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服を買う(後で脱がすために)


適当に野菜ジュースとかを作って飲ませて、三日ほど休ませたら、ミリアはだいたい回復した。

その間、俺は果物や野菜を求めて市場に行ったり、アカデミーや図書館に行ったり、帰ってきたら製図版で作業したり、長イスで寝たりしていた。


コンペのための新しいアイディアは、特に思いつかなかった。

仕方がないので、動力機関の新型の設計図を書いていた。

でもこんなので宮廷魔術師になれるのか?


俺が悩んでいると、ミリアが後ろまでやってくる。

もうベッドから降りて歩ける程度には回復したみたいだ。


「あの、クズマさん。ちょっとお願いがあるんですけど……」


毛布を体に巻き付けただけのミリアは言う。


「ん? お腹が空いたのか?」


夕飯の時間には、まだ少し早い気もするが……まあいいか。

しかし、ミリアも回復してきているようだけど、固形物とか食べさせても大丈夫だろうか?


「いえ、それはそれとしてなんですけど……私の服ってどうなってます? まさかずっとこのままですか?」

「えっ?」


毛布の下は裸だ。

下着すらつけていない。

前まで着ていた服は凄く汚れていた。

あれを洗って染み抜きして……という手順を考えたら、捨てて新しい物を買った方が早いと思ったのだ。


しかし、捨てたなら新しい物を買わなければいけない。

誰が買うのか?

俺しかいない。


「なるほど。確かにそれは問題だな……。とりあえずこれを着てみろ」


俺は、自分が普段着ているシャツを着せてみる。

サイズが微妙に合わないな。

袖が余っているし、裾はふつうに考えれば長すぎるし、下に何もはいてない事を考えると短すぎる。


でも、それはそれで悪くない。


「どうです? 似合ってますか?」

「うーん?」


なんて答えよう?

ミリアは、似合っていると言って欲しいのだろうか?

こんな服装が似合っている人なんて、今まで会った事がないけどな。


「ほら」


ミリアはその場でくるりと回って、足が絡まってずっこけた。

お尻をこっちに突き出すような感じで、だ。

当然、裾の長さ的に、何一つ隠されていなかった。


「ひゃっ」


ミリアは慌ててお尻を押さえて、立ち上がる。


「み、見ましたか?」


ふむ。

この場合は見ていないと嘘をつくのが定番らしいが、そんな事に何か意味があるのだろうか? いやない。


「見たよ。いい眺めだった。もう一回見せてよ」


俺が正直にそう言うと、ミリアは泣きそうな顔で頬を膨らませた。

かわいいなぁ。



まあ、それはそれとして、服はどこかで手に入れなければいけない。

俺が知っている唯一の、女物の服を扱う店というのが、ここだった。


「あんた、この前の学生さん……」


古着屋の店主は、リンゴとともにミリアを押しつけてきたおばさんだった。

むしろ、あの件がなかったら一つも知らなかったな。


「昔のことはどうでもいいです。でもリンゴはおいしかったですよ」

「……あの子は、どうなったの?」

「元気になりつつあります。で、女物の服が欲しいんですけど……」

「そう……。ま、いいわ。どれにするの?」


どれにするの、とか言われても困る。


「女物の服ってよくわからないんですよ。そっちで選んでもらえませんか?」

「いいけど、サイズは?」

「計ってきました。これで」


俺がメモ用紙を見せると、おばさんは首を傾げる。

どうした?

何か間違いでもあったか?


「本当にこの数字、あってる? っていうか、なんで10項目もあるの? 何か勘違いして、別のところ計ってない?」

「その場にいない人間の服を買うなんて初めての事なんですよ」

「……学生さん、もしかして頭悪いの?」


いいがかりだ。

宮廷魔術師候補でもあるミスタークズマに対して何たる放言。

人を頭でっかちみたいに言わないでくれ。


仕方ないので、適当にあった服を選んで、自分であちこち計って、たぶん問題なかったのでそれを買うことにする。


「本当にそれでいいの?」

「サイズはあってると思いますけど?」

「そうじゃなくて。一口に服って言っても、色とか模様とかあるでしょ? 着れればなんだっていいって事はないでしょう?」

「あんまり気持ち悪い模様じゃないなら、別に……」

「そんな適当な考えで、本当にいいのかしら?」


よくないの?

