勢の男たちが詰めかけたそうだよ。王侯貴族や既婚者たちまで!」

「クリスマス……娼婦……」


 イサクに対する疑惑がピタリと一致した。

 だが、わたしはそれ以上せんさくしなかった。

 新しい年が明けたのだ。

 ルイーズもフランも何も言ってこない。

 イサクの相手が亡くなったのなら、彼はもう娼館へは通わないだろう。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ある夜、舞踏会が開かれた。

 イサクと共に出席した。

 輪舞ロンドがはじまる。


「マリアン……今年の雪解けを待ち、君の村に戸籍を取りに出発する。待っていてくれ!」

「イサク……うれしいわ。春を心待ちにしているわ!」

「愛してるよ、マリアン……今年こそ、結婚して幸せになろう!」

「ええ……絶対よ!」


 イサクと一緒に輪舞ロンドを踊った。

 わたしの心は、彼と迎えた新たな年と共に希望の光で満たされていた。

 どこかでアポロンが見ているとも知らずに。


「イサク!」

「やあ! ネイサン! 奥方はどうした?」

「坊主が熱を出してね……。わたしも顔だけ出してすぐに帰るよ」

「坊やは? 元気か?」

「元気過ぎるぐらいだ! 妻が手をやいてる! 大きくなったぞ。生まれたては金髪だったが、もう黒くなりはじめた」

「おれもそうだったな……。王都の人間は、生まれたときと髪の色がちがうヤツが多いよな」

「イサク……どういうこと? あなた……こどもの頃は金髪だったの?」

「そうだよ。十歳ぐらいまでかな? 国王もそうだったらしいぞ」

「そんな……なんてこと……! では、あの子はやはり……!」

「マリアン、どうしたんだ?」

「い、いえ……なんでもない! それよりも……イサク! 踊りましょう!」

「ああ! ハハハハッ! 君は本当に、輪舞ロンドが好きだな! それじゃあネイサン、失礼するよ! 坊やによろしく!」


 イサクと輪舞ロンドを踊りながら動揺が隠せなかった。

 いまのいままでルイーズのこどもがイサクの子だなんて、完璧に信じてはいなかった。

 なぜならルイーズの息子が金髪だったからだ。

 でも、ちがった。

 イサクがこどものころ金髪だったのなら、ルイーズの金髪の息子の父親が彼であってもおかしくはない。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「マリアン、ちょっと失礼! 伝言だ。庭に行って人に会ってくる」

「イサク! わたしも一緒に……!」

「いいや。君は来ないほうがいい」

「どうしてなの?」

「……込み入った話だから、すぐにもどるよ!」


 イサクはサッサと行ってしまった。

 わたしはこっそりあとをつけて一緒に庭へ降りた。

 イサクは庭の奥へ向かい、噴水のそばで止まった。

 わたしは木の陰から彼を覗き込んだ。

 

 暗闇から誰かがやってきた。

 水色のドレスを着ている――ルイーズだ!

 ルイーズが歩いてきた!

 彼女は出産を終えホッソリとした姿でイサクのいる噴水のそばまでやってきた。

 イサクとルイーズは軽く会釈するとすぐに話しはじめた。


 もうたくさんだわ!

  

――カツカツカツカツッ……!


 すぐにキビスを返し舞踏会嬢にもどり、イサクに黙って勝手に帰ろうと出口に向かった。


「マリアン!」

「…………!」

 

 名前を呼ばれ振り向くとフランがいた。

 舞踏会に来ていたのか。

 ぜんぜん気づかなかった。


「ルイーズを知らないか? さっきまで一緒だったんだが……」

「あの……イサクと噴水のそばに……ううっ……」

 

 思わずフランの前で泣きくずれてしまった。

 

「マリアン、どうした? こっちへ……」


 周りを気にしながらフランが目配せをする。

 腕を支えてもらい、庭に連れていかれた。

 

「寒くないかい?」

「どうもありがとう……」


 フランはわたしをベンチに座らせると上着を脱いで羽織らせてくれた。

 わたしが泣き止むまで、フランはジッとそばで見守っていた。

 知らない人がこんな場面を見たら誤解するだろう。

 そのときのわたしには、そこまで考えられる余裕がなかった。


「……フラン……ルイーズのこどものこと、どうもありがとう……。奥さまには、本当に申し訳ないことをしたわ……」

「いいんだよ、マリアン。ルイーズは妻の親戚だ。当然のことだ」

「養育費などは……」

「ぼくは王家の人間だよ? イサクの子供は王族として育つ。養育費は国から出るから大丈夫だ」

「フラン……何からなにまで、どうもありがとうございました」


 心からフランにお礼を述べた。

 他人のこどもを自分の子として育てるだなんて。

 フランは本当に親切な人だ。

 それにくらべてイサクは――少しは自分の子の責任を負うべきではないのか。

 今回のことでイサクに幻滅してしまった。

 

「マリアン! そいつとなにしてる!」

「イ、イサク……!」


 とつぜん目の前に、ルイーズを伴ったイサクが現れた!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