俺に言われても困るよ。


「でも、一枚も服を持ってないんですよ? とにかく服らしい物を与えておかないと、話が始まらないんですから」


しかし、俺の言い訳はさらなる事態の悪化を招いた。


「一枚も? あの時に着てた服は捨てたの?」

「汚れてましたから」

「じゃあ、今は裸なの?」

「いえ、俺のシャツとかを着せてますけど、サイズがあってなくて……。今日連れてこなかったのも、それが理由なんですけど」


あれで外を連れ回すのは、いくらなんでも非常識だと思ったので。


俺が答えると、おばさんは頭を抱えた。

あれって何日前のことだっけ、とか指を折って数えている。

どうやら、おばさんの認識では、女の子に服を与えないまま数日も経過するのは想定外の事態らしい。


いや、俺にとっても想定外ではある。

でもミリアを拾うという状況が既に想定外なんだ。

そこは大目に見てもらえないかな?

無理か。


「もしかして下着もないの?」

「ありません……ここで売ってます?」

「ああ、そういう事ね。こっちの数字は胸を計ってたのね? なるほど。ってことは……」


おばさんは何かを理解したらしくゴソゴソとあちこちの棚を探って、いろいろ持ってきてくれる。

やはり、女の事は女に任せるに限る。


「でも、その様子じゃ、普段着より先に寝間着か何かから一通り必要になるんじゃないかしら?」

「……買い足すのはいいんですけど、あんまり高くならないようにしてくださいね」


俺の言葉に、おばさんはくすりと笑う。


「ずいぶん面倒見がいいのね。あの子を恋人にでもするつもり?」

「さあ?」


ミリアを恋人に?

それは悪くない考えだな。


「ま、なんだっていいけど、服の柄には気を使うべきよ。こっちの赤いのとかどうよ」

「あ、それはダメです。赤はなしで」

「えっ? なんで?」

「他の人とキャラが被るんで」

「はぁっ?」


急に、おばさんの顔から笑みが消えた。

まるで邪悪な物を見るような目つきだ。

俺が何をした?


おばさんは、告げる。


「それはやめなさい」

「えっ、何を?」

「二股は、やめなさい。どうやったって、必ず不幸になるわよ」


いや、意味がわからん。

片方がミリアだとして、もう片方は誰だよ。



ともかく、俺は服を買うというミッションを成功させ、家に帰還した。

ちょろいもんだぜ。


「ほら、服を買ってきたぞ。とりあえずこれだ」

「わあ……」


感激したように顔を輝かせるミリア。

こんなに喜ぶなら、もっと早く買ってやるべきだったか。

いや、病気から回復した今だからこそ笑顔が見れるのだから、やはりこのタイミングがベストだ。


黒っぽいシャツと、ピンク色のスカート。

買わされた時は、妙な組み合わせだと思ったが、着せてみたらよく似合った。


「こんどは、どうかな?」


ミリアはまた、くるりと回転してみせる。

遠心力でスカートがふわっとなった。

そして、また足が絡まった。

今回は、転びこそしなかったものの、ふらふらとよろけた。


「まだ本調子じゃないんだから、大人しくしていた方がいい」

「はぁい……」


ミリアは残念そうに言うと、ベッドに腰掛けた。

俺はもう少し、製図に取りかかることにする。

作業をしていると、ミリアがひょこひょこと近づいてくる。


「クズマさんは、毎日何をしているんですか?」

「これは新しい魔術の設計図だよ」


俺は、製図板に貼り付けてある図面を見せる。


「魔術って言うのは、こうやって設計図を書いて、それに従って組み立てて発動させる物なんだ」

「この前やってた、杖から火とかが出るのは違うんですか?」

「あの短杖も、魔術具の一つだよ。いくつかの魔術を登録して、切り替えて放つ事ができる」


短杖は大昔に作られた、伝説的な魔術具だ。

ああいう物を作れれば、宮廷魔術師なんてちょろいんだけど、無理だろうか。


「じゃあ、短杖だけあれば十分なんじゃないですか?」

「いや、あまり複雑な事はできないんだよ。それに俺は機械みたいな物を作ろうとしているんだ。あのジュースのやつみたいなのをね」

「確かにあれは便利ですよね」

「さてと、夕食にしようか」


いろいろ考えた末に、夕食のメニューはクリームシチューにした。

固いパンをちぎって浸して食べる。


夕食を終えた後で、俺はハサミを取り出す。


「なんですか、そのハサミ?」

「おまえの髪、ぼさぼさだろ? 切ってやろうと思って」

「じゃ、お願いしますね」


ミリアは椅子に座って背筋を伸ばした。

俺は後ろに立って、しゃきしゃきと毛先を切り落として整えて行く。


「おまえの髪、いいな。さわってると心が安らぐ」

「そんな、ただの髪ですよ」


後ろから見る首筋もいいな、と思いながら頭を軽く撫でる。

ミリアは、手鏡を見て嬉しそうにしていたが、切った髪が肩に乗っているのは気に入らないようだ。


「なんかちくちくします」

「シャワーで流してきなよ」


シャワーは、二人で一緒に入った。

ミリアが使い方がわからなくて困っていたのを見かねたからであって、変な意味はない。

体のあちこちを撫で回して堪能したけれど、それは別の話だ。


部屋に戻ってきた時には、ミリアの顔は真っ赤だった。


「なんか、また熱が出たみたいです……」

「そう? もう寝ようか」

「あ、寝る時の服もあるんでしたよね。着替えてみます」


ミリアは俺の目の前でも平然と着替えてしまう。

薄い布で作られた、キャミソールだった。

スカート丈は膝上なのにパンツまで脱いでしまって……俺の理性にだって限度があるというのに。


俺も下着姿になってから、ミリアより先にベッドに入る。


「あ、今日はクズマさんがベッド使うんですか?」

「いや、せっかくだから、一緒に寝ようか」

「そうですね」


ベッドはさほど広いわけでもない。

二人一緒だと、お互いの体がくっついてしまう。

俺はミリアを見る。


「この前は酷い有様だったけど、こうやって元気になると、綺麗な顔をしているな」

「えっ、そんな事はないですよ」

「謙遜するなよ。とても魅力的だってば」

「そう、でしょうか?」


ミリアはうれしさと戸惑いが混じった表情で、俺を見返してくる。


「そうだよ。目だってきれいだし、頬だって柔らかくてかわいい」

「やめてくださいよ。くすぐったいじゃないですか……」

「あとは唇もいいな」

「えっ? あっ」


気がついたら、キスをしていた。


不思議だな、クリームシチューの味がした。

いや、確かにさっき食べたけど、今も味が残っているわけはない。

どうしてだろう?

なんでもいいか。


ミリアは、何をされたのか良くわからず、驚いた顔のまま唇に手を当てている。


「食べたい」

「えっ? 夕食が足りなかったんですか」


何とぼけてるの? そんな話してないでしょ。

バカだな、でもそこがかわいい。


俺はミリアのキャミソールをめくる。

その下は、もはや何一つ、身を守る物がない。


おなかを指でつんつんと押して見る。


「ひゃっ、くすぐったい! どこさわってるんですか」

「触られてるならわかるでしょ」


あちこち押したり撫でたりしながら、俺もパンツを脱いで、ミリアの足をやや強引に左右に広げる。


「ちょっ? ちょっと待ってください。クズマさん、クズマさん、あああああっ!」


食べた、性的な意味で。


「こいつ、とうとう本性を現したぞ!」

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